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マリサの兄
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魔道国マギカの王城に宿泊したその翌朝の事だった。
「レイド様が帰ってくるぞ!」
「ああ! レイド様が帰ってくる!」
使用人が慌てていた。
「レイド様?」
「マリサのお兄ちゃん」
「へー」
「3歳上だからダーリンと同じ年よ」
「だからそのダーリンというのをやめてください」
ユフィはマリサを諫める。
王城に入ってきたのは金髪の美青年だった。やはり魔道国らしくローブを着てはいるが。鎧と剣を持たせても似合いそうだった。
だが、どことなく冷徹な印象を受けた。自分は優れているという自負と自覚があるが故に他人を見下すような、そんな嫌味な奴の節があった。視線から冷たさを感じる。
だがそれは俺の感覚が敏感だからかもしれない。普通の人間なら気付かない程の違和感だ。
「マリサ、誰だ? その男は?」
「マリサの婚約者。運命の人なの」
「だから違うって言ってるでしょうが!」
ユフィが否定する。
「どっちなんだ?」
レイドは困惑していた。
「お兄ちゃん、マリサを信じて」
「……見たところ、魔法使いではないようだな。どこかの王子にも見えない」
「……ええ。魔法使いでもなければ王子でもありません」
俺は告げる。
「そんな下賤な輩に魔道国の王女であるマリサをやるわけにもいくまい」
「ええ。俺には釣り合いません。是非お引き取りください」
「な、なにを言っているのよ! ダーリン! 障害があるからこそ、恋の炎は熱く激しく燃え盛るのよ!」
俺とは対照的にマリサの目はメラメラと燃えている気がした。
「父上と母上は何と言っている?」
「パパもママも認めてくれているわ」
「私は認めてないんだけど」
ユフィは言う。俺も認めたわけではない。
「そうか……だったら私が何か言う事もないだろう。ただ、私がそのような下賤な輩を認める事はない。絶対にだ」
冷たい。あのマジック国王よりもずっと。心を閉ざしているように感じた。
「それでは私は部屋に戻る。ではな」
「うん。じゃあね。お兄ちゃん」
そしてレイドは去って行った。
「気にしないで。お兄ちゃん。マリサと同じで天才だけど。少し気難しいの。頭が固いっていうか」
「少しどころではなく、大分気難しそうだったけど。というか自分で天才っていう?」
「初対面の人間と打ち解ける事ができないのは普通の事だ。ましてや相手は王族で、俺はそうではない。レイド王子のような対応は普通に考えうるものだ」
ましてや妹をさらっていく。盗人のようなものだろう。俺は。実際はそうではないが。それはともかく好感を持つはずがない。
恋愛感情はともかくとして、マリサは神託により選ばれた勇者パーティーの一員だ。だから今後旅に連れて行く事になる。その予定だ。だから盗人という表現は決して間違ったものではない。
だが、去り際に何となくではあるが違和感を覚えた。嫌な匂いがした。気のせいか。あの王子。何かありそうだった。
◆◆◆◆◆
自室に戻ったレイドの中から、ドス黒い気が溢れてくる。
「マリサの奴め……呑気に男を連れ込みやがって。私の気も知らないで」
その気は魔族が放つものであった。
「だがまあいい。同じ事だ」
レイドは醜悪な笑みを浮かべる。
「マリサ……あの男ものども、ぶち殺してやるからな。くっくっくっくっくっく! あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!」
哄笑が響いた。
「レイド様が帰ってくるぞ!」
「ああ! レイド様が帰ってくる!」
使用人が慌てていた。
「レイド様?」
「マリサのお兄ちゃん」
「へー」
「3歳上だからダーリンと同じ年よ」
「だからそのダーリンというのをやめてください」
ユフィはマリサを諫める。
王城に入ってきたのは金髪の美青年だった。やはり魔道国らしくローブを着てはいるが。鎧と剣を持たせても似合いそうだった。
だが、どことなく冷徹な印象を受けた。自分は優れているという自負と自覚があるが故に他人を見下すような、そんな嫌味な奴の節があった。視線から冷たさを感じる。
だがそれは俺の感覚が敏感だからかもしれない。普通の人間なら気付かない程の違和感だ。
「マリサ、誰だ? その男は?」
「マリサの婚約者。運命の人なの」
「だから違うって言ってるでしょうが!」
ユフィが否定する。
「どっちなんだ?」
レイドは困惑していた。
「お兄ちゃん、マリサを信じて」
「……見たところ、魔法使いではないようだな。どこかの王子にも見えない」
「……ええ。魔法使いでもなければ王子でもありません」
俺は告げる。
「そんな下賤な輩に魔道国の王女であるマリサをやるわけにもいくまい」
「ええ。俺には釣り合いません。是非お引き取りください」
「な、なにを言っているのよ! ダーリン! 障害があるからこそ、恋の炎は熱く激しく燃え盛るのよ!」
俺とは対照的にマリサの目はメラメラと燃えている気がした。
「父上と母上は何と言っている?」
「パパもママも認めてくれているわ」
「私は認めてないんだけど」
ユフィは言う。俺も認めたわけではない。
「そうか……だったら私が何か言う事もないだろう。ただ、私がそのような下賤な輩を認める事はない。絶対にだ」
冷たい。あのマジック国王よりもずっと。心を閉ざしているように感じた。
「それでは私は部屋に戻る。ではな」
「うん。じゃあね。お兄ちゃん」
そしてレイドは去って行った。
「気にしないで。お兄ちゃん。マリサと同じで天才だけど。少し気難しいの。頭が固いっていうか」
「少しどころではなく、大分気難しそうだったけど。というか自分で天才っていう?」
「初対面の人間と打ち解ける事ができないのは普通の事だ。ましてや相手は王族で、俺はそうではない。レイド王子のような対応は普通に考えうるものだ」
ましてや妹をさらっていく。盗人のようなものだろう。俺は。実際はそうではないが。それはともかく好感を持つはずがない。
恋愛感情はともかくとして、マリサは神託により選ばれた勇者パーティーの一員だ。だから今後旅に連れて行く事になる。その予定だ。だから盗人という表現は決して間違ったものではない。
だが、去り際に何となくではあるが違和感を覚えた。嫌な匂いがした。気のせいか。あの王子。何かありそうだった。
◆◆◆◆◆
自室に戻ったレイドの中から、ドス黒い気が溢れてくる。
「マリサの奴め……呑気に男を連れ込みやがって。私の気も知らないで」
その気は魔族が放つものであった。
「だがまあいい。同じ事だ」
レイドは醜悪な笑みを浮かべる。
「マリサ……あの男ものども、ぶち殺してやるからな。くっくっくっくっくっく! あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!」
哄笑が響いた。
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