74 / 75
最終章
欲しかったもの
しおりを挟む
私────ディアナはソファの上で目覚めた。
こ、こは....?
私の寝ているソファの目の前には暖炉が...。それからキッチンやテーブル、棚など多くの家具がこの空間の中にギュッと詰まっていた。
小ぢんまりとした空間ではあるが、何故か妙に落ち着く....。
ぼーっとする頭でゆっくりと窓の外へ視線を向けた。
も、り....?
それもかなり深い森だと思われる。
この小さな家の周りには草木が生い茂っていた。
「ディアナ、起きたか?」
「.....よく眠れた?」
わっ!?
突然声をかけられた私は大袈裟なくらい体をビクつかせた。
な、なんだ....サラマンダーとノームか。
声のした方へゆっくりと体を向ければ薪を手にした二人の姿が目に入った。
薪割りでもしてたのかしら...?
精霊が薪割りなんて面白いわね。ふふっ。
「ディアナ、寝起きで悪いが少し大事な話がある。良いか?」
「.....嫌なら、また日を改めて話を...」
「ううん。私は大丈夫だよ。それで話って?」
頭がまだ完全に覚醒しきっていない私はなんの気なしに話を促した。
それによって自分が深く傷つくことも知らずに....。
サラマンダーとノームはそれぞれ椅子に腰掛けるとおもむろに口を開く。
「ディアナ、まず最初にお前を覚えているのはここに居る俺とノーム、あとは忘却の悪魔レーテーくらいだ。それ以外の精霊や人間たちはディアナの存在ごと忘れている」
「.....昨日の...スターリ国と精霊の戦い...いや、戦争を覚えてる?あの戦争を止めるために...それとディアナのことを守るためにサラマンダーはレーテーに頼んでディアナの記憶を全て人間や精霊から消してもらったんだ」
記憶....?忘れる?私を?人間や精霊たちが....?
昨日の記憶を呼び覚ますと、印象深い鮮やかな赤が脳裏に甦った。
私のせいで使用人たちは死んでいった...いや、きっと使用人たちだけではないだろう。もっと多くの人間が精霊の手によって殺された筈だ。
目に涙が溜まるのを感じながら、私は気絶する直前の記憶を手繰り寄せる。
そうだ....私は...レーテーに眠らされて....。
そうか、そういうことだったんだ...。
戦争の原因とも言える私を皆の記憶から抹消することによって、戦争の終止符を打ったと....。
嗚呼....私────今凄くホッとしてる....。
どんな形であれ、精霊達の呪縛から解放されて安心している私が居た。
寂しさももちろんあるがそれ以上に解放感の方が圧倒的に大きい。
嗚呼、もうあの生活から解放されるんだ....。
私....自由なんだっ....!
もう誰にも指図されない。誰にも束縛されない。誰にも脅されることはない。
もう私は自由なのだから。
ポロリ...またポロリと涙が溢れ出す。
サラマンダーもノームもこの涙が悲しみで出来たものではないと理解しているからか、声をかけるなんて野暮な真似はしなかった。
ただただ複雑そうな表情で私を見つめるだけ....。
同族でもあり仲間である精霊達を私が邪魔だと思っていたことにやるせなさを感じているのだろう。
ごめんね....二人とも。
でも....多分、もう私は貴方達以外の精霊と関わり合えない。
次、また同じ事を繰り返されたら私は駄目になってしまう。
心が粉々に砕けて修復不可能になってしまうと思うの....。
だから、ごめんなさい。
「......ディアナっ!これから、たくさん話をしよう?」
「話....?」
「ああ、そうだ。話をしよう
────俺達の未来の話を」
「み、らい....?」
そんなの考えたこともなかった。
私は精霊達に決められた道を歩むんだと思っていたから....。
精霊達によって、幾つもあった選択肢は取り壊され、彼らにとって都合の良いものしか残されていなかった。
「....サラマンダー、未来の話は気が早いよ。まずは現状を説明しないと。ここがどこなのか、とか」
「そうだったな。すっかり忘れてたぜ」
「....はぁ...全く、これだからサラマンダーは...」
「なんだよ、そのダメな子を見るような目は!」
「....実際ダメな子でしょ?」
「ああん?もういっぺん言ってみろ!」
青筋を立てるサラマンダーとそれを鬱陶しそうに見つめるノーム。
ギャアギャアと騒ぐ彼らはなんだか今までとは違う気がした。
ギスギスした感じの喧嘩じゃなくて動物の兄弟同士がやる喧嘩みたいだ。
新鮮な雰囲気に思わず笑みが溢れる。
そうか....私はこういうのを求めていたんだ。
言いたいことを言い合えるそんな関係がずっと欲しかった。
サラマンダーとノームとなら、そんな関係を築き上げることが出来る気がする。
私の欲しいものは手を伸ばせた届く位置にあった。
なら────あとは私が手を伸ばすだけ。
「サラマンダーもノームも喧嘩しないの」
「喧嘩じゃねぇ!ただの言い合いだ!」
「....それを喧嘩って言うんじゃないの?サラマンダーは本当に馬鹿だね」
「ああん!?ノーム、てめぇ表出ろや!」
ノームの胸ぐらを掴みあげ、外に引きずっていこうとするサラマンダーを嗜めながら、そっと自身の頬に触れた。
うん、ちゃんと笑えてる。
伸ばした手はちゃんと届いた。
ギャアギャア喚くサラマンダー、煩わしそうに耳を塞ぐノーム、そんな二人の間に割って入る私。
どこにでもありそうな日常だけど、今までの私にはなかったもの。
─────やっと手に入った。
こ、こは....?
私の寝ているソファの目の前には暖炉が...。それからキッチンやテーブル、棚など多くの家具がこの空間の中にギュッと詰まっていた。
小ぢんまりとした空間ではあるが、何故か妙に落ち着く....。
ぼーっとする頭でゆっくりと窓の外へ視線を向けた。
も、り....?
それもかなり深い森だと思われる。
この小さな家の周りには草木が生い茂っていた。
「ディアナ、起きたか?」
「.....よく眠れた?」
わっ!?
突然声をかけられた私は大袈裟なくらい体をビクつかせた。
な、なんだ....サラマンダーとノームか。
声のした方へゆっくりと体を向ければ薪を手にした二人の姿が目に入った。
薪割りでもしてたのかしら...?
精霊が薪割りなんて面白いわね。ふふっ。
「ディアナ、寝起きで悪いが少し大事な話がある。良いか?」
「.....嫌なら、また日を改めて話を...」
「ううん。私は大丈夫だよ。それで話って?」
頭がまだ完全に覚醒しきっていない私はなんの気なしに話を促した。
それによって自分が深く傷つくことも知らずに....。
サラマンダーとノームはそれぞれ椅子に腰掛けるとおもむろに口を開く。
「ディアナ、まず最初にお前を覚えているのはここに居る俺とノーム、あとは忘却の悪魔レーテーくらいだ。それ以外の精霊や人間たちはディアナの存在ごと忘れている」
「.....昨日の...スターリ国と精霊の戦い...いや、戦争を覚えてる?あの戦争を止めるために...それとディアナのことを守るためにサラマンダーはレーテーに頼んでディアナの記憶を全て人間や精霊から消してもらったんだ」
記憶....?忘れる?私を?人間や精霊たちが....?
昨日の記憶を呼び覚ますと、印象深い鮮やかな赤が脳裏に甦った。
私のせいで使用人たちは死んでいった...いや、きっと使用人たちだけではないだろう。もっと多くの人間が精霊の手によって殺された筈だ。
目に涙が溜まるのを感じながら、私は気絶する直前の記憶を手繰り寄せる。
そうだ....私は...レーテーに眠らされて....。
そうか、そういうことだったんだ...。
戦争の原因とも言える私を皆の記憶から抹消することによって、戦争の終止符を打ったと....。
嗚呼....私────今凄くホッとしてる....。
どんな形であれ、精霊達の呪縛から解放されて安心している私が居た。
寂しさももちろんあるがそれ以上に解放感の方が圧倒的に大きい。
嗚呼、もうあの生活から解放されるんだ....。
私....自由なんだっ....!
もう誰にも指図されない。誰にも束縛されない。誰にも脅されることはない。
もう私は自由なのだから。
ポロリ...またポロリと涙が溢れ出す。
サラマンダーもノームもこの涙が悲しみで出来たものではないと理解しているからか、声をかけるなんて野暮な真似はしなかった。
ただただ複雑そうな表情で私を見つめるだけ....。
同族でもあり仲間である精霊達を私が邪魔だと思っていたことにやるせなさを感じているのだろう。
ごめんね....二人とも。
でも....多分、もう私は貴方達以外の精霊と関わり合えない。
次、また同じ事を繰り返されたら私は駄目になってしまう。
心が粉々に砕けて修復不可能になってしまうと思うの....。
だから、ごめんなさい。
「......ディアナっ!これから、たくさん話をしよう?」
「話....?」
「ああ、そうだ。話をしよう
────俺達の未来の話を」
「み、らい....?」
そんなの考えたこともなかった。
私は精霊達に決められた道を歩むんだと思っていたから....。
精霊達によって、幾つもあった選択肢は取り壊され、彼らにとって都合の良いものしか残されていなかった。
「....サラマンダー、未来の話は気が早いよ。まずは現状を説明しないと。ここがどこなのか、とか」
「そうだったな。すっかり忘れてたぜ」
「....はぁ...全く、これだからサラマンダーは...」
「なんだよ、そのダメな子を見るような目は!」
「....実際ダメな子でしょ?」
「ああん?もういっぺん言ってみろ!」
青筋を立てるサラマンダーとそれを鬱陶しそうに見つめるノーム。
ギャアギャアと騒ぐ彼らはなんだか今までとは違う気がした。
ギスギスした感じの喧嘩じゃなくて動物の兄弟同士がやる喧嘩みたいだ。
新鮮な雰囲気に思わず笑みが溢れる。
そうか....私はこういうのを求めていたんだ。
言いたいことを言い合えるそんな関係がずっと欲しかった。
サラマンダーとノームとなら、そんな関係を築き上げることが出来る気がする。
私の欲しいものは手を伸ばせた届く位置にあった。
なら────あとは私が手を伸ばすだけ。
「サラマンダーもノームも喧嘩しないの」
「喧嘩じゃねぇ!ただの言い合いだ!」
「....それを喧嘩って言うんじゃないの?サラマンダーは本当に馬鹿だね」
「ああん!?ノーム、てめぇ表出ろや!」
ノームの胸ぐらを掴みあげ、外に引きずっていこうとするサラマンダーを嗜めながら、そっと自身の頬に触れた。
うん、ちゃんと笑えてる。
伸ばした手はちゃんと届いた。
ギャアギャア喚くサラマンダー、煩わしそうに耳を塞ぐノーム、そんな二人の間に割って入る私。
どこにでもありそうな日常だけど、今までの私にはなかったもの。
─────やっと手に入った。
1
お気に入りに追加
4,380
あなたにおすすめの小説
利用されるだけの人生に、さよならを。
ふまさ
恋愛
公爵令嬢のアラーナは、婚約者である第一王子のエイベルと、実妹のアヴリルの不貞行為を目撃してしまう。けれど二人は悪びれるどころか、平然としている。どころか二人の仲は、アラーナの両親も承知していた。
アラーナの努力は、全てアヴリルのためだった。それを理解してしまったアラーナは、糸が切れたように、頑張れなくなってしまう。でも、頑張れないアラーナに、居場所はない。
アラーナは自害を決意し、実行する。だが、それを知った家族の反応は、残酷なものだった。
──しかし。
運命の歯車は確実に、ゆっくりと、狂っていく。
全てを諦めた令嬢の幸福
セン
恋愛
公爵令嬢シルヴィア・クロヴァンスはその奇異な外見のせいで、家族からも幼い頃からの婚約者からも嫌われていた。そして学園卒業間近、彼女は突然婚約破棄を言い渡された。
諦めてばかりいたシルヴィアが周りに支えられ成長していく物語。
※途中シリアスな話もあります。
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
強い祝福が原因だった
棗
恋愛
大魔法使いと呼ばれる父と前公爵夫人である母の不貞により生まれた令嬢エイレーネー。
父を憎む義父や義父に同調する使用人達から冷遇されながらも、エイレーネーにしか姿が見えないうさぎのイヴのお陰で孤独にはならずに済んでいた。
大魔法使いを王国に留めておきたい王家の思惑により、王弟を父に持つソレイユ公爵家の公子ラウルと婚約関係にある。しかし、彼が愛情に満ち、優しく笑い合うのは義父の娘ガブリエルで。
愛される未来がないのなら、全てを捨てて実父の許へ行くと決意した。
※「殿下が好きなのは私だった」と同じ世界観となりますが此方の話を読まなくても大丈夫です。
※なろうさんにも公開しています。
いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と
鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。
令嬢から。子息から。婚約者の王子から。
それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。
そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。
「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」
その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。
「ああ、気持ち悪い」
「お黙りなさい! この泥棒猫が!」
「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」
飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。
謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。
――出てくる令嬢、全員悪人。
※小説家になろう様でも掲載しております。
私を運命の相手とプロポーズしておきながら、可哀そうな幼馴染の方が大切なのですね! 幼馴染と幸せにお過ごしください
迷い人
恋愛
王国の特殊爵位『フラワーズ』を頂いたその日。
アシャール王国でも美貌と名高いディディエ・オラール様から婚姻の申し込みを受けた。
断るに断れない状況での婚姻の申し込み。
仕事の邪魔はしないと言う約束のもと、私はその婚姻の申し出を承諾する。
優しい人。
貞節と名高い人。
一目惚れだと、運命の相手だと、彼は言った。
細やかな気遣いと、距離を保った愛情表現。
私も愛しております。
そう告げようとした日、彼は私にこうつげたのです。
「子を事故で亡くした幼馴染が、心をすり減らして戻ってきたんだ。 私はしばらく彼女についていてあげたい」
そう言って私の物を、つぎつぎ幼馴染に与えていく。
優しかったアナタは幻ですか?
どうぞ、幼馴染とお幸せに、請求書はそちらに回しておきます。
選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ
暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】
5歳の時、母が亡くなった。
原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。
そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。
これからは姉と呼ぶようにと言われた。
そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。
母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。
私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。
たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。
でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。
でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ……
今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。
でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。
私は耐えられなかった。
もうすべてに………
病が治る見込みだってないのに。
なんて滑稽なのだろう。
もういや……
誰からも愛されないのも
誰からも必要とされないのも
治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。
気付けば私は家の外に出ていた。
元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。
特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。
私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。
これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
その結婚、承服致しかねます
チャイムン
恋愛
結婚が五か月後に迫ったアイラは、婚約者のグレイグ・ウォーラー伯爵令息から一方的に婚約解消を求められた。
理由はグレイグが「真実の愛をみつけた」から。
グレイグは彼の妹の侍女フィルとの結婚を望んでいた。
誰もがゲレイグとフィルの結婚に難色を示す。
アイラの未来は、フィルの気持ちは…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる