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第一章

謹慎③

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「こんな夜中に集まってもらって、ごめんね。ちょっと話があって」

 やれるだけのことはやった。一朝一夕で信頼関係を築けることは思ってないけど、お父様達の企みを阻止するにはこれ以上待てない。
使用人達のことを……そして、今日まで積み上げてきたものを信じよう。

 『夜が明けるまでに皆を説得するのよ』と言い聞かせ、私は大きく深呼吸した。

「これから話すことはきっと、直ぐに信じられないと思う。それでも、どうか最後まで聞いてほしい」

 そう前置きしてから、私はそっと胸元を手を添える。

「あのね、私はアイリスじゃなくてセシリアなの。地下室に呼び出された日のこと、覚えている?実はあのとき、中身を入れ替えられて────」

 意を決して全ての真実を話すと、使用人達は呆然とする。
まじまじとこちらを見つめ、困惑気味に眉を顰めた。
かと思えば、

「あの……冗談にしては────ちょっと、度が過ぎていませんか?」

「セシリアお嬢様を羨ましく思う気持ちは分かりますが、このような嘘はいけません」

「とりあえず、今の話は聞かなかったことにするのでゆっくりお休みください」

「明日はセシリアお嬢様が出立する日ですから、くれぐれも騒ぎを起こさないように」

 呆れ気味にこちらの言い分を一蹴し、使用人達は退室していった。
『待って……!』と声を掛けるものの……誰も振り返らず、扉は閉められる。
おかげで一人ポツンと取り残されてしまった。

 誰も……信じてくれなかった。

 悲壮感に満ちた表情で崩れ落ち、私はポロリと涙を零す。
それだけセシリアと使用人達の絆が深いと考えれば、嬉しくなるものの……それ以上に孤独と絶望を感じた。
最後の頼みの綱だった使用人達が、そっぽを向いた訳だから。
『このままじゃ、本当に……』と戦慄し、私は顔を両手で覆う。
────そうこうしている間に夜は更けていき、出立当日の朝となった。
外から微かに聞こえてくる人々の話し声を前に、私は『もう迎えに来たのか……』とぼんやり考える。

 私はこのままアイリスとして、生きるしかないのかな……?
家族同然である使用人達の温もりも、婚約者であるヴィンセントの愛情も全部取られて……孤独に生きるの?

「────そんなの絶対に嫌……!」
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