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病室
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大将猫のお店から、お弁当を四つ持って少し遠回りして「おみせ」に戻る予定だった。
実際とうもろこし畑の横にある細い道を歩いた記憶はあった。
それなのに。
ここはどこ?
突然世界が暗闇に包まれたように思えた。
重力に逆らうことが出来ず、背中から後方に引っ張られるようにして倒れ込んだ感覚。不思議なのは、予想した土の硬さではなく、布団のような柔らかい物に倒れたような気がしたことだろうか。
少しずつ、周囲が明るくなるような気がしたかと思うと、誰かに手を握られている感覚があった。私の手よりも大きくて、少しひんやりしている。
「……だれ?」
頭がぼんやりする。
そして少しずつ周囲の景色を認識していった。
「ああ、目が覚めたか……そのまま起き上がらないで。今先生を呼んでくるから」
声の主、私の手を握っていたのは大志だった。
一体どうなっているのだろう。
離れた手を見送り、周囲を認識する。
どうやら病院の個室のようだ。
私は入院しているのだろうか?
どうして?
ついさっきまで大将猫のお店であのイケニャントークを聞いたりほかほかのお弁当を持ってとうもろこし畑横の小道を歩いていたはずだ。
これは夢なのだろうか。
視線を病室の窓に移す。
多分ここは二階。
しかし、木の上にどこかで見た毛皮がいる。
そう、あのハイブランドスカーフを纏った高飛車毛皮だ。
「あら、もどってきたのね。もうもどらないかとおもった」
また悪役がぴったりと似合いそうな声が言う。
実際こいつは悪党だ。私を生贄にしようとした。
でも、戻ってきた?
「どういうこと?」
もしや石像の女神を怒らせて用済みになったということだろうか?
「下僕がうるさいから帰るわ」
目が覚めたでしょうと高飛車毛皮が姿を消す。
まさか、大志に隠れてこっそり抜け出した?
あの高層マンションから?
いくら他の猫よりも体がでかいとは言えそんな身体能力があるのだろうか。
それとも……。
どうも不思議な現象に触れすぎたせいが、猫たちが瞬間移動しても驚かないような気がするのだ。もしや家からテレポートしてきたのではないだろうか。
そんなことを考えていると、大志が医者を連れてきた。
「つい先程目を覚ましました。異常がないか調べてください」
なんだろう。重傷を負ったいとこを心配するような振る舞い。
次の選挙に向けて医療従事者にアピールしているのだろうか。
大志は私の心配なんてしない。猫と票のことしか考えない男だ。
「落ち着いてください。今から調べますから」
よぼよぼして本当に大丈夫かと不安になるような医者が入ってきた。
あれ? この医者……。
「……チワワ?」
えっと、たいやきさんが連れてきた医者は……確か……。
「シフォンさん?」
なんだろう、髭の感じや表情が医者チワワのシフォンさんに似ている気がする。
「ん? 確かに私はチワワを飼っていたが……シフォンちゃんは数年前に亡くなったよ。もしかしてうちの子を見たことがあったのかな?」
おじいちゃん先生が医者チワワと同じような雰囲気で笑う。
どういうこと?
医者チワワの正体は亡くなった飼い犬?
そう言えばたいやきさんも人間の真似事が好きだし、あの世界に居る動物たちはやたらと人間ごっこをしている。
もしや、医者チワワは飼い主の真似事をして医者をしていた?
診察を受ける間も妙な考えが浮かぶ。
「早希、うちで倒れて二週間も意識が戻らなかったんだ。なにがあったか覚えているか?」
「へ?」
倒れた?
大志の家で?
私……臨死体験してた?
「うちで預かってこんなことになるなんて……叔母さんにどう説明したらいいか……」
大志のことだからなんだかんだで言いくるめしただろう。
私が帰りたくないと駄々を捏ねて泊まり込むことになっただとか。
「お母さんも来たの?」
「いや、ヨーロッパ旅行の真っ最中だから連絡がつかないよ」
そう言えばそうだった。
イタリアだかフランスだか、あの辺りを思いっきり満喫したいって数年前から旅行プランを立ててたんだっけ。居なくて暇だから大志の家でバイトしようと思ったんだ。
「しばらく検査で入院だけど、意識が戻ったならもう病院に任せて大丈夫だろう。後援会の挨拶をいくつか休んでしまったから……でも、意識が戻ったならみんなにもいい知らせが出来そうだ」
へ?
大志が後援会よりも付き添いを優先した?
きっと夢だ。夢に違いない。
いや、倒れた親戚を心配する優しい人を演じただけだろうか。
それよりも……お弁当はどうなってしまったのだろう。
たいやきさんが楽しみにしていたはずなのに。
あまり考えたくはないけれど、たいやきさんとの出会いも全て夢なのだろうか。
それとも……死後の世界が猫の世界だったのだろうか。
探偵猫は無事に復活しただろうか。
いや、あそこが死後の世界ならきっと彼も死んでいる。
私が経験したものはなんだったのだろう。
そう考えると強い眠気が訪れた。
実際とうもろこし畑の横にある細い道を歩いた記憶はあった。
それなのに。
ここはどこ?
突然世界が暗闇に包まれたように思えた。
重力に逆らうことが出来ず、背中から後方に引っ張られるようにして倒れ込んだ感覚。不思議なのは、予想した土の硬さではなく、布団のような柔らかい物に倒れたような気がしたことだろうか。
少しずつ、周囲が明るくなるような気がしたかと思うと、誰かに手を握られている感覚があった。私の手よりも大きくて、少しひんやりしている。
「……だれ?」
頭がぼんやりする。
そして少しずつ周囲の景色を認識していった。
「ああ、目が覚めたか……そのまま起き上がらないで。今先生を呼んでくるから」
声の主、私の手を握っていたのは大志だった。
一体どうなっているのだろう。
離れた手を見送り、周囲を認識する。
どうやら病院の個室のようだ。
私は入院しているのだろうか?
どうして?
ついさっきまで大将猫のお店であのイケニャントークを聞いたりほかほかのお弁当を持ってとうもろこし畑横の小道を歩いていたはずだ。
これは夢なのだろうか。
視線を病室の窓に移す。
多分ここは二階。
しかし、木の上にどこかで見た毛皮がいる。
そう、あのハイブランドスカーフを纏った高飛車毛皮だ。
「あら、もどってきたのね。もうもどらないかとおもった」
また悪役がぴったりと似合いそうな声が言う。
実際こいつは悪党だ。私を生贄にしようとした。
でも、戻ってきた?
「どういうこと?」
もしや石像の女神を怒らせて用済みになったということだろうか?
「下僕がうるさいから帰るわ」
目が覚めたでしょうと高飛車毛皮が姿を消す。
まさか、大志に隠れてこっそり抜け出した?
あの高層マンションから?
いくら他の猫よりも体がでかいとは言えそんな身体能力があるのだろうか。
それとも……。
どうも不思議な現象に触れすぎたせいが、猫たちが瞬間移動しても驚かないような気がするのだ。もしや家からテレポートしてきたのではないだろうか。
そんなことを考えていると、大志が医者を連れてきた。
「つい先程目を覚ましました。異常がないか調べてください」
なんだろう。重傷を負ったいとこを心配するような振る舞い。
次の選挙に向けて医療従事者にアピールしているのだろうか。
大志は私の心配なんてしない。猫と票のことしか考えない男だ。
「落ち着いてください。今から調べますから」
よぼよぼして本当に大丈夫かと不安になるような医者が入ってきた。
あれ? この医者……。
「……チワワ?」
えっと、たいやきさんが連れてきた医者は……確か……。
「シフォンさん?」
なんだろう、髭の感じや表情が医者チワワのシフォンさんに似ている気がする。
「ん? 確かに私はチワワを飼っていたが……シフォンちゃんは数年前に亡くなったよ。もしかしてうちの子を見たことがあったのかな?」
おじいちゃん先生が医者チワワと同じような雰囲気で笑う。
どういうこと?
医者チワワの正体は亡くなった飼い犬?
そう言えばたいやきさんも人間の真似事が好きだし、あの世界に居る動物たちはやたらと人間ごっこをしている。
もしや、医者チワワは飼い主の真似事をして医者をしていた?
診察を受ける間も妙な考えが浮かぶ。
「早希、うちで倒れて二週間も意識が戻らなかったんだ。なにがあったか覚えているか?」
「へ?」
倒れた?
大志の家で?
私……臨死体験してた?
「うちで預かってこんなことになるなんて……叔母さんにどう説明したらいいか……」
大志のことだからなんだかんだで言いくるめしただろう。
私が帰りたくないと駄々を捏ねて泊まり込むことになっただとか。
「お母さんも来たの?」
「いや、ヨーロッパ旅行の真っ最中だから連絡がつかないよ」
そう言えばそうだった。
イタリアだかフランスだか、あの辺りを思いっきり満喫したいって数年前から旅行プランを立ててたんだっけ。居なくて暇だから大志の家でバイトしようと思ったんだ。
「しばらく検査で入院だけど、意識が戻ったならもう病院に任せて大丈夫だろう。後援会の挨拶をいくつか休んでしまったから……でも、意識が戻ったならみんなにもいい知らせが出来そうだ」
へ?
大志が後援会よりも付き添いを優先した?
きっと夢だ。夢に違いない。
いや、倒れた親戚を心配する優しい人を演じただけだろうか。
それよりも……お弁当はどうなってしまったのだろう。
たいやきさんが楽しみにしていたはずなのに。
あまり考えたくはないけれど、たいやきさんとの出会いも全て夢なのだろうか。
それとも……死後の世界が猫の世界だったのだろうか。
探偵猫は無事に復活しただろうか。
いや、あそこが死後の世界ならきっと彼も死んでいる。
私が経験したものはなんだったのだろう。
そう考えると強い眠気が訪れた。
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