18 / 37
クリスマスイブ
しおりを挟む
なぜなのだろうか。彼方とともにいる時間はなぜか早く、いつの間にか俺たちの生活は二週間目に突入しようとしていた。
学園では俺のポジションはいつも通りとなった。どうやら澤口への恫喝がクラスメイトにも伝わったらしく、話しかけるものは一切――いや、彼方と秋紅葉を除いていなくなった。
そんな学園もすでに冬休みに突入しており、今日はその数日が経った日なのである。
そして、今日というこの日は、俺にとってはとてつもなく憂鬱な日だ。
なぜなら、嫌な思い出全てを思い出してしまうから。
今日、十二月二十四日クリスマスイブ。
この日は――遠江光の命日だった。
「足クソだるい」
雪がパラパラと降る夜道を歩きながら俺は一言ぼやいた。
「出てから三秒しか経ってませんよ」
隣にいた彼方が冷静に突っ込みを入れる。しかしだるいものはだるい。しかも行く先があの家だというのがさらにだるい。
「はぁ~」
「? 一体どうしたんですか、パパ。さっきから本当に気だるそうに。そんなにママの家に行くのが嫌なんですか?」
そう、今俺たちが向かっている家とは遠江家のことだ。本当ならば行きたくないのだが、遠江にくるのよ、とお願い(命令)されてしまったため、行くしかなかったのだ。ちなみに彼方の同伴もオッケーらしい。
まぁ、あいつが今日わざわざ俺を家に招待したのはやはり、今日があいつの命日だからなのだろう。そうでなければ、呼ぶ理由がない。
「つーか何でこんな近いんだよ。数キロ離れてろよ」
徒歩十五秒。遠江家に到着した。マジで早い。心の準備すら出来てないっていうのに。
「ふぉー、ここがママの家ですか」
彼方は目の前にそびえ立つ三階建ての一軒家を見て、その後数メートル離れている俺たちのアパートに視線を向けて、
「雲泥の差ですね」
「じゃあお前はこっちに明日から住め……!」
苦情を言うなら出て行け。そんな意味を込めて呟いた。しかし彼方はさらっとスルーをして、遠江家のインターホンを鳴らした。
「っておい! もう鳴らすのかよ!」
「え? 鳴らさない方がよかったですか?」
と言いながら、彼方は他人の家だというのに勝手にドアを引いた。
「遅かったな」
そこに男が立っていた。
「「うわあああああああああああああッッ!?!?」」
俺と彼方はほぼ同時のタイミングで近所迷惑になりかねない声量で悲鳴を上げた。
「って……」
ぎっしりとした体格、逆立てた黒色の髪、まるでヤクザなのかと錯覚するほどの鋭い瞳。
――この人は。
「お、お久しぶりです……隆弘さん……」
遠江隆弘。正真正銘の、遠江瞬華の父である。特徴はヤクザにしか見えないその怖すぎる顔だ。しかし、隆弘さんの実態は逆で――
「一年振りだなぁ! 柚季、元気だったか!」
超馴れ馴れしく元気な人だ。遠江家ってほんと元気というかはちゃめちゃというかそんな人が多い印象を受ける。
確かに一年振りだ。何せ、俺は光が死んだ日からここにくることがなくなったからだ。
「お、お……お」
視線を横に向けると、彼方が何か魚みたいに口をぱくぱくさせて「お」を連呼していた。あまりの衝撃に開いた口が塞がらない状態になったのか?
彼方の存在に気づいた隆弘さんは彼方に体を向けてから腰を屈めて、
「君が、柚季の元で居候している彼方さんかな。襲われなかったか? 大丈夫か?」
本当に遠江一族は失礼な奴が多い。言ったら怖そうなので言わないが。
などと、遠江家の苦情を心中で述べていると、彼方に動きが生じた。
一歩足を踏み出して――あろうことか、隆弘さんに馴れ馴れしく抱きついたのだ!
「おじいちゃんですー!」
「ふぉぉ!?」
あまりに唐突に抱きつかれたからか、隆弘さんは一瞬驚いた表情となったがすぐに恍惚とした表情になった。いや、真顔に戻せよ、だらしねえ。
「な、何だ!? おじいちゃん!? 孫!? ふぉぉっ」
と、テンションがうなぎのぼりで上がる隆弘さんだったが。
ぐぎっ!
「ふぉぉ!?」
あ、嫌な音。人間誰しも耳を塞ぎたくなってしまう痛々しい音が響いた。
「え? お、おじいちゃん? どうかしたんですか?」
隆弘さんをこういう風にした元凶が能天気にも問う。
ぎっくり腰になったであろう隆弘さんは蹲りながらも弱々しくリビングの方向に指を向けて、
「行け、リビングに行ったら夕飯が待っている」
「あ、はい。失礼しますねー」
「薄情だな。お前」
蹲る隆弘さんを軽くスルーする彼方に毒づく。まぁ隆弘さんを放置して廊下を進む俺も俺何だがな。
学園では俺のポジションはいつも通りとなった。どうやら澤口への恫喝がクラスメイトにも伝わったらしく、話しかけるものは一切――いや、彼方と秋紅葉を除いていなくなった。
そんな学園もすでに冬休みに突入しており、今日はその数日が経った日なのである。
そして、今日というこの日は、俺にとってはとてつもなく憂鬱な日だ。
なぜなら、嫌な思い出全てを思い出してしまうから。
今日、十二月二十四日クリスマスイブ。
この日は――遠江光の命日だった。
「足クソだるい」
雪がパラパラと降る夜道を歩きながら俺は一言ぼやいた。
「出てから三秒しか経ってませんよ」
隣にいた彼方が冷静に突っ込みを入れる。しかしだるいものはだるい。しかも行く先があの家だというのがさらにだるい。
「はぁ~」
「? 一体どうしたんですか、パパ。さっきから本当に気だるそうに。そんなにママの家に行くのが嫌なんですか?」
そう、今俺たちが向かっている家とは遠江家のことだ。本当ならば行きたくないのだが、遠江にくるのよ、とお願い(命令)されてしまったため、行くしかなかったのだ。ちなみに彼方の同伴もオッケーらしい。
まぁ、あいつが今日わざわざ俺を家に招待したのはやはり、今日があいつの命日だからなのだろう。そうでなければ、呼ぶ理由がない。
「つーか何でこんな近いんだよ。数キロ離れてろよ」
徒歩十五秒。遠江家に到着した。マジで早い。心の準備すら出来てないっていうのに。
「ふぉー、ここがママの家ですか」
彼方は目の前にそびえ立つ三階建ての一軒家を見て、その後数メートル離れている俺たちのアパートに視線を向けて、
「雲泥の差ですね」
「じゃあお前はこっちに明日から住め……!」
苦情を言うなら出て行け。そんな意味を込めて呟いた。しかし彼方はさらっとスルーをして、遠江家のインターホンを鳴らした。
「っておい! もう鳴らすのかよ!」
「え? 鳴らさない方がよかったですか?」
と言いながら、彼方は他人の家だというのに勝手にドアを引いた。
「遅かったな」
そこに男が立っていた。
「「うわあああああああああああああッッ!?!?」」
俺と彼方はほぼ同時のタイミングで近所迷惑になりかねない声量で悲鳴を上げた。
「って……」
ぎっしりとした体格、逆立てた黒色の髪、まるでヤクザなのかと錯覚するほどの鋭い瞳。
――この人は。
「お、お久しぶりです……隆弘さん……」
遠江隆弘。正真正銘の、遠江瞬華の父である。特徴はヤクザにしか見えないその怖すぎる顔だ。しかし、隆弘さんの実態は逆で――
「一年振りだなぁ! 柚季、元気だったか!」
超馴れ馴れしく元気な人だ。遠江家ってほんと元気というかはちゃめちゃというかそんな人が多い印象を受ける。
確かに一年振りだ。何せ、俺は光が死んだ日からここにくることがなくなったからだ。
「お、お……お」
視線を横に向けると、彼方が何か魚みたいに口をぱくぱくさせて「お」を連呼していた。あまりの衝撃に開いた口が塞がらない状態になったのか?
彼方の存在に気づいた隆弘さんは彼方に体を向けてから腰を屈めて、
「君が、柚季の元で居候している彼方さんかな。襲われなかったか? 大丈夫か?」
本当に遠江一族は失礼な奴が多い。言ったら怖そうなので言わないが。
などと、遠江家の苦情を心中で述べていると、彼方に動きが生じた。
一歩足を踏み出して――あろうことか、隆弘さんに馴れ馴れしく抱きついたのだ!
「おじいちゃんですー!」
「ふぉぉ!?」
あまりに唐突に抱きつかれたからか、隆弘さんは一瞬驚いた表情となったがすぐに恍惚とした表情になった。いや、真顔に戻せよ、だらしねえ。
「な、何だ!? おじいちゃん!? 孫!? ふぉぉっ」
と、テンションがうなぎのぼりで上がる隆弘さんだったが。
ぐぎっ!
「ふぉぉ!?」
あ、嫌な音。人間誰しも耳を塞ぎたくなってしまう痛々しい音が響いた。
「え? お、おじいちゃん? どうかしたんですか?」
隆弘さんをこういう風にした元凶が能天気にも問う。
ぎっくり腰になったであろう隆弘さんは蹲りながらも弱々しくリビングの方向に指を向けて、
「行け、リビングに行ったら夕飯が待っている」
「あ、はい。失礼しますねー」
「薄情だな。お前」
蹲る隆弘さんを軽くスルーする彼方に毒づく。まぁ隆弘さんを放置して廊下を進む俺も俺何だがな。
0
お気に入りに追加
1,519
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
姉らぶるっ!!
藍染惣右介兵衛
青春
俺には二人の容姿端麗な姉がいる。
自慢そうに聞こえただろうか?
それは少しばかり誤解だ。
この二人の姉、どちらも重大な欠陥があるのだ……
次女の青山花穂は高校二年で生徒会長。
外見上はすべて完璧に見える花穂姉ちゃん……
「花穂姉ちゃん! 下着でウロウロするのやめろよなっ!」
「んじゃ、裸ならいいってことねっ!」
▼物語概要
【恋愛感情欠落、解離性健忘というトラウマを抱えながら、姉やヒロインに囲まれて成長していく話です】
47万字以上の大長編になります。(2020年11月現在)
【※不健全ラブコメの注意事項】
この作品は通常のラブコメより下品下劣この上なく、ドン引き、ドシモ、変態、マニアック、陰謀と陰毛渦巻くご都合主義のオンパレードです。
それをウリにして、ギャグなどをミックスした作品です。一話(1部分)1800~3000字と短く、四コマ漫画感覚で手軽に読めます。
全編47万字前後となります。読みごたえも初期より増し、ガッツリ読みたい方にもお勧めです。
また、執筆・原作・草案者が男性と女性両方なので、主人公が男にもかかわらず、男性目線からややずれている部分があります。
【元々、小説家になろうで連載していたものを大幅改訂して連載します】
【なろう版から一部、ストーリー展開と主要キャラの名前が変更になりました】
【2017年4月、本幕が完結しました】
序幕・本幕であらかたの謎が解け、メインヒロインが確定します。
【2018年1月、真幕を開始しました】
ここから読み始めると盛大なネタバレになります(汗)
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
俺の幼馴染がエロ可愛すぎてヤバい。
ゆきゆめ
キャラ文芸
「お〇ん〇ん様、今日もお元気ですね♡」
俺・浅間紘(あさまひろ)の朝は幼馴染の藤咲雪(ふじさきゆき)が俺の朝〇ちしたムスコとお喋りをしているのを目撃することから始まる。
何を言っているか分からないと思うが安心してくれ。俺も全くもってわからない。
わかることと言えばただひとつ。
それは、俺の幼馴染は最高にエロ可愛いってこと。
毎日毎日、雪(ゆき)にあれやこれやと弄られまくるのは疲れるけれど、なんやかんや楽しくもあって。
そしてやっぱり思うことは、俺の幼馴染は最高にエロ可愛いということ。
これはたぶん、ツッコミ待ちで弄りたがりやの幼馴染と、そんな彼女に振り回されまくりでツッコミまくりな俺の、青春やラブがあったりなかったりもする感じの日常コメディだ。(ツッコミはえっちな言葉ではないです)
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
春から一緒に暮らすことになったいとこたちは露出癖があるせいで僕に色々と見せてくる
釧路太郎
キャラ文芸
僕には露出狂のいとこが三人いる。
他の人にはわからないように僕だけに下着をチラ見せしてくるのだが、他の人はその秘密を誰も知らない。
そんな三人のいとこたちとの共同生活が始まるのだが、僕は何事もなく生活していくことが出来るのか。
三姉妹の長女前田沙緒莉は大学一年生。次女の前田陽香は高校一年生。三女の前田真弓は中学一年生。
新生活に向けたスタートは始まったばかりなのだ。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる