上 下
73 / 116

第73話 謁見の間控室にて。

しおりを挟む
「余だ、どうだ驚いたか。」

「はぁ、驚きました。」

 驚くというより、困惑しましたよ・・・。いろいろ口止めしたりしていたことが、吹っ飛んでいないか心配。でも考えてみれば、まだこの異世界のほんの一部しか周っていないのだから、最悪はこの国から脱出してもいいか。魔法がバレているなら逆手にとって知り合いには転移で会いに来ればいいし。うん。開き直れた。

「詳しくはサシャやアートに聞くと良い。また後でな。」

 この国の人はなんでみんなガチャ切りするんだろうか。さて、サロンに行く前にサシャさんとアート様に事情聴取しないと、万が一にもサロンで誰かに話しかけられても、何を言っていいのかさえわからない。

「今回の謁見については、サシャさんとアート様に聞いてみろと言われました。いったいなんなのですか?勲章もそうだし、報奨金もあまりにも分不相応だと思うのですが。それに名誉王国民ってなんですか・・・。」

 日本でも名誉市民とかスポーツ選手とか芸能人がなっていたけど、あれっていったいどんなものなんだろうか。

「昨日の夜あれから打ち合わせたのよ。ます危機を知っている宰相や大臣たち、それに今日は来てないけど、ジニム辺境伯領より西側の領地の領主、トスタ辺境伯とカラガ伯爵にどう伝えるか。もちろんみんな既に結界守の村での研究の事は知っているから、私が推薦し、アート君が市井の魔法使いであるアタール君を招聘して、その研究のおかげで、魔力チャージの魔法石の劣化問題を解決したということにしたの。」

 西の領地はふたつあるんだな。まあそれはいい。解決したときの手法や使った魔法とか、いろいろ聞かれてしまうのではないだろうか。

「幸い魔法使いには、国王陛下以外には門外不出の魔法を秘密にすることが認められているから、その解決方法は叔父様だけが知っていれば済む話なのよ。それで解決自体を数日前に遡って成したことにして、その報告が前回の謁見、そして今日がその認定と褒美というわけ。叔父様のおっしゃっていた『先日の謁見で、研究成果に対しての貴族位を打診した』というのはそういうことよ。」

 まあ、専制君主制の独裁政治だからできるんだろうな。国全体の為政者としてはどういうことをしている方かはまだ知らないけど、僕やエレナに対しては、良い人ではあるから今は問題ないしね。しかし、魔法使いに門外不出の魔法を秘密にすることが認められてるというのは知らなかった。もう全部秘密でいいよね。サシャさんは門外不出の魔法・・・持っているだろうな。国王様だけには報告というのは、やはり国家の存亡にかかわるような魔法もある可能性があるってことか・・・。

「でもなぜエレナまで?」

「なぜって、アタール君の専属助手でしょ。王都の大学でも専属助手は共同研究者として認められているわ。」

 大学あるんだ・・・。はぁ、助手っていっても研究というかそう言う面ではエレナは影薄かった。そもそも僕も研究してないし。・・・そうか、これだけ早く解決したのは、エレナが僕にハッパをかけてくれたが一番の要因でもあるから、いちばんの功労者はエレナかもしれないな。納得だ。エレナはポカンと口を開けてるけど。

「あと勲章とか名誉王国民というのはなんでしょうか?」

「勲章授与のときに『ジャーパン皇国の臣民であり』というのもおっしゃっていたでしょ、名誉王国民というのは、外国の方に贈られる名誉称号で、特に特権はないわ。」

 あれ?僕ってジャーパン皇国出身というのは言ってるけど、一応ジニム領で平民じゃなかったっけ・・・。

「あの、先日も王国の平民として・・・というかそう言う意味合いのことを言いましたし、ジャーパン皇国に至っては・・・その、この世界の国でさえないのですが・・・。」

「だから今日認定したのよ。私の推薦でアート君が秘密裏に領主として招聘し平民として登録。研究所の所長で公爵である私が受け入れ、国王陛下がそれを認証したという筋書きよ。転移や<リペア>のことは誰に言っていなわ。ジャーパン皇国からは、あなたの最初のシナリオどおりの巻き込まれ移転でいいわ。そもそも他の大陸のことなんて、誰も知らないから、そして秘密を知っているのは約束通り、叔父様と私とアート君だけよ。」

 さすが、国王様やアート様なんかは長年為政者として政治を行っているのだし、サシャさんも伊達に歳をとってない・・・。あ、なんで考えるだけで睨まれるんだろうか。僕の魔法でできない読心の魔法ができるとか・・・はっ、それが門外不出の・・・?おっと、続き聞かなきゃ。

「それでね、アート君の領のスラム問題を解決し、アーティファクトの銀時計を陛下に献上、その上謁見にはアーティファクトの乗り物で王城に乗りつける異国の魔法使いとして、もう王都では誰もがアタール君のことを噂していますし。もちろん叔父様が贈ったメダルの効果もあるわね。」

 そうだよね、大金貨2000枚相当の値が付く時計ということだし、車なんてどう見てもそれ以上の価値のあるアーティファクトにしか見えないし・・・はっ、ここまで考えてアート様は車で乗り付けさせたのか?・・・・いや無いな。あの人は単なるノリでする人だ。

「そして勲章だけど、これは私やアート君も驚いたわ。おそらく出席者全員が息をのんだと思うの。伝承で大閃光宝章というのは建国の父である初代国王様が、建国時にご自分でつけておられた勲章で、そのときに建国の立役者である同志たちに贈られたのが閃光宝章よ。閃光宝章は今でも稀に贈られるのだけど、この王国では最高の勲章。おそらくだけど、大閃光宝章はその伝承にある本物。初代国王様が身に着けておられたものよ。」

 ・・・そんなものもらえないよ・・・返せないかな。エレナはもうさっきから口を開けて固まったままだ。

「だから、アタール君の待遇は、まず国外から来られる貴賓に貸与するメダルを貸与ではなく賜り、ジャーパン皇国からの研究所の招聘者であり、初代国王様と同等の偉業を成し遂げた、異邦人の英雄様ってところかしらね。もちろんエレナさんはそのアタール君を支えるたったひとりの専属助手にして、ご家族ってこと。ご家族とはいっても、人種が違うから今日いらしていた皆さんはご夫婦とおもわれたでしょうね。」

『初代国王様と同等の偉業』ってなんだよ・・・。英雄なんか嫌だし。そんなの忙しそうだし、何かいろいろ押し付けられるヤツだよね。やっぱり勲章は返そう。お金は・・・僕とエレナの分を併せると、100億円相当でしょ、もう50億円貰ってるから合計150億円・・・。ダメだ。これはインベントリで眠らせておこう。エレナの分はいいけど、僕のは辞退しようかな。何もかもが分不相応すぎるよね。・・・・というか、夫婦?ないない。まだまだ独身を謳歌しないと。むしろこれからでしょ。

「その・・・エレナは遠縁の親せきとか義理の兄妹ということでお願いします・・・。」

 なんでそこで、エレナはむくれるかな。出会ってまだ6日目だからね。ここまで信頼していることだけでも自分で驚愕してるんだから。はい、サシャさんもアート様もそこで舌打ちしない。

「それじゃぁアタールさん、遠縁の親せきでいいです。」

 エレナは遠縁の親せき設定を選んだようだ。サシャさんとアート様に、報奨金と勲章の辞退について聞いてみたけど、『それは国王陛下にきいてくれ。』とアドバイスさえくれなかった。

「もしもし、国王様ですか?」

「余だ。なんだその『もしもし』というのは。それより早くサロンに行かんか。アタール君が行かんと余も動けないのだ。それに・・・・」

 ぶった切る。

「あの、報奨金と勲章ですが辞退できないかと。あまりに・・・」

「無理。」

 ぶった切られた上にガチャ切りされた。アート様は横で聞き耳を立ていて、大笑いしている。

「お、そうだ。アタール君いや、アタール様。サロンでは『様』づけで呼ぶからな。おそらく国王陛下以外はそう呼ぶことになる。一応心しておけ。」

 アタール様に『しておけ』ってどうなんでしょうか。この口調も変わるんだろうか。オッサンに様付けられても嬉しくもない。おっさんだけじゃなくてもそんなの手紙の宛名くらいでいいよ。

 あれ?でも、そういえばこの国にも足を引っ張る貴族とかいるんじゃなかったっけ。そういう人たちもサロンに来るんじゃないだろうか。どうなんだろう。またここからトラブルに巻き込まれるのは勘弁してほしいな。

「アート様、そういえばスラム地区件で、足を引っ張る貴族とか、そう言う方々もいらっしゃるわけでしょ?今回そういう方もいらっしゃるのでは?」

「あ、ああいうのはほとんどが領地持ちだから、今日はおらん。王都の子弟も呼んでおらんしな。貴族官僚は今回の件は大歓迎だ。国王派だからな。まあ、経済や商業関係の大臣は貴族派だが、今回は来ておらん。というか呼んでおらん。単なる謁見という名目にしたからな。政務を補佐関係者以外では、陛下が声をかけた信用できる貴族、近衛、執事しかおらん。」

 まあ、このあたりを誰がどうだと聞いても覚えられないし、今日はしょうがないけど、今後はなるべくかかわらないようにすればいいか。アート様にお願いして、サルハの街では、静かに暮らせるよう、これが終わったらお願いしてみよう。後は開き直るしかないな。どうしても我慢ならないときは逃亡という最終手段があると気が楽だし。

「おい、アタール様、そろそろサロンに行くぞ。我につい来い。」

 絶対、『様』付けて呼ぶ人に対する口調じゃないよね・・・。まあしょうがない、アート様に付いて行くか・・・。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?

夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。 気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。 落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。 彼らはこの世界の神。 キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。 ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。 「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

俺のチートが凄すぎて、異世界の経済が破綻するかもしれません。

埼玉ポテチ
ファンタジー
不運な事故によって、次元の狭間に落ちた主人公は元の世界に戻る事が出来なくなります。次元の管理人と言う人物(?)から、異世界行きを勧められ、幾つかの能力を貰う事になった。 その能力が思った以上のチート能力で、もしかしたら異世界の経済を破綻させてしまうのでは無いかと戦々恐々としながらも毎日を過ごす主人公であった。 

チートスキルで無自覚無双 ~ゴミスキルばかり入手したと思ってましたが実は最強でした~

Tamaki Yoshigae
ファンタジー
北野悠人は世界に突如現れたスキルガチャを引いたが、外れスキルしか手に入らなかった……と思っていた。 が、実は彼が引いていたのは世界最強のスキルばかりだった。 災厄級魔物の討伐、その素材を用いてチートアイテムを作る錬金術、アイテムを更に規格外なものに昇華させる付与術。 何でも全て自分でできてしまう彼は、自分でも気づかないうちに圧倒的存在に成り上がってしまう。 ※小説家になろうでも連載してます(最高ジャンル別1位)

異世界に転生!堪能させて頂きます

葵沙良
ファンタジー
遠宮 鈴霞(とおみやりんか)28歳。 大手企業の庶務課に勤める普通のOL。 今日は何時もの残業が無く、定時で帰宅途中の交差点そばのバス停で事件は起きた━━━━。 ハンドルを切り損なった車が、高校生3人と鈴霞のいるバス停に突っ込んできたのだ! 死んだと思ったのに、目を覚ました場所は白い空間。 女神様から、地球の輪廻に戻るか異世界アークスライドへ転生するか聞かれたのだった。 「せっかくの異世界、チャンスが有るなら行きますとも!堪能させて頂きます♪」 笑いあり涙あり?シリアスあり。トラブルに巻き込まれたり⁉ 鈴霞にとって楽しい異世界ライフになるのか⁉ 趣味の域で書いておりますので、雑な部分があるかも知れませんが、楽しく読んで頂けたら嬉しいです。戦闘シーンも出来るだけ頑張って書いていきたいと思います。 こちらは《改訂版》です。現在、加筆・修正を大幅に行っています。なので、不定期投稿です。 何の予告もなく修正等行う場合が有りますので、ご容赦下さいm(__)m

へぇ。美的感覚が違うんですか。なら私は結婚しなくてすみそうですね。え?求婚ですか?ご遠慮します

如月花恋
ファンタジー
この世界では女性はつり目などのキツい印象の方がいいらしい 全くもって分からない 転生した私にはその美的感覚が分からないよ

気がついたら異世界に転生していた。

みみっく
ファンタジー
社畜として会社に愛されこき使われ日々のストレスとムリが原因で深夜の休憩中に死んでしまい。 気がついたら異世界に転生していた。 普通に愛情を受けて育てられ、普通に育ち屋敷を抜け出して子供達が集まる広場へ遊びに行くと自分の異常な身体能力に気が付き始めた・・・ 冒険がメインでは無く、冒険とほのぼのとした感じの日常と恋愛を書いていけたらと思って書いています。 戦闘もありますが少しだけです。

処理中です...