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第62話 エドワードとの対決を前に

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(クレア視点)

「……ん?」

 クレア(偽)はスカーレットとして偽った、クレア(本物)に呼び出された。

「お父様……お手洗いに行ってきてもよろしいでしょうか?」

「ん? ああ……構わないが」

 クレア(偽)は適当な言い訳をして外に出ていった。

 ◇

(クレア視点)

「……はぁ……はぁ、暑かったですよ。姫様」

「ごめん、ごめん。でも、本当に助かったわ。レティシア」

 物陰で二人は役割を交換する。仮面剣士の真似事は終わりである。クレアは元のクレアに戻った。

「でも良かったのですか……姫様が負けて。あのソルという少年に準決勝を譲っても」

「その方がいいと思ったの。私ではエドに勝てるかはわからないけど、ソルならエドに勝てるって、そんな予感がしたの」

「はぁ……その根拠は何でしょう?」

「根拠なんてないわ。幼馴染としての勘よ。それに、エドと闘うのは私よりソルの方が相応しいと思ったから」

「そうですか……何にせよ決まってしまった事はどうしようもありません。見守るしかないでしょう。そして祈るしかありません。ソル殿の勝利を」

「ええ……そうしましょう」

 本来のクレアに戻り、彼女はソルの勝利を祈るのであった。

 いよいよ準決勝が始まる。剣神武闘会も終わりが見えてきた。宴も終わりが見えてきた。

 準決勝以降のスケジュールは翌日に行われる事になっている。闘技場の観客は明日が待ちきれない様子であった。

 ◇

 準決勝が始まるまで一晩の時間があった。仕切り直せる。流石にソルも消耗していた。MPは空だし、HPもそこそこ減っていた。故に連戦ではなく、立て直せる時間が与えられた事は純粋にありがたかった。
 無論それは相手にとっても同じ事だった。エドとて何の疲労もしていないわけではないだろう。

「……ん?」

 ソルとバハムートの前にエドワードが姿を現した。

「次の対戦相手の……義弟(おとうと)か」

 当然のように良い印象を持っていないバハムートは眉を潜める。

「へっ。まさか、あの兄貴が準決勝まで上がってくるとはな。義父(おやじ)も驚いてるぜ」

「父さんも来ているのか……この剣神武闘会に」

「ああ。来てるぜ。なんだ? やっぱり義父(おやじ)には顔を合わせたくないのか?」

 顔を合わせたいわけがない。ソルが受けた仕打ちはとても親のする事ではない。ついでに言えばエドとも顔を合わせたくはなかった。だが、明日の対戦相手だ。避けるわけにもいかない。剣を交えなければならない相手だ。避けようもない相手である。

 クレアを願いを叶える為にも決して負けるわけにはいかない相手だ。

「合わせたいわけないだろ……実の息子が外れスキルと言われる【レベル0】を授かったってだけで勘当されたんだぞ」

 勘当どころではない。ソルは実父であるカイに殺されかけたのだ。実父とは言え、自分を殺そうとした相手と会いたい奴など普通はいない。

 あまりに重すぎる事実に口に出す事も憚られたからその事は言わないだけであった。

「へっ……だろうな。義父(おやじ)も兄貴が生きていた事を驚いてたぜ。まるで幽霊でも出てきたのようにな……」

「そうだろうな……」

 父――カイは驚いていた事だろう。始末と思った息子がこの場に居たのだ。目を疑うような光景だったに違いない。

「それにしてもどうしたんだよ……兄貴。その動きは。見違えちまったじゃねぇか? 別人にでも成り代わっているのか?」

「方法は敢えて言わないが、俺は普通のレベルを上げる方法ではない方法で強くなったんだ……この半年間、修行を繰り返してたんだよ」

「へっ……そうか。じゃあ、間違いなく、あの兄貴なんだな。でも負けるわけにはいかねぇよ。俺だってこの半年間何もしていなかったわけじゃねぇ。俺の固有スキルである『久遠の剣聖』を存分に生かし、剣の腕を磨いてきたんだ」

 エドは鞘から剣を抜く。斬りつけてくるわけではない。ただ自分の剣を見せつけたかったのだ。

 どこからか葉っぱが一枚舞ってきた。流れるような剣であった。一枚の葉っぱは正確に両断された。剣が鋭くなければあんな芸当はできない。見た目以上に技術がいる技であった。

「兄貴がどれだけの苦労をしてきたかは知らねぇが。俺の今までやってきた事が兄貴に負けてるはずがねぇ。明日、白黒はっきりとつけてやる。勝つのは俺だ。そして剣神武闘会で優勝するのも俺だ。全部勝って、俺は全てを手に入れる。俺はあの時の、ただ貰われた子供だってだけの肩身の狭いエドワードじゃねぇからな」

 エドは去っていった。

「行こうか……」

「うむ……そうするかの。決戦前だ! たらふく食べようではないか!」

「冗談じゃないぞ。俺達は金がないんだ」

「な、なんだと! ど、どうするというのだ! 食べるのにも寝るのにもその『金(かね)』という交換手段を必要とするのであろう!」

「仕方がない。またクレアを頼りにするよりない」

 実家のコネがない以上、頼れるコネは王族にして幼馴染であるクレアしかない。

「全く、まるで間男か、ヒモだの」

「な、なんだと! ……否定できないのが悲しい」

 ソルは自分で自分が情けなくなった。こうしてソルはクレアを頼り、宿と食事を確保し、そして翌日の準決勝に備えたのであった。
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