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ジャスティン 3 想定外 1

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 山のような仕事を、嫌がらせを受けながらこなす。
 それと同時に人を使ってクラウド夫人について調べさせれば想像以上に真っ黒だった。
 なぜ今まで気がつかなかったのだろう。
 シャロンの教育係として選ばれたのだから間違いなどないと思い込んでいたのかもしれない。
 調査の結果、クラウド夫人がシャロンに対し嫌がらせを繰り返していたことが判明した。
 シャロンが異常なまでに自己肯定感が低くなってしまった原因は彼女だろう。
 シャロンの教育は貴族の女性に求められる以上の内容だった。できるはずのない課題を大量に出し、出来が悪いと罵る。こなしたのであればこなしたで、出来て当然なのだと褒めない。
 それだけではない。
 シャロンの趣味ひとつひとつを「はしたない」だとか「未来の王妃に相応しくない」などと言い、彼女の息抜きを奪っていく。
 人形のような表情も、彼女の教育が作り上げた。
 それに……。
 耳飾りの話が気になった。
 冷静になればなるほど、シャロンの話を聞かなかったことを悔やむ。
 耳飾りだけではない。ドレスも、首飾りもシャロンに贈った品は大抵身に着けられることがなかった。
 趣味ではなかったのだろうか。そう考えた時期もあった。
 けれども、耳飾りはとても気に入ってくれていたようだった。
 華美だからと取り上げられた。
 おかしな話だ。
 エイミーのあまり詳細を知りたくはない情報網によると、クラウド夫人はシャロンから没収した品々を返却した気配がないという。
 さらに詳細を調査させると、あの耳飾りが他の女の手に渡ったという。
 コートニー・テンペスト。
 クラウド夫人の姪で、テンペスト侯爵家の一人娘。
 かつてジャスティンの婚約者候補に挙がったことのある女だ。
「くそっ」
 思わず机を叩く。
 報告書を読めば読むほど腹が立つ。
 とりあえずクラウド夫人とコートニー・テンペストは斬首刑にでもしてやろう。
 シャロンに贈った物を盗むなんて。
 斬首の前に手を切り落としてやる。
「マーシャル!」
 怒鳴るように呼べばびくついたマーシャル・スコールが背筋を伸ばしてこちらへ向かってくる。
「は、はい。殿下……」
「あのドラウドとかいうシャロンの主治医はどうなった?」
 あの男も共犯者の可能性が……低くても罪をでっち上げて始末できないだろうか。単純に不快だ。
「あー……ヘクターが少し痛めつけすぎて……治療中です」
「は?」
「殿下が、拷問でもなんでもして調べろとおっしゃったので……」
 マーシャルは全てジャスティンの責任だと言いたげな雰囲気だ。
「痛めつけ過ぎたとはどの程度だ?」
 腕の一本や足の二本はなくなっても構わないと思ったが……ああ、指を一本ずつへし折るように命じていたかもしれない。
 これは……シャロンには聞かせられないな。
 ジャスティンは溜息を吐く。
「両足が複雑骨折と左の全ての指と腕が折れています。あとは……鼻も折れているようで……」
 いい気味だ。
 許可なくシャロンに触れた男がこの程度で済んだだけでも有り難いと思って欲しい。
 が……処方薬の詳細を訊ねなくてはいけない。
 処方箋を別の医者に確認させて、今後もシャロンに必要か検討する。
「肋骨もいくつか折れているようで、すっかり怯えてしまい会話が困難です」
「折る前になにか話していなかったか?」
 面倒ごとが増えた。
 賠償がどうとか言い出したら火をつけてやろう。
「自分は決してシャロン嬢に手を出そうなんてしていないと何度も口にしていました。指を折られた辺りで、自分は同性愛者で……」
 マーシャルは自分が話す内容が恐ろしいとでも言わんばかりに言葉を止める。
 さっさと続きを話せと無言で促せば、小さな悲鳴を上げ話し始めた。
「あ、アレクシス・カラミティー侯爵令息に想いを寄せているので……彼に接近するためにシャロン嬢の主治医になったと……」
 なんて恐ろしいことを言わせるのだとマーシャルは怯えきっている。
 作り話にしては思いきった発言だ。
 同性愛者は嫌悪される。今でこそそれだけを理由に処刑されるようなことはなくなったが、それでも外聞が悪いので公の場で口に出すことなどない。なにより、貴族にとっては不名誉な話だ。
 それが、相手があのアレクシスだと?
 この話が彼の耳に入ればドラウドは原形を留めない程の暴行を受けるのではないだろうか。原形を留めている分ヘクターの暴行の方がマシだ。
「念のため、ドラウドとクラウド夫人の関係を調べろ」
 マーシャルに命じる。
 まともな仕事をしてくれれば良いが、器用貧乏の範囲に収まる案件だろうか。
 溜息が出る。
 エイミーはなにをしている。
 クラウド夫人ひとり調べるくらい彼女ならすぐのはずなのに、授業を中止させろと命じてから戻ってこない。
 まさか、隠れてシャロンに会っているのではないだろうか。
 どうも、シャロンを主に乗り換えたい様子だった。
「くそっ」
 思わず机を叩く。
 書類の山が崩れた。
 マーシャルが慌てて書類をかき集めるがそんなことはどうでもいい。
 行動が制限されているときに手駒を失うわけにはいかない。
 シャロンの役に立つというのなら構わないが、シャロンを守るにはエイミーが必要だ。
 なにを考えているんだ。
 さっさと戻ってこい。
 苛立ち、椅子を蹴ると足が一本折れてしまった。

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