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魔女(叔母)の家を訪れる

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 俺はこうして、隣国レガリアにある、叔母——カタリナの家を訪れた。叔母の家は人気のないところに聳える一軒家だった。周囲には何もない。豊かな自然があるだけだ。こういう住んでいるところも何となく『魔女』と称されるだけの事はあるように感じた。

「ここが私の家だ」

「お邪魔します……」

「とりあえず、風呂に入れ」

 俺は風呂に入り、冷えた体を温める事になった。俺は魔法で沸かして貰った風呂に入る事になる。

 ◇

 魔法というものは素晴らしいものだ。便利だし、何でも出来る。だが、俺には扱う事はできない、近くて遠いものだ。俺にとっては輝かしく光る夜空の星のようなもの。

 綺麗だし、手を伸ばせば届きそうに感じる。だが、その実際の距離は果てしなく遠く、決して届く事はない。

 魔法が使えるって、一体どういう感覚なんだろうか。

 俺は風呂に入っている最中、そんな事を考えていた。

 ◇

 叔母に借りた服に着替え、俺は食卓に座った。

 そこにあったのは豪華な料理だった。随分と豪勢な晩御飯だった。

「……いいか。アレク。大体、人間っていうのは腹が減っていると気分が落ち込むもんだ」

「はぁ……」

「空腹を満たす事。それから睡眠だな。十分な睡眠を取れば、大抵の場合、落ち込んだ気持ちっていうのは回復していく」

「単純ですね……」

「そうさ。人間っていうのは割と単純な生き物だからな」

「……そうですか」

 その通りかもしれない。案外、物事は複雑ではなく単純なものだ。

「というわけで、いいから食えっ!」

「は、はい! いただきますっ!」

 俺はスプーンとフォークを手に取った。そして、目の前の豪勢な料理にがっつき始める。

 おいしかった。

「おいしいですっ!」

 俺は正直に感想を告げる。

「そうか……そうか。それは良かった」

 カタリナは微笑む。誰かとまともに取る食事。それは俺にとっては数年ぶりの事であった。俺は母が死んでからの10年来、父に愛される事は一度としてなかった。父とまともに食事を取ったのは、母が死ぬ10年前だ。10年にも近い歳月、俺は一人で食事を取ってきたのである。

 カタリナの言葉通り、俺の心から生きる活力が回復してきたような、そんな気がした。彼女の言うように、人間は単純な生き物だ。空腹が満ちれば、気分も良くなってくる。泣いている子供に飴玉をやれば泣き止むようなものだ。

 大きくなっても、そこら辺は根本的に変わっていないのであろう。

「……そういえば、お前、今日誕生日だったな?」

「どうしてそれを……」

「どうしてって、姉さんの命日と同じ日だからな。嫌でも印象に残って覚えるさ」

 それもそうかもしれない。

「ハッピーバースデー。アレク」

 カタリナは笑顔で告げる。

「うっ……ううっ……」

 俺の瞳から、自然と涙が溢れてきた。

「お、おいっ! どうしたんだ……いきなり泣き出して。なんか不味いものでも入ってたか?」

 カタリナは心配して聞いてくる。

「いえ……そうじゃないんです。ただ、嬉しくて」

「嬉しい……何がだ?」

「誰かに誕生日を祝われた事なんて……今まで、一度もなかったから。それが嬉しくて」

 誰かに生まれてきた事を祝われるなんて事がこんなに嬉しい事だとは思わなかった。俺の人生は誕生に対する否定から始まった。母を亡くしてからというもの、俺を愛していてくれる人は一人としていなくなった。
 
「……そうか。お前は可哀想な奴だな……普通、誕生日っていうのは祝われるもんだってのに」

 カタリナは呆れていた。

 こうして俺にとっては激動の誕生日が過ぎていくのであった。実家から追い出され、そしてカタリナに拾われ、彼女に祝われる。そんな特別な一日を俺は過ごしたのだ。
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