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かつての師を絶対即死スキルで葬る

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 気絶したアリスは両手足を縄で縛られ身動きひとつ取れなかった。

「恐らくだがアリスは洗脳されている。マリサの兄――レイドのように。魔族は取りつく上で心理的隙を持つ人間を狙う事が多い。アリスにとっては幼馴染であるノアを殺されたのがその隙になっていたんだ」

「何があったの?」

「聞いてどうする? 俺がノアを殺した。それだけだ」

「仕方なかったんでしょ?」

「仕方なかったからなんだ。俺がノアを殺したのはただの事実だ。アリスにはそれがショックだったんだろう。無理もない」

「……そう」

「まずはアリスの洗脳を解くのが先だ。ロバート教官は恐らく暗殺者の館にいる」

「知ってるの?」

「俺の教官でもあったかな。恐らくはアリスを洗脳したのはロバート教官だ。立場上容易かっただろう。アリスをマリオネットにする事は。行こう。暗殺者の館へ」

 俺にとっては因縁との決着でもあった。

「……待ってよ。シン。この子、アリスはどうするの?」

「放っておくしかないだろう」

「けど、この状態で可愛そうじゃない?」

「俺達はそういう訓練も受けている。束縛された状態でも丸一日くらいはいけるだろう」

「……そうならいいけど。確かに今は構っている暇はないかも。とりあえずはこの子の洗脳を解かないと」

「そうだ。だから、手っ取り早く済ませよう」

 俺達は暗殺者の館へ向かった。

 ◆◆◆◆◆

 暗殺者の館。そこは古びた洋館を改修した施設だ。多くの暗殺者をそこで囲っている。

「来たか。シン・ヒョウガ」

 どこからともなく声が聞こえてきた。

「ロバート教官。いや、ロバート・デニル」

「何の用だ?」

「アリスを刺客に仕立てて送り込んできたのはロバート、あなただろう?」

「ああ。そうだ。だからなんだ? それがどうかしたか?」

「俺はあなたに命を狙われるような事をした覚えはない。俺とあなたは生徒と講師だ。元がつくが。それ以上でもそれ以下でもない。恨みを買うような覚えはない」

「貴様が一緒に旅をしているその女。その女は信託により選ばれた勇者ユフィだろう。いわば私が信奉する魔王様の敵だ」

「いつから魔王の側についた? あなたは人間だったはずだ」

「ああ。人間だった。そうだよ。元人間だ。私は今は人間ではない」

「……いつからだ? いつからそんな事に」

「五年ほど前か。貴様が私の元を離れるより前からだ」

 柱の陰から男が姿を現す。色白の美形であるが故に、40近い年齢になっていたとしても中年という言葉は似合わなかった。三年前と全く姿が変わっていない。

 俺達の教官をしていたロバートという男だ。

「……久しぶりだな。シン。シン・ヒョウガ」

「ええ。ロバート教官。三年ぶりですね」

「なぜ、貴様が勇者の真似事をしている。勇者の側についた」

「答えは簡単です。人を殺す事に嫌気が差したんですよ。殺人は何も生まない。憎しみを生むだけです。もっと社会にとって意義のある事をしたかったんです」

「悪い人間を殺せばそれだけ喜ぶ人間もいる。命の価値は平等ではない。死んで然るべき人間も確実に存在する」

「それは否定できない面もあります。ですが、殺していい人間など主観にすぎません。極悪人が誰にとっても極悪人ではない。家族にとっては優しい父である場合もある。善悪など所詮は主観にすぎませぬ」

「そうか。もはや、我々は分かり合えないのだな」

「ええ……そのようです。勇者ユフィの目的は魔王を倒す事。そして俺はそれを手伝う為に旅をすると決めたんです」

「残念だ。私が育てた暗殺者(アサシン)の中でも最高傑作だと自負しているシン・ヒョウガ。お前を私自らの手で殺さなければならないのだからな」

「気をつけろ。ロバート教官は強い」

「わかってるわよ。なんかあいつ、やばそうな気配だしてきているし」

「では行くぞ、シン。構わぬ。三人がかりで来い」

  ジリジリとした空気が続く。

「そっちから仕掛けてこないならこっちから行くぞ」

 ロバートは幾本ものナイフを取り出した。投擲してくる。投げナイフ。正確な一投はマリサの顔面を射貫こうとしていた。

「えっ!」

 キィン。俺はダガーでそれを弾き飛ばす。

「ありがとう、ダーリン」

「気にするな。次、来るぞ」

「そうだ。ナイフはまだ一杯あるんだからな」

 次なる投擲が襲い掛かってくる。次々と襲い掛かってくるナイフはさながらシャワーのようだった。

 俺はその攻撃を避けつつ、距離を詰める。

「……流石だ。あの攻撃を避けて自分の間合いに持ち込むとは」

「終わりです。ロバート教官」

「……だが」

 ロバートは笑った。

「この勝負! 私の勝ちのようだ」

「なっ!?」

「アリス!」

 馬鹿な。抜けてきたのか。あの束縛を。俺は振り返った。振り返った瞬間、天高く舞ったアリスの姿があった。本来一瞬の事のはずだ。だがその動きはスローモーションのように映る。俺の中には選択肢があった。アリスを殺すか。殺さないか。

 結局、俺の脳内にはあの日のノアの笑顔が浮かんできた。あの時と同じように、俺はアリスを殺せるのか。ノアと同じように。

 結局身体が動かなかった。

「ぐはっ……!」

 凶刃が俺に突き刺さる。

「「シーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!」」

 叫びが聞こえてきた。

「えっ!?」

 俺はアリスを抱きしめる。その瞬間、アリスの顔が元の顔に戻っていた気がする。

「なんで……シン。私を殺さなかったの? シンなら私を殺せた。それも容易く。なのになんで」

「殺せるわけないだろう。アリス。俺にとってお前は大切な幼馴染だ」

「……だったらノアは。ノアは大切な幼馴染ではなかったの?」

「俺にとってはあいつも大切な幼馴染だったよ」

「……ならなんで?」

「クッハッハッハッハッハッハッハッハ! 最高に面白い見世物だったよ! こいつは傑作だ。これはそう、三年前の茶番劇と同じくらいに傑作だったよ! クックックアッハッハッハッハッハッハッハ!」

 ロバート教官の哄笑が響き渡る。

「茶番劇? 傑作? 三年前? なんで?」

 アリスは理解できていないようだった。

「暗殺者としての修了試験。相手を殺した方が合格というシンプルなルールだ。シンの相手に幼馴染のノアを選んだのは私だ。顔がわからないようにお互いに仮面をつけさせてな。その結果、シンが勝利したんだが、相手の仮面を外し、正体を知った時のこいつの表情といったらなかったよ。相当に衝撃を受けていたんだろうな。クックック。冷徹であるべき暗殺者にあるまじき欠点だったよ。私はその欠点を払拭させようと、あえて幼馴染であるノアと殺し合いをさせたんだが、逆効果だったようだ。こいつはそれから人を殺める事に恐れを抱き、嫌気が差した。そしてこの裏社会から足を洗ったんだ」

「そんな……じゃあ、あの時ノアが死んだのは、全てはロバート教官の仕組んだ事なの?」

「そうだ。全ては私の手のひらの出来事だったんだよ」

「……アリス、正気に戻ったんだな」

「うん。シン」

「離れろ」

「けどシン。傷が。私がつけておいてこういう事言うの凄いあれなんだけど。かなり深くダガーが突き刺さっている」

「こんな傷。唾つけとけば治る」

「唾って、そんなかすり傷じゃ」

 腹に刺さっているダガーを引き抜く、床に投げ捨てる。血が流れるが気にもとめない。

「そんな満身創痍の身体で何ができる? 魔族としての力を授かった、私の本当の力を見せてやろう。フッハアアアアアアアアアアアアアアア!」

 ロバートの体に闇の力が充実していく。そして膨張していく。筋肉が。服がはじけ飛ぶ。
出来上がったのは巨人のような魔族だった。醜い化物。かつてのスマートさは欠片もない。

「さあ! どうだ! シン! これが力だ! 魔王様より授かった力! 魔王様に逆らうものは何人たりとも許しはしない!」

「シン!」

「ダーリン! あいつやばい! S級モンスターよりやばい力を感じる! S+くらいはある!」

 マリサは解析(アナライズ)の魔法を使用したそうだ。

モンスター名魔人ロバート。

ⅬⅤ9999
HP300000。
攻撃力99999
防御力99999
魔力99999
敏捷性99999
保有スキル『状態異常完全無効化』『自動再生(オートリジェネレーション)大』

「なにこのステータス、ランク『EX(規格外)』にいっているんじゃない? これが魔王の力」

「私達は恐ろしい相手を敵にしようとしているそうですね」

「くらえ! 魔王様より頂いたこの力を! くわぁ!」

 魔人ロバートは口から酸のようなものを吐きつけてくる。酸は一瞬にして床を溶かし、大穴をあけた。

 俺はそれを避けた。くっ。刺された腹が痛む。速度が鈍った。

「だ、だめよ! シン! そんな満身創痍で!」

「ダーーーーーーーーーーーーーリン!」

「グッハッハッハッハッハッハッハ! 魔王様より授かったこの力を!」

 魔王から授かった力がなんだ。俺の『絶対即死スキル』はありとあらゆる存在を即死させる。それに例外はない。竜でも神でも魔王でも。
 
 ――だから当然。お前だって例外ではない。

「スキル発動」

「な、なに!? 馬鹿なっ!」

「絶対即死」

 ダガーが突き刺さる。全ての存在の命を奪い取る凶刃。一撃必殺の刃。

「なにっ! 馬鹿なっ! 魔王様より頂いたこの身体が! 一撃だと! 馬鹿なあああああああああああああああああああああああああ!」

 魔人と化したロバートは絶叫しながら果てた。

「終わったか」

 俺は胸をなでおろす。

「す、すごい! あんな怪物を一撃でなんて」

「さ、流石ダーリン……規格外のダーリン」

 二人も開いた口が塞がらない様子だった。

「シーーーーーーーン!」

「ダーリン! 怪我してるわよね。すぐに回復魔法で治療するわ」

「ああ。ありがとう。すまない」

 マリサは俺の治療を始める。

「ごめんなさい。シン。洗脳されていたとはいえ、あなたを傷つけてしまった」

 アリスが謝ってくる。

「気にするな……俺はこうして生きている。それよりアリス……まだ俺を恨んでいるのか? ノアを殺した事を」

「うん。実はノアと三年前のあの日より前に、話をしたの」

 アリスは神妙な顔で言った。

「自分の身に何があってもシンを恨むなって。それはシンのせいじゃないって。ノアは気づいていたんだと思う。ロバート教官の策略に」

「……そうか。ノアがそんな事を」

「死んだノアもきっとシンを恨んでない。勿論私も。勿論ノアが死んだ事はショックで当時は泣き崩れた。だけど暗殺者(アサシン)になるべく育てられてきたんだもの。すぐそこに死はあった。だから乗り越えなきゃいけない事だったんだと思う」

「ともかくこの館を出よう。その後の事はそれから話をしよう」
 
 こうして俺達は暗殺者の館を出た。




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