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24章 体育祭

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今日は体育祭である。関都も城之内も気合いが入っていた。勿論、慈美子もである。3人はグランドの隅で準備体操をしていた。
 そして、ウォーミングアップをしながら、慈美子は城之内の元に向かった。

「今日はお互い仲間同士ね」
「一時休戦と行きましょうか?」

 そう。体育祭はクラス対抗であるから、城之内も慈美子も互いに協力し合わなければならない。2人は停戦協定を結び、固く握手した。
 2人の間には強い風が吹き、2人の長い赤髪を大きく靡かせていた…。

 そして、いよいよ、体育祭が始まった。最初の種目は2人3脚である。奇しくも城之内と慈美子がパートナーである。お互い、相方が欠場したのだ。当日結成の即興コンビである。

「わたくしのペースに合わせてちょうだい!いいですわね?」
「ええ。分かったわ」

 一時休戦している慈美子は、素直に城之内の言う事を聞いた。その台詞を聞いた城之内は余裕の笑みを浮かべている。
 そして、いよいよ2人の番である。スタートを知らせるピストルの音が「バーン」となり響く。

「いきますわよ!」
「ええ!」

 1歩目で2人は派手にずっ転んだ。2人とも顔からずっこけ、顔面を強打した。2人の息はピッタリズレていた。城之内は顔を押さえながら、同じく顔を押さえている慈美子に激怒する。

「ああん!わたくしの美しい顔をどうしてくれますの!?」
「それはこっちの台詞よ!」

 2人はそれからも何度も何度もバランスを崩して転んだ。2人とも進行方向がズレているのだ。これぞまさしく足の引っ張り合いである。
 2人は相方を引きずるように前に進もうとした。もはや息を合わせるのを諦めていた。

「困ったなぁ…」

 頭を抱えているのは運営委員会である。2人があまりにももたもたしていてもう10分近くも経っているのだ。
 そんなプレッシャーをものともせず、2人は11分9秒でようやくゴールした。城之内は完走を喜ぶ感想を口にした。

「わたくしのお陰ですわね!」
「よく言うわよ。あなたのせいで20回以上も転んだじゃない!」
「それはあなたのせいですの!」

 2人は醜い言い争いをした。まるで子どもの痴話げんかである。しかし、慈美子はすぐに気を取り直して、冷静になった。今日は城之内も大事な大事な仲間なのである。

「私も悪かったわ。ごめんなさい…」
「ふん!分かれば良いんですの!」

 慈美子の方が少し大人だった。一方で、城之内は全く大人げなかった。城之内には慈美子が仲間と言う意識が全く無いのだ。ただ同じチームくらいにしか思っていないのだ。
 お次は借り物競争である。また、城之内と慈美子は一緒の列だった。個人戦なので仲間ではあるがライバル同士である。

「負けませんわよ!」
「私だって!」

 慈美子が城之内にそう言い返すと2人は黙って待機する。そして、いよいよ2人の番が回ってきた。2人はスタートダッシュに失敗し最下位を争っていた。何を隠そうこの2人は元々足が遅いのだ。
 2人は他の皆に遅れ、ほぼ同時にお題が書かれている紙をめくった。そして、2人は見学席で見ている関都の前に走って行った。

「関都くん!彼方が借りものよ!」
「関都さん彼方が借り物ですの!」
「私が先よ!」
「いいえ!わたくしが先ですわ!」
「私の紙には『金髪の人』って書いてるの!」
「わたくしの紙には『長身の男子』って書いてますの!」
「なら僕じゃなくても他にも何人かいるじゃないか」
「いいえ!彼方じゃないと駄目なのよ!」

 戸惑う関都に、2人は声を揃えてそう言った。それを聞いた関都は何かを決心した様子で、見学席の敷居をまたぎ、2人の手を取った。

「なら僕1人でお前たち2人の借りものになってやる!」

 関都は2人の手を掴んで、2人引きずりながらゴールに猛突進した。関都はリレーの選手でもあり、足がとても速いのだ。関都は他の選手を抜き去り、城之内と慈美子は見事同着1位を果たした。

「やったな2人とも!」
「これは計算外でしたの…」
「私も…」

 しかし、次の徒競走でも早く喰い競争でも城之内も慈美子もビリになってしまった。そして、個人戦の種目は全て終わった。慈美子たちのE組は暫定1位であった。
次は団体戦である。団体戦最初の種目は綱引きだ。

「行きますわよ!親衛隊の皆様!」
「ええ!」
「最初が肝心ですわ!」

 城之内には秘策があった。城之内は自信満々で綱引きに臨んだ。相手は2位のA組である。順位が近いもの同士の組み合わせになるのだ。
2つの組が位置に付くと、スタートの空砲が鳴った。
E組はスタートでリードする事に成功し、綱を自陣に引っ張りこんだ。城之内の狙い通りである。対するA組も必死に引っ張り返そうとするが拮抗して動かない。ロープはそのままビクともせず、終了の合図が鳴った。最初にリードした差でE組の勝利である。
 城之内は三バカトリオと勝利を称え合う。

「わたくしの靴のお陰ですわね!」
「本当だわ!さすが世界一のスパイクだわ!」
「なんて言ったって極寒地用のスパイクですもの!」
「このスパイクの前では勝てっこないわね」

 そう。城之内と三バカトリオは城之内が用意した冬用のスパイク付きの靴を着用していたのだ。世界一の滑り止めを謳うブランドの靴だ。4人の靴が綱引きで有利に働いたのは間違いないが、これだけで勝てたわけではない。しかし、城之内は自分の買った靴のお陰で勝てた、そう信じている。
 次の大縄跳びでもE組は1位になり、お次は玉入れである。城之内と慈美子はまたしても同じグループだった。

パーン!

スタートのピストルと共に玉入れが開始した。皆一斉に球を籠に投げ入れた。しかし、城之内だけは違った。慈美子の顔面目掛けて玉を投げつけた。ボンッ!と音が鳴って慈美子の顔面に球が激突した。

「ごめんあそばせ!」

 慈美子は城之内の顔面に投げ返したかったが、今日は大切な仲間同士である。冷静に城之内を説得した。

「こんな事をしてる場合じゃないでしょう?優勝したくないの?」
「そうでしたわね…。一応言っておきますけれどさっきのは、わざとじゃありませんでしてよ!」

 そう言い訳しながらも城之内も一生懸命、籠を目掛けて球を投げ始めた。城之内は慈美子の事は仲間だとは微塵も思っていなかったが、優勝したい気持ちは城之内も一緒であった。城之内はおふざけをやめ、ついに慈美子とも一致団結した。
 そして、またしてもE組が1位となった。次はリレーである。E組のアンカーは勿論関都である。

「アンカーなんて流石に緊張するよなぁ・・・」

 ピストルの合図とともにリレーが開始された。城之内と慈美子は見学席で大人しく見守っていた。リレーは激しくデッドヒートしていた。そして、いよいよアンカーである。関都は1位でバトンを受け取り、順調にスタートダッシュした。かに思えたが、なんと靴が脱げてしまった!靴は後ろに転がっていく。その隙に次々と他の選手に抜かされていく。関都は不慮の事故に一瞬フリーズしてしまう。その時、関都の目にあるものが飛び込んできた。

「関都くぅ~ん!!!!!!がんばって~!!!!!」

 慈美子である。お手製のボンボンを手に慈美子は見学席で1人でチアリーディングしていたのだ。関都を応援するためだけに持ってきていたのである。その光景を見た関都は思わずリラックスし、冷静さを取り戻した。走りながらもう1つの靴を足で脱ぎ捨て、ゴール目掛けて猛ダッシュした。靴を拾いに行って、履き直すより、もう片方も脱いでしまったほうが早いと冷静に判断したのだ。

「うおおおおおおおおおお!!!」

 雄叫びと共に、関都は飛ぶように走り続けた。まるでチーターのような俊足である。その速さに他の選手は逃げきれず、次々と追い越されていった…!
 関都は1位でゴールし大逆転勝利した。

「ありがとう。慈美子…またお前に救われたよ…」

 関都は靴を拾いに行きながらそう呟いたが、E組の歓声でかき消されてしまっていた。E組は大喜びである。まだ種目が1つだけ残っていたが、もうE組の優勝は決まってしまった。
 最後の種目は騎馬戦だ。城之内も関都も慈美子も1番上の選手である。
 ピストルの合図とともに最後の勝負が繰り広げられた。

「いくわよ~!」

 そう言いながらも、慈美子は積極的には攻めず、味方が大勢いる周りに付き、身を固めた。仲間同士で固まって身を守り、隙を見て後ろから敵の帽子を奪う作戦だ。卑怯臭いが堅実な作戦である。
一方で城之内はとにかく逃げ回っていた。人の居ない方人の居ない方に逃げ、端の方に気が付かつかれないように立ち止まってじっとしていた。城之内の下の選手は三バカトリオであり、完全に城之内の意のままであった。

「やり~!!」

 関都は積極的に敵の帽子を奪っていた。もう3つも帽子をはぎ取っている。しかし、関都の後ろに敵が迫っていた。A組のエースチームである。それに気が付いていた関都は防御姿勢になる。
 次の瞬間、背後から帽子が取られてしまった!

「やったわ!」

 帽子を取られたのはA組のエースである。背後から忍び寄る慈美子に気が付かなかったのだ。そんな慈美子の背後にも不敵な影が迫っていた。

ドン!

 慈美子は突如背後から体当たりされて突き落とされてしまう。押したのは何と仲間であるはず城之内であった。勿論わざとである。
 慈美子は顔面を擦り付けるながら遠くまで飛ばされた。慈美子の顔は傷だらけになり、鼻血も出ていた。そして両足の膝小僧もすりむいていた。
 城之内の騎馬は走って慈美子に駆け寄った。

「どうしてこんな事を…。仲間同士なのに」

痛みに苦しみながら慈美子は絞り出すように聞いた。城之内は慈美子にだけ聞こえるように言い放った。

「わたくしも優勝したかったから協力してましたけれど、もうこの勝負がどうなろうと優勝は決まってますの!ならもう協力する理由はないんじゃなくって?共通の目的は無くなったのですから」

 城之内がそう言い終えると、慈美子が飛ばされた衝撃で転んでいた慈美子の騎馬チームが慈美子を心配して走ってきた。それに気が付いた城之内は皆に聞こえるように大声で謝罪した。

「ごめんあそばしまし!ついよろけてぶつかってしまいましたの!地味子さん!お怪我はありません?」

 城之内は白々とそう言いのけた。慈美子のチームが駆け寄ると、それよりいち早く駆けつけていた人物がいた。

「関都くん!?騎馬から降りてもいいの!?」

 慈美子の元にいの一番で駆け付けたのは関都であった。しかも、まだ帽子をかぶっていた。関都はまだ失格になっていなかったのに、騎馬から降りてしまったのだ。

「そんな事を言っている場合じゃないだろ!血だらけじゃないか!」
「でも関都くんが居なかったら…」
「お前の事が心配で仕方なかったんだ。それにこの勝負どうせ負けても優勝は決まりだ」

 棄権した関都は慈美子をお姫様抱っこで抱えてグラウンドを退場した。保健室に向かったのだ。
 その姿に怒り心頭の城之内であった。

(まぁ!関都さんに抱きかかえられるなんて図々しいですわ~!)

 優勝が決まっていた故の城之内の嫌がらせは、優勝が決まっていた故に関都の善意によって完全に裏目に出てしまったのだった。
 慈美子は関都に誠意精一杯のお礼を言った。

「関都くん…ありがとう…」
「お礼を言うのは僕の方だよ。今日はまた助けられたからな。そのお返しだよ」

 こうしてE組の優勝で、体育祭は幕を閉じた。関都はMVP選手に選ばれたが、閉会式には居なかった。
 慈美子を親身に看病していたからである。

(幸せ…!)

 そう思う慈美子であった。
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