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第29話 三条院(3)
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もぞりと布団の中であの人が寝返りを打つ。
今夜も眠れないのか。
隣りで寝ている私は心配をするが、そのまま寝たふりをする。
私が起きたと知ると、きっとキヨノさんは別に寝ると言い出しかねないから。
桜の木の下でささやかな祝言を挙げてもう小一か月が経つ。
その前にも「好きになる努力をしてもいいですか」と健気なことを言い、この人は私をどうにかしたいのかと思った。
祝言の日の夜、私はキヨノさんにもっと深いキスをした。
初めて深いキスをしたときには、級だの段だの言い出して、その発想が面白くて、その反応が愛くるしくて、自分が考えていたよりも長く舌を絡めてしまった。
キヨノさんは驚きはしたものの、嫌そうではない。
気持ちよさも感じてはいないようだけれど。
祝言を挙げると覚悟が決まったのか、それまでよりももっと私と二人でいることに緊張したり困った様子を見せたりすることが減った。
ご本人は気がついていらっしゃらないようだが、ハグも私が腕を広げるより先にキヨノさんが腕を広げてくれることも増えてきた。
小さなことだけれど、そんなことが嬉しい。
愛だの恋だのとは程遠いのかもしれない。
あの人はそういうものに関心があるのだろうか。
ごそり、と布団に空間ができた。
キヨノさんはベッドから抜け出してしまった。
今宵はおつらそうだ。
私も理由なく眠れないこともあるので、そっとしてはいるが、キヨノさんがベッドから出ることはなかった。
ぱたり、とドアが閉まる乾いた音がした。
どうやら寝室を出て隣のキヨノさんの部屋に行ったようだ。
私もそっと身を起こし、後をついていく。
キヨノさんの部屋と私の部屋は廊下に出なくても行き来できるように、ドア一枚でつながっている。
呆気ないほどの簡素な部屋だが、ここで過ごすことはないから、とキヨノさんは調度を揃えることにうなずかない。
それならそれでもいいかと、お気持ちに添えるようそのままにしておいた。
あるのは一人用のベッドと小さな机くらいだった。
壁紙もこの部屋で過ごす人の好きにすればいいと思い、一番最初に貼ったあっさりとしたベージュのままだった。
ぽすんと音がした。
キヨノさんがベッドに自らが倒れ込んだようだ。
白い寝間着のキヨノさんがうつ伏せに寝ている。
「どうしました。眠れませんか」
私は囁くような小さな声でキヨノさんに話しかける。
驚くキヨノさんの肩をそっと押し、そのまま倒れておくようにするとキヨノさんはそれ以上はなにもせず、うつ伏せのままになっていた。
私はベッドに腰掛け、キヨノさんの短く硬い髪にふれ、なでた。
「最近、眠れないことが続いていますね」
「はい」
「なにか困ったり、気がかりなことがあったのですか」
「なにも、ないです」
中川と藤代からの報告でも、シノとの会話の中でも特別なことは聞かない。
祝言を挙げるまではちくりちくりと嫌味を言われ続けたが、最近はそれもほとんどなくなっていた。
「昼寝をしていますか」
「お昼ご飯のあと、少し」
「そうですか。少しでも日中に眠れるのならよかった。
一体、どうしたんでしょうね」
「なんか、熱い」
「熱い?
お熱ですか」
私は慌ててうつ伏せになっているキヨノさんの額に手を挿し込む。
私より少し体温は高いが、いつものキヨノさんの体温だと思う。
「なんか、苦しい」
「え。それは。
明日、医者に診てもらいましょう」
「そんなんじゃなくて。
でも、よくわからなくて」
キヨノさんは「はぁぁ」と大きな溜息をついた。
む。
その溜息はひどく熱かった。
この季節の、この年頃の、この眠れなさと、この熱さ。
「あの、キヨノさん」
「はぁ」
掠れた返事は妙な熱を持っている。
おそらく。
「もしかしたらお役に立てるかもしれません。
私に任せてもらえますか」
「なりあきさま、治せるのですか」
「と思います、おそらく」
「ふ……うん。お願いします」
「キヨノさん」
「はい」
「私がなにをしても怒らないと約束してください。
きっと楽にして差し上げましょう」
「はい」
私はキヨノさんを抱き起すと、ベッドの端に座る私の足の間に座らせた。
不安そうなキヨノさんを後ろから抱き込むようにして、髪をなでた。
「緊張していますか」
「はぁ」
おどおどしているキヨノさんのこめかみにキスをする。
それから首をひねるようにして後ろを向かせ、もう片方の手はキヨノさんがずり落ちないように腹に腕を回した。
私は覆いかぶさり、身を屈め、キヨノさんにキスをした。
「ふぅ?!」
驚いて重ねた唇の間から声が漏れたが、それを合図に私は開いたキヨノさんの口から舌を差し入れた。
最近はキスをするとき不要な緊張は取れてはいたが、今夜はやはり違ったようだ。
身をこわばらせ、固まっている。
私はキヨノさんの太腿に手を滑らせ、裾を左右に割った。
「うぅ?!」
そのまま寝間着の中に手を入れ、足のつけ根に向かってなで上げる。
すぐに木綿の感触が指に伝わってきた。
和装を好むキヨノさんは下着も褌だ。
白い晒にそってなぞる。
よかった、きりきりと締め上げる結び方ではない。
ふわりと余裕を持たせている褌の股間辺りから指を差し入れ、緩く反応しているペニスを取り出した。
唇を離す。
「なりあきさま、やめてっ」
「キヨノさんは大人の男になっているんですよ」
「突然、なに」
「これからすることは大人の男がすることです」
「ふぇ」
「身体が大人になるとあれこれ溜まるんです。
それを定期的に抜かないと、熱が籠って眠れなくなってしまう」
「ふ?」
「やり方を教えてあげます。
お一人でしてもいいし、私ならいつでもお手伝いして差し上げます」
「ひゅ?」
「ここが硬くなったり上を向いたことはこれまでありましたか」
「離してください」
「この反応が合図ですよ。
そうしたら、ああ、まだ皮を被ったままなんですね」
暗闇の中、指で触れる先は幼いふよふよしたものに包まれていた。
「まずは皮をむきましょう」
私は人差し指と親指を使って、先を露出させていく。
「いやです、離して」
「大人になるためだと諦めてください。
恥ずかしいことじゃない。
私だってします」
「なりあきさまも?」
「ええ、もちろん」
「中川さんも藤代さんも?」
「はい。
だからキヨノさんも覚えてください。
こうやって熱を出すことはとても大切なことです。
そしてそう簡単に他人に見せたり触らせたりしてはいけません。
私たちは夫婦なので、してもいいことです」
「ふぇ」
「準備ができたら、握って指を上下に動かしてこすります」
「えっ、んんんっ」
初めて聞く、キヨノさんの色の乗った声。
「これまでこういうことは?」
「し、知らないっ」
「では、ちょっと難しいかも。
慣れればどうっていうことはありません」
「やあっ」
私は力加減を変えたり、速度を変えたりしてキヨノさんの反応を探る。
怯えて不安そうにしているキヨノさんは私の二の腕に逆手で縋りつくように握ってくる。
「どこか気持ちよくなるところがあるはずです」
「ふ?気持ち、いい?」
「そう」
「よくわからな」
キヨノさんは軽くパニック状態になっているが、身体は少しずつ反応を見せている。
「ほら、先が濡れてきているのがわかりますか。
これはいい反応です。
ここからスペルマを出します」
「う?」
「精液ですよ。子種です」
「はああっ?!」
キヨノさんがどれだけ性的な知識があるのかはわかりかねるが、恥ずかしくて身体が跳ねたところを見ると、言葉は聞いたことがあるようだ。
「大人になるとスペルマが溜まってくるんです。
それを吐き出さないと、身体がつらくなる。
それどころか心もつらくなります」
「え、でも」
「こうやってこするんですよ。
たまに、ほら、ここ」
露出した初々しい先端を親指の腹でこすり、鈴口も刺激してやる。
「ふあああっ、ああっ」
「気持ちいいですか」
「やだ、なに、あ、あ」
「硬くなってきたし、先走りもたくさん出てきた」
「え、なに」
「ご自分でさわりますか」
キヨノさんはぶんぶんと頭を横に振る。が、私の手の刺激に翻弄されて、声を上げる。
「なにか出したくなったら遠慮なく出してください。
それはおしっこではないですから」
「え?あ、う、うっ」
キヨノさんの身体が熱くなる。
私の手の動きに合わせて身体を跳ねさせ、腰が蠢き、私の腕を掴む力がどんどん強くなる。
先から出る液体は次第に多くなっていく。
「やっ、やっ、へんっ、あ」
「へんじゃありませんよ」
「な、りあきさまっ」
「くっ」
自分が持っていかれそうになる。
そんな声、これまで聞いたことがありませんよ、キヨノさん。
貴方はどれだけ奥深い。
知らないキヨノさんがどんどん増えていく。
そしてこんな色を含んだ貴方を誰にも渡したくない。
最初は性的なことを知らないキヨノさんに、同性の年長者として教えて差し上げたいという気持ちだけだったのに、自分の欲がむくむくと湧き上がる。
まっさらなキヨノさんを黒く塗りつぶしてしまいたくなる。
自分の手の中に閉じ込めておきたくなる。
キヨノさんの反応に合わせ、私の手の動きも早くなっていき、
「あ……」
とか細く甲高い声を上げ、私の手に液体が吐き出された。
「ふ」
潮が引くようにキヨノさんから力が抜ける。
次は私に熱が灯り、荒れ狂いそうになる。
くったりとしたキヨノさんをとりあえずベッドに寝かせ、私は手を洗いにキヨノさんの部屋から出た。
廊下で長い溜息をついた。
襲い掛からなかった自分を褒めたかった。
『吐き出さないと、身体がつらくなる。
それどころか心もつらくなります』
手洗い場で手を洗いながら、自分がキヨノさんに言った言葉を思い出す。
ああ、本当だ、キヨノさん。
心がつらくなりますね。
今度は自分の熱を持て余しそうで、冷水で顔も洗った。
が、それくらいでは治まるはずもなかった。
しかしなすすべもなく、私はすごすごとキヨノさんの部屋に戻り、キヨノさんの寝間着の乱れをきちんと直すと抱き上げて私のベッドに連れていった。
腕の中のキヨノさんはすうすうと寝息を立てている。
今夜も眠れないのか。
隣りで寝ている私は心配をするが、そのまま寝たふりをする。
私が起きたと知ると、きっとキヨノさんは別に寝ると言い出しかねないから。
桜の木の下でささやかな祝言を挙げてもう小一か月が経つ。
その前にも「好きになる努力をしてもいいですか」と健気なことを言い、この人は私をどうにかしたいのかと思った。
祝言の日の夜、私はキヨノさんにもっと深いキスをした。
初めて深いキスをしたときには、級だの段だの言い出して、その発想が面白くて、その反応が愛くるしくて、自分が考えていたよりも長く舌を絡めてしまった。
キヨノさんは驚きはしたものの、嫌そうではない。
気持ちよさも感じてはいないようだけれど。
祝言を挙げると覚悟が決まったのか、それまでよりももっと私と二人でいることに緊張したり困った様子を見せたりすることが減った。
ご本人は気がついていらっしゃらないようだが、ハグも私が腕を広げるより先にキヨノさんが腕を広げてくれることも増えてきた。
小さなことだけれど、そんなことが嬉しい。
愛だの恋だのとは程遠いのかもしれない。
あの人はそういうものに関心があるのだろうか。
ごそり、と布団に空間ができた。
キヨノさんはベッドから抜け出してしまった。
今宵はおつらそうだ。
私も理由なく眠れないこともあるので、そっとしてはいるが、キヨノさんがベッドから出ることはなかった。
ぱたり、とドアが閉まる乾いた音がした。
どうやら寝室を出て隣のキヨノさんの部屋に行ったようだ。
私もそっと身を起こし、後をついていく。
キヨノさんの部屋と私の部屋は廊下に出なくても行き来できるように、ドア一枚でつながっている。
呆気ないほどの簡素な部屋だが、ここで過ごすことはないから、とキヨノさんは調度を揃えることにうなずかない。
それならそれでもいいかと、お気持ちに添えるようそのままにしておいた。
あるのは一人用のベッドと小さな机くらいだった。
壁紙もこの部屋で過ごす人の好きにすればいいと思い、一番最初に貼ったあっさりとしたベージュのままだった。
ぽすんと音がした。
キヨノさんがベッドに自らが倒れ込んだようだ。
白い寝間着のキヨノさんがうつ伏せに寝ている。
「どうしました。眠れませんか」
私は囁くような小さな声でキヨノさんに話しかける。
驚くキヨノさんの肩をそっと押し、そのまま倒れておくようにするとキヨノさんはそれ以上はなにもせず、うつ伏せのままになっていた。
私はベッドに腰掛け、キヨノさんの短く硬い髪にふれ、なでた。
「最近、眠れないことが続いていますね」
「はい」
「なにか困ったり、気がかりなことがあったのですか」
「なにも、ないです」
中川と藤代からの報告でも、シノとの会話の中でも特別なことは聞かない。
祝言を挙げるまではちくりちくりと嫌味を言われ続けたが、最近はそれもほとんどなくなっていた。
「昼寝をしていますか」
「お昼ご飯のあと、少し」
「そうですか。少しでも日中に眠れるのならよかった。
一体、どうしたんでしょうね」
「なんか、熱い」
「熱い?
お熱ですか」
私は慌ててうつ伏せになっているキヨノさんの額に手を挿し込む。
私より少し体温は高いが、いつものキヨノさんの体温だと思う。
「なんか、苦しい」
「え。それは。
明日、医者に診てもらいましょう」
「そんなんじゃなくて。
でも、よくわからなくて」
キヨノさんは「はぁぁ」と大きな溜息をついた。
む。
その溜息はひどく熱かった。
この季節の、この年頃の、この眠れなさと、この熱さ。
「あの、キヨノさん」
「はぁ」
掠れた返事は妙な熱を持っている。
おそらく。
「もしかしたらお役に立てるかもしれません。
私に任せてもらえますか」
「なりあきさま、治せるのですか」
「と思います、おそらく」
「ふ……うん。お願いします」
「キヨノさん」
「はい」
「私がなにをしても怒らないと約束してください。
きっと楽にして差し上げましょう」
「はい」
私はキヨノさんを抱き起すと、ベッドの端に座る私の足の間に座らせた。
不安そうなキヨノさんを後ろから抱き込むようにして、髪をなでた。
「緊張していますか」
「はぁ」
おどおどしているキヨノさんのこめかみにキスをする。
それから首をひねるようにして後ろを向かせ、もう片方の手はキヨノさんがずり落ちないように腹に腕を回した。
私は覆いかぶさり、身を屈め、キヨノさんにキスをした。
「ふぅ?!」
驚いて重ねた唇の間から声が漏れたが、それを合図に私は開いたキヨノさんの口から舌を差し入れた。
最近はキスをするとき不要な緊張は取れてはいたが、今夜はやはり違ったようだ。
身をこわばらせ、固まっている。
私はキヨノさんの太腿に手を滑らせ、裾を左右に割った。
「うぅ?!」
そのまま寝間着の中に手を入れ、足のつけ根に向かってなで上げる。
すぐに木綿の感触が指に伝わってきた。
和装を好むキヨノさんは下着も褌だ。
白い晒にそってなぞる。
よかった、きりきりと締め上げる結び方ではない。
ふわりと余裕を持たせている褌の股間辺りから指を差し入れ、緩く反応しているペニスを取り出した。
唇を離す。
「なりあきさま、やめてっ」
「キヨノさんは大人の男になっているんですよ」
「突然、なに」
「これからすることは大人の男がすることです」
「ふぇ」
「身体が大人になるとあれこれ溜まるんです。
それを定期的に抜かないと、熱が籠って眠れなくなってしまう」
「ふ?」
「やり方を教えてあげます。
お一人でしてもいいし、私ならいつでもお手伝いして差し上げます」
「ひゅ?」
「ここが硬くなったり上を向いたことはこれまでありましたか」
「離してください」
「この反応が合図ですよ。
そうしたら、ああ、まだ皮を被ったままなんですね」
暗闇の中、指で触れる先は幼いふよふよしたものに包まれていた。
「まずは皮をむきましょう」
私は人差し指と親指を使って、先を露出させていく。
「いやです、離して」
「大人になるためだと諦めてください。
恥ずかしいことじゃない。
私だってします」
「なりあきさまも?」
「ええ、もちろん」
「中川さんも藤代さんも?」
「はい。
だからキヨノさんも覚えてください。
こうやって熱を出すことはとても大切なことです。
そしてそう簡単に他人に見せたり触らせたりしてはいけません。
私たちは夫婦なので、してもいいことです」
「ふぇ」
「準備ができたら、握って指を上下に動かしてこすります」
「えっ、んんんっ」
初めて聞く、キヨノさんの色の乗った声。
「これまでこういうことは?」
「し、知らないっ」
「では、ちょっと難しいかも。
慣れればどうっていうことはありません」
「やあっ」
私は力加減を変えたり、速度を変えたりしてキヨノさんの反応を探る。
怯えて不安そうにしているキヨノさんは私の二の腕に逆手で縋りつくように握ってくる。
「どこか気持ちよくなるところがあるはずです」
「ふ?気持ち、いい?」
「そう」
「よくわからな」
キヨノさんは軽くパニック状態になっているが、身体は少しずつ反応を見せている。
「ほら、先が濡れてきているのがわかりますか。
これはいい反応です。
ここからスペルマを出します」
「う?」
「精液ですよ。子種です」
「はああっ?!」
キヨノさんがどれだけ性的な知識があるのかはわかりかねるが、恥ずかしくて身体が跳ねたところを見ると、言葉は聞いたことがあるようだ。
「大人になるとスペルマが溜まってくるんです。
それを吐き出さないと、身体がつらくなる。
それどころか心もつらくなります」
「え、でも」
「こうやってこするんですよ。
たまに、ほら、ここ」
露出した初々しい先端を親指の腹でこすり、鈴口も刺激してやる。
「ふあああっ、ああっ」
「気持ちいいですか」
「やだ、なに、あ、あ」
「硬くなってきたし、先走りもたくさん出てきた」
「え、なに」
「ご自分でさわりますか」
キヨノさんはぶんぶんと頭を横に振る。が、私の手の刺激に翻弄されて、声を上げる。
「なにか出したくなったら遠慮なく出してください。
それはおしっこではないですから」
「え?あ、う、うっ」
キヨノさんの身体が熱くなる。
私の手の動きに合わせて身体を跳ねさせ、腰が蠢き、私の腕を掴む力がどんどん強くなる。
先から出る液体は次第に多くなっていく。
「やっ、やっ、へんっ、あ」
「へんじゃありませんよ」
「な、りあきさまっ」
「くっ」
自分が持っていかれそうになる。
そんな声、これまで聞いたことがありませんよ、キヨノさん。
貴方はどれだけ奥深い。
知らないキヨノさんがどんどん増えていく。
そしてこんな色を含んだ貴方を誰にも渡したくない。
最初は性的なことを知らないキヨノさんに、同性の年長者として教えて差し上げたいという気持ちだけだったのに、自分の欲がむくむくと湧き上がる。
まっさらなキヨノさんを黒く塗りつぶしてしまいたくなる。
自分の手の中に閉じ込めておきたくなる。
キヨノさんの反応に合わせ、私の手の動きも早くなっていき、
「あ……」
とか細く甲高い声を上げ、私の手に液体が吐き出された。
「ふ」
潮が引くようにキヨノさんから力が抜ける。
次は私に熱が灯り、荒れ狂いそうになる。
くったりとしたキヨノさんをとりあえずベッドに寝かせ、私は手を洗いにキヨノさんの部屋から出た。
廊下で長い溜息をついた。
襲い掛からなかった自分を褒めたかった。
『吐き出さないと、身体がつらくなる。
それどころか心もつらくなります』
手洗い場で手を洗いながら、自分がキヨノさんに言った言葉を思い出す。
ああ、本当だ、キヨノさん。
心がつらくなりますね。
今度は自分の熱を持て余しそうで、冷水で顔も洗った。
が、それくらいでは治まるはずもなかった。
しかしなすすべもなく、私はすごすごとキヨノさんの部屋に戻り、キヨノさんの寝間着の乱れをきちんと直すと抱き上げて私のベッドに連れていった。
腕の中のキヨノさんはすうすうと寝息を立てている。
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