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レストランでの出来事

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 場面を移す。そこは近所にあるレストランの事だった。時刻は既に夕暮れ時を過ぎて、夜になっている。晩飯時だ。母、ミリアには連絡をしておけば良いことだろう。トールには両親はいない。実際のところはいるが絶縁状態だ。カールがああなったという事もあり、どうなっているかはわからない。推測だが悲惨な状況になっている事であろう。
 飲み物がテーブルに置かれる。ゆっくり食事をする余裕がないので、とりあえずの注文をしたまでであった。

「一体、どういう事なのよ! トール!」

 と、フィルは言う。ドン! とテーブルを叩いた。

「どういう事と僕に言われても」

 トールは苦笑する。

「落ち着いてフィルちゃん。あなたはトール君の恋人ではないのよ。だからトール君が誰とどういう関係を持とうが文句を言う権利はないの。キスをしただけで調子に乗らないでちょうだい」と、クレアは言う。
「べ、別にあたしはキスしただけで調子に乗ってるわけでもないし」
「落ち着いてくださいませ、フィルお姉様。この方のお話を伺わない事にはなにもわかりませぬ」と、リュミ。

 金髪で長い髪をした美少女はストローでジュースに口をつけてにこりと微笑んだ。

「……可愛い」

 ランスはぽつりと呟く。

「ランス兄……この娘の事、好きになっちゃったの?」と、フィルは聞く。
「いや、そういうわけではないけど。無垢で可愛いと思っただけだよ。なんていうか、小動物的な。穢れがないと思ったのさ」

 何となくランスの言った可愛いとは異性の対象としてではなく、犬や猫に向けるような可愛いという表現なのだろうと察した。純粋な可愛さだ。

「それで、君は誰なんだ?」

 トールは核心的な事を聞く。

「誰、とは?」謎の少女は首を傾げる。
「僕と君は初対面だよね? それともどこかで会った?」

 彼女は考えあぐねているようだ。どう説明するべきか悩んでいる。

「私は聖竜の王、ホーリードラゴンです。ホーリーと呼んでください」

 ホーリーはそう言う。

「ホーリー?」
「はい……ホーリーです」
「聖竜って、どっからどう見ても人間にしか見えませんわ」と、リュミ。
「高位のドラゴンはその身を人の形に変化できるのです」と、ホーリーは言う。
「へえー。そうなんですの。知らなかったですわ」と、リュミ。
「それでホーリーさん……一体、僕達、というか、トール君に何か用なのですか?」

と、ランスは聞く。聞き捨てならない事を最初ホーリーは言っていた。「勇者様」とか。それはつまりは彼女がランス達の知り得ない、そしてもしかしたらトール自身も知っていない秘密を知っているのかもしれない、そうランスは感じていたのだ。

「それを説明するには、私達竜種間の長い歴史における抗争を説明しなければなりません」

 ホーリーは説明する。

「それは2000年前の事です。勇者率いる人類と魔王率いる魔族との大きな戦いがありました。その時に聖竜(ホーリードラゴン)側は勇者様の味方につき、暗黒竜(ダークドラゴン)側は魔王軍側についたのです。戦争は終わり、最終的には人類が勝利しました。しかし私達生き残った竜種は戦争が終わった後もいがみ合ってきたのです。2000年もの間。人間の寿命からすれば考えられない事かもしれませんが、永遠に近い時を生きる事ができる竜種にとっては些細な時間の流れに過ぎません」

 そう、ホーリーは説明する。説明を続ける。

「しかし、最近、異変が起きました。暗黒竜(ダークドラゴン)が聖竜(ホーリードラゴン)に戦争を開戦してきたのです」
「戦争?」
「はい……戦争です」
「何でまた、今更になって」と、フィル。
「元々、暗黒竜は聖竜が持っている魔王の霊魂のうちのひとつを狙っていました。勝算があれば攻め込むつもりだったのです。そして最近、その勝算らしきものが出来たそうです」
「勝算?」
「はい。勝算です。何でも魔人が暗黒竜に肩入れしたそうです」
「魔人?」
「はい。魔人です」

 他に思い当たる人物はいない。もしかしたら魔人は他にいるのかもしれないが、聞いた話によると残る魔人は三体であり、その内一体のベリアルは消失している。そしてカールに取り憑いているのがルシファー。三体の封印が解かれていないとすると、カールに取り憑いたルシファーの仕業という事になる。

「恐らく、カールの仕業だ」

 そう、トールは言った。

「そうね。そう思っておいた方がいいわね」と、フィルは言う。
「それで、聖竜と暗黒竜の戦争が始まったのはわかりますが、それでどうしてトール様に行き着いたのです?」
「先日……2000年前に勇者様が放った力と同じ力を感じました。それで、私は確信したのです。勇者様が長い時を経て、この世に蘇ってきたのだと」
「先日……」そう、フィルは呟く。

 思い当たるのはあの学院祭の時の事だった。カールに対して、トールが放った力。あの力は2000年前に存在していた力だというのか。

「あの力は何だったのですか? トール様は一体何者なのですか?」とリュミは聞く。
「トール様というのですね。私は思うのです。この方は勇者様の生まれ変わりなのだと。微かではありますが勇者様の力を感じます」そう、ホーリー。
「勇者の生まれ変わり? トールが?」と、フィル。
「はい。私は勇者様の力を頼りにここまで来たのです。そしてお会いして確信しました。この方こそ、2000年前に私たち聖竜が使えた勇者様なのだと」
「……僕が勇者」と、トール。
「だったら、僕が放った光。あれも勇者の力だって言うんですか?」
「そうです。あの力は2000年前に勇者様の使った魔法の力。現代には失われた古の魔法。原初魔法です」
「原初魔法……僕は魔法が使えないと思っていたのに。そんな魔法が」
「原初魔法は今の魔法体系とは全く異なる魔法体系の魔法です。例えるなら魔法の幹が違うのです。幹には多くの枝や実が成っております。枝や実は細分化された魔法の種類です。例えるなら炎系や雷系などがそうです。それぞれ種類はわかれていますが大きなくくりでいったら現代魔法と言えます。ですが勇者様の使用していた原初魔法とはそれとはまた別の幹の魔法なのです」

 そう、ホーリーは説明した。

「原初魔法?」
「そうか。だったらあの力ーー魔法か。それがカール君の防御魔法を素通りしたのも頷けるな。魔法体系が全く異なるのなら、現代魔法では干渉できない魔法という事か」

 そう、ランスは分析した。

「つまりトールは勇者の生まれ変わりで。その原初魔法が使えるって事? それで原初魔法が現代魔法では干渉できないって事?」と、フィル。
「そうなるね」
「トール様……トール様はそんな運命的な宿命を背負ったお方だったのですね」

 リュミの瞳の輝きが一層増すのを感じた。

「これは尚更、この私と結婚して、王室に入って頂けなければなりません。そして、沢山、私と子を残して頂かないと。だ、だめですわっ。トール様、毎度毎度、毎晩毎晩、そんなに私を求めて頂いては、身体が持ちませんわ。だ、だめっ、あっ、ああっ! ああっーーーーーー!」
「ちょっと、リュミ。そんなレストランで発情しないでよ。家族連れもご飯食べてるのよ」とフィルは言う。
「はっ。も、申し訳ありませんわ。私、つい妄想の世界に」
「それでトール君が勇者の生まれ変わりだと思ったホーリーさんはここに来たというわけか」とランス。
「はい。そうなります」
「ある程度目的は見当がついてるんだけど、一応聞いておきたいんだけど。ホーリーさんはトール君に何の目的があってこの場に来たんだい?」と、ランス。
「それは勿論、暗黒竜と聖竜の戦争。竜間戦争にその力を貸して欲しいのです」そうホーリーは言った。
「どうするんだい? トール君」
「カールが関わっているんだ。それに魔王の霊魂の関係もある。見捨てる事はできないよ」
「ありがとうございます。勇者様」
「その勇者様っていうのをやめてよ。トールでいいよ」
「……はい。ではトール様」
「私と呼び方が被りましたわ」と、リュミは言う。
「ではトールさんとお呼びします」とホーリー。
「別に呼び方が被ってもいいじゃないの」とクレアは言う。
「……誰がトール様を呼んでいるのかわかりづらくなりますわ」
 
 小説特有の表現でもあった。漫画やアニメならまあそうはならないけど。

「ともかくだ。ただ少し時間をくれ。一日くらい。しばらく学院を休まなければならないだろうから。学院長に説明が必要だと思う」

 と、トールは言った。

「ありがとうございます。トールさん」

 ホーリーは微笑んだ。
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