肉月〜ニクツキ

白井智之

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肉月~ニクツキ11

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放課後の校舎、正面玄関。
多くの生徒達が帰っていく中、
ずんぐりとした田中悠がいる。
一人でキョロキョロと周りを見ては
落ち着かない様子で立っていた。

【相撲部かぁ…あんまり興味はないんだけど…】

そんな悠の心の声が聞こえるのか、
赤い石の声が悠の脳に届く。

【では、なぜここでアイツを待ってる?】

悠は、そう言われても返す言葉を
見つけることが出来なかった。
確かに桜井という2年生は…可愛かった。
…だが、自分には心に決めた人、宗助がいるのだ。
…まぁ、勝手に好きになっただけだが。
宗助は自分の事をどう思っているんだろう?
考えずにはいられない。
あまり話せた事も無いので、恐らく自分を
嫌ってはいないだろう。…多分。きっと。
宗助のことが好きなのに宗助が自分を
どう思っているか考えると、
胸が少しずつ痛くなっていく。
遠くから声が聞こえる。

「お待たせぇー。」

桜井だ。
遠くからでも、小さくて太っていて、
可愛らしいので、やけに目立つ。

「じゃあ早速行こうかぁー。」

校舎の脇道を通ってグランドへ向かう。
グランドと校舎の間には運動部の部室が
いくつか建っている。
その中の一つに相撲部がある。
昔は部員も多く、有名だったらしい。

「鍵は僕が持ってるんだぁ。さぁ入って、入って♪」

桜井にうながされ、ドアをくぐると、
大きな縄で出来た輪。土俵がある。
嫌な匂いではないが独特な匂いがする。
いや、少し汗の匂いもする。
部員が減った今でも、匂いが染み付いているのか。
悠がキョロキョロと部室内を珍しそうに
見ていると突然、桜井が悠の胸を揉んできた。

「君、やっぱり良い身体してるね。胸も結構大きいし。」

悠は少しビックリしたが、苦笑いをしながら
適当にやり過ごした。
桜井は小さくて可愛い顔をしてるが一応、
上級生なのだ。
その時、悠は部室の窓際に干されている、
大きな布に気がついた。廻しである。
干されているのは1枚だけ。
ということは桜井のものだろうか。
悠が廻しを見ていることに気がついた桜井は、

「あぁ、あれはね、廻しって言うんだよ?」

と、親切に教えてくれる。
悠は何気ない感じで質問してみた。

「…練習のときは、やっぱり廻しをするんですか?」

桜井は笑顔で応えた。

「うーん、今はたまーにかなぁ。以前は必ずしてたんだけどぉ…今は一人だからぁ。」

なぜ一人だと、毎回ではなくなるのか、
悠には、よくわからなかったが、あまり何でも
聞きすぎても失礼かと思い、納得したように
何度か桜井を見ながら頷いた。
だが、桜井は悠の予想もしなかった事を
言ってきた。

「もしかして…廻しをしてみたいのぉ?」


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