58 / 97
第一章
身を守る術②
しおりを挟む
「ねぇ────さすがに私じゃ、体術を教えられないわよ?」
『私自身、習ったことないし』と言い、二人の顔色を窺った。
すると、ヴィンセントが考え込むような動作を見せる。
「エーデル公爵家の騎士に習う……のは、ちょっと難しいか。警備強化に伴って、これから忙しくなるだろうし」
「だからと言って、外部の人間を呼び寄せるのは抵抗があるのよね」
「運悪く、敵の手下を引き当てたら一巻の終わりだからね。本末転倒もいいところ……我が家の騎士を派遣出来ればいいんだけど、今はほとんど出払っているし」
国境や屋敷の警備で手一杯と思われるクライン公爵家の騎士達を選択肢から外し、彼は嘆息した。
本当に任せられる人物が居なくて、頭を抱えているのだろう。
「ごめんなさい、ヴィンセント。困らせちゃったわね。この問題はエーデル公爵家の方で解決するべきだから、気にしなくていいわ」
「いや、体術を習うよう提案したのは僕なんだから講師の紹介くらいさせて」
『言うだけ言って、丸投げなんて格好がつかない』と述べ、ヴィンセントは再び考え込む。
右へ左へ視線をさまよわせ、誰か居ないか探す中……彼は不意に顔を上げた。
「そうだ────ルパート殿下に頼もう」
────という有り得ない言葉を聞いた、翌日。
本当に第三皇子が我が家を訪れた。アイリスに体術を教えるためだけに。
「今日はよろしく頼む」
突然の要請に文句を言うでもなく、ルパート殿下は開口一番にそう言った。
何の感情も窺えない青い瞳を前に、私は震え上がる。
あまりにも恐れ多くて。
「こ、こちらこそよろしくお願いします!」
「お願いします」
「ああ」
『そう畏まらなくていい』と言いつつ、ルパート殿下は訓練場所として用意した裏庭を眺める。
急遽花壇を撤去し作った空間のため、あまり見映えはよくないが、騎士達の練習場を占拠する訳にもいかないのでこうなった。
『広さは充分だな』と呟く彼を前に、私はおずおずと口を開く。
「あ、あの……ここまでご足労いただいた段階で言うのもなんですが、本当によろしかったんですか?アイリスの講師を引き受けて」
長年戦場に身を置いていたルパート殿下は、今まさに勢力を伸ばしている状況。
講義なんかよりも、パーティーやお茶会に参加するべきだろう。
『エーデル公爵家は今、悪目立ちしている家門だし……』と思案し、ルパート殿下の進退を案じる。
皇位継承権争いの真っ只中で、こんなにゆっくりしていていいのか?と。
「ああ、問題ない。ちょうど、社交界のマナーや慣習に飽き飽きしていたところなんだ。それに、無理に勢力を拡大する必要はないと言われている。自分の存在さえ、アピール出来れば」
「は、はあ……それなら、いいんですが」
『それって、誰からのアドバイス?』と頭を捻りながらも、私は相槌を打った。
あまり深入りしない方がいいかと思って。
「じゃあ、あとのことは任せました。私は少し離れた場所から、見ていますので」
『私自身、習ったことないし』と言い、二人の顔色を窺った。
すると、ヴィンセントが考え込むような動作を見せる。
「エーデル公爵家の騎士に習う……のは、ちょっと難しいか。警備強化に伴って、これから忙しくなるだろうし」
「だからと言って、外部の人間を呼び寄せるのは抵抗があるのよね」
「運悪く、敵の手下を引き当てたら一巻の終わりだからね。本末転倒もいいところ……我が家の騎士を派遣出来ればいいんだけど、今はほとんど出払っているし」
国境や屋敷の警備で手一杯と思われるクライン公爵家の騎士達を選択肢から外し、彼は嘆息した。
本当に任せられる人物が居なくて、頭を抱えているのだろう。
「ごめんなさい、ヴィンセント。困らせちゃったわね。この問題はエーデル公爵家の方で解決するべきだから、気にしなくていいわ」
「いや、体術を習うよう提案したのは僕なんだから講師の紹介くらいさせて」
『言うだけ言って、丸投げなんて格好がつかない』と述べ、ヴィンセントは再び考え込む。
右へ左へ視線をさまよわせ、誰か居ないか探す中……彼は不意に顔を上げた。
「そうだ────ルパート殿下に頼もう」
────という有り得ない言葉を聞いた、翌日。
本当に第三皇子が我が家を訪れた。アイリスに体術を教えるためだけに。
「今日はよろしく頼む」
突然の要請に文句を言うでもなく、ルパート殿下は開口一番にそう言った。
何の感情も窺えない青い瞳を前に、私は震え上がる。
あまりにも恐れ多くて。
「こ、こちらこそよろしくお願いします!」
「お願いします」
「ああ」
『そう畏まらなくていい』と言いつつ、ルパート殿下は訓練場所として用意した裏庭を眺める。
急遽花壇を撤去し作った空間のため、あまり見映えはよくないが、騎士達の練習場を占拠する訳にもいかないのでこうなった。
『広さは充分だな』と呟く彼を前に、私はおずおずと口を開く。
「あ、あの……ここまでご足労いただいた段階で言うのもなんですが、本当によろしかったんですか?アイリスの講師を引き受けて」
長年戦場に身を置いていたルパート殿下は、今まさに勢力を伸ばしている状況。
講義なんかよりも、パーティーやお茶会に参加するべきだろう。
『エーデル公爵家は今、悪目立ちしている家門だし……』と思案し、ルパート殿下の進退を案じる。
皇位継承権争いの真っ只中で、こんなにゆっくりしていていいのか?と。
「ああ、問題ない。ちょうど、社交界のマナーや慣習に飽き飽きしていたところなんだ。それに、無理に勢力を拡大する必要はないと言われている。自分の存在さえ、アピール出来れば」
「は、はあ……それなら、いいんですが」
『それって、誰からのアドバイス?』と頭を捻りながらも、私は相槌を打った。
あまり深入りしない方がいいかと思って。
「じゃあ、あとのことは任せました。私は少し離れた場所から、見ていますので」
11
お気に入りに追加
1,759
あなたにおすすめの小説
旦那様、私は全てを知っているのですよ?
やぎや
恋愛
私の愛しい旦那様が、一緒にお茶をしようと誘ってくださいました。
普段食事も一緒にしないような仲ですのに、珍しいこと。
私はそれに応じました。
テラスへと行き、旦那様が引いてくださった椅子に座って、ティーセットを誰かが持ってきてくれるのを待ちました。
旦那がお話しするのは、日常のたわいもないこと。
………でも、旦那様? 脂汗をかいていましてよ……?
それに、可笑しな表情をしていらっしゃるわ。
私は侍女がティーセットを運んできた時、なぜ旦那様が可笑しな様子なのか、全てに気がつきました。
その侍女は、私が嫁入りする際についてきてもらった侍女。
ーーー旦那様と恋仲だと、噂されている、私の専属侍女。
旦那様はいつも菓子に手を付けませんので、大方私の好きな甘い菓子に毒でも入ってあるのでしょう。
…………それほどまでに、この子に入れ込んでいるのね。
馬鹿な旦那様。
でも、もう、いいわ……。
私は旦那様を愛しているから、騙されてあげる。
そうして私は菓子を口に入れた。
R15は保険です。
小説家になろう様にも投稿しております。
彼女があなたを思い出したから
MOMO-tank
恋愛
夫である国王エリオット様の元婚約者、フランチェスカ様が馬車の事故に遭った。
フランチェスカ様の夫である侯爵は亡くなり、彼女は記憶を取り戻した。
無くしていたあなたの記憶を・・・・・・。
エリオット様と結婚して三年目の出来事だった。
※設定はゆるいです。
※タグ追加しました。[離婚][ある意味ざまぁ]
※胸糞展開有ります。
ご注意下さい。
※ 作者の想像上のお話となります。
【完結】身売りした妖精姫は氷血公爵に溺愛される
鈴木かなえ
恋愛
第17回恋愛小説大賞にエントリーしています。
レティシア・マークスは、『妖精姫』と呼ばれる社交界随一の美少女だが、実際は亡くなった前妻の子として家族からは虐げられていて、過去に起きたある出来事により男嫌いになってしまっていた。
社交界デビューしたレティシアは、家族から逃げるために条件にあう男を必死で探していた。
そんな時に目についたのが、女嫌いで有名な『氷血公爵』ことテオドール・エデルマン公爵だった。
レティシアは、自分自身と生まれた時から一緒にいるメイドと護衛を救うため、テオドールに決死の覚悟で取引をもちかける。
R18シーンがある場合、サブタイトルに※がつけてあります。
ムーンライトで公開してあるものを、少しずつ改稿しながら投稿していきます。
兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜
藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。
__婚約破棄、大歓迎だ。
そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った!
勝負は一瞬!王子は場外へ!
シスコン兄と無自覚ブラコン妹。
そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。
周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!?
短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています
カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。
婚約者の浮気相手が子を授かったので
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。
ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。
アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。
ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。
自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。
しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。
彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。
ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。
まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。
※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。
※完結しました
もしも○○だったら~らぶえっちシリーズ
中村 心響
恋愛
もしもシリーズと題しまして、オリジナル作品の二次創作。ファンサービスで書いた"もしも、あのキャラとこのキャラがこうだったら~"など、本編では有り得ない夢の妄想短編ストーリーの総集編となっております。
※ 作品
「男装バレてイケメンに~」
「灼熱の砂丘」
「イケメンはずんどうぽっちゃり…」
こちらの作品を先にお読みください。
各、作品のファン様へ。
こちらの作品は、ノリと悪ふざけで作者が書き散らした、らぶえっちだらけの物語りとなっております。
故に、本作品のイメージが崩れた!とか。
あのキャラにこんなことさせないで!とか。
その他諸々の苦情は一切受け付けておりません。(。ᵕᴗᵕ。)
【R18】らぶえっち短編集
おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
調べたら残り2作品ありました、本日投稿しますので、お待ちくださいませ(3/31)
R18執筆1年目の時に書いた短編完結作品23本のうち商業作品をのぞく約20作品を短編集としてまとめることにしました。
※R18に※
※毎日投稿21時~24時頃、1作品ずつ。
※R18短編3作品目「追放されし奴隷の聖女は、王位簒奪者に溺愛される」からの投稿になります。
※処女作「清廉なる巫女は、竜の欲望の贄となる」2作品目「堕ちていく竜の聖女は、年下皇太子に奪われる」は商業化したため、読みたい場合はムーンライトノベルズにどうぞよろしくお願いいたします。
※これまでに投稿してきた短編は非公開になりますので、どうぞご了承くださいませ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる