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第一章

お先真っ暗②

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 十数人規模の賑やかさに、私は内心首を傾げる。
────と、ここで二階から侍女達が降りてきた。

「ようやく、旦那様がセシリアお嬢様を認めてくださったわ!」

「きっと、もうすぐ家を出ることになるから改心したのよ!」

「お部屋も旦那様の書斎の隣に移すそうよ!」

「えっ?でも、そこって確かアイリスお嬢様の部屋だったんじゃ……?もしかして、愛情の比重が傾いたのかしら?」

 侍女の一人がそう呟くと、彼女達は顔を見合わせる。
喜びを隠し切れないといった様子で表情を和らげ、手を取り合った。
『良かったわ!』と若干涙ぐみながら、彼女達は一階へ降り立つ。
と同時に、こちらへ背を向けて歩き出した。
そのため、こちらの存在には恐らく気づいていない。

 そっか……傍から見れば、セシリアはお父様と和解したように見えるんだ。
まあ、中身が入れ替わっているなんて普通思わないものね。

「……そうなると、使用人達の協力を得るのはちょっと難しいかも」

 グッと両手を握り締め、私は廊下に一人立ち尽くす。
思ったより悪い状況であることを察して。

 いや、落ち込んでいる暇はないわ。私に残された時間はあと僅かなんだから。

 セシリアは来週からクライン公爵家へ行き、花嫁修業を受ける予定だ。
本来であれば、正式に籍を入れるまで婚家に身を置くことはないのだが……ヴィンセントの計らいにより、こうなった。
実際、クライン公爵夫人として学ばないといけないことも多いため。
当初の予定通りに行けば、そのまま一度も実家へ帰ることなく結婚式を挙げ、正式に嫁入りする手筈となっている。
なので、止めるなら今しかない。

 『まだ私の手の届く位置に居るうちに何とかしないと』と奮起し、食堂へ足を向ける。
が、急に肩を掴まれた。

「アイリスお嬢様、こちらにいらっしゃったのですか」

「お部屋へ戻りますよ」

 そう言って騎士達は私の身柄を拘束し、どこかへ向かい始める。
それも、ほぼ私を引き摺る形で。

「ちょっ……!何を……!?」

 突然の蛮行に目を剥いていると、騎士達は冷ややかな目でこちらを見下ろした。

「旦那様からの命令ですよ。アイリスお嬢様をしばらく部屋に閉じ込めておけ、とのことです」

「なっ……!?」

 早速先手を打ってきた父に、私は思わず目を剥く。
『私に何もさせないつもりなんだ……!』と考え、唇を噛み締めた。

 幸か不幸か、アイリスたる私を謹慎に追い込む理由はたくさんある。
しかも、使用人達は皆セシリアたるアイリスの味方……完全に詰んだわね。

 『どうしよう……』と困り果てる私は、少し泣きそうになった。
お先真っ暗すぎて……。
そんな私を見兼ねてか、騎士の一人が慰めの言葉を口にする。

「心配せずとも、一週間・・・程度で謹慎は解けるそうですからご安心ください」

 それじゃあ、ダメなの……クライン公爵家へ行く日までに、何とかしないといけないから。

 『真面目に謹慎していたら、間に合わない』と危機感を覚え、私はクシャリと顔を歪めた。
どんどん悪化していく状況を憂いていると、ついにアイリスの自室へ辿り着く。
と言っても、ここは『狭くて日当たりも悪いから』と言ってあまり使ってなかったけど。
『基本、二階の一番大きな部屋を使っていたのよね』と思い返す中、部屋へ押し込められる。

 不味い……!このまま閉じ込められたら、身動きを取れない……!

「お願い!お父様に会わせて!一度、お話がしたいの!」
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