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第104話 モシュカの街。

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 こういうシチュエーションで焦ったり緊張しなくなってきたのは、これまでの異世界生活のおかげだと思う。以前のぼくならばパニックになっているか、速攻で逃避していただろう。現実逃避ではなく物理的に逃げるやつね。

「そこの椅子に座ってちょっと待ってて。」

 自分で座るというより、両脇に居る兵士さんが半ば強引に椅子に連れて行き座らせる感じだ。そんなことしなくとも、僕は素直に座りますよ。障壁での外殻強化を下手にしていなくてよかったよ。あれは見た目にくらべてけっこうな力が出るからね。怪しさの二乗になるところだった。

 サルハの街の冒険者ギルドの取り調べ以来の久々の取り調べだ。両脇には兵士さん、正面には特に装備などを付けていない文官っぽい方は来て座っている。先ほどの話し方も丁寧とまではいわないけれど、なんというか敵対心とか猜疑心に凝り固まったものではなさそうだ。やはりこの異世界は僕に優しいのかもしれないな。

「まず持ち物を調べさせてもらうよ。着ている服とあと持ち物はその革鞄だけかな?」

「はい。そうです。」

 そう答えながら、鞄の中に手を入れスマホとブラックボックスをインベントリに収納する。鞄の中に残るのは小銭入れと冒険者証のみ。ちょっと少なすぎるかも知れないので、ファガ王国の王様からもらった金のメダルをインベントリから出して入れておいた。

 両脇の兵士さんのひとりから、鞄を机の上に置くように指示され、もう一人の兵士さんからはボディチェックを受けた。何も持っていないから余裕ですよ。

「君は冒険者なのに、冒険者装備は何も身に着けていないんだね。」

「あ、はい。魔法使いなので。」

 文官さんが『ほほう』と感心したような顔をする。

「魔法使いのソロとは珍しいな。ファガ王国では一般的なのかな?」

 兵士さんから僕の鞄を受け取りながら、文官さんはそう質問するけれども正直知りません。一般的な冒険者活動をまだしていないので・・・。

「まだ冒険者登録してから間もないので、正直言いましてファガ王国での冒険者がどのようにパーティーを組んでいるのかも詳しくはありません。」

 ものすごく全うな返しをする。でも文官さんはあまり聞いていないようで、僕の鞄の中身を順に出して机の上に並べ始めた。

「冒険査証、財布と・・・・ん?これは・・・。」

 メダルですね。なんか文官さんがひとりの兵士さんに耳打ちしている。あ、兵士さんが仮称取調室から出て行った。

「そ、そのアタールさんは、何の用で我が国に?そしてなぜ関所の検問で通関証のコインを受け取っていなかったのですか?」

 あ、なんか言葉が丁寧になった。透明になったとか空を飛んできたとかは流石に言えないので、関所の存在を知らなかったというシナリオを書いてみようか・・・。

「あのですね・・・ファガ王国側からは街道ではなく、原野を歩いてのんびり旅してたのです。それで関所に気づかずというか、遠回りするのが面倒で・・・。西に向かってそのまま歩いていて、この街を見つけたもので・・・。」

「おひとりで?」

「はい。ひとりです。」

「・・・この鞄一つ持ってですか?」

 うっ、確かに旅人の持つ荷物にしては少ないというか、少なすぎる。なにせ必需品ともいえる食糧も水も持ってないものな。でも魔法使いだから・・・。だめ?

「み、水は魔法で出せますからね。食べ物や寝床は、冒険者ですから途中で狩りをしながら・・・・」

「おい、ここにファガ国王の客人がいるというのは本当か。」

 なんかすごい勢いで、ものすごく豪華な鎧を身に着けた方が飛び込んできた。ファガ王国の客人というのは僕の事ですよね。メダル持ってるもん。もしかしたらメダルひとつでいろいろ誤魔化せるかもしれないという僕の試みは成功するのかもしれない。

「はっ、サー・グディモフ。こちらの方がそうです。」

 文官さんが立ち上がって敬礼している。サーということは地球風に言うと騎士爵だろうか。

「こんなところでは失礼だ。そうだな・・・代官屋敷の応接を用意せよ。」

 ん?そんな大げさな応対は必要ないですよ、サー・グディモフさん。

「ささ、こちらへ・・・えっと・・・。」

「アタールです。」

「そうですか、アタール様、僕についてきてください。」

 ん?フルメイルだからわからないけど、もしかして若い方なのかな。しかも様付け・・・。とにかく言われるがまま、サー・グディモフさんの後を追う。僕だけでなく兵士さんや文官さんも後に続いているのはなぜだろうか。あ、文官さんが僕の荷物を持ってくれているのか。ありがとうございます。

 徒歩5分ほど。文官さんから鞄を受け取り、執事さんのような方から代官屋敷と紹介された建物の応接室に通される。本来ならば不法入国者のはずの僕の扱いは、ファガ王国の国王様からいただいた・・・いた賜ったメダルのおかげですこぶる良い。応接室でお茶を出され数分待ったところで、サー・グディモフさんらしき方ともうひとりシュッとしたというか、武人っぽいオッサンが入ってきた。

 サー・グディモフさんらしきというのは、その声でわかった。今はフルメイルではなく、普通の貴族服っぽい服を着ている。そしておそらく若い。まだ20歳くらいではないだろうか。

「父上、こちらがファガ王国の客人で、アタール様と申されます。」

「ほほう、大叔父の客人ならば大いにもてなさねばならんな。しかしその前に、詰め所で取った調書も見せてもらうぞ。なにやら関所を通らず我が国に来たというではないか。」

 さすがにこのままお目こぼしはないのか。というか、ここでも国王様は大叔父って呼ばれてるんだね。もう親戚だらけだよ。

「アタール・タカムーラと申します。初めまして。」

「うむ、ワシはアレン・グディモフという。サムワ王国では爵位、それも辺境伯を賜っておるが、今日は息子のヘイゼルとともにたまたまこのモシュカの街に滞在しておったら、大叔父の客人が不法に入国しようとしておると聞いてな。国交問題にならんように、ワシが出張ってきたというわけだ。さて、少し話を聞こうかの。」

 ここは後で早馬とかファガ王国側に走らせる可能性も考えて、ジャーパン皇国からの巻き込まれ転移の件から、ファガ王国国王様に知り合った件まで、かなり端折って話してみた。初期の設定だ。結界守の村の話はできても、結界の魔道具に関してはおそらく国家機密なのでかなり濁している。ただ、『公爵様に魔法使いとして気に入られた』程度にしておいた。アレンさんも辺境伯になるくらいなら、ある程度は察してくれるだろう。

「さて、どうするかの。こういう場合は国外追放かのぉ。どうだヘイゼル。」

「はい。通常ならばこのまま牢獄に入れ、然るべきのちに死罪か奴隷落ちなのですが、ファガ王国国王の客人ともなれば、国際問題にもなりかねませんので、国外追放が無難かと。」

 ええええ、ぜんぜん僕に優しくなかったよ。着て初日に国外追放・・・やはり最初に転移で逃亡しておいた方が良かった。あまりに楽観的過ぎた。でも、ふたりとも厳しい表情はしてないんだよなぁ。なんかニヤニヤしてるんだよね。

「ところでアタール君、ワシは最近タカムーラという名を聞いたことがある。ファガ王国から来る商人や、わが領からファガ王国の王都に行って帰って来た役人などの噂でな。」

 車か、車の事か。アート様のせいで、国際的に噂が広まっちゃってるよ・・・。
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