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第一章

取り引き《ヴィンセント side》②

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「断る」

 僕のような若造に弱味を握られるのも、自分の内心を気取られるのも癪なのか、彼は強気で突っぱねた。
警戒心を露わにするロジャー皇帝陛下の前で、僕はゆるりと口角を上げる。
『どうせ、こっちの言い分を呑むしかないのになぁ』と、半ば呆れながら。

「おや?本当によろしいんですか?」

「何を勘違いしているのか知らんが、私はルパートのことを何とも思っていない。もし、大切に思っているなら戦場へ送るような真似はしないだろう」

 『手元に置いて守った筈だ』と主張し、ロジャー皇帝陛下はこちらの考えを真っ向から否定した。
そもそもの前提から間違っているのだ、と……こんなの取り引きにならないと示し、肘掛けに寄り掛かる。

「私はアレが死のうと、心底どうでも────」

「────いい、とは思っていませんよね」

 無礼を承知で言葉を遮り、僕はニッコリと微笑んだ。
『いい加減、無駄な足掻きなどやめればいいのに』と思いつつ、ティーカップの縁を指でなぞる。

「陛下はルパート殿下を……愛する第二皇妃殿下との子を大切に思っています。だからこそ、戦場へ送ったのです。少なくとも、様々な思惑が渦巻く皇城に居るより安全ですから」

 応接室に来る途中、偶然・・出会った皇族達を思い浮かべ、僕は内心苦笑を漏らす。
あれはどう見ても、血に飢えた獣のようだったから。
『今代の皇位継承権争いは荒れそうだな』と肩を竦め、ゆっくりとティーカップを持ち上げた。

「関心のないフリをしているのも、他の妃や皇子の気を逸らすためですよね?自分が第三皇子に入れ込んでいると知れば、彼らはどんな手を使ってでも排除しに掛かる筈ですから」

 難産のために亡くなった母親、小国且つ遠方のため頼れない母方親族、支持してくれる貴族の居ない現状……第一、第二皇子らが本気で暗殺を企てれば、第三皇子は呆気なく死を迎えるだろう。
『皇帝が守ればいい』と思うかもしれないが、指導者という立場を考えると私情で動くことは出来ない。
何より、今は貴族達の策略により皇権が弱まっている。
反乱など起こされれば、一溜まりもない。

「皇帝という立場を守りながら、愛する女性の忘れ形見を守り抜くのは至難の業でしょう。だから、この取り引きは陛下にとってもかなり意義のあるものになる筈ですよ」

 確信を持った口調でそう言い、僕は紅茶を口に含む。
『お互いのためにお互いの要求を呑みましょう』と示すと、ロジャー皇帝陛下は眉間に皺を寄せた。

「……何故、私がルパートに肩入れしていると思うんだ?」
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