22 / 47
ジャスティン 4 向けられた執着 3
しおりを挟む客室、そう呼ぶにしてはやや異質なその部屋に足を運ぶのは初めてだ。
正直、顔を合わせれば止めを刺してしまわないか不安にもなる。
ジェフリーを同席させようとも思ったが、カラミティー侯爵家に不名誉な話も飛び出しそうだったので、代わりの護衛を同席させることにした。
スティーブン・クライメット。クライメット伯爵家の長男、なのだがどういうわけか志願して騎士となった。
王族より偉そうな護衛。なにより、気に入らない程の美形。
隣に並ぶジャスティンが霞むのではないかと言うほどに、スティーブンの容姿は整っている。シャロンには見せたくない男……のはずなのだが、どういうわけか、シャロンはこの男に全く反応しない。
スティーブンはシャロンに全く相手にされていない。そう思うことでジャスティンは己の自尊心を守っていた。
「今日は私を気絶させて身勝手な行動を取ろうなどと考えるなよ?」
不機嫌を隠しもしない、神経質そうな視線を向けられる。
美形は美形でも氷彫刻のような美形だ。単純にシャロンの好みからかけ離れているだけなのかもしれない。
そう考え、シャロンの好みはどんな男なのだろうと思う。
たぶん、年上の男だろう。その条件だけならジャスティンだって満たしている。けれどもそれだけではないはずだ。
滅多に参加しない夜会で他の男に視線を奪われている姿を見たことはない。単純に緊張しているだけだったのか、そもそも外見にあまり興味がないのか……。
そもそもシャロンの兄たちも美形揃いなのだ。美形は見飽きて……。
そこまで考え、扉の向こうにいるであろう男を思い出す。
世の基準で言えばお世辞にも美形とは言い難い。ジャスティンの周囲にいる男達と比較しても見劣りする容姿だが、醜いと言うほどでもない。
醸し出す雰囲気は穏やかという表現がぴったりで、子供相手をする医者とみればぴったりだろう。
シャロンが幼い頃からの主治医だと言う。
年上で穏やかな……頼りになる男だ。そうなると……。
「……やはり事故ということにして始末してしまおう」
「その言葉をそっくりカラミティー侯爵令嬢に伝えるぞ」
スティーブンはいつも以上に冷たい声で言う。
「お前、シャロンと会話出来るのか?」
「彼女は俺の容姿を気にしない。むしろ、お前より会話しやすい」
そう言われ、確かにシャロンはスティーブンを見て赤くなったりはしないが、日常的な受け答えはしていたなと思い出す。
「お前、まさか俺のシャロンに惚れたりしていないだろうな?」
「さあな」
面倒くさそうな返事が返ってくる。
やはりなるべくシャロンに近づけないようにしよう。
そう心に決め、扉の前に立つ。
顎で指示し、スティーブンに扉を開けさせれば、部屋の中から小さなうめき声が聞こえた。
「なにか吐いたか?」
やり過ぎたヘクターに代わり見張りをさせていたトーマスに訊ねる。
「いえ、怪我の状態が酷く、会話も相当辛い様子です」
思わず舌打ちをする。
拷問は許可した。しかし喋ることの出来ない状態にしてどうする。
「……あいつ、本当に頭が足りないな」
剣術の腕自体は天才的だ。しかし自分で物事を考えることが出来ない。
他人から指示されればそれなりに動けるから誤魔化されているが、細かく指示しないと問題を起こしがちだ。
ジャスティンはヘクターの使い方をそれなりに理解していたはずだ。あの時は珍しくヘクターが自分の意見を口にし、結局頭の足りない彼の考えで問題が大きくなった。
いや、ヘクターの責任ではない。
忠実な駒としてなら有能なヘクターの使い道を誤ったジャスティンが悪い。
思わず握りしめた拳を壁に叩きつける。
想像よりも大きな音が響いた。
「まず、こいつは死なないのか?」
「完治まではかなり時間が掛かるとのことですが、命は助かると」
ジャスティンは舌打ちする。
「やはり怪我が酷かったことにして始末しよう」
ヘクターは既に過剰暴行でなんらかの処分を受けることが決まっている。だったら打ち所が悪くて後から悪化したことにしても問題ないはずだ。
「カラミティー侯爵令嬢が悲しむのでは?」
「俺が慰めるから問題ない」
ほんの一瞬でもシャロンが他の男を想うことが気に入らない。
兄たちについては我慢してやっているのだから、それ以上は無理だ。
意識はあるのだろう。
ベッドの上で僅かに呻くばかりの男が、怯えたような視線を向ける。
それもそうだ。手足を酷く折られている。
顔面も激しく殴られたのだろう。鼻が折れているとは聞いていたが、他にもいくつも痣が見えた。
「お前、アレクシスに気があるからシャロンに近づいたんだって? まさか、そんなくだらないことの為に俺のシャロンを利用しようとしたのか?」
本当は他に目的があるのだろうと問えば、ドラウドが震えていることに気がつく。
言葉にならない呻き声を発し、必死にどこかに行ってくれと祈っているようにも見える。
だめだ。話にならない。
もしもこれが演技なら、この男はどこかの国の諜報員かもしれない。
クラウド夫人、そしてテンペスト侯爵家との繋がりを詳しく調べる必要があるが、本人からの証言は得られそうにない。
「家宅捜索は進んでいるのか?」
「それが、自宅には殆ど物が置かれておらず……」
トーマスは困り果てている様子だ。
「シャロンのカルテはあったのか?」
「現在エイミー様が調査中です」
家に殆ど物がないというのはおかしい。
本当にドラウドは医者なのだろうかと疑問が生じた。
「見張っておけ。喋れるようになったら知らせろ」
「はい」
スティーブンを連れ、外に出る。
「スティーブン、後でもう一度中に入って不審な点がないか調べろ。怯えているのは演技かもしれない」
「了解した。私も気になる点があった」
「気になる点?」
「確認してから報告する」
スティーブンにはそういうところがある。
ジャスティンに対する敬いがないというべきか、彼の中の軸のようなものが不確かな情報を発することを嫌う。
「なら任せる」
次の目的地はひとりで行っても構わない。
むしろ。止める奴が居ない方が都合がいい。
ジャスティンはスティーブンを残し歩き出した。
0
お気に入りに追加
100
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~
紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。
毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる