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一彼方はウザイ

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「いや……だってお前と話すの怠いし」

「怠いじゃないですよ! 話しましょうよ! スキンシップ! アイラブスキンシップ」

「やだよ、僕風呂入ってない奴の近くにいたくないもん」

「入ってますよ! のぼせるのが早いから早めに出ただけですって!」

「そうなん? でもなんか臭いぞ?」

「そういうの女の子に言わなくてもいいんですよ! 知ってても言わないのが普通ですよ!」

 まあ臭いなんていうのは嘘なんだけども面白いから言わないでおこう。

「んで、お前はジュース買いに来たんじゃないのか? 自動販売機で固まって、買わないのか?」

「それがですね……」

 一彼方は凄い深刻そうな顔をしながら言った。

「……美味しそうなのがありすぎて選べないんですよ」

「帰るわバイバイ」

「待ってくださぁい! 構って! 構ってくださいよ!」

 服の袖を掴まれる。ていうか力つよっ、普通に振りほどけないんだけど!

「わかった、構ってやる。それでいいんだな?」

「はい、素直にそうしてればよかったんですよ」

 何様だこいつ。

「それで、なにとなにで迷ってるんだ?」

「なに言ってるんですか?」

 まるで馬鹿を見るような眼で見られる。さっきから腹立つなこいつ。

「……お前が何言ってるんだよ、迷ってるんだろ? だったら」

「この自動販売機に売ってる全部に迷ってるんですよ。なにとなにじゃありません、全部です」

「帰るわ」

「なんでですかぁぁぁ!」

「知らねぇよ自分で考えろよそんなこと! なんで僕がお前のジュース選びに付き合わなくちゃいけないんだよ!」

「えっ……ごめんなさい奈羅君とはそういう関係まだ早いと思うの……」

「付き合うの意味を履き違えるな! というかわかってるだろお前!」

「てへっ」

「うざっ!」

 ウザイ、ウザイが顔が微妙に可愛らしいのでなぜかウザさは軽減されていた。

「まぁまぁ、いいじゃないですか。たまには二人っきりで話しましょうよ」

 そう言いながら自動販売機で瓶のコーヒー牛乳を買う一彼方。

「……迷ってたんじゃないのか?」

「お風呂上がりにはやっぱコーヒー牛乳かなぁと思いましてね」

「考え方がコロコロ変わる奴だな」

 スポーツドリンクを口に含みつつ言うと、一彼方は瓶の蓋を取りつつ呟いた。

「人間誰しも考え方なんてコロコロ変わりますよ。私も、そしてきっとユキちゃんも。まぁ奈羅君はそうではないら
しいですけどね」

「単純な思考回路じゃないんでな」

「なんですか、私のこと単純馬鹿って言いたいんですか」

 じろっと睨んでくる一彼方に僕は頷く。

「違うのか?」

「違うに決まってるでしょ!?」

「いやなんか知らない男にほいほい付いて行く奴かと思ってた」

「私はそんな尻軽女じゃないですよ……」

 ムスッとした顔をする一彼方。

「……なぁ、一彼方」

「いやフルネームですか……。他に呼び方あったでしょう、一やら彼方やら」

「馴れ馴れしすぎかなって」

「それ以上に馴れ馴れしいことしてますって……。彼方でいいですよ、苗字あんまり好きじゃないんで彼方って呼ん
でください」

「んじゃあ彼方」

「はいなんでしょう」

「お前さっき言ってたよな、お前らはコロコロ考え方が変わって、でも僕はそうじゃないって」

「そうですね」

 彼方は頷きながら言葉を続けたのだった。
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