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三章 ミッドサマー・デスマッチ
「それはハンデって言ったでしょ」
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「オレの相手はちびっ子か。オレの攻撃を防いだその実力、確かめたかったから丁度いいぜ」
サンは今、最初に顔を出したバルタ人と対峙していた。チビとは言うが、彼も他のバルタ人と比べると明らかに小柄だ。
「もしかして、自分より小さい人とあまり会ったことがないの? だからそんなに踏ん反り返ってボクをちびっ子呼ばわりしているんだね」
「ぐっ」
「あはは、図星なんだぁ。キミって本当分かりやすいねぇ」
笑うサンを前にした小柄なバルタ人は、両腕を振り下ろす。
しかしサンに何かが起こる気配はなかった。見ると、バルタ人の両腕が氷で覆われていた。
「なっ! いつの間に」
「キミのその爪ってすぐに再生するんだねぇ。しかも爪には毒の成分も含まれているみたいだ。体内で毒を作れるんだね。面白いなぁ、キミ」
「っ! なんでそれを」
目を見開くバルタ人を見て、サンは満面の笑みを浮かべた。
「あ、やっぱり毒なんだ。教えてくれてありがとう。助かったよ」
「お前……っ!」
「だってほら、キミの爪だけ色が黒いでしょ。だから何か仕掛けがあるんだろうなーと思ってさ」
バルタ人の顔が徐々に険しくなっていく。これだけ馬鹿にされたら怒るのも当然だ。
しかしサンは全く動じていなかった。寧ろ、彼の反応を楽しんでいるようだった。
「ねぇねぇ、ボクにはちびっ子じゃなくてサン・モルテって名前があるんだ。あ、今は陽太か。
それで、キミはなんていうの?」
首を傾けて可愛らしく言う。バルタ人との距離を徐々に詰めながら。
「お前、いい加減にしろよ」
「教えてくれないんだ。じゃあキミは黒爪くんでいいね」
「……その減らず口、今すぐ塞いでやるよ」
太い尻尾を軸にして、バルタ人は高速で回り始める。腕の氷も力任せに砕いた。
「オレはバルタ人先鋭部隊所属、シーナ四兄弟末っ子、スーシン! オレを罵ったこと、後悔しろ!」
言い終えると同時に無数の物体が弾丸のように飛んでくる。それをサンは再度氷の壁を作ることで防ぐが、全てを防ぎきる前に壁が破壊されてしまった。どうやら、回転の勢いも相まって、最初に防いだ時の攻撃よりも格段に威力が増しているらしい。
「へぇ、ただの単純バカではないみたいだね」
頬から流れる血を腕で拭き取り、サンはニヤリと笑う。緋色の目が鋭く光った。
「もっと楽しませてくれたらキミの名前覚えておいてあげるよ。ま、覚えている名前なんて今までないけどね」
そこまで言ったサンはパチンと指を鳴らす。サンの足元を中心にして急激に大地が凍りついていき、あっという間にスケートリンクのような氷の床が完成した。
高速回転をしていたスーシンは思わず体勢を崩す。
「くそっ、滑って思うように動けな……」
「まだボクは何も攻撃してないよ? ほら、遊んでないでかかってきなよ」
サンは四つん這いのスーシンの顔を覗くように屈むと、挑発するように言う。スーシンはかなり血が上っているようだ。
「コケにしやがって! ちびっ子風情が!」
「またチビって言った。せっかく名前教えてあげたのに」
「余裕ぶちかましていられるのも今のうちだぞ」
目の前のサンの足を太い尻尾で捕まえると、スーシンはその状態のまま両手足を凍てつく地面に突き刺す。
「悪あがきも程々にしなよ」
「それはどうかな」
次の瞬間、急激に吹き出した黒い煙がサンを襲う。煙に巻かれたサンはすぐに崩れ落ちた。
「っぅ⁉︎ はぁっ……何を……」
息苦しさを覚えたサンは、肩を上下に動かして必死に呼吸をする。しかし吸えば吸うほど、身体が徐々に痺れていった。
「毒霧だ。オレは爪や尻尾で攻撃するだけのバカじゃない。こういう戦い方はオレらバルタの中ではかなり特殊だがな」
「ぐぅ……!」
スーシンは凍った大地を剥がしながら手足を引き抜くと、丸まって座り込むサンの腹部を蹴り上げる。転がるサンは、朦朧とする意識の中で地面からの黒煙が周囲に広がってゆくの確認した。
このままでは、戦っている他の面々にも毒が回ってしまう。
「はは、苦しいだろう。その様子じゃ、あと数分ってところか」
「しかた、ない……なぁ。このくらいのハンデがないと、はぁ、つまらないもんね」
「強がりも大概にしとけよ」
「ボクの新技っ……、特別に披露してあげるよ」
痺れる身体になんとか鞭を入れ天を指差すと、サンは大声を上げる。
「スノー・グローーブ!!」
氷の大地が激しく揺れだし、周りから透明な壁がそびえ立つ。そして、あっという間に巨大な球状のドームが完成した。
「は、ただ周りを囲っただけじゃねーか。毒霧が充満するだけだぜ」
「これでいいんだよ」
サンが小さく笑う。ドームの天井からは雪が降り注ぎ始め、黒煙をゆっくりと掻き消してゆく。
「な、にが起こって……」
「解毒作用を混ぜた雪さ。視界が遮られて邪魔なんだよね」
「バカだな。それで霧は消せてもお前の身体の毒は消えないだろう」
「げほっ、それはハンデって言ったでしょ」
「その状態でよく言えるぜ。
……すぐラクにしてやるよ!」
壁を蹴ったスーシンはサンを目掛けて突っ込む。サンは向かってくるのを確認しつつ、目を閉じた。
ズン。
瞬間、ドーム内に重厚感のある音が響く。透明な壁には赤黒い液体が飛び散った。
黒煙が完全に晴れて、中の様子が顕となる。
そこには、地面から突き出た無数の氷柱に手足と尻尾を捕られたスーシンの姿があった。折り重なる様に氷柱が絡み付いており、身動きがとれないでいる。
「くそッ……! ぐ、ァア!」
「動くともっと傷付くよぉ」
スーシンは何とか脱しようとするが、無理に動けば動くほど、棘のある氷柱は血で染まっていく。
「もう、仕方ないなぁ」
小さく溜息をつき、サンは重たい身体を何とか動かして氷柱の前へ立った。
「キミに死なれたら困るんだよね。だからおとなしくしててよ」
「オレはお前を殺して」
「ムリムリ。ボクを殺せるのはボクしかいないもの。
えーっと、なんだっけ。あ、そうだ。
……すぐラクにしてやるよ」
「それはオレの……、っ!」
緋色の目を光らせて冷たく笑う。
次の瞬間、サンの影から黒い手が伸び、スーシンの顔を覆った。始めは身体を傷付けながらも必死に振り払おうとしていたが、彼は操り糸が切れたようにパタリと動かなくなる。
「はぁ。なんか喋り疲れちゃった」
光を失い抜け殻のようになった相手を確認し、サンはその場に座り込む。ドームの天井からは、相変わらず雪が降り注いでいた。
「ちょっと汚れたオブジェになっちゃったけど、殺さないって約束は守ったんだからいいよね」
誰に言うわけでもなく、一人静かに笑う。その目は既にいつもの様子に戻っていた。
「さて、センパイが終わるまでボクは一眠りしようかな。キースさんの補助魔法、雪で使い切っちゃったし」
キースが背中を押した時に流れてきた温かさ。それは一度だけ効果を発揮する補助魔法だった。それをサンは毒霧を消すのに使ったため、自分の身体はボロボロのままだ。
そんな自分とスーシンの身体を泡で包み、サンはドーム内を水で満たしていく。水の浮力で、黒煙を包んだ大粒の雪がキラキラと輝きながらドーム内に充満した。
「思った通り、スノーグローブ、綺麗だなぁ」
サンは街で見た小さなスノーグローブを思い出す。小さな雪だるまの周りで光の粒が揺らめいているその様子に、一瞬で心奪われたのを覚えている。
あの時のような綺麗なオブジェを、自分は作れただろうか。
毒が巡り痺れる身体が、自然にドーム内を漂う。
星の海を眺めて満足そうに微笑んだサンは、流れに身を任せながら静かに目を閉じた。
サンは今、最初に顔を出したバルタ人と対峙していた。チビとは言うが、彼も他のバルタ人と比べると明らかに小柄だ。
「もしかして、自分より小さい人とあまり会ったことがないの? だからそんなに踏ん反り返ってボクをちびっ子呼ばわりしているんだね」
「ぐっ」
「あはは、図星なんだぁ。キミって本当分かりやすいねぇ」
笑うサンを前にした小柄なバルタ人は、両腕を振り下ろす。
しかしサンに何かが起こる気配はなかった。見ると、バルタ人の両腕が氷で覆われていた。
「なっ! いつの間に」
「キミのその爪ってすぐに再生するんだねぇ。しかも爪には毒の成分も含まれているみたいだ。体内で毒を作れるんだね。面白いなぁ、キミ」
「っ! なんでそれを」
目を見開くバルタ人を見て、サンは満面の笑みを浮かべた。
「あ、やっぱり毒なんだ。教えてくれてありがとう。助かったよ」
「お前……っ!」
「だってほら、キミの爪だけ色が黒いでしょ。だから何か仕掛けがあるんだろうなーと思ってさ」
バルタ人の顔が徐々に険しくなっていく。これだけ馬鹿にされたら怒るのも当然だ。
しかしサンは全く動じていなかった。寧ろ、彼の反応を楽しんでいるようだった。
「ねぇねぇ、ボクにはちびっ子じゃなくてサン・モルテって名前があるんだ。あ、今は陽太か。
それで、キミはなんていうの?」
首を傾けて可愛らしく言う。バルタ人との距離を徐々に詰めながら。
「お前、いい加減にしろよ」
「教えてくれないんだ。じゃあキミは黒爪くんでいいね」
「……その減らず口、今すぐ塞いでやるよ」
太い尻尾を軸にして、バルタ人は高速で回り始める。腕の氷も力任せに砕いた。
「オレはバルタ人先鋭部隊所属、シーナ四兄弟末っ子、スーシン! オレを罵ったこと、後悔しろ!」
言い終えると同時に無数の物体が弾丸のように飛んでくる。それをサンは再度氷の壁を作ることで防ぐが、全てを防ぎきる前に壁が破壊されてしまった。どうやら、回転の勢いも相まって、最初に防いだ時の攻撃よりも格段に威力が増しているらしい。
「へぇ、ただの単純バカではないみたいだね」
頬から流れる血を腕で拭き取り、サンはニヤリと笑う。緋色の目が鋭く光った。
「もっと楽しませてくれたらキミの名前覚えておいてあげるよ。ま、覚えている名前なんて今までないけどね」
そこまで言ったサンはパチンと指を鳴らす。サンの足元を中心にして急激に大地が凍りついていき、あっという間にスケートリンクのような氷の床が完成した。
高速回転をしていたスーシンは思わず体勢を崩す。
「くそっ、滑って思うように動けな……」
「まだボクは何も攻撃してないよ? ほら、遊んでないでかかってきなよ」
サンは四つん這いのスーシンの顔を覗くように屈むと、挑発するように言う。スーシンはかなり血が上っているようだ。
「コケにしやがって! ちびっ子風情が!」
「またチビって言った。せっかく名前教えてあげたのに」
「余裕ぶちかましていられるのも今のうちだぞ」
目の前のサンの足を太い尻尾で捕まえると、スーシンはその状態のまま両手足を凍てつく地面に突き刺す。
「悪あがきも程々にしなよ」
「それはどうかな」
次の瞬間、急激に吹き出した黒い煙がサンを襲う。煙に巻かれたサンはすぐに崩れ落ちた。
「っぅ⁉︎ はぁっ……何を……」
息苦しさを覚えたサンは、肩を上下に動かして必死に呼吸をする。しかし吸えば吸うほど、身体が徐々に痺れていった。
「毒霧だ。オレは爪や尻尾で攻撃するだけのバカじゃない。こういう戦い方はオレらバルタの中ではかなり特殊だがな」
「ぐぅ……!」
スーシンは凍った大地を剥がしながら手足を引き抜くと、丸まって座り込むサンの腹部を蹴り上げる。転がるサンは、朦朧とする意識の中で地面からの黒煙が周囲に広がってゆくの確認した。
このままでは、戦っている他の面々にも毒が回ってしまう。
「はは、苦しいだろう。その様子じゃ、あと数分ってところか」
「しかた、ない……なぁ。このくらいのハンデがないと、はぁ、つまらないもんね」
「強がりも大概にしとけよ」
「ボクの新技っ……、特別に披露してあげるよ」
痺れる身体になんとか鞭を入れ天を指差すと、サンは大声を上げる。
「スノー・グローーブ!!」
氷の大地が激しく揺れだし、周りから透明な壁がそびえ立つ。そして、あっという間に巨大な球状のドームが完成した。
「は、ただ周りを囲っただけじゃねーか。毒霧が充満するだけだぜ」
「これでいいんだよ」
サンが小さく笑う。ドームの天井からは雪が降り注ぎ始め、黒煙をゆっくりと掻き消してゆく。
「な、にが起こって……」
「解毒作用を混ぜた雪さ。視界が遮られて邪魔なんだよね」
「バカだな。それで霧は消せてもお前の身体の毒は消えないだろう」
「げほっ、それはハンデって言ったでしょ」
「その状態でよく言えるぜ。
……すぐラクにしてやるよ!」
壁を蹴ったスーシンはサンを目掛けて突っ込む。サンは向かってくるのを確認しつつ、目を閉じた。
ズン。
瞬間、ドーム内に重厚感のある音が響く。透明な壁には赤黒い液体が飛び散った。
黒煙が完全に晴れて、中の様子が顕となる。
そこには、地面から突き出た無数の氷柱に手足と尻尾を捕られたスーシンの姿があった。折り重なる様に氷柱が絡み付いており、身動きがとれないでいる。
「くそッ……! ぐ、ァア!」
「動くともっと傷付くよぉ」
スーシンは何とか脱しようとするが、無理に動けば動くほど、棘のある氷柱は血で染まっていく。
「もう、仕方ないなぁ」
小さく溜息をつき、サンは重たい身体を何とか動かして氷柱の前へ立った。
「キミに死なれたら困るんだよね。だからおとなしくしててよ」
「オレはお前を殺して」
「ムリムリ。ボクを殺せるのはボクしかいないもの。
えーっと、なんだっけ。あ、そうだ。
……すぐラクにしてやるよ」
「それはオレの……、っ!」
緋色の目を光らせて冷たく笑う。
次の瞬間、サンの影から黒い手が伸び、スーシンの顔を覆った。始めは身体を傷付けながらも必死に振り払おうとしていたが、彼は操り糸が切れたようにパタリと動かなくなる。
「はぁ。なんか喋り疲れちゃった」
光を失い抜け殻のようになった相手を確認し、サンはその場に座り込む。ドームの天井からは、相変わらず雪が降り注いでいた。
「ちょっと汚れたオブジェになっちゃったけど、殺さないって約束は守ったんだからいいよね」
誰に言うわけでもなく、一人静かに笑う。その目は既にいつもの様子に戻っていた。
「さて、センパイが終わるまでボクは一眠りしようかな。キースさんの補助魔法、雪で使い切っちゃったし」
キースが背中を押した時に流れてきた温かさ。それは一度だけ効果を発揮する補助魔法だった。それをサンは毒霧を消すのに使ったため、自分の身体はボロボロのままだ。
そんな自分とスーシンの身体を泡で包み、サンはドーム内を水で満たしていく。水の浮力で、黒煙を包んだ大粒の雪がキラキラと輝きながらドーム内に充満した。
「思った通り、スノーグローブ、綺麗だなぁ」
サンは街で見た小さなスノーグローブを思い出す。小さな雪だるまの周りで光の粒が揺らめいているその様子に、一瞬で心奪われたのを覚えている。
あの時のような綺麗なオブジェを、自分は作れただろうか。
毒が巡り痺れる身体が、自然にドーム内を漂う。
星の海を眺めて満足そうに微笑んだサンは、流れに身を任せながら静かに目を閉じた。
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