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桜は、咲いていない――
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「お願いします……お願いします……パパを。助けて、ください。……お願いします」
神を崇めるかのように両手を合わせてそう言葉を繰り返す彼方がそこにいた。
その光景に思わず苦笑し、俺は彼方に近づいて頭を叩いた。
「呪詛かよ。愛が重いわ、馬鹿」
「ふぇっ」
体力が限界だったからか、軽く叩いただけだというのに前のめりに倒れる彼方。
「ふぇぇ、痛いです。痛いです……」
「大丈夫かよ、ほら」
「……え?」
ようやく俺の存在に気づいたのか目を丸くして俺を見上げる彼方。硬直すること約三秒。直後に抱き着かれた。
「パパですー!」
「うおっ!?」
手が空いていなかったので彼方の抱き着きを胸で受け止めるしかなかった俺はそのまま倒れ込む。
そして馬乗りになった彼方の顔を見た。
「はっ」
「あはっ」
そんで、笑い合った。腹が痛くなるくらいに笑い合って、そしてその後、
「あははは、あは……、は……う……ぁあ」
泣かれた。胸で彼方に泣きじゃくられた。病人服にシミがついてしまうかもしれないが、まぁいいだろう。今は存分に泣かしてやりたかった。
俺は後頭部をぽんぽんと優しく叩いて、撫でてやる。
「ふぇぇ」
気持ちよさそうな声を出す彼方。
「落ち着いたか」
「はい……何とか」
「助けたぞ。約束を守ったぞ」
「……まさか本当に、約束を守るだなんて思いもしませんでしたよ。パパ」
「おいおい、こう見えても俺はかつてはヒーローと呼ばれてた男だぞ。約束は守るに決まってんじゃねえか」
「いえいえ、違いますよ、パパ」
何が違うのか、俺が首を捻ると彼方は胸の中顔を上げて微笑み、こう言った。
「今でもパパは、最高のヒーローですよ」
「そうか。言われたら恥ずかしいが嬉しい感じもあるな」
「恥ずかしがらなくてもいいです。パパは立派なヒーロー。助けてと言った人を助けるヒーローですよ」
「……ありがとな、彼方」
小さく俺は笑った。
「お前がいなかったら俺はここまでこれなかった。いつまでも現状維持で、こうやって幸せを得ることが出来なかった。全ては、お前のお陰だよ、彼方」
「何を言ってるんですか。ありがとうは私の言葉です。まったく、パパはいつも自分のことを卑下にする。気に食わないです」
「仕方がねえだろ。癖なんだから」
「じゃあ仕方がありませんね」
くすくすと、また俺たちは笑い合った。
愛は、絶望。
しかし同時に、愛は幸せだ。
人はその幸せのために、愛を得ようとする。
その先には絶望しかないというのに。
しかし人はなぜ愛を求めてしまうのか。
それはきっと。一人では生きていけられないからだ。
孤独では何も得ることは出来ない。悲しみを生むだけだ。
ならば、進んだ方がいいに決まっている。
もしも、誰か大事な人が離れて、愛に恐怖を覚えている人がいるならば、俺は言ってあげたい。
確かに愛は絶望に直結するけど、諦めさえしなければ幸せが待っているから。
人間、諦めてしまえばそこで終わりだ。諦めるということはその事柄に終止符が打たれるということ。
そんなのはもったいない。
だったら、進めばいい。
小幅でもいい。でも着々と進めばいいと思う。
その先には、絶望の先にはきっと幸せがあるから。
それだから、頑張って欲しい。どんな局面でもめげずに、頑張って欲しい。
そう、子供の頃夢見たヒーローのように、めげないで頑張って。
きっと幸せに辿り着けるから。
信じればきっと、辿り着くことが出来るから――。
だからもう、俺たちの目の前では。
桜は咲いていない――
神を崇めるかのように両手を合わせてそう言葉を繰り返す彼方がそこにいた。
その光景に思わず苦笑し、俺は彼方に近づいて頭を叩いた。
「呪詛かよ。愛が重いわ、馬鹿」
「ふぇっ」
体力が限界だったからか、軽く叩いただけだというのに前のめりに倒れる彼方。
「ふぇぇ、痛いです。痛いです……」
「大丈夫かよ、ほら」
「……え?」
ようやく俺の存在に気づいたのか目を丸くして俺を見上げる彼方。硬直すること約三秒。直後に抱き着かれた。
「パパですー!」
「うおっ!?」
手が空いていなかったので彼方の抱き着きを胸で受け止めるしかなかった俺はそのまま倒れ込む。
そして馬乗りになった彼方の顔を見た。
「はっ」
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そんで、笑い合った。腹が痛くなるくらいに笑い合って、そしてその後、
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泣かれた。胸で彼方に泣きじゃくられた。病人服にシミがついてしまうかもしれないが、まぁいいだろう。今は存分に泣かしてやりたかった。
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気持ちよさそうな声を出す彼方。
「落ち着いたか」
「はい……何とか」
「助けたぞ。約束を守ったぞ」
「……まさか本当に、約束を守るだなんて思いもしませんでしたよ。パパ」
「おいおい、こう見えても俺はかつてはヒーローと呼ばれてた男だぞ。約束は守るに決まってんじゃねえか」
「いえいえ、違いますよ、パパ」
何が違うのか、俺が首を捻ると彼方は胸の中顔を上げて微笑み、こう言った。
「今でもパパは、最高のヒーローですよ」
「そうか。言われたら恥ずかしいが嬉しい感じもあるな」
「恥ずかしがらなくてもいいです。パパは立派なヒーロー。助けてと言った人を助けるヒーローですよ」
「……ありがとな、彼方」
小さく俺は笑った。
「お前がいなかったら俺はここまでこれなかった。いつまでも現状維持で、こうやって幸せを得ることが出来なかった。全ては、お前のお陰だよ、彼方」
「何を言ってるんですか。ありがとうは私の言葉です。まったく、パパはいつも自分のことを卑下にする。気に食わないです」
「仕方がねえだろ。癖なんだから」
「じゃあ仕方がありませんね」
くすくすと、また俺たちは笑い合った。
愛は、絶望。
しかし同時に、愛は幸せだ。
人はその幸せのために、愛を得ようとする。
その先には絶望しかないというのに。
しかし人はなぜ愛を求めてしまうのか。
それはきっと。一人では生きていけられないからだ。
孤独では何も得ることは出来ない。悲しみを生むだけだ。
ならば、進んだ方がいいに決まっている。
もしも、誰か大事な人が離れて、愛に恐怖を覚えている人がいるならば、俺は言ってあげたい。
確かに愛は絶望に直結するけど、諦めさえしなければ幸せが待っているから。
人間、諦めてしまえばそこで終わりだ。諦めるということはその事柄に終止符が打たれるということ。
そんなのはもったいない。
だったら、進めばいい。
小幅でもいい。でも着々と進めばいいと思う。
その先には、絶望の先にはきっと幸せがあるから。
それだから、頑張って欲しい。どんな局面でもめげずに、頑張って欲しい。
そう、子供の頃夢見たヒーローのように、めげないで頑張って。
きっと幸せに辿り着けるから。
信じればきっと、辿り着くことが出来るから――。
だからもう、俺たちの目の前では。
桜は咲いていない――
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