1 / 1
1話
しおりを挟む
「この先にぃ、吸血鬼の城があるそうなんですよ」
「吸血鬼だぁ?」
「こんなところに? 聞いたことないけど」
焚き火を囲んで話しているのは、この春から冒険者を始めたばかりの3人組だ。
パーティーのムードメーカーを務めるアーチャーのアリシア。
「最近、越してきたそうですよ。どこぞの勇者にボッコボコにされて逃げ出してきたとか。意外とザコかもしれません」
パーティの頭脳であるところのメイジのベアトリクスが、眉をひそめて言う。
「ザコって言っても吸血鬼でしょ? いくら弱い熊だって殴りっこしたら人間が負けるわよ」
パーティの壁担当、ソードマンのキャシーが、少し考えてから言った。
「思い出した。アタシも聞いたぜ。勇者に弱点を突っつかれまくって、なすすべもなく逃げ出したショボい吸血鬼の話」
我が意を得たりとばかりに鷹揚に頷いてから、アリシアは続ける。
「それです。どうです? あたしたちでそいつをぶっ殺すです」
「いやだからあ、私たち駆け出しよ?どんだけ弱くたって私たちよりは強いってば」
「でもよ、弱点を突ければ勝てるみたいじゃねえか」
「そんなに簡単なら吸血鬼がアンデッドの王と呼ばれることもないでしょう。十分に強いパーティが弱点を上手に突いて、初めて勝てる相手だと思うのだけれど」
「そんなのやってみなきゃわからないだろ」
「やってみてダメだったら私たち全滅よ? 死ぬわよ?
ううん、死ぬだけならまだマシかもね。
安らかな眠りすら許されない闇の眷属に落とされるかもしれないわよ?」
「ん……うーん」
「ふふふ」
二人が静かになるのを見計らっていたのか、精一杯に不敵な笑いを漏らして雰囲気を作りながらアリシアは言う。
「あたしは吸血鬼の弱点をいっぱい知ってるです。十分に勝ち目はあると思うです」
「……たとえば?」
しばし、だまってキャシーと見つめ合ったのちに、ベアトリクスは言葉を発した。
「よくぞ聞いてくれたです! まず――」
アリシア曰く。
○吸血鬼は水に弱い
「吸血鬼はカナヅチなんです!流れる水を飛んで渡ることもできないんです。海や川に突き落としてやれば一発です!」
「おまえ、よくそんなえげつないこと考えるな。てか、このへんどっちもなくないか」
「そうよね。あったとしても、どうやって川までおびき出すの?本人だって弱点であることは重々承知でしょ」
「……えっと、ベアちゃん、魔法で川を出せないです?」
「出せるか!」
○吸血鬼は太陽に弱い
「吸血鬼は朝に弱いんです。太陽の光を浴びると灰になります!」
「でもよ、そのために吸血鬼ってごつい城の奥に籠もって寝てるんだろ?」
「警備のスケルトンもいっぱいいるでしょうね。突入は無理よ」
「城ごとぶっ壊すってんなら可能かもな。ベア子、おまえの魔法――」
「大理石の床でもあれば、嫌がらせに焦げ目付けたり傷つけたりはいけるかも」
「ビミョーに嫌だなそれ」
○吸血鬼は心臓に杭を打たれると死ぬ
「それアタシも死ぬわ」
「私も」
「やった! つまり、大勝利確実じゃないですか!」
「問題は、どうやってそんな超接近戦で勝つかよね」
○吸血鬼はニンニクに弱い
『で?』
「な、なんですか二人で。あ、ベアちゃん」
「悪臭を発する魔法なんてないわよ!!」
○吸血鬼は十字架に弱い
「それアタシも知ってる。有名だよな」
「そのへんの木で作って持って行くですよ」
「あのね、あれは十字架そのものが怖いわけじゃなくて、それを振るうものの信仰心が怖いのよ。要するに聖職者のバックにいる神様を恐れているの。あんたたち、そんな敬虔な信徒だっけ?」
「日曜の礼拝はいつも寝坊して行ってなかったな」
「あたしは、朝の映像水晶を見てました」
「これもボツね」
「あ!ベアちゃん、信仰心を上げる魔法を」
「それ洗脳でしょ!」
○吸血鬼は鏡に映らない
「身だしなみとかどうやって整えてるのかしらね」
「吸血鬼ってオシャレなイメージあるよな。どうやってんだろ」
「現れたらベアちゃんの魔法でヤツの髪の毛をぐっちゃぐちゃにしてやったっらどうでしょう? きっと、気になって戦えなくて、髪を整えたくても鏡で確認できなくて、戦闘力がた落ちです」
「あのさあ、さっきから私に無茶振りばっかりしてない?」
○吸血鬼は招待されないと初めての家には入れない
「これですよ、これが最後の武器です! いいですか? 善戦及ばず撤退することになっても、ヤツの知らないおうちに入ってしまえばそこは安全地帯です。
「その『知らないおうち』はどこにあるわけ?」
「そういやそうだな。吸血鬼の城の近くに民家があるか?」
「フフン、甘いです。城の入り口の前にテントを張っておきましょう。即座に逃げ込めて安心です」
「入れないのは吸血鬼だけで、手下のスケルトンは入れるんじゃないかしら」
「城の真ん前だもんなぁ。骨いっぱいだろうな」
「べ、ベアちゃんの魔法で一夜城を作るです!」
「だぁかぁらぁ! 魔法をなんだと思ってんのあんたは!」
ぱちぱちぱちぱち。焚き火の薪がはぜる。
「お、煮えたぞ」
「わぁい、薬膳粥です!栄養のある草ばっかりです!」
「あのうさぎを仕留められてれば、そんなお坊さんみたいな晩ご飯を食べずに済んだのにね」
「あ、アレは、キャシーが追い立てる方向を間違ったから矢が外れたんですぅ!」
「アタシかよ。てか、ベア子がスリープでもかけておけばよかったんだよ」
「あのねぇ、うさぎまでどれだけ距離があったと思ってんのかな」
「ハフハフうまうま」
「またあんたは一人で先に」
そうして、駆け出しどもの夜は更けていくのだ。
「そだ、もう一つ思い出した。ポマードって聞くと半狂乱になるらしいです!」
「ああ、はいはい。そのあと、100mを4秒で走って追ってくるんでしょ?」
「なんだよそれこわ」
「吸血鬼だぁ?」
「こんなところに? 聞いたことないけど」
焚き火を囲んで話しているのは、この春から冒険者を始めたばかりの3人組だ。
パーティーのムードメーカーを務めるアーチャーのアリシア。
「最近、越してきたそうですよ。どこぞの勇者にボッコボコにされて逃げ出してきたとか。意外とザコかもしれません」
パーティの頭脳であるところのメイジのベアトリクスが、眉をひそめて言う。
「ザコって言っても吸血鬼でしょ? いくら弱い熊だって殴りっこしたら人間が負けるわよ」
パーティの壁担当、ソードマンのキャシーが、少し考えてから言った。
「思い出した。アタシも聞いたぜ。勇者に弱点を突っつかれまくって、なすすべもなく逃げ出したショボい吸血鬼の話」
我が意を得たりとばかりに鷹揚に頷いてから、アリシアは続ける。
「それです。どうです? あたしたちでそいつをぶっ殺すです」
「いやだからあ、私たち駆け出しよ?どんだけ弱くたって私たちよりは強いってば」
「でもよ、弱点を突ければ勝てるみたいじゃねえか」
「そんなに簡単なら吸血鬼がアンデッドの王と呼ばれることもないでしょう。十分に強いパーティが弱点を上手に突いて、初めて勝てる相手だと思うのだけれど」
「そんなのやってみなきゃわからないだろ」
「やってみてダメだったら私たち全滅よ? 死ぬわよ?
ううん、死ぬだけならまだマシかもね。
安らかな眠りすら許されない闇の眷属に落とされるかもしれないわよ?」
「ん……うーん」
「ふふふ」
二人が静かになるのを見計らっていたのか、精一杯に不敵な笑いを漏らして雰囲気を作りながらアリシアは言う。
「あたしは吸血鬼の弱点をいっぱい知ってるです。十分に勝ち目はあると思うです」
「……たとえば?」
しばし、だまってキャシーと見つめ合ったのちに、ベアトリクスは言葉を発した。
「よくぞ聞いてくれたです! まず――」
アリシア曰く。
○吸血鬼は水に弱い
「吸血鬼はカナヅチなんです!流れる水を飛んで渡ることもできないんです。海や川に突き落としてやれば一発です!」
「おまえ、よくそんなえげつないこと考えるな。てか、このへんどっちもなくないか」
「そうよね。あったとしても、どうやって川までおびき出すの?本人だって弱点であることは重々承知でしょ」
「……えっと、ベアちゃん、魔法で川を出せないです?」
「出せるか!」
○吸血鬼は太陽に弱い
「吸血鬼は朝に弱いんです。太陽の光を浴びると灰になります!」
「でもよ、そのために吸血鬼ってごつい城の奥に籠もって寝てるんだろ?」
「警備のスケルトンもいっぱいいるでしょうね。突入は無理よ」
「城ごとぶっ壊すってんなら可能かもな。ベア子、おまえの魔法――」
「大理石の床でもあれば、嫌がらせに焦げ目付けたり傷つけたりはいけるかも」
「ビミョーに嫌だなそれ」
○吸血鬼は心臓に杭を打たれると死ぬ
「それアタシも死ぬわ」
「私も」
「やった! つまり、大勝利確実じゃないですか!」
「問題は、どうやってそんな超接近戦で勝つかよね」
○吸血鬼はニンニクに弱い
『で?』
「な、なんですか二人で。あ、ベアちゃん」
「悪臭を発する魔法なんてないわよ!!」
○吸血鬼は十字架に弱い
「それアタシも知ってる。有名だよな」
「そのへんの木で作って持って行くですよ」
「あのね、あれは十字架そのものが怖いわけじゃなくて、それを振るうものの信仰心が怖いのよ。要するに聖職者のバックにいる神様を恐れているの。あんたたち、そんな敬虔な信徒だっけ?」
「日曜の礼拝はいつも寝坊して行ってなかったな」
「あたしは、朝の映像水晶を見てました」
「これもボツね」
「あ!ベアちゃん、信仰心を上げる魔法を」
「それ洗脳でしょ!」
○吸血鬼は鏡に映らない
「身だしなみとかどうやって整えてるのかしらね」
「吸血鬼ってオシャレなイメージあるよな。どうやってんだろ」
「現れたらベアちゃんの魔法でヤツの髪の毛をぐっちゃぐちゃにしてやったっらどうでしょう? きっと、気になって戦えなくて、髪を整えたくても鏡で確認できなくて、戦闘力がた落ちです」
「あのさあ、さっきから私に無茶振りばっかりしてない?」
○吸血鬼は招待されないと初めての家には入れない
「これですよ、これが最後の武器です! いいですか? 善戦及ばず撤退することになっても、ヤツの知らないおうちに入ってしまえばそこは安全地帯です。
「その『知らないおうち』はどこにあるわけ?」
「そういやそうだな。吸血鬼の城の近くに民家があるか?」
「フフン、甘いです。城の入り口の前にテントを張っておきましょう。即座に逃げ込めて安心です」
「入れないのは吸血鬼だけで、手下のスケルトンは入れるんじゃないかしら」
「城の真ん前だもんなぁ。骨いっぱいだろうな」
「べ、ベアちゃんの魔法で一夜城を作るです!」
「だぁかぁらぁ! 魔法をなんだと思ってんのあんたは!」
ぱちぱちぱちぱち。焚き火の薪がはぜる。
「お、煮えたぞ」
「わぁい、薬膳粥です!栄養のある草ばっかりです!」
「あのうさぎを仕留められてれば、そんなお坊さんみたいな晩ご飯を食べずに済んだのにね」
「あ、アレは、キャシーが追い立てる方向を間違ったから矢が外れたんですぅ!」
「アタシかよ。てか、ベア子がスリープでもかけておけばよかったんだよ」
「あのねぇ、うさぎまでどれだけ距離があったと思ってんのかな」
「ハフハフうまうま」
「またあんたは一人で先に」
そうして、駆け出しどもの夜は更けていくのだ。
「そだ、もう一つ思い出した。ポマードって聞くと半狂乱になるらしいです!」
「ああ、はいはい。そのあと、100mを4秒で走って追ってくるんでしょ?」
「なんだよそれこわ」
0
お気に入りに追加
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。
アーエル
ファンタジー
旧題:私は『聖女ではない』ですか。そうですか。帰ることも出来ませんか。じゃあ『勝手にする』ので放っといて下さい。
【 聖女?そんなもん知るか。報復?復讐?しますよ。当たり前でしょう?当然の権利です! 】
地震を知らせるアラームがなると同時に知らない世界の床に座り込んでいた。
同じ状況の少女と共に。
そして現れた『オレ様』な青年が、この国の第二王子!?
怯える少女と睨みつける私。
オレ様王子は少女を『聖女』として選び、私の存在を拒否して城から追い出した。
だったら『勝手にする』から放っておいて!
同時公開
☆カクヨム さん
✻アルファポリスさんにて書籍化されました🎉
タイトルは【 私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください 】です。
そして番外編もはじめました。
相変わらず不定期です。
皆さんのおかげです。
本当にありがとうございます🙇💕
これからもよろしくお願いします。
レディース異世界満喫禄
日の丸
ファンタジー
〇城県のレディース輝夜の総長篠原連は18才で死んでしまう。
その死に方があまりな死に方だったので運命神の1人に異世界におくられることに。
その世界で出会う仲間と様々な体験をたのしむ!!
【完結】異世界で小料理屋さんを自由気ままに営業する〜おっかなびっくり魔物ジビエ料理の数々〜
櫛田こころ
ファンタジー
料理人の人生を絶たれた。
和食料理人である女性の秋吉宏香(あきよしひろか)は、ひき逃げ事故に遭ったのだ。
命には関わらなかったが、生き甲斐となっていた料理人にとって大事な利き腕の神経が切れてしまい、不随までの重傷を負う。
さすがに勤め先を続けるわけにもいかず、辞めて公園で途方に暮れていると……女神に請われ、異世界転移をすることに。
腕の障害をリセットされたため、新たな料理人としての人生をスタートさせようとした時に、尾が二又に別れた猫が……ジビエに似た魔物を狩っていたところに遭遇。
料理人としての再スタートの機会を得た女性と、猟りの腕前はプロ級の猫又ぽい魔物との飯テロスローライフが始まる!!
おっかなびっくり料理の小料理屋さんの料理を召し上がれ?
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
美しくも残酷な世界に花嫁(仮)として召喚されたようです~酒好きアラサーは食糧難の世界で庭を育てて煩悩のままに生活する
くみたろう
ファンタジー
いつもと変わらない日常が一変するのをただの会社員である芽依はその身をもって知った。
世界が違った、価値観が違った、常識が違った、何もかもが違った。
意味がわからなかったが悲観はしなかった。
花嫁だと言われ、その甘い香りが人外者を狂わすと言われても、芽依の周りは優しさに包まれている。
そばに居るのは巨大な蟻で、いつも優しく格好良く守ってくれる。
奴隷となった大好きな二人は本心から芽依を愛して側にいてくれる。
麗しい領主やその周りの人外者達も、話を聞いてくれる。
周りは酷く残酷な世界だけれども、芽依はたまにセクハラをして齧りつきながら穏やかに心を育み生きていく。
それはこの美しく清廉で、残酷でいておぞましい御伽噺の世界の中でも慈しみ育む人外者達や異世界の人間が芽依を育て守ってくれる。
お互いの常識や考えを擦り合わせ歩み寄り、等価交換を基盤とした世界の中で、優しさを育てて自分の居場所作りに励む。
全ては幸せな気持ちで大好きなお酒を飲む為であり、素敵な酒のつまみを開発する日々を送るためだ。
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
美少女に転生して料理して生きてくことになりました。
ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。
飲めないお酒を飲んでぶったおれた。
気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。
その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる