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第85話 告白。

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 回らない寿司はめっちゃ高いと思っていたけど、昼時ということもあってランチメニューがあり、ぜんぜん高くなかった。いやそれでも1食に2500円は高いと思うけどね。インベントリ入れてあとでコピって食べようかと思ったけど、さすがに人前でやる気はないし、お持ち帰り用を今お願いするのも不自然だから、それはひとりの時にやろう。

「でも本当にいいの?私がほとんど勝手に決めちゃっているけど。」

「いいですよ。税理士・・・茜さんが来てくれなくても、誰か雇おうとは思っていたんです。できれば若い子を。」

「失礼ね、私もまだまだ若いわよ。あたるくんよりちょっと年上なだけじゃないの。社会人ならばほとんど気にしない年齢差じゃない。」

「う~ん、その社会人というのをまともにしたことがないんで・・・。」

「そういえばそうよね。大学で少しバイトしてただけで、いわゆる会社に就職とかしてないものね。世間知らずはしょうがないのか。でも、今日久しぶりに顔見たら、前よりぜんぜんいい顔してたわよ。何かあったの?あのアタールくんの投稿した写真のモデルさんたちとか?」

 うぅ、そこを突いてきたか。それこそ説明が難しすぎる。どう言い訳するべきか、正直に言うべきか。そこが問題だ。

「ぷるるるるるる」

 めっちゃタイミング悪いときに電話鳴るし・・・誰だよ。・・・いやアート様だし・・・。サイレントモードにしときゃ良かった。まだ鳴ってるよ・・・。

「顔見る限りはお知り合いでしょ、電話でなよ。一応社会人なんだから、そういうのはキチンとしないとね。」

 しょうがないので席を立って入り口近くに向かい小声で電話に出る。

「アート様、何かご用ですか?」

「おお、アタール君、王都からの商人の早馬が早速うちの領に着いたみたいでな、街中お前のうわさが飛び交っているぞ。もちろん我のうわさも含めてだがな。馬が曳かない走る箱の魔道具で王都を蹂躙したとか、大叔父から賜った金のメダルで王都の衛兵を膝まずかせたとか、いろいろだ。」

「なんですか、それ。」

 つい声が大きくなってしまった。

「まあいい、用はそれだけ。魔物の山のパトロール、また連れて行ってくれ。じゃぁな。」

 恒例のガチャ切りで話は終わる。いやいや、もう帰ったら早速旅に出よう。いろいろめんどくさいことになりそうだもんな。

「すみませんでした。ちょっと無茶を言う知り合いでして、勝手に用件だけ話して切られました。」

「何言っているの?どこの国の言葉?」

 え?どこの国って・・・あれ?もしかして僕、ファガ王国語話してしまった?なんだかもうグダグダだよ。

「どこの言葉と言われても・・・。あの、税理士さん、ちょっと食事終えたら場所変えて話聞いてもらって良いですかね。」

「別にいいけど、さっきの写真のこととかも?」

「あの写真はですね、旅先で・・・たまたま撮影したというか・・・。」

「盗撮っぽかったのも有ったものね。大丈夫なの?法律的に。」

 盗撮って、あれか?あのカフェっぽいというかレストランっぽいお店の店員さんのやつか。それともスベトーラ地区の撮影会か。どちらにしてもカメラは隠しているからな。

「ほ、法律的には問題ないです。」

「あの写真、どこで撮ったの?みんな外国人だったじゃない。その国の方々?」

「・・・。」

 どうしようどうしよう。もういろいろ告白するべきだろうか。どうせ一緒に働くとなると、いろいろ開示しないと不味い一面もある・・・しかし、自由行動が阻害される要因はなるべく排除したい。どうするべきか。あまりにも非現実的だから、言っても変人扱いで終わりの可能性もあるけどね。

「あの・・・その件も含めて、その・・・あとで相談ってことでいいですか・・・。」

「ふ~ん、法人登記用にパスポートのコピーさせてもらったときさ、他の国への入国スタンプとか全くなかったよね。写真見せてよ、他にもあるのでしょ?」

 これ、『もうどうにでもなぁれ~』ってやつ?何か一つ発言するたびになにか突っ込まれそうで怖いけども、人生の中で唯一信用できる人でもあるんだよなぁ。

「えっと、いろいろ込み入っているので、場所変えてお願いします。」

 止まない追求を阻止するために、土下座する勢いでお願いしてなんとか了解してもらったけども、もうこれはいろいろ言わないとしょうがない気がする。おのれアートの野郎め。あいつが電話さえかけてこなければ・・・あまり状況は変わらないか。

「じゃぁ、うちにおいでよ。誰かに聞かれたくないのでしょ?でも本当に怪しすぎるわね。変なことに手を出していないか心配だわ。私の将来に早速暗雲が・・・。」

「いや、暗雲はありませんって・・・。本当に。」

 食事を終え、徒歩15分程度の税理士さん改め茜さんの住むマンションにお邪魔することになった。女性の部屋に入るのは、姉以外では人生初だ。あ、お祖母ちゃんの部屋は入ったことあるわ。まあ茜さんだから襲われることもないだろう。いや、視線怖いって茜さん。

「どうぞ、入って。」

 茜さんのマンションは僕の住んでいたアパートと駅のちょうど間辺りにあった。僕の住んでいたアパートとは大違いでいわゆるタワーマンションというやつだ。こんなところからど田舎に引っ越して大丈夫なのだろうか。というか向こうに荷物が入るんだろうか。

「お邪魔します。」

 まあ、そんなに広くない。僕の家の方がぜんぜん広いね。比較対象が折り合ってないけれども、少しだけ勝った気分かも。1LDKというやつだな。僕の住んでいたアパートも似たようなもんだった。IKだったけど。

「あの、この荷物全部持って行くんですか?持って行けないことはないけど、引っ越し代も馬鹿にならないのでは・・・。」

「あたるくんが気にすることじゃないでしょ。」

 カラカラと笑いながらそう応える茜さん。まあそりゃそうだ。

「いろいろあるように見えるけど、結局はクローゼットの服と本がメインかな。他は別に持って行かなくても問題ないから実家に送るかも。さて、こういう話は後でいいわ。早速色々聞かせてもらうわよ。」

 すごくにこやかだけど、こういう時の女性は怖い。姉が笑顔の時はだいたいよからぬことを考えていたからね。

「はい。いろいろぶっちゃけるので、とりあえず動きやすい服に着替えてくれませんか。普段着で、なるべく動きやすいやつ。」

「何言っているのか良く分からないけど、まあ襲おうって感じではないわね。わかったわ、ちょっと待っていて。向こうはベットルームだから覗いちゃダメよ。」

 襲わないし、覗きません。それより異世界とか魔法をどうこう教えるのは、実践が一番早いだろう。とにかく今はエビデンスの提示からしないとただただ質問攻めにあうからね。

「は~い、着替えてきたわよ。」

 なんだかスポーツクラブにでも通うような恰好してる。動きやすいとはいっても、それはちょっと派手なんではないだろうか。まあだいたい女性は年を取ってくると派手になっていくもんだしな。うちの姉なんかどこのギャルかと思うような服とか持ってるもん。主婦とはとうてい思えないよなぁ。視線が怖いので、話を進めよう。

「それじゃ腰かけて話しましょう。」

「はいはい。こんな格好させて何を話すのかな。」

「まずですね。大前提があります。これから話すことや体験することは絶対秘密にしてくだい。もし将来的に誰かに話すことがあったとしても、それは今回のように已むに已まれる事情がある場合だと思っています。もし今茜さんに、彼氏や将来を約束した方がいらっしゃるならば、僕は何も話さずに帰ります。大切な人に対して秘密を持ってほしくないですから。」

 う~ん、茜さん相手だといつもこうスラスラと話せるんだろうね僕は。

「あらあら、えらく仰々しいわね。でも現役大学生時代に税理士の資格を取って、そのま就職して税理士事務所の第一線で働いていた私に、彼氏とか恋人とかできる時間は残念ながらなかったわ。だからそれは大丈夫ね。親とかにはどうなの?」

「親御さんというか、おじさんやおばさんにも秘密にしてほしいです。これはお願いするしかないですけど。」

「クライアントの守秘義務契約と思えばいいかもね。どっちにしても秘密は守るわ。ただ、それが犯罪行為でない場合ね。」

「それは全く問題ないです。」

「それとあたるくん、社交辞令でもいいから、女性が服を着替えたら、似合っているとか、そういう声を一言掛けるものよ。たとえ似合ってなくてもね。」

 むぅ、そんなこと僕にできるわけないの知っていると思うんだけども。まあ今は『はいはい』ということを聞いておく。だから視線怖いって。気をとり直して告白タイムを開始する。

「ではまず・・・僕は魔法が使えます。」

「あらあら、まだ30歳になってないのに。」
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