僕のレークス

Kyrie

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012. キス・マウス - Side B -

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1年11月

***

見事な快晴、秋晴れ!
授業なんて受けてないで、チャリでどっか行きたいなぁ。
スポーティーな自転車ではないけれど、自分が漕げばどこまでも行ける自転車が気に入っている。
まぁ、そうも言ってられないので、俺は自分の机と前の机を向かい合わせにくっつけた。


「靖友くん、はい、いちごみるく」

「サンキュー!」

昼を購買に買いに行く藤堂がおつかいをしてくれるというので、俺は遠慮なくいちごみるくを頼んだ。
最近、いちごみるくにハマっている。
薄いぴんくのかわいくて甘い飲み物だ。
俺は藤堂に代金を渡す。
藤堂はそれを財布に入れて、自分が買ってきたパンを机に並べ始めた。

焼きそばパン、メロンパン、シナモンロール、そして麗しのいちごみるく!

「お、藤堂もいちごみるくじゃん!」

「うん、僕も飲んでみたくなったから買ってみた」

そうだろう、そうだろう。
こんなにかわいい飲み物はない。

「待ってくれて、ありがとう。
お昼食べようよ。
お腹すいた~」

こういうの、「いいなぁ」と思う。
藤堂は「待たせてごめん」と言うより「待ってくれてありがとう」のほうをよく言う。
どっちも言いたいことは同じなんだと思うんだけど、俺は「ありがとう」と言われるほうが好きだ。

さ、まずは愛しのいちごみるくから!
俺は紙パックにストローを刺し、ずずーっと吸う。
人工香料なのはわかっているけれど、どうしてこうかわいいんだろう、魅惑のいちごみるくちゃん。

「はぁ、おいし」

んん?

最初の一口をうっとりして飲み込んだ俺が見たのは、あの目元も凛々しい美少年剣士の藤堂がでかい口を開けて、焼きそばパンにがっつり食いついている姿だった。

「藤堂…」

「ん?」

「美少年剣士が焼きそばパン…
いろいろ期待を裏切ってくれるよな…」

「どういう意味?」

どういう意味?、じゃないだろ。
本人無自覚だけど、男くっさい男子校で雰囲気のある藤堂は結構注目されている。
それも一部では「クール・ビューティー」といった単語もちらほら囁かれている。
割と細身で切れ長の目をしている美少年剣士に合うのは、もっとお上品なものだ。
焼きそばパンじゃない、断じて!

「どう考えても、藤堂ならオシャレなサンドイッチだろ、焼きそばパンじゃなくて」

そうだそうだ!
それならしっくりくる。
それも普通のサンドイッチじゃなくて、ライ麦パンや黒パン、あるいはクロワッサン、ベーグルにスモークサーモンだのを挟んだヤツだ。
おまえ、絶対そっちだろ。

「よくわからないけど、僕は焼きそばパン好きだよ。
しっかり食べておかないとお昼からお腹空くし」

そうなんだよ、美少年剣士はこれでもわりかしがっつり食うんだよ、俺ほどじゃないけど。

「ああ、美少年剣士が焼きそばパン…」

「なに言ってるの、僕は平凡な男子高生。
長身のカッコいい靖友くんがかわいいいちごみるくを飲んでめろめろになっているほうが、意外性があるよ」

真顔で言うな、藤堂。
俺たちはお互いに「そのギャップをなんとかしろ」と話しながら、俺は自分の弁当を食べた。
藤堂はテンポよく全部のパンを食べ終えると、いちごみるくのパックにストローを刺し、ちゅっと吸った。

うわ…

「ん?」

藤堂がストローから口を離し、小首をかしげながら俺を見る。
気がついたら、俺は箸を持つ手を止めていた。

「藤堂、おまえ…」

「?」

「いちごみるく飲むの、似合うのな」

「なにそれ。
靖友くんのほうが似合っているよ、僕はあんなふうにめろめろにならないし」

藤堂は笑いながら、また一口、飲んだ。

「唇が…」

「?」

「かわいいピンクのいちごみるくのストローを吸う唇がエロい」

日焼けしにくい藤堂の唇はいつもちょっと濃い目のぴんく色をしている。
その唇が薄いぴんくのかわいいいちごみるくを吸い上げる。
食事が終わったばかりのせいか、藤堂の唇は普段より濡れている。
エロい。
これがエロい、と言わずしてどうする。

藤堂は盛大に噴き出して、大笑いし始めた。

「なんだよ、それ~っ!」

いや、それこっちのセリフだから。
なんだよ、そのえっちな唇は!
けしからん!
父さん、おまえをそんなコに育てた覚えはありませんよ!

「あ、でも靖友くんもそう言うんだ。
もしかしたら唇が僕のチャームポイントかもしれない」

「はぁ?」

「レネがこの間言ったんだ。
『真人はキス・マウスを持ってるんだね』って。
意味がわからなくて聞いたら、『思わずキスしたくなる唇』のことみたい」

ぎゃーっ!
突然なに言い出すのっ、この美少年剣士!

「おまえ、今、さらっと盛大にノロケたな」

「え、そう?
ごめん、いやだった?」

「そうじゃないけど」

キス・マウスって!
思わずキスしたくなる唇って!
さすがだよ、レネさん。

これまで何回か藤堂を校門まで迎えに来ているけど、あれってすっごい牽制しているよなぁ。
レネさんも自覚があるのかどうかわからないけど、めちゃくちゃ自然に藤堂を抱きしめていて「誰もそこには入っていけません」って空気を作っているし、見せつけてくれてるもんなぁ。

って、あれ?
キス・マウス?
思わずキスしたくなる唇?

「そんなことを言う、ってことはレネさんとキスしたんだ」

「あ、うん。
先月の誕生日に」

「へー。
どうだった?」

「キスってすごく気持ちいいものなんだね、靖友くん」

さらっとうっとりしながらそんなこと言わないでください、藤堂さん。
いや、聞いたのは俺だよ。
悪かったよ!

「そんなの知らねーよ!
したことないし!
ああ、俺も恋人がほしい。
そして藤堂相手にさんざんノロケてやりてー!」

「うん、楽しみに待ってるからね」

嫌味が効かねぇのか、藤堂。
いい性格してるじゃないか。

「……お、おう。
で」

なら、聞いてやるよ、とことんな。
俺が声を潜めたので、藤堂が顔を近づけてくる。

「そっから先はどうなった?」

「そっから先?
せっく…うがっ」

ばっ、ばかっ!
俺は慌てて藤堂の口を手で塞いだ。

「だから美少年剣士がそんなことをあからさまに言うんじゃありません!」

おまえ、今、思いっきり…………って、言おうとしただろっ!
いくら優しい父さんでも、怒っちゃうぞ!

俺は目で「めっ!」と怒って、おとなしくなった藤堂から手を離した。

「そっから先、はまだだよ」

「えーっ!」

なんで?
あの「大人の男のフェロモン」をまき散らしているレネさんが。
藤堂を猫かわいがりしているレネさんが。
藤堂なんて一口で食べそうなレネさんが。
まだ??!!

大丈夫なの、君たち?
父さんは心配だよ。
「恋人」とか言っておきながら、夏休みに1か月以上離れ離れになっていて「平気」と言ったり、俺の心配をよそに藤堂は呑気に「レンタカーで冒険なんていいよね!僕たちも免許取ったら冒険に行こうね!」と無邪気に誘ってくるし。
もちろん、免許取ったら冒険に行きますとも!
だけど、ねぇ。
本当に大丈夫なの?

藤堂もさぁ。
俺、思わず受け取ったけど、チャリキーのストラップ、藤堂と色違いの猫ちゃんだぞ。
レネさん、怒らないの?

「な、藤堂、近いうちに俺んちに泊まりに来いよ」

「うん、いいけど」

「おまえの思う存分ノロケ話を聞いてやる。
学校じゃ、藤堂のストレートすぎる言葉が危険すぎて聞けない」

突然、セ………とか言い出すから、学校じゃ聞けないし。
父さん、心配だから話を聞いてやる。
なんでも父さんに話しなさい。

「靖友くんが聞きたいだけじゃないの?」

「悪いか?」

「ふふふ、いいよ。
大して話せることもないけど」

うっわぁ、ヨユー発言だぁ!
案外、すっごいエロ話になるんじゃないよな?

「恋人がいない俺にはそれぐらいで丁度いいのっ」

「そう?」

不意に何を思ったのか、藤堂がぴんくの唇をちゅっと突き出してきた。

は?!

「キス・マウスの威力を見るがいい!」

ぎゃあああああああっ!
父さん、本当にこんなはれんちなコに育てた覚えはありませんよっ!
それ、キス待ちだからっ!
藤堂の唇はいちごというよりさくらんぼだ。
普段、表情をあまり崩さずクールなイメージのある藤堂がこんなかわいいことをしたら、くらっとしてしまうでしょう!
そんなことを無防備に俺じゃないヤツにやって「ちゅっ」ってクチビルを奪われたらどうするんだ!

「と、藤堂っ、それレネさん以外にやったらだめ~!!!」

「はーい」

藤堂はくすくす笑いながら返事をした。
もしかして藤堂、小悪魔?

俺の心配を知ってか知らずか、藤堂は「それでいつにする?」と泊まり計画を考え始めた。
ふふふ、このときには父さん、説教するからな!





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