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第87話 逆転移。

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 見物人が集まってくる前に、安全運転を心掛けながらスベトーラ地区に向かう。果たしてエレナはスベトラと出かけてしまっているのだろうか。本当は止まってかけるべきだけどここは速度を落として早速電話かけてみる。お、すぐに出た。

「もしもし、エレナ?」

「はい。今ちょうど家でスベトラさんとお茶飲んでたところでした。電話には気づかれないように出ましたから大丈夫ですよ。」

 あ、そうか。電話もまだ秘密だったよな・・・。

「ありがとうエレナ。もう帰ってきたから、今から家に向かいます。ひとりお客さんがいるからお茶の用意でもしておいてくれますか。」

「アタールさん、わかりました~。」

 うむうむ。いい子だ。でもやはりスベトラとは仲良しのようだな。やはり花より団子仲間だろうか。

「アタールとエレナは分かったけど、あとは何話しているのか全然わからないわ。」

 あ、そうか。着いたら<トランスレート>を茜さんにかけないとな。

「すみません気が回らなくて。着いたらすぐに言葉が分かるようにしますから。それも魔法でできますから。」

 さて、猫耳と尻尾の付いた女の子を見たら茜さんはどんな反応するだろうか。というか、街の人たちの注目する目線が痛い・・・。不精せずにやはり歩いて来ればよかったかな。でも僕と茜さんのこの衣装では目立ちすぎるからさすがに街は歩けないよね。僕はいいとして、茜さんの派手なジャージは絶対ダメでしょう・・・。だから視線怖いって・・・。

「ただいま~。」

 乗りつけた車の窓から玄関先で出迎えてくれていたエレナとスベトラに挨拶する。スベトラはインベントリのこと知ってるから、ここで車収納してもいいんだけど、他の住民たちが門扉から覗いてるから今回は放置かな。とりあえず家に入ってエレナたちに茜さんを紹介しよう。いや、茜さんにエレナたちを紹介か。

「おかえりなさい、早かったですね~。」

 なんだその語尾を伸ばす話し方は・・・。まあ可愛いからいいか。いつもはここで突っ込んできそうな茜さんが静かだ・・・あ、<トランスレート>かけてないや。

「あかねさん、今からみんなの言葉を分かるように魔法かけますからね。<トランスレート>。」

 呪文要らないけど気分的にね。

「エレナ、こちらが茜さんです。あとで紹介するからね、まずは家に入りましょう茜さん。」

「エレナと申します。茜さんいらっしゃいませ。こちらへどうぞ。」

「あら、本当に言葉が分かるわ。エレナちゃんというのね、よろしく、茜です。私には気を遣わくても良いからね。」

 とにかく野次馬がさらに集まる前に家に入ってもらう。家とはいっても家具類はあるけどまだ何も用意していないはずなのだけど、お茶のセットや食器類は揃っている。さすがエレナと思ったら、スベトラの差し入れだそうだ。スベトラ何気にあれこれ遣り手だな。

 リビングに割り当てた広間の大きなテーブルでお茶会のようなものが開始された。まずは茜さんの紹介からだね。

「こちら先ほど名前は教えたね、茜さんといいます。ジャーパン皇国での僕の知り合いです。僕の仕事を手伝ってくれています。」

「初めまして茜です。ジャーパン皇国ね・・・まあいいわ。アタールくんのお仕事の部下よ。知り合いというより幼馴染ね。アタールくんがこんなに小さなころから知っているわよ。何か聞きたいことがあったら聞いてね。」

 こんなに小さいというジェスチャーだと僕の身長は1mもないんだけど。一体何歳から僕のこと知ってるんだよ・・・。

「わたしはエレナで、隣がスベトラちゃんです。わたしはアタールさんの家族で、スベトラちゃんは・・・あれ?何になるのかな。」

「僕はアタールさんの妹だよ。この地区の支配者、スベトラです。」

 そういや僕っ娘だったな・・・いやいや、妹じゃないし、支配者は無いでしょう。昨日スベトーラ地区になったとはいえ、別に支配しているわけじゃないし。なんなの?いわゆる中二病というやつ?16歳にもなって?まあ体型は中学生くらいかもしれないけども・・・。なんだか茜さんが慈しむような目でスベトラを見てるよ。そしてこっちには突き刺さるような視線を送ってくるよ。

「スベトラちゃん、いつ妹になった、そして支配者はないでしょう。そういう冗談はやめなさい。どちらかというと元強盗団の一味でしょ。」

「テヘ、でも僕は強盗には参加してないよ。」

『テヘペロ』なんか誰が教えた・・・。まずはイワン一味の強盗誘拐事件の顛末などを茜さんに説明した後、エレナの言った『家族』についての説明も求められ、ことこまかく経緯を説明することとなる。君たち自己紹介でいろいろ略しすぎなんだよ。

「まあいいわ、それじゃエレナちゃんは私の家族でもあるわよ、幼馴染って家族のようなものでしょ、エレナちゃんの暮らした集落でもみんな家族の様だったでしょ。あとスベトラちゃんも妹でいいわよ。可愛い妹たちは大歓迎。何が遠い親戚よ、いつになったらせっかく信頼できる人達がいるのにそれを遠ざけることをやめるの?あたるくんの悪い癖ね。子供のころのことまだ引きずっているのは分かるけど、せめてこの国のあなたの周りの、特にこの子たちのことは信頼してあげなさいよ。もちろん私の事もだけどね。もう、遠い親戚とか言うのやめなさい。あたるくん、あなたが助けたこの国の人はもうみんな家族よ。」

 ええええ、それはあまりにも強引ではないだろうか。ここまで設定考えるのにどれだけの苦労をしたこことか。その事を説明すると軽く鼻で笑われた。

「失礼な言い方だけど、世間知らずが頭の中であれこれ考えても、それは実情に合わないの。それにそんな脳内設定ではなくて、もっと相手の気持ちも考えてあげなさいよ。ここは異世界なんでしょ?猫耳もふもふの妹とか、超かわいいじゃない。もっと自由に考えてよ。国王様や領主様とも知り合いなんだから、誰が何を言ってもそんなの関係ないわよ。」

 茜さん、順応力高すぎないですかね。猫耳見て驚くどころか、もう受け入れた上で愛でているし。あ、まだ僕も触ったことのない猫耳触ってるし、あ、尻尾ももふもふしているし。エレナ、涙ぐんで茜さんに抱き着いてるよ。スベトラも便乗しているし。なんだろうこの疎外感というか、僕が一番新参者みたいな感じ・・・。

「もう、ほんとうにこの子たち可愛いんだから。18歳と16歳だったかしら、もっと可愛い服とか着せてあげないとだめよ。」

「それはアタールさんが、ジャーパン皇国で買ってきてくれるって約束してくれましたから。」

 おい、それは今言うな・・・。買えてないんだよ。茜さんにには言い訳は効かないから、これは今から買いに行くパターンだよね・・・。ほら、怖い目がこっち見てるし。

「耳は帽子で隠れるからいいけど、問題は尻尾よね。何かいい方法は・・・あ、そうだエレナちゃん、その尻尾、自分の腰に巻ける?」

「はい、大丈夫です。こんな感じでしょうか。」

 ほう、もふもふだけど、実際にはそんなに体積ないんだな。細い分、腰に張りが出る感じにしか見えないよ。すごいなぁ、上手くできてるな尻尾って。でも下着とかパンツルックは日本製は無理だろう。尻尾穴とかどうやってあけるのかわからんわ。

「それじゃ早速行きましょうか。エレナちゃん、スベトラちゃん、とりあえず今はその恰好でいいから、一緒に行くわよ。」

 え?え?スベトラまで?スベトラには普通にちょっと人と違う魔法使えることしか言ってないんだけど・・・でもこの流れでは・・・断るのは難し過ぎる。

「あの、茜さん・・・スベトラちゃんには・・・その、転移魔法の事は教えてないんです・・・。」

「大丈夫よ、スベトラちゃんはとても賢い子よ。ちゃんと秘密は守れる。私が保証するわ。もし秘密が守れなかったら、私を奴隷扱いしてもいいわよ。」

 うわぁ、日本語でそんな宣言してもらっても・・・。まあ確かに茜さんはボンキュッボンだし、可愛いというより美しくはある。しかしだな、奴隷とか言い過ぎじゃないか、そもそもまだスベトラと会って1時間も経ってないのに。なんだよその信頼度は。

「はぁ、じゃあ、スベトラちゃん、これから起こることは秘密だからね。これは他の人やこの地区の人たち、イワン達やマキシムさん、エフゲニーさんにも内緒だよ。細かいことは後でエレナにきいておいて。」

 コクコクとスベトラとエレナが頷く。隣では茜さんがニコニコしてる。

「じゃぁまずは、私の部屋に行ってちょうだい。手を繋ぐのよね?」

 すみません、手を繋がなくても触れれば大丈夫です。それに障壁で囲めば触れなくても大丈夫です。でも今ここでは言えないので、とりあえず何かの儀式のように円になってお互いの手を繋いでもらう。あ、一応屋敷の障壁結界の設定を人が入れないように変えておかなくては。

 もろもろ設定を終え、とはいっても一瞬だから、転移も一瞬だ。エレナとスベトラは何故か目を瞑っている。スベトラはわかるけど、なぜエレナまで・・・。僕たちは瞬時に1時間ほど前まで居た、茜さんのマンションの部屋に転移した。
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