美女と大鬼

日本のスターリン

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美女と大鬼

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 昔々、あるところに、3人の娘と3人の息子を持つ商人がいました。妻を若くして亡くしており、シングルファザーでした。
そんな商人は人里離れたド田舎に出張する事になりました。子どもたちは旅行のお土産をねだりました。末っ子のベルは、チューリップの花束をお土産に頼みました。ベルの二人の姉はそれぞれパラソルとレースを頼みました。ベルの3人の兄はお土産は要らないので、代わりに現金を先渡しで貰いました。こうして商人は子どもたちを残し、馬に乗って出張に出かけました。

 ベルは読書が大好きな女の子でした。容姿端麗でいつも男たちの注目の的でした。村一番の二枚目のガストもベルに惚れていました。ガストは今日もベルに話しかけに来ました。

「やあ!ベル!」
「ごきげんよう」
「明日、僕とデートしないか?」

 ガストは単刀直入に切り出しました。しかしベルの態度はそっけないです。

「悪いけれど、用事があるの」
「じゃあ、明後日は?」
「忙しいの」
「じゃあ明々後日は?」
「都合が悪いの」

 ガストは度々ベルをデートに誘っていましたが、イエスと言われた事は一度もありません。痺れを切らしたガストがベルに問い詰めました。

「君はいつ聞いても用事があるじゃないか!一体いつなら空いているんだ?そんなに僕とデートするのが嫌か?そんなに僕の事が嫌いか?」
「彼方の事は嫌いじゃないわ。でもどうしても好きにもなれないの」
「なぜだ?」

 ガストはベルの本音を聞き出そうとしました。ガストは気さくで美形で、村の女にもモテモテでした。しかし、ベルだけは違ったのです。ベルは素直に答えました。

「だって彼方は本を読まないじゃない!力自慢だけれど知性も教養もないわ!」

 女性に拒絶された事の無かったガストはショックを受けました。ガストは剣の腕が立ち、力持ちではありましたが、本は嫌いで一切読んだことがないのです。典型的な脳筋で頭が空っぽなのであります。
一方、商人は出張の旅先で遭難してしまいました。

「参ったな。猛吹雪で凍えそうだ」

 困った事にそこは人が通らない獣道でした。辺りを見回しても誰も居ません。商人が道に迷っていると、荒地にポツン立っているお屋敷が目に留まりました。

「やった!助かったぞ!」

 商人は大喜びでお屋敷に馬を走らせました。庭に入ってみると驚いた事に、その敷地だけ春と夏の中間のような快適な温度で、すがすがしいそよ風が吹いていました。

「こりゃあ。たまげた」

 商人は驚きながらも、家主に挨拶をしに行きました。商人は玄関をノックしました。しかし、誰も出てきません。

「廃墟なのかなぁ?」

 お屋敷は大層立派でしたが、蜘蛛の巣だらけで薄汚れていました。しかし、戸締りはしっかりされていて中には入れません。
 商人は、玄関の階段に腰を掛けて一休みし、体を温めました。そして、十分に休憩をとったので帰ろうと思いました。その時、庭に無造作に生えているチューリップに目が留まりました。

「おお!こんなところにチューリップが自生しているなんて!そうだ!ベルのお土産に持って帰ろう」
 
 商人はチューリップをチョキンチョキンと切って10本摘みました。すると玄関の扉が突然開き、中から怪物がでてきました。

「何をするんだ!」

 出てきた怪物は、般若のような恐ろしい形相にフサフサの白い髪から真っ黒な角が2本生えた大鬼の男でした。

「せっかく休ませてやったのに、花を盗むとは何事だ!!!」

 商人は大鬼に捕まってしまいました。商人は牢獄に入れられました。商人は大鬼に懇願しました。

「私には子どもが6人も居るんです。どうか子どもたちに手紙を書かせて下さい!」
「良いだろう。オラも鬼じゃない」

 商人は血の文字で、自分がチューリップを盗もうとして大鬼に捕まってしまった事を書き綴りました。そして、その手紙を馬に乗せ、馬を放ちました。
 馬は無事に商人の家にたどり着きました。しかし3人の息子たちは貰った金で世界一周の長旅に出ており、不在でした。残されていたのはベルと意地悪な姉たちの3人だけでした。

「ベルがチューリップなんて頼むからパパが捕まったんじゃない!」
「ベルが助けに行くべきよ!」

 二人の姉にせがまれなくても、心優しいベルは父を救いに行く気でした。ベルは馬を走らせ、父の元に向かいました。
 ベルは手紙に書かれていたお屋敷を発見し、玄関に向かいました。すると玄関は開いていました。

「パパぁ!パパぁ!どこなのぉ!?」
「その声はベルか?パパはここだ~!」

 ベルは声のする方に駆けていきました。すると牢獄に閉じ込められた父の姿を目の当たりにしました。

「パパぁ!」
「ベル!」

 二人は檻越しに抱き合いました。それを見ていた大鬼はこう言いました。

「その爺さんはもう一生ここから出られない」

 ベルはその声に振り向きました。ベルは大鬼の恐ろしい形相に悲鳴を上げました。しかし、父の為に勇気を振り絞ってすぐに言い返しました。

「チューリップを盗もうとしただけで終身刑だって言うの?」
「1本5年。10本盗んだから禁固50年だ」
「パパは今50歳よ!50年後は100歳じゃない!」
「そうだ。だから一生出られない。出たければ長生きする事だ」
「そんなのあんまりだわ!」

 ベルは恐怖心を噛み殺し、大鬼の理不尽さを批判しました。しかし、大鬼は譲りません。

「あれは特別なチューリップだ。雑草のような強い生命力を持ち、球根を撒いただけで世話を一切しなくても勝手に自生する。しかも1年中咲いているのだ」
「分かりました。父にチューリップのお土産を頼んだのは私です。私が父の身代わりになります!」

 ベルは父を救うため、父の身代わりを申し出ました。大鬼はその言葉に酷く喜びました。

「良いだろう。オラも囚われの身は美人な娘の方が良い。その代わり刑期は終身刑になるぞ」
「ええ!構いません!パパを救えるなら!」

 こうしてベルは父の代わりに牢獄に閉じ込められました。そして父親は解放されました。

「待っていてくれベル!必ず助けを呼ぶからな!」

 父親は急いで村に戻り助けを求めました。

「誰か、助けてくれ!娘が大鬼に捕まってしまっているんだ!」
「なに言っているんだ。こいつ」
「あんたばかぁ?」

 村の人は大鬼の事など話しても信じてくれません。それでも父親は必死に助けを求めました。

「誰か大鬼を退治しに行って、娘を助けてくれ!」
「何を言っているんだ。大鬼なんて居るわけがないのに」
「頭が変になっちゃたのね。お気の毒に」
「まだお若いのに。かわいそうに」

 父親は村中から変人扱いされてしまいました。しかし、一人だけ違いました。ガストです。

「おじさん!僕はあなたの話を信じます!」
「おおお!娘を助けに行ってくれるか?」
「勿論です!誰も信じないなら僕一人ででも大鬼を退治して見せます!」

 ガストは父親から馬を借り、ベルの救出に向かいました。
 一方、ベルは牢屋でお腹を空かせていました。そんなベルを見て大鬼が食事に誘いました。

「一緒にディナーでもいかがかな?」
「監禁しておいて食事に誘うって言うの?彼方と一緒に食べるくらいなら飢え死にした方がマシよ!」

 ベルは激怒しました。しかし、ベル以上に大鬼は大激怒しました。

「勝手にしろ!一緒に食べる気がないなら食事は一切与えない!」

 ベルは水だけで空腹を凌ぎました。水道だけは牢にも付いていたのです。
 数日たってもベルは一向に食事を摂ろうとしません。頭にきた大鬼はついに水道も止めてしまいました。

「わかりましたわ。ごめんなさい。一緒に食事させて下さい」

 脱水症状を起こしたベルは薄れゆく意識の中でついに根負けしてしまいました。ベルは大鬼と食事をしています。ベルの食事は、いきなり食べても胃を壊さないようにおかゆと卵味噌でありました。大鬼は意外にもベルの事を考えていたのです。

「ごちそうさまでした」

 すると大鬼は台所から大包丁を持ってきました。

「彼方、まさか私を食べる気じゃないでしょうね!」
「そ、そんなことしないよ」

 大鬼は強く否定しました。こう見えても大鬼は人を食べるようなことは決してしないのでした。

「逃げ出さないように両足を切断しようと思ってな」

 大鬼は悪びれる様子もなく、平然とそう言ってのけるのです。ベルは青ざめました。

「一瞬で終わるからなぁ。動くなよ。動くとかえって痛いぞ」

「パンチの打ち方を知っているか?」

 その声に大鬼が振り向くと、大鬼の頬にパンチが飛んできました!
 ガストが屋敷に忍び込んで大鬼を倒しに来たのです!
 大鬼は殴り飛ばされました。大鬼は頬押さえながら立ち上がります。

「ほっぺが痛てぇ~」

 痛がる大鬼にガストは日本刀を差し出しました。

「神妙に勝負だ!」
「望む所!」

 ガストの手には差し出した日本刀とは別に同じ日本刀がもう一本握られています。

「ただし、オラが使うのはそっちの刀だ」

 大鬼は、ガストが差し出していない方の日本刀を指さしました。

「良いだろう。どっちも同じ剣だ」
「本当にそうか?」
「用心深いな」

 二人は表に出て屋根の上に上り、お互いに剣を構えました。屋根の上を決闘の場に決めたのです。ベルは勝負の行方を見守ります。

「いくぞおおおおお!!!」

 大鬼はガストに斬りかかりました。

バシィィィィ~~~~~~っ!!

 勝負は一瞬で着きました。大鬼の刀はガストの刀に叩き落とされてしまいました。大鬼の剣は屋根の下に落ちていきました。
 ガストは大鬼に斬りかかろうとします。

「ゆ、許してくれ!」

 大鬼は命乞いをしました。ガストは大鬼を睨みつけます。

「大人しくベルを解放するか!」
「するする!なんでもする!」
「よし」
 
 ガストは剣を鞘に納めました。その瞬間、大鬼は懐から拳銃を取り出しました。それに気づいたガストは慌てて剣を抜きます。

バキューン!!!

「パンチの打ち方を知っているかって?」

 しかし、間に合いませんでした。ガストは拳銃で胸を撃たれてしまったのです。衝撃でガストは倒れ込みます。

「パンチの打ち方より拳銃ガンの撃ち方の方が大事だろ!」

 大鬼は勝ち誇ったようにそう言い放つとベルの方に向かおうと背を向けました。

グサッ!!!
 なんと!起き上がったガストは背後から大鬼の背中を刺したのです!
 大鬼は悶え苦しみながら、足を崩しました。そして、そのまま屋根の上から真っ逆さまに転落していってしまいした。
 ガストの勝利にベルは安堵します。それと同時に不思議に思いました。

「ガスト!どうして無事だったの?」
 
 ガストは胸から分厚い本を取り出します。ガストの胸に入っていたこの分厚い本が、拳銃の弾を受け止めていたのです。

「君に言われて僕も本を読むようになってね。今ハマっている本がこれだったんだ」

 そうです。ガストはあれから一所懸命本を読みこんだのです。そして、ガストはいつのまにか読書の楽しさが分かるようになりました。最初は薄い本ばかり読んでいましたが、次第に厚い本も読みたくなっていったのです。

「本を読む様になったおかげで銃弾から身も守れた。君のお陰で僕の命は救われたんだ」

 ガストはベルに感謝しました。ベルは嬉しそうです。ベルは助かっただけでなく、ガストが本を好きになってくれた事も嬉しいのでした。

「私も彼方に救われたわ。あなたが大鬼の魔の手から私を救ってくれたのよ」

 二人は抱き合い、熱い接吻をしました。そして、二人は一緒に村へ帰って行きました。

「ベル!無事帰って来てくれたか!」

 父親は大喜びしました。ベルも嬉しそうに再会を喜びました。

「ええ!そして、これが未来の旦那さんよ!」

 ベルは幸せそうにガストを紹介しました。やがて、2人は結婚し、末永く幸せに暮らしましたとさ。

 めでたし、めでたし。
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