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3-2文系少女、病院で失敗する

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「由香、由香ー! 朝よー。早く起きてきなさい」

 お母さんの声がする。目を開くとカーテン越しに見える外は少し明るい。

 アラームは自動設定で鳴るようにしているのに鳴っていない。アラームが鳴る前にお母さんが起こしてくれたのかな? 

 時間を見ると設定時間から既に30分近く過ぎていた。

「うわ、遅刻する!」

 お母さんが「せっかくきれいなんだから切らないで」と言って、私も気に入っている腰までのロングヘアーは、言わずもがな形をまとめるのに時間がかかる。



「……なんか頭痛い」

 枕から起き上がると、頭に締め付けるような痛みがある。でもそれよりもトイレに行きたい。頭が痛いし、何処かぼうっとする意識を繋ぎ止めてトイレに向かって用を足す。



「お母さん」
「もう由香。やっと起きてきた…わね」
「なんか頭痛い…」

 母親は私を見ると、顔色を変えて向かってきた

「すごい顔色が悪いわ。私、学校に連絡するからベッドで休んでなさい」

 ベッドから起きた私はまたベッドに逆戻りすることになった。
 ベッドに横になっていると頭は痛いし、なんだか寒気がするし、気分も段々悪くなってくる。

「気持ち悪い…」

 胃の中が逆転する感じがする。吐きそう。 せめてゴミ箱の中に…

「うげエエエ」

 急いで立ち上がろうとしたのが良くなかったのか。胃の中が逆転した感覚がして口の中が吐瀉物で一杯になり、そのまま床面に何なのかわからない固形物や、胃液が溢れる。
 部屋の中が一気に吐瀉物臭くなった。

「由香、学校には連絡したわよって…大丈夫?」
「お、お母さん、ごめんなさい」

 口に吐いたものが張り付いて気持ち悪い。

「そんなのは良いわよ。お父さんにでもやらせれば。大丈夫? まだ気分が悪い?」
「う、うん」

 吐瀉物の匂いが鼻に入ると同時にまた気分が悪くなってくる。そのままお母さんが渡してくれたゴミ箱にまた吐いた。

「ちょっと口を濯いでリビングで休んでなさい。ここは後で片付けるから。一応病院にも行きましょ」
「ごめんなさい…」
「いいの いいの。多分昨日の雨にうたれたのが良くなかったのかしら…お母さんとお父さんのせいよ」

 胃液で気持ち悪い口を濯いでリビングに降りると、お父さんがあわあわと落ち着きなくしていた。

「あ、由香。大丈夫か?」
「うん。今は大丈夫…」

 ソファーに深く座り込むと、胃が横にならないからか気持ち悪さは収まってくる。

「由香、水だ」
「ありがとう…」
「お父さんもお母さんもなんとか休みが取れたよ」
「え…」

 お父さんもお母さんも両方海外に行くことも多い激務の身。そんな身に私の看病の休みを取らせたなんて…
 話を聞けば昨日の会話はお金の動きの話で、あまりにも生々しいからまだ私に聞かせてくれないだけだった。そんな大事な話だったのに私は勝手に妄想して…

「ご、ごめん…」

 口から出た謝罪の言葉は、自分が声に出したというのに何に対してのものなのか分からなかった。

「何を謝るんだ? 当然の行動だぞ」
「のりーこっちに来てー」
「ああ、すぐに行く。………由香は何も気にせず休んでいれば良いんだよ」




 意識半分で着替えを済ませ、気がつけば私は車の後部座席に乗せられて病院に向かっていた。

「あれ?」
「由香が着替え終わった時、そのまま寝ちゃったから運んできたのよ」

 運転席に座るお母さんは言った。でも、出来れば出る前に話しかけて欲しかったな…私は高まる尿意にこっそりと足の間に手を挟んだ。




 病院に着いて受付に行くと整理券が配られ、普通の待合室じゃないカーテンで区切られた別の場所に案内された。

「あれ、こっちじゃないんです?」
「すみません。発熱と頭痛があるなら感染症の疑いがある、ということでこちらの場所で待ってもらっています」

 昨今の感染症の影響でお母さんと2人して特設されたカーテン区切りの待合室に隔離されたのだ。



「ただの風邪だと思うけど、病院側が言うならしょうが無いわね」
「うん」

 でもちょっとしょうがないで済まないことがあった。足をすり合わせる。

ここにはトイレがない。

 看護師からはここから出ないように言われているが、トイレがあるのは一般の待合室。当然カーテンで仕切られたここから出なければならない
 隔離エリアにちょうどエアコンの吹き出し口が来ているのかちょっと寒い。
 さっきから感じていた尿意は更に強くなっている。

「由香、ひょっとしてトイレに行きたい?」



「え、あ、い、い、いや」
「行きたいんでしょ」

 お母さんの目は攻め立てるものではなく、心配そうな目だった。

「う、うん」

 認める。

「熱が出たから疲れちゃったのかもね」

 お母さんは私が最近おしっこを漏らしがちなことには気が付いていないようだ。

「看護師さーん」
「はい!」
「ちょっとお手洗いって行けます?」

 暫しの沈黙。少し向こうが騒がしくなった。

「本当に申し訳無いのですが、結果が出るまで待っていて貰えます?」


………



「えっ………」

 結果が出るまでっていつ!?

「由香、我慢できそう?」
「……どれくらいかかるの?」

「看護師さん、結果が出るまで何分かかります?」
「30分くらいです」





 え? 30分!?





 私がそんな顔をしていた事で勘づいたのか、お母さんは渋い顔をした。

「間に合いそうにないのね?」

 小さい子に向けるような言葉ではっきりと言われてしまった。顔が熱くなる。

 おしっこに行きたいのなら早く言ってくれればいいのに。言葉の裏の意味を感じる。

「えっと、何かトイレに成りそうなものはあります?」


「携帯トイレならあります」

 カーテン越しに渡されたのは良く車で使われるようなおしっこや吐瀉物が中に入れば固める物だ。お母さんが受け取る。

 お……おしっこが出来る! そう考えたのが良くなかったのだろう。

ジュッ

「うぅ」
「由香!」

 パンツが濡れる感覚。私の緩いおしっこの出口でも、何時もなら数回はこの段階で止められていた。でも頭が動かないし、体も熱っぽくてなんか力があまり入らない。


ジュッ



ジュッ

ジュッ

ショロロロロロロ


おしっこの出口だけ濡れていた物がおしりにまで広がる感覚。座っている場所を見るとスカートのお尻の方に大きな染みが出来、吸われなかった水分が椅子を濡らしていた。

「お、お母さん…もうやだぁぁぁ」

「どうされました?」

 最悪なことに私の言葉で緊急事態かと看護師がカーテンを開ける。

「えっ?」

 その先に座る数人の人と目が合う。その人達は私の顔をみた後、流れるように私のおもらしした所を見て……

「も、申し訳ございません! すぐに人を呼んでくるので」



 なにこれ。なんだこれ。何でこんなみんなに見られているの!?




「なんでっ、なんで」
「由香、落ち着いて。これは熱のせいなのよ。あなたのせいではないわ」

 確かにお母さんからして見れば体調不良でおもらししたかのように見える。でも私は違うと思った。これは今まで積み重ねてきた負の遺産。あまり貯められない膀胱と、緩いおしっこの出口のせいだ。


 

 看護師は人を呼んでくるといったものの、検査結果が出るまでの間誰も入って来ず、お母さんが漏れたおしっこを拭いても焼け石に水。
 体調が悪くて立っている事も出来なかった私は20分間おしっこで濡れた服の上で座っているしかなかった。
 私の体温じゃ温めきれずに徐々に冷たくなっていくおしっこの上に座っていたのがあまり良くなかったのか、また少し熱が上がった気がして、体も怠くなってきた私。

「由香、自分でシャワー浴びれる?」
「もうやだぁ、このまま帰る」
「流石におしっこまみれのまま帰るのは厳しいわよ。私が洗ってあげるから」

 お母さんが全裸の私を連れてシャワー室の中に入り、容赦なくシャワーを掛けてくる。

「あふ」
「ほら足を閉じずに開いて。洗えないでしょ。

 小さい子供を相手するようにお腹から女性器の出口、太ももを洗っていく。
 小さな頃は親に洗われても何でもなかった筈なのに、今の歳で洗われることはとても恥ずかしかった。




 おもらしして台無しになったパンツとスカートは脱がされて無地の白いパンツに、入院着のような上から被る物を着せられる。

 私はずっと泣いていた。親の前でおもらししたことも、体が怠くて動かないことも。
 中学生にもなってお母さんにおもらしの後始末をすべてやってもらうなんて、体が動かないからと言っても、とても情けない。




「これは流石に文句を言わせて貰います」

 お母さんは激怒して受付に向かい、私は待合室に座る。いつもの無地のパンツよりも更に子供っぽい絹生地の柔らかい感触が下半身を包んでいた。

 表の待合室に私のおもらしをみた人はもう残っていなかった。
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