8 / 11
寄ると切れる日本刀
2-3.end
しおりを挟む
数週間後。七生古道具店。
「で、その後、あの刀はどうなったんじゃ?」
いつものように奈菜と天子がカウンターを挟んで雑談に励んでいた。話題はあの刀のことだ。
「刀を持ってきたお客さんに、食材しか切られないことを話したら、心当たりがあるって言うんだよね」
その客が言うには、持ち主である祖父は若い頃に料理人になることを夢見ていた。彼が高校を卒業し料理人の学校へと進もうとしたとき、彼の父親が体を崩した。彼の家は代々店をやっていて、その時は彼の父親が経営していたのだが、彼が店を継がなければいけなくなった。
当然彼は自分にはやりたいことがあると反論したのだが、時代が時代で、家が家だったので彼の思う通りというわけにはいかなかったようだ。彼は料理人の夢をあきらめることになった。
あの刀はその一部始終を聞いていた。更に彼は時折その刀のある部屋で夢をあきらめたことを悔いていたそうだ。
そして現在。高齢になった彼は後継者に後を託し、自由な時間を手に入れた。それからは彼の夢であった料理人とはいかないが、あちらこちらで道具や食材を集め、自宅で料理をし家族にふるまうのが彼の趣味となった。
それからだ。あの刀の周りで物が切れる現象が起き始めたのは。
「刀は思ったんだろうね。一度はあきらめた夢を今、形にしようとしている彼を応援したいと」
「なるほどなあ」
「つまり、君の見立て通りだったってことだよ。あの刀は……」
「『包丁』として使われたがっていた。じゃな」
物を切るために生まれた刀。なんとか彼の料理に協力したいと思った刀は、言葉がしゃべれないながらもなんとか意志を伝えるために、近寄る食材ばかりを切り刻んだ。
結果は危険に思われて処分されかけてしまったのだが。
「ま、うちに持ち込んでくれたおかげで、君に見てもらえて気付けたわけだけどね」
「それでその刀はどうしたんじゃ。ここにはないようじゃが」
「持ち主に返したよ。包丁になりたがっていることを説明したら意外とすんなり受け入れられてね。知り合いの鍛冶師に頼んで包丁に打ち直してもらったんだって。それで使い始めたらもう怪現象はパッタリ」
「なるほどな。案外その祖父さんとやらも、あの刀の意志に気付いておったのかもしれん。長く共にいるとその辺通じるものがあるからな」
「そういうもんか。……、もしかして君って私が持っていく物もこうやって解決してるの?」
「そうじゃよ。まさかビームでも出して憑いている幽霊をやっつけてるとでも思っておったか?」
「うん」
真顔で答える奈菜。天子は力が抜けて椅子から落ちかけた。
「あのなあ……。ま、悪霊かそれに近しい物であれば強引な手段を取らざるを得ん場合もあるがな。大抵ものはちゃんと怪異を起こしている理由を突き止めて、あるべき形に返してやれば鎮まる。それが一番いいんじゃよ」
いつになく真面目な顔で語る天子。その表情は奈菜のあまり見たことないものだったので、何となく戸惑った。
「そ、そっか。……。あ!そのお祖父さんからお料理が届いてるよ。あの刀……、包丁で作った料理だってさ」
奈菜が後ろの机からカウンターに移動させたお皿には、煮物や刺身などの料理が並べられている。
「おお。これは美味しそうじゃな。早速いただくとするか。食べるついでに祖父さんと刀の第二の人生に幸多からんことを祈ろう」
「また美味しい料理にありつけることも?」
「それもある」
「で、その後、あの刀はどうなったんじゃ?」
いつものように奈菜と天子がカウンターを挟んで雑談に励んでいた。話題はあの刀のことだ。
「刀を持ってきたお客さんに、食材しか切られないことを話したら、心当たりがあるって言うんだよね」
その客が言うには、持ち主である祖父は若い頃に料理人になることを夢見ていた。彼が高校を卒業し料理人の学校へと進もうとしたとき、彼の父親が体を崩した。彼の家は代々店をやっていて、その時は彼の父親が経営していたのだが、彼が店を継がなければいけなくなった。
当然彼は自分にはやりたいことがあると反論したのだが、時代が時代で、家が家だったので彼の思う通りというわけにはいかなかったようだ。彼は料理人の夢をあきらめることになった。
あの刀はその一部始終を聞いていた。更に彼は時折その刀のある部屋で夢をあきらめたことを悔いていたそうだ。
そして現在。高齢になった彼は後継者に後を託し、自由な時間を手に入れた。それからは彼の夢であった料理人とはいかないが、あちらこちらで道具や食材を集め、自宅で料理をし家族にふるまうのが彼の趣味となった。
それからだ。あの刀の周りで物が切れる現象が起き始めたのは。
「刀は思ったんだろうね。一度はあきらめた夢を今、形にしようとしている彼を応援したいと」
「なるほどなあ」
「つまり、君の見立て通りだったってことだよ。あの刀は……」
「『包丁』として使われたがっていた。じゃな」
物を切るために生まれた刀。なんとか彼の料理に協力したいと思った刀は、言葉がしゃべれないながらもなんとか意志を伝えるために、近寄る食材ばかりを切り刻んだ。
結果は危険に思われて処分されかけてしまったのだが。
「ま、うちに持ち込んでくれたおかげで、君に見てもらえて気付けたわけだけどね」
「それでその刀はどうしたんじゃ。ここにはないようじゃが」
「持ち主に返したよ。包丁になりたがっていることを説明したら意外とすんなり受け入れられてね。知り合いの鍛冶師に頼んで包丁に打ち直してもらったんだって。それで使い始めたらもう怪現象はパッタリ」
「なるほどな。案外その祖父さんとやらも、あの刀の意志に気付いておったのかもしれん。長く共にいるとその辺通じるものがあるからな」
「そういうもんか。……、もしかして君って私が持っていく物もこうやって解決してるの?」
「そうじゃよ。まさかビームでも出して憑いている幽霊をやっつけてるとでも思っておったか?」
「うん」
真顔で答える奈菜。天子は力が抜けて椅子から落ちかけた。
「あのなあ……。ま、悪霊かそれに近しい物であれば強引な手段を取らざるを得ん場合もあるがな。大抵ものはちゃんと怪異を起こしている理由を突き止めて、あるべき形に返してやれば鎮まる。それが一番いいんじゃよ」
いつになく真面目な顔で語る天子。その表情は奈菜のあまり見たことないものだったので、何となく戸惑った。
「そ、そっか。……。あ!そのお祖父さんからお料理が届いてるよ。あの刀……、包丁で作った料理だってさ」
奈菜が後ろの机からカウンターに移動させたお皿には、煮物や刺身などの料理が並べられている。
「おお。これは美味しそうじゃな。早速いただくとするか。食べるついでに祖父さんと刀の第二の人生に幸多からんことを祈ろう」
「また美味しい料理にありつけることも?」
「それもある」
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
黒龍の神嫁は溺愛から逃げられない
めがねあざらし
BL
「神嫁は……お前です」
村の神嫁選びで神託が告げたのは、美しい娘ではなく青年・長(なが)だった。
戸惑いながらも黒龍の神・橡(つるばみ)に嫁ぐことになった長は、神域で不思議な日々を過ごしていく。
穏やかな橡との生活に次第に心を許し始める長だったが、ある日を境に彼の姿が消えてしまう――。
夢の中で響く声と、失われた記憶が導く、神と人の恋の物語。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
びわ湖でイケメン男子を拾ったら、まさかの九尾の狐様でしたっ!!
碧桜
キャラ文芸
落ち込んだ気分を癒やそうと、夕日の綺麗な琵琶湖にやって来たら、まさに入水?しようとするイケメン男子がいて!?とにかく自宅へ連れて帰ったら、なんと平安時代から眠らされていた九尾の狐様だった!
急に始まった自由すぎる九尾の狐様との同棲生活は、いろいろと刺激的!
でも、彼には平安時代に愛した姫の姿を、千年の眠りから覚めた今もなお探し求め続けるという切ない恋をしていた。そこへ私の高校時代の先輩がなんと蘆屋道満の末裔で、妖である九尾を封印しようとしていて、また過去に封印した安倍晴明の孫の生まれ変わりまで出てきて、急に私の周囲がややこしいことに。九尾の狐様の愛した姫の魂はまだこの世にあり、再会?出来たのだけど、じつは彼が千年の眠りについた原因は彼女の願いだった。
いったいこの先、私と九尾の狐様はどうなるの!?ラブコメ✕あやかし✕ちょっぴり切ない恋のお話スタートです!
下っ端妃は逃げ出したい
都茉莉
キャラ文芸
新皇帝の即位、それは妃狩りの始まりーー
庶民がそれを逃れるすべなど、さっさと結婚してしまう以外なく、出遅れた少女は後宮で下っ端妃として過ごすことになる。
そんな鈍臭い妃の一人たる私は、偶然後宮から逃げ出す手がかりを発見する。その手がかりは府庫にあるらしいと知って、調べること数日。脱走用と思われる地図を発見した。
しかし、気が緩んだのか、年下の少女に見つかってしまう。そして、少女を見張るために共に過ごすことになったのだが、この少女、何か隠し事があるようで……
ハピネスカット-葵-
えんびあゆ
キャラ文芸
美容室「ハピネスカット」を舞台に、人々を幸せにするためのカットを得意とする美容師・藤井葵が、訪れるお客様の髪を切りながら心に寄り添い、悩みを解消し新しい一歩を踏み出す手助けをしていく物語。
お客様の個性を大切にしたカットは単なる外見の変化にとどまらず、心の内側にも変化をもたらします。
人生の分岐点に立つ若者、再出発を誓う大人、悩める親子...多様な人々の物語が、葵の手を通じてつながっていく群像劇。
時に笑い、たまに泣いて、稀に怒ったり。
髪を切るその瞬間に、人が持つ新しい自分への期待や勇気を紡ぐ心温まるストーリー。
―――新しい髪型、新しい物語。葵が紡ぐ、幸せのカットはまだまだ続く。
『相思相愛ADと目指せミリオネラに突如出演の激闘20日間!ウクライナ、ソマリア、メキシコ、LA大激戦!なっちゃん恋愛小説シリーズ第3弾!』
あらお☆ひろ
キャラ文芸
「なつ&陽菜コンビ」にニコニコ商店街・ニコニコプロレスのメンバーが再集結の第3弾!
もちろん、「なっちゃん」の恋愛小説シリーズ第3弾!
今度こそは「ハッピーエンド」!?
はい、「ハッピーエンド」です(※あー、言いきっちゃった(笑)!)!
もちろん、稀世・三郎夫婦に直とまりあ。もちろん夏子&陽菜のコンビも健在。
今作も主人公も「夏子」!
今回の敵は「ウクライナのロシア軍」、「ソマリアの海賊」、「メキシカン・マフィア」と難敵ぞろい。
アメリカの人気テレビ番組「目指せ!ミリオネラ!」にチャレンジすることになってしまった夏子と陽菜は稀世・直・舩阪・羽藤たちの協力を得て次々と「難題」にチャレンジ!
「ウクライナ」では「傭兵」としてロシア軍の情報・指令車の鹵獲に挑戦。
「ソマリア」では「海賊退治」に加えて「クロマグロ」を求めてはえ縄漁へ。
「メキシコ・トルカ」ではマフィア相手に誘拐された人たちの解放する「ネゴシエーター」をすることに。
もちろん最後はドンパチ!
夏子の今度の「恋」の相手は、なぜか夏子に一目ぼれしたサウジアラビア生まれのイケメンアメリカ人アシスタントディレクター!
シリーズ完結作として、「ハッピーエンド」なんでよろしくお願いしまーす!
(⋈◍>◡<◍)。✧♡
サイキックな隠密諜報員見習いの日常
はれのいち
キャラ文芸
特殊能力を持つ主人公、国守祭喜(クニモリ サイキ)
高校一年生。
両親がいないサイキは、孤児院で育ち、天涯孤独で心の奥底で親の愛を求めて生きていく……なんて微塵もない男。
超楽観的で能天気なサイキは、極秘孤児院でも美女の職員に囲まれ楽しく育つ。
そんなとある日に諜報員が訪れ特殊な能力があるサイキに目をつけ諜報部養成施設で教育を受けさせる。そこで夏野と古湖に出会う。
諜報員の試験を受けるが不合格になり落ちこぼれ、サイキ達は国の指定する高校へ進学する事となる。
高校に通いながら、国の隠密諜報員の見習いとして細かな雑用任務を遂行する事となったサイキと仲間の日常の物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる