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小夜曲ユキ
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それは春休みに入りたての頃のこと。
僕は、お気に入りの場所でくつろいでいた。
そのお気に入りの場所というのが、満開の桜の木の下。
僕はこの場所が何よりもお気に入りだった。
この満開の桜の周りには桜を囲うように池があった。
「ふぅ……」
僕は桜の木に寄っかかりながらそう息を漏らす。
今、中学校の卒業式が終了した。友達や恋人のいなかった僕は卒業パーティーとか言うぼっちが笑われる行事には行かず、ただ一人、静かに佇んでいた。
ざぁっと。春風が吹く。
それは冬のような冷たい風ではなく、春の訪れを知らせてくれる温かい風であった。
そして。
その風に乗って届く声があった。
「綺麗な場所だねぇ~」
その声は僕の後ろから聞こえた。女の子の声だった。
多分、声の主もまた僕のように桜の木に寄っかかりながらくつろいでいるんだろう。
「……そうだね」
僕は適当に相槌を返した。
「どうして平日の真昼間にこんなところに? もしかしてサボり?」
「……単に卒業式なだけだよ。昼間に終わったからここにきてるだけ。そういう君こそこんな平日の昼間にどうしてここにいるんだ?」
「んー、気づいたらここにいたって感じかなぁ」
「なんだそりゃ」
適当に歩いてたらここに辿り着いたんだろうか。
「どうだったの? 学校生活は」
「別になんてことはないよ。授業受けて、そして帰るだけ。そんな変わり映えのしない無限ループの生活だよ」
「寂しい学校生活だね」
くすりと笑う声がした。
「ほっといてくれ」
顔を逸らしながら僕はそう言った。
「就職? それとも進学?」
「……進学だよ、僕はまだ中学生だ」
「中学生終わってるけどね」
「卒業式が終わっただけで卒業はまだしてないよ。三月の三十一日までは僕は中学生だ」
「揚げ足を取らないでよ」
「取ってるのは君だ」
「ふふっ……」
なにが面白いのか、女はくすくすと笑っている。
「中学生なのに随分と大人ぶるんだね。私が年上だったらどうするの?」
「すぐに敬語にする」
「残念、同年代だよ」
「なにが言いたいんだ……」
なんだか話していると頭が痛くなってくる。
「さて、それじゃあ私はそろそろ」
「あぁ、さよなら。もう会うことはないだろうけど」
「さぁ、どうだろうね。あと、貴方の名前を教えてもらってもいい?」
言うかどうか迷ったが、別に言っても言わなくても変わらないだろうと考えた僕は自分の名前を口にする。
「……奈羅誠(ならまこと)」
「ふふっ、変な名前」
「う、うるさい! 僕だってこの名前にコンプレックスを持ってるんだ!」
声を荒げたあと、僕は問う。
「そういう君はどんな名前なんだ」
「小夜曲ユキ(さよきょくゆき)」
そうして遠ざかっていく足音。
「変な女だったなぁ……」
……と、残された僕はそう呟いたのだった。
僕は、お気に入りの場所でくつろいでいた。
そのお気に入りの場所というのが、満開の桜の木の下。
僕はこの場所が何よりもお気に入りだった。
この満開の桜の周りには桜を囲うように池があった。
「ふぅ……」
僕は桜の木に寄っかかりながらそう息を漏らす。
今、中学校の卒業式が終了した。友達や恋人のいなかった僕は卒業パーティーとか言うぼっちが笑われる行事には行かず、ただ一人、静かに佇んでいた。
ざぁっと。春風が吹く。
それは冬のような冷たい風ではなく、春の訪れを知らせてくれる温かい風であった。
そして。
その風に乗って届く声があった。
「綺麗な場所だねぇ~」
その声は僕の後ろから聞こえた。女の子の声だった。
多分、声の主もまた僕のように桜の木に寄っかかりながらくつろいでいるんだろう。
「……そうだね」
僕は適当に相槌を返した。
「どうして平日の真昼間にこんなところに? もしかしてサボり?」
「……単に卒業式なだけだよ。昼間に終わったからここにきてるだけ。そういう君こそこんな平日の昼間にどうしてここにいるんだ?」
「んー、気づいたらここにいたって感じかなぁ」
「なんだそりゃ」
適当に歩いてたらここに辿り着いたんだろうか。
「どうだったの? 学校生活は」
「別になんてことはないよ。授業受けて、そして帰るだけ。そんな変わり映えのしない無限ループの生活だよ」
「寂しい学校生活だね」
くすりと笑う声がした。
「ほっといてくれ」
顔を逸らしながら僕はそう言った。
「就職? それとも進学?」
「……進学だよ、僕はまだ中学生だ」
「中学生終わってるけどね」
「卒業式が終わっただけで卒業はまだしてないよ。三月の三十一日までは僕は中学生だ」
「揚げ足を取らないでよ」
「取ってるのは君だ」
「ふふっ……」
なにが面白いのか、女はくすくすと笑っている。
「中学生なのに随分と大人ぶるんだね。私が年上だったらどうするの?」
「すぐに敬語にする」
「残念、同年代だよ」
「なにが言いたいんだ……」
なんだか話していると頭が痛くなってくる。
「さて、それじゃあ私はそろそろ」
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「さぁ、どうだろうね。あと、貴方の名前を教えてもらってもいい?」
言うかどうか迷ったが、別に言っても言わなくても変わらないだろうと考えた僕は自分の名前を口にする。
「……奈羅誠(ならまこと)」
「ふふっ、変な名前」
「う、うるさい! 僕だってこの名前にコンプレックスを持ってるんだ!」
声を荒げたあと、僕は問う。
「そういう君はどんな名前なんだ」
「小夜曲ユキ(さよきょくゆき)」
そうして遠ざかっていく足音。
「変な女だったなぁ……」
……と、残された僕はそう呟いたのだった。
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