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第23話 (勇者視点)パーティーメンバーを強引に繋ぎ止める
しおりを挟むその日、残る勇者パーティーのメンバーは集まっていた。残っているのはもはや三人だけだ。
勇者ロベルト。回復術士セリカ。そして魔導士のルナリア。
重苦しい雰囲気をしている。度重なるロベルトの失態。そして信用を失うような裏切り行為により、ロベルトの評価は既に地の底まで落ちている。
既にパーティーは崩壊寸前だ。終わりの時は近い。その空気間でこの場は支配されていた。
「今日、こうして集まって貰ったのはロベルト……あなたに言わなきゃいけない事があるからなの」
セリカは躊躇いながらも口を開く。ロベルトは何となく、何を言い出すのか理解できていた。
「私とルナリア……あなたのパーティーを抜けようと思うの。平気で嘘を言って、パーティーメンバーであるロキを見捨てたあなたとでは、とても同じパーティーで一緒にいられそうにない。二人で相談して、結局その結論に至ったの」
「私もセリカも、もうあなたと一緒にいるの……限界なのよ。わかるわよね、ロベルト」
二人はそう告げた。
「……そうか。仕方ないな……それで、これからどうするつもりなんだよ?」
ロベルトはどういう出方をしてくるのか、ある程度予想がついていたのだろう。そして、予想通りの行動に出てきた。だからロベルトは取り乱したりはしなかった。至極落ち着いていたし、淡々としていた。
「他のパーティーにでも入るわ……まだ決まってはいないけど、冒険者ギルドに行けばきっと見つかると思う」
「私もセリカもどこのパーティーでも需要はあると思うし、きっとすぐに見つかるわ」
「……そうか」
「それじゃあ、明日にでも荷物をまとめて出て行くから」
こうして、セリカとルナリアの二人もロベルトの元を去ろうとしていた。
「……最後に、一つだけ良いか?」
「な、なによ?」
「最後に本当の事を教えてやるよ。ロキが自分からSS級の地下迷宮(ダンジョン)『ハーデス』に行ったっていうのは勿論嘘だ」
ロベルトの目は据わっていた。
「い、いきなりなにを……」
「まあ、いいから最後まで聞けよ。ロキは俺が始末したんだ……。外道者(アウトロー)達を金で雇い、地下迷宮(ダンジョン)に廃棄させた。あんな奴が一人であの危険な地下迷宮(ダンジョン)で生きていけるはずもねぇ。間違いなくあいつは今頃死んでるさ。死体も残ってねぇかもしれねぇな」
「何て酷い……」
セリカは絶句していた。
「ゲス……そんなにゲスだとは流石の私も思っていなかったわ。ど、どうしてそこまでロキを目の敵に」
ルナリアは心底軽蔑した眼差しを送る。
「そんなの決まってるだろ……この俺様の有能さを見せつけたかったからだよ。パーティーではなぜかこの俺様じゃなくて、あの鍛冶師のロキばかりが評価されていたからな。ロキがパーティーがいなくなっても平気だって事。今までこのパーティーが上手く行っていたのは全部俺様の実力だったと証明したかったんだよ。結果はそうはならなかったけどな……今更言ったってしょうがねぇけどよ」
「……最低のクズ! そんな理由でロキに手をかけたっていうの! 人としてどうかしているわ!」
ルナリアは激昂した。
「ああ……どうかしてるぜ。俺は。だからこんな事だって出来るんだ」
「「なっ!?」」
突如、彼女達の周囲に複数の男達が姿を現す。明らかに不気味なオーラを放つ男達。外道者(アウトロー)。金さえ払われればどんなあくどい事でも平気でやる、闇の住人達だ。
「くっ!」
「動くな……抵抗しなければ命の保障はする」
ロベルトは二人に告げた。
セリカとルナリアは首筋にナイフを突きつけられる。
「な……なんでこんな……」
「お前達は出て行くっていうけど、俺様は俺様で、優秀な回復術士と魔導士に出て行かれるわけにはいかないんだ。あの剣聖様に出て行かれた上にお前達にも出ていかれちゃ、これ以上ない痛手だからな……。それじゃあ、後は首尾よく頼んだぜ」
「へい……旦那」
「あ、あんた! 私達をどうするつもりなの!」
ルナリアは叫ぶ。
「呪術師の力により、お前達は俺様の命令に忠実な、都合の良い奴隷になって貰う。それしかもう、方法がないみてぇだからな。本当はこんなはずじゃなかったぜ。ロキさえいなくなれば全てが上手く行くと思っていたのに、こんな結果になるなんてな」
ロベルトは溜息を吐く。
「だがしょうがねぇ……割り切っていくしかねぇか。それじゃ、頼んだぜ」
「へい!」
外道者(アウトロー)の中から、呪術を生業とする、呪術師が前に出てくる。そして、二人の前に立った。
「じっとしていな……嬢ちゃん達。何、すぐに何も感じなくなるからよ」
呪術師の男は二人に告げる。こうして、二人は呪術師により、洗脳の呪術をかけられた。ロベルトの都合で動く、都合の良い言いなりの人形になるように。
こうして外道者(アウトロー)達を利用し、外道な方法でロベルトはパーティーの離散を回避したのである。
しかし、こんなやり方では長続きしないのは誰の目にも明白ではあったが……ロベルトだけはその事に気づいていなかったのである。
そしてロベルトとロキは間もなく運命の再会を果たすのであった。
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