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アルジャン5 贈りたい物1
しおりを挟むレアの意図が読めないが、シシーへの贈り物を選ぼうといくつかの店を訪ねた。
どれを見てもシシーによく似合い、どれを見てもシシーには相応しくない気がしてしまう。シシーの美しさの前ではなにもかもが価値のない物に思えてしまう。
彼女が身に着ける物を贈りたいと思っていた。髪飾りから靴まで、そして下着も含めて全て贈りたい。けれどもそんなことをしては冷ややかな視線を向けられてしまうかもしれない。
いや、シシーならそんな表情でもかわいいに決まっている。
シシーをレアに奪われたのは気に入らないがシシーの為に贈り物を選ぶ時間は悪くない。
全て購入したいが音楽祭で着るのは一着だ。それ以上は贈るわけにいかない。
サイズは全て把握している。
流行よりは演奏に支障がないものを。肩から腕にかけての装飾はない方がいい。
耳飾りも……シシーはきっと拒む。ならせめて、髪飾りくらい……。
何色でも似合うシシーへの贈り物は本当に悩む。しかし、白がいいような気がした。
白に金の装飾が入ったドレスを選び、靴と髪飾りも揃えようと、先に宝石店へ立ち寄った。
真っ先に目に入ったのは白い花の髪飾りだった。間違いなく控えめなシシーによく似合う。
「店主、これを包め」
短く命じ、ついでにいくつか見て回る。
シシーの喜びそうなものより俺が贈りたいものを考える時間は心が躍る。
シシーが喜ぶものは実用的すぎるのだ。
あんなに美しいのだからもっと彩られるべきだと思うと同時に、飾る必要がないほどの美の前ではなにもかもが霞んで見えてしまう。
それでも、音楽祭とは別に髪飾りのひとつくらいは。
そう思ったとき、窓の向こうに馬車が見えた。あれはレアがお忍びの時に使う馬車だ。
なんだ。シシーはこの近くに居るのか。帰りに声をかけようか。
そう思い、窓の外を見ると不快な光景が目に入った。
イルム。
前から目障りだったあの男は随分とシシーに近い。
そして、俺のシシーの手を握った。
シシーは困惑を見せるが拒絶はしない。そのこと自体が気に入らない。
慌てて店を飛び出し、イルムを追い払おうとした。
しかし、店を出た時には既にレアの馬車が出発した後だった。
「くそっ……」
イルムは前からシシーに気がある。俺の婚約者と知ってシシーに手を出そうとしている。
あんな男、さっさと国外追放にするべきだというのに、義兄上は外交問題に発展するから耐えろの一点張りだ。
レアの前では鼻の下を伸ばしきっただらしない男で、俺の要求の大半は受け入れるが、なぜか今回ばかりはしぶとく拒否された。
あの日に焼けすぎたような肌の色を思い出すだけで忌々しい。
舌打ちをして、店内に戻る。
気に入らない。
「全部包め」
あんなどこぞの下から数えた方が早い王族より俺の方が地位も財力もあると見せつけてやる。
青い顔をした店主を睨み急かす。
楽しんでいたはずの贈り物選びはざわめきに変わり、残ったのは苛立ちばかりだ。
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