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第一章

違和感《ヴィンセント side》②

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「ここに来て最初にすることが、ソレかぁ……やっぱり、ちょっとおかしいよね」

 いつもの彼女なら、真っ先にクライン公爵夫妻僕の両親へ挨拶に行っている筈。
そもそも、ショッピングなんてあまりしないし。

 『物欲ほとんどないんだよね、セシリアって』と肩を竦め、トントンと指先で肘掛けを叩く。

「ねぇ、アルマンは今日のセシリアを見てどう思った?」

「『どう』とは……」

「別にそこまで難しく考えなくていいよ。思ったことをそのまま言ってみて」

 『客観的な意見が欲しいんだ』と主張すると、アルマンはおずおずと顔を上げる。
その際、目元を覆う包帯が見えた。

「好意的に解釈するなら、エーデル公爵家に解放されて気を抜いていると捉えられますが、その……」

 言い淀む素振りを見せ、アルマンはチラチラとこちらの顔色を窺う。
セシリア関連なので、下手なことを言って不興を買いたくないのだろう。
彼は僕の本性を……セシリアへの執着をよく理解しているから。

「大丈夫だよ、言ってごらん。いや、むしろ言ってほしい。僕の思い過ごしだと思いたくないんだ」

 『行動を起こすための後押しが欲しい』と言い、僕は少しばかり身を乗り出した。

 アルマンもセシリアのことはよく知っている。
と言っても、『一方的に』だけど。
僕以外の男が……いや、人間が彼女に直接関わるのは極力避けたいからね。
面会などはさせていない。

「えっと……では、遠慮なく」

 ようやく腹を決めたのか、アルマンは真っ直ぐにこちらを見据える。

「正直、今のセシリア様は異常です。礼儀作法やマナーはほとんど出来ていませんし、使用人達への対応もどこか高圧的で品がない。また、選んだドレスや装飾品が派手なものばかりなのも気になります。彼女は基本シンプルなものを好みますから」

 『違和感しかない』と言い切るアルマンに、僕は強い共感を抱く。
が、

「僕以外の人間が、セシリアのことを理解している風に振る舞うのはやっぱり不愉快だな」

 顔から表情感情を消し去り、僕はソファの肘掛けを掴んだ。
と同時に、板で作られたソレを握り潰す。
バキッと嫌な音を立てる肘掛けを一瞥し、おもむろに席を立った。
その途端、アルマンは大量の冷や汗を流す。

「す、すみませ……」

「あぁ、謝らなくていいよ。『素直に言え』と促したのは、僕だからね。罰を与える気もない。ただ、気に食わないだけさ」

 僕はニッコリと笑ってアルマンの肩を叩き、横を通り過ぎた。
後ろから聞こえてくる安堵の声を前に、腕を組む。
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