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第8話 いろいろ揃えてみる。

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 この田舎村に引っ越してきて、本当に良かったと思う。村にはほとんど監視カメラも無いし、自宅から見渡す限り、人っ子一人いない。だから少々僕が魔法の実験をしても、人に知られることもないわけだ。この魔法の能力のおかげで、ますます人付き合いが難しくなりそうな気はする。

 お金に不自由していなければ、今の生活にも全く不満はないし、両親や姉の僕に対する距離感も結構好きだ。だからここで魔法を使ってすることといっても、今のところ何も無い。

 例えば大きな騒ぎを起こしてひと目立ちした上で、全員の記憶を消すだとか、街を出歩いて、その間に撮影されたであろう監視カメラの映像から、ピンポイントで自分だけ消すとか、全くできる気はしない。まあ、できるかもしれないけど。

 今のところ思いついてやってみたのは、お気に入りのブルーレイディスクに傷が入らないようにしただとか、愛飲しているペットボトルの某清涼飲料水を飲んだあと。キャップを閉めると新品になる魔法くらい。

 ちなみに運営サイトのシステム保守の自動化魔法はできなかった。自動プログラミングも然り。こちらは賢い方々のAI開発に期待するとしよう。やり方次第でできるかもしれないけれども。

 もちろん指先から火や水を出してみたり、庭に穴掘ったりという、オーソドックスなものは試して成功はしているが、正直言って、現代社会で何に使えるのかは疑問だ。

 結界とかも使い所がよくわからない。凄い魔法とかで戦争止めるとか、世界を救うとかも考えてはみたのだけれども、スーパーヒーローって柄では無いし、今のところは静かに生きていたいので、それは却下した。

 結局のところ、驚くことに、まだ異世界転移の当日であるし、あまり深く考えても、ろくなことにはならないだろうから、再び流れに身をまかせる方向性を選択することにし、気を落ち着けて、目前の仕事をチェックする。サイトのアラートはなにも無く、メールもいつものようにスパムか、強制退会させた元ユーザーからの嫌がらせ程度。

 今日の仕事は以上で終わり。とても順調。今日は色々なことが起きすぎて、マジ疲れたので、早々に晩飯のカップラーメンを食べ、ベッドに潜り込んだ。

 寝ている間に何かが起こるようなこともなく、普通にいつものように早起きした。そのまま直ぐに、テレビの天気予報を見ながら、朝飯のクッキータイプの完全栄養食品のフルーツ味を牛乳と一緒に食す。

 そして一応夢オチ防止のために、靴を履き、異世界側に転移してみるが、あっさりと転移できた。あまりの簡単さに、何か考えたり思っただけで、僕の魔法による異変が起こらないかとちょっと心配になる。この辺りも今後調べるべきだろう。戻りもサクッとできる。

 さて、今思いついたのだが、異世界側の重力や、酸素濃度、空気の組成などの自然環境はどうなっているのか調べてみようと思う。要するに、この地球に比べてどうなのかということだ。一応昨日はバイクを走らせてみたわけだが、ガソリンエンジンは普通に動いたのを天気予報の気圧配置の天気図を見て思い出し、魔法のことも大事だけれど、そこのところも重要だと感じたのだ。

 善は急げとなると、ネットショピングの翌日到着を待っていられないので、今日は都会に出ることにする。一応この村からでも、高速、一般道を経由し、バイクで4時間も走れば、大きな都市に出ることはできる。まあ、実際にはテレポートするけども。自重はどこ行った。

 一応、ネットで色々な検査機器は売っているところを探してみるが、都市圏の電気街で、パソコンとともに使う各種センサーを購入するのが現実的のようなので、日本で二番目であろう電気街に行くことにする。もちろん学生時代に何度か行ったことがあるから、転移は大丈夫。

 朝風呂に入った後、庭いじりで時間を潰して、服を着替え、財布とスマホをポケットに突っ込む。サクッと電気街近くの神社境内を目指す。あそこならおそらくまほとんど人はいないし、監視カメラもない。しかしかなり便利なはずの転移魔法が、この世界では最も使いづらい気がするのだが。まあ、それはさておき、早速目的地に向かう。

 もう、テレポートと心の中でさえ唱えない。自分が、目的地に転移するイメージを思い浮かべ、気持ち気合いを入れる。今のところ、この気合いを入れる事で、魔法が発現する。明確なイメージと気合い。これが大事なのだ。

 電気街の通りに出て、目的の店の開店と同時に店に入る。目標は各種計測器売り場。温度、湿度、気圧、放射線と揃える。空気中成分や、水の分析は、さすがにそこらで売っている計測器では無理のようなので、これらは、あとでサンプルを採取して、検査会社に依頼しよう。

 30分もかからずに揃ってしまったので、次は村の隣町に向かう。転移先は斎藤のおっちゃんの工務店裏。あそこも人がいない。目的地は工務店ではない。車の調達。ヘビーデューティな四駆車両を買いに行く。工務店の近所に四駆専門の中古車屋があったので、そこで買う。

 本当は複製してタダでゲットしようとも考えたのだけど、それだと流石にこちらの世界で乗れないし、異世界に置いてくるのも、何だか気が引けたのだ。だから、バイクと同じように、車も、こちらと向こうを行き来させることにした。インベントリで収納できるだろうし。

 車検1年付きの日本最大メーカーが誇る、けっこう大きなサイズの四駆駆動車が15万円で買えた。バイクと同じ値段だ。現状渡し、いわゆるポンコツってやつだ。即金で支払い、名義変更書類も渡して押印する。名義変更までは、車庫証明の取得とともに少し時間はかかるけど、車両は即渡し可能なそうなので、そのまま乗って帰る。書類は後で送ってくれるそうだ。任意保険も入っておく。

 ガソリンスタンドまで走り燃料を満タンにしてついでに携行缶を買い、そちらも燃料を入れる。人気の少ない場所まで走り、そのまま家の庭に転移。重量数トンでも全く問題ない。一旦車庫に入れて、〈リペア〉する。

 ボロボロの車がいきなり新車同様になっている。しかしメーターを見ると巻き戻ってはいない。この魔法って、どういう基準なんだろうか。でも確かに、後付けの部品が無くなったり、貼っているステッカーが消滅するのも変だから、あたまのなかでは、単に新しくなるイメージしかしていない。そのせいかもしれない。

 ついでに、セービングもかけておく。同じように昨日忘れていたバイクにも魔法をかけておいた。実際呪文は必要ないようだけれども、気合い入れるときには、頭の中で、最後に呪文入れた方が、何だかしっくりくるので、知っている短い呪文はなんとなく思い浮かべている。

 1時間ほどで各種計測器をセッティングし、ノートパソコンとともにインベントリで収納。その他、着替えや、昨日頂いた、異世界の服一式。魔法の本などは、仕事部屋にそのまま置いてある。必要になりそうなページは撮影してスマホに入れてある。これは主に歴史の本だ。

 お金も、調子に乗ってデュプリケイトで増やしているので、今や異世界でもプチセレブであろう。インベントリで収納しているので、必要な時、必要なだけ、手の中に取り出せるので、お財布不要なのはとても便利だ。
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