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第一章

神聖力②

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「ふ~ん?じゃあ────」

 白の手袋を剥ぎ取り、アイリスは包帯に巻かれた自身の手を見下ろした。
短期間で急成長を図った弊害か、彼女の体は傷ついている。
具体的な症状は筋肉痛やマメなどだが、その度合いは……痛みは計り知れなかった。
『本人は平気そうにしているけど』と眉尻を下げる中、アイリスは包帯をほどく。

「────この傷が治りますようにって祈ったら、治る訳ね」

「ええ」

 コクリと頷いて同意すると、アイリスは手の傷を凝視しながら

「治って」

 と、一言呟いた。
それは祈りと言うより詠唱や命令に近い響きで、神々しさなど微塵もない。
『まあ、アイリスらしいけど』と苦笑していると────彼女の体が白い光を放った。

「なっ……!?」

 予想だにしなかった展開に目を剥き、私はたじろぐ。

 これは神官が神聖力を使う際、放っていた光……!ということは、まさか……!

 既視感を覚える光景に困惑する中、光は収まる。
そして、アイリスの手元を覗き込むと────傷の治った、まっさらな肌が目に入った。

「ねぇ、アイリス……!貴方やっぱり、神様に祈りを捧げていたんじゃ……!?」

 どう考えても、神聖力を持っているようにしか思えず……私は問い質す。
が、珍しくポカンとしている様子のアイリスを見て直ぐに考えを改めた。

 落ち着きのない子供だったアイリスが、お祈りのポーズを取ってじっとしていられる訳ないわよね……。
そもそも、神頼みするような願いなんてなかっただろうし。

 『大体、お父様が要望を叶えてくれていたから』と思い返し、私は顎に手を当てて考え込む。
────と、ここでアイリスがハッと顔を上げた。

「わ、私は本当に祈ったことなんてないわ。お母様はあるかもしれないけど……」

「お継母様が?」

 散財癖のある継母と神殿がどうも結びつかず……私は小首を傾げた。
だって、神殿の教えでは基本『欲に抗い、己を律すること』を美徳としているから。
つまり、欲望のままにお金を使う継母とは正反対の思想ということ。

 大体、お継母様から神殿の話なんて一切聞いたことがないし……お父様があまり信仰心に厚い人じゃないから、それに合わせたのかしら?

 などと考えていると、アイリスが机の上に頬杖をついた。

「そう。お母様はよく神官と会っていたから」
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