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Episode2
高宮二郎の嘘
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「貴方、視える体質の人間ですよね?それも、多分……生まれつきのタイプ。なら、霊力くらい動かせるでしょう?」
「!!」
ハッとしたように息を呑み、高宮二郎はバツが悪そうな……でも、感心したような表情を浮かべた。
かと思えば、おもむろに香り袋を受け取る。
「貴方は本物みたいですね……」
「まあ、こっちも生まれつきなんで」
「なら、相当苦労したでしょう?私は婆ちゃんからもらったお守りのおかげで、何とか普通に生活して来れましたが、それも今回の一件で壊れてしまいましたし……」
『ほら、あれです』と言って、高宮二郎は棚の上に置いてあった手作りのお守りを指さした。
ズタズタに引き裂かれる形で破損したソレを前に、彼は苦笑を漏らす。
「昔から、婆ちゃんに『この世のものじゃない奴らには、関わるな』と言われていたんですが……なまじお守りの効力が強すぎるが故にそれを過信して、時々肝試しやらコックリさんやらに手を出していたんです。今回もその延長と言いますか……」
「あれ?でも、最初に『そういうことには興味ない』って、言ってなかった?」
思わずといった様子で口を挟む悟史に、高宮二郎は身を竦めた。
「いや、その……肝試しやコックリさんをやる度、婆ちゃんに叱られていたのでつい言ってしまったというか……祓い屋の人に苦手意識があって」
『謂わば、癖みたいなものです』と語り、高宮二郎はこちらに香り袋を差し出す。
どうやら、霊力を込め終わったらしい。
『サンキュー』と言って受け取る俺は、香り袋の匂いを嗅いだ。
「……うん、無臭だな。そんでもって────これはもう使い物にならない」
黒いシミのようなものが滲んだ香り袋を落とし、俺は懐に手を入れる。
と同時に────本日の主役である化け物が、姿を現した。
その途端、生ゴミのような臭いや黒い煙が強まり、吐き気を覚える。
「うへぇ……こりゃあ、大物だな。悟史、残りのお守りバッチリ持っておけよ」
「オーケー」
スーツの胸ポケットをギュッと握り締め、悟史は僅かに表情を強ばらせる。
さすがのヤクザも、この手の化け物には耐性がないようだ。
まあ、発狂しないだけ偉いが。
『他の新米なら、確実に泣いている』と肩を竦める中、高宮二郎は腰を抜かして倒れる。
「ひ、ひぃ……!」
生まれつき視える体質にも拘わらず自衛の術は身につけていないのか、ただ後退るだけ。
何とも情けない姿だが、ずっとお守りという存在に守られてきた雛なのでしょうがない。
「とりあえず、ここは退散してもらうぜ」
御札を二枚取り出し指の間に挟む俺は、ニッと笑う。
内心物凄く逃げたいが、依頼を引き受けた以上無視は出来ないので。
『そぉい!』という掛け声と共に、俺は御札を投げつけた。
無論、あの化け物に。
その瞬間、ドロドロの体は少し薄くなり、ズズズズズッと消えていった。
「た、倒した……?」
唖然とした様子で化け物の居た場所を眺め、高宮二郎はパチパチと瞬きを繰り返す。
どこかホッとしたような素振りを見せる彼の前で、俺は真っ黒になった御札を一瞥した。
「いや、倒した訳じゃありません。かる~く威嚇して、一旦引き下がってもらっただけです」
根本は解決していないことを明かすと、高宮二郎は落胆したように肩を落とす。
『まだこの悪夢が続くのか……』と項垂れる彼に、俺はとりあえず立つよう促した。
「あいつと貴方の関わりを完全に断ち切るには、色々と準備が必要です。お金はいくら出せますか?あっ、もちろん報酬とは別で」
「えっと……銀行に行けば、百万ほど出せますが」
『高いツボでも買わされるのか』と少し警戒し、高宮二郎は不安そうな表情を浮かべる。
そんな彼の前で、俺はスッと目を細めた。
「なら、資金は充分か……悟史、出来るだけ上等な日本酒と和紙、それから杉の木の枝を一本用意してくれ。あっ、領収書は取っておけよ」
「おっけー。蓮達に頼んでくるよ」
ヒラヒラと自身のスマホを振って、悟史は廊下の方に出た。
恐らく、及川兄弟に電話でもするのだろう。
とりあえず、物資はこれで問題ない。あとは高宮二郎にやり方を教えるだけか。
でも、その前に────
「────今回の件の全貌をご説明致します」
「ぜ、全貌……ですか?」
困惑気味に眉尻を下げる高宮二郎は、『降霊術をして取り憑かれた、というだけじゃないのか』と思案する。
────と、ここで連絡を終えた悟史が帰ってきた。
「三十分以内に準備するって~。それで、事件の全貌は僕にも聞かせてくれるんだよね?師匠」
「勝手にしろ」
「わ~い」
軽い足取りで居間のソファへ足を運び、悟史は腰を下ろす。
相変わらず遠慮を知らない彼の態度に、俺は小さく息を吐いた。
『こいつの神経の図太さは筋金入りだな』と呆れつつ、真っ直ぐ前を向く。
「まず、先に明言しておくことがあります。高宮二郎さん、貴方の呼び出したものは恐らく────神に属する何かです」
「「!?」」
カッと目を見開いて固まる高宮二郎と悟史は、意味もなく口の開閉を繰り返す。
どうやら、驚きすぎて声も出せないようだ。
「!!」
ハッとしたように息を呑み、高宮二郎はバツが悪そうな……でも、感心したような表情を浮かべた。
かと思えば、おもむろに香り袋を受け取る。
「貴方は本物みたいですね……」
「まあ、こっちも生まれつきなんで」
「なら、相当苦労したでしょう?私は婆ちゃんからもらったお守りのおかげで、何とか普通に生活して来れましたが、それも今回の一件で壊れてしまいましたし……」
『ほら、あれです』と言って、高宮二郎は棚の上に置いてあった手作りのお守りを指さした。
ズタズタに引き裂かれる形で破損したソレを前に、彼は苦笑を漏らす。
「昔から、婆ちゃんに『この世のものじゃない奴らには、関わるな』と言われていたんですが……なまじお守りの効力が強すぎるが故にそれを過信して、時々肝試しやらコックリさんやらに手を出していたんです。今回もその延長と言いますか……」
「あれ?でも、最初に『そういうことには興味ない』って、言ってなかった?」
思わずといった様子で口を挟む悟史に、高宮二郎は身を竦めた。
「いや、その……肝試しやコックリさんをやる度、婆ちゃんに叱られていたのでつい言ってしまったというか……祓い屋の人に苦手意識があって」
『謂わば、癖みたいなものです』と語り、高宮二郎はこちらに香り袋を差し出す。
どうやら、霊力を込め終わったらしい。
『サンキュー』と言って受け取る俺は、香り袋の匂いを嗅いだ。
「……うん、無臭だな。そんでもって────これはもう使い物にならない」
黒いシミのようなものが滲んだ香り袋を落とし、俺は懐に手を入れる。
と同時に────本日の主役である化け物が、姿を現した。
その途端、生ゴミのような臭いや黒い煙が強まり、吐き気を覚える。
「うへぇ……こりゃあ、大物だな。悟史、残りのお守りバッチリ持っておけよ」
「オーケー」
スーツの胸ポケットをギュッと握り締め、悟史は僅かに表情を強ばらせる。
さすがのヤクザも、この手の化け物には耐性がないようだ。
まあ、発狂しないだけ偉いが。
『他の新米なら、確実に泣いている』と肩を竦める中、高宮二郎は腰を抜かして倒れる。
「ひ、ひぃ……!」
生まれつき視える体質にも拘わらず自衛の術は身につけていないのか、ただ後退るだけ。
何とも情けない姿だが、ずっとお守りという存在に守られてきた雛なのでしょうがない。
「とりあえず、ここは退散してもらうぜ」
御札を二枚取り出し指の間に挟む俺は、ニッと笑う。
内心物凄く逃げたいが、依頼を引き受けた以上無視は出来ないので。
『そぉい!』という掛け声と共に、俺は御札を投げつけた。
無論、あの化け物に。
その瞬間、ドロドロの体は少し薄くなり、ズズズズズッと消えていった。
「た、倒した……?」
唖然とした様子で化け物の居た場所を眺め、高宮二郎はパチパチと瞬きを繰り返す。
どこかホッとしたような素振りを見せる彼の前で、俺は真っ黒になった御札を一瞥した。
「いや、倒した訳じゃありません。かる~く威嚇して、一旦引き下がってもらっただけです」
根本は解決していないことを明かすと、高宮二郎は落胆したように肩を落とす。
『まだこの悪夢が続くのか……』と項垂れる彼に、俺はとりあえず立つよう促した。
「あいつと貴方の関わりを完全に断ち切るには、色々と準備が必要です。お金はいくら出せますか?あっ、もちろん報酬とは別で」
「えっと……銀行に行けば、百万ほど出せますが」
『高いツボでも買わされるのか』と少し警戒し、高宮二郎は不安そうな表情を浮かべる。
そんな彼の前で、俺はスッと目を細めた。
「なら、資金は充分か……悟史、出来るだけ上等な日本酒と和紙、それから杉の木の枝を一本用意してくれ。あっ、領収書は取っておけよ」
「おっけー。蓮達に頼んでくるよ」
ヒラヒラと自身のスマホを振って、悟史は廊下の方に出た。
恐らく、及川兄弟に電話でもするのだろう。
とりあえず、物資はこれで問題ない。あとは高宮二郎にやり方を教えるだけか。
でも、その前に────
「────今回の件の全貌をご説明致します」
「ぜ、全貌……ですか?」
困惑気味に眉尻を下げる高宮二郎は、『降霊術をして取り憑かれた、というだけじゃないのか』と思案する。
────と、ここで連絡を終えた悟史が帰ってきた。
「三十分以内に準備するって~。それで、事件の全貌は僕にも聞かせてくれるんだよね?師匠」
「勝手にしろ」
「わ~い」
軽い足取りで居間のソファへ足を運び、悟史は腰を下ろす。
相変わらず遠慮を知らない彼の態度に、俺は小さく息を吐いた。
『こいつの神経の図太さは筋金入りだな』と呆れつつ、真っ直ぐ前を向く。
「まず、先に明言しておくことがあります。高宮二郎さん、貴方の呼び出したものは恐らく────神に属する何かです」
「「!?」」
カッと目を見開いて固まる高宮二郎と悟史は、意味もなく口の開閉を繰り返す。
どうやら、驚きすぎて声も出せないようだ。
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