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第27話
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お風呂をいただいて、さっぱりした。
湯冷めをするから、と藤代さんが今朝、なりあきさまが肩にかけてくれた薄手の綿入れを用意してくれた。
おやすみなさいの挨拶をし、俺はいつものようになりあきさまの寝室へと向かった。
なりあきさまもお風呂を済まされて、寝間着に着替えていらした。
手招きされて近づくと、ベッドの縁に座るように言われ、そうした。
爪先が届かずぷらぷらとしてしまう。
隣になりあきさまが腰掛ける。
「今日はお疲れになったでしょう」
「はい」
労りの言葉に、うなずく。
今日は朝早くから起きて遊園地に行き、そこでたくさんのできごとがあって、最後に回転木馬に乗ったままなりあきさまから求婚された。
求婚
はぁ、求婚。
まだ実感はわかないが、結婚しているのに求婚もおかしい話だけれど、なにもわからないまま2か月前、ここに連れてこられたときよりはましだし、自分も納得できている。
どうして「はい」と答えたのかは、今でも不思議だが、「はい」しか思いつかなかったし、なりあきさまのつらそうなお顔は見たくない、と強く思った。
どんなお顔が好きかと言えば、優しそうに、満足そうに「キヨノさん」と俺の名前を呼ぶときのお顔だ。
「あの、キヨノさん」
「はい、なりあきさま」
こうやってお名前をお呼びするのにも、随分慣れてきている。
「提案なのですが」
?
「もうちょっと進んだキス、というものをしてみませんか」
もうちょっと進んだきす?
「これまでは、恋人の真似事をする、ということでなんというか、初心者のキスをしてきたのですが」
初心者のきす!
「私のプロポーズを受けていただいたので、本物の恋人のキス、というかなんというか」
「キスにも級があるのですか?」
「え?!」
「初級ということは一級か、上級、もしかしてなりあきさまは有段者ですか」
「?!」
さすがなりあきさまだ。
キスにもそんな等級があったとは。
きっとなりあきさまのことだから、一級かあるいは段をお持ちでも不思議はない。
「あの、なりあきさま」
「は…はい」
「中級か三級かわかりませんが、級の高いキスをすれば、私はなりあきさまをもっと好きになりますか」
「………」
なりあきさまは俺をじっと見て、無言だ。
そんなに難しいことなのだろうか。
俺に務まるのだろうか。
「なんて答えたらいいんでしょうね」
「なりあきさま?」
「人それぞれなのでわかりませんが、もしお嫌でなかったら試してみませんか」
「俺、ついていけますか」
「キスもしているうちに上手くなるものです」
「はぁ」
「もし、お嫌になったら私の腕でもどこでも叩いて知らせてください」
そうおっしゃると俺はもうなりあきさまに肩を抱かれていた。
そして、むちゅっと唇が感じた。
あまりの速さに驚く。
「キヨノさん、キスするときには目を閉じて」
「はいっ!」と言いたかったがすぐにまた唇を塞がれたので、返事はできなかった。
さっきのなりあきさまの囁き声が耳の奥でまだ聞こえるような気がする。
これまではそよ風のようにすぐに離れていった唇はいつまでもくっついている。
そして歯を立てずになりあきさまの唇で俺の唇を挟まれたり、強く押し付けられたりする。
「キヨノさん……」
「ふぁい」
なりあきさまが唇をくっつけたままでお話される。
唇がくすぐったくてむずむずする。
「息は鼻でして」
「ふぁい」
「それから、口、少し開けて」
「ふぁ……んっ」
返事をしようとして口を開けるとにゅるりとなにかが入ってきた。
「んーーーーっんーーーーーっんーーーーーーっ!!!!」
なんだこれはっ!!
ちょっとざらりとして蠢いていて、生温かいこれ。
それがつんつんと俺のべろをつっついた。
「ふーーーーーーっ!!!」
べろだ!なりあきさまのべろだっ!
え、なんで。
正体がわかったが、俺はなんでそうされているのかわからなかった。
べろは俺のべろにのしかかってくる。
「んっ」
口が塞がれて、苦しい。
鼻っ!
でも、鼻からは上手く息が吸えない。
それでも少しは息ができた。
でもまだ苦しい。
なんだ、この苦しいのは。
つらくなって身体を支えていられなくなると、こてんと後ろに転がってしまった。
背中がベッドに当たる。
はぁはぁはぁはぁ。
やっ……と、口で、息、できる。
「ふ? うーーーーーー???」
また唇を塞がれ、閉じていなかった口からべろが入ってきた。
え、まだやるの?!
今度はべろは俺のべろをつっついてきた。
どうすればいいんだ、これ。
よくわからないから、真似をしてつっついてみた。
違っていたら、また教えてくれるだろう。
なりあきさまのべろはまたつっついてくる。
俺も真似する。
その間になりあきさまは俺の頭をなで、肩をなでてくれる。
べろもなでるように動かされる。
「………んふ」
次第にほわんとした感じになってきた。
なりあきさまの手、気持ちいい。
なりあきさまのべろ、気持ちいい。
俺もなりあきさまのべろをなでてみる。
なりあきさまの手が一層優しくなる。
ん……気持ちいい。
俺もなりあきさまにさわりたくなって腕を伸ばしてみる。
木綿の手ざわり。
なりあきさまの寝間着だ。
俺は手をぐっと取られ、「え」と思ったらベッドに押しつけらるようにして手を繋がれていた。
指と指の間になりあきさまの指が入り込む。
もう片方の手は俺の髪をなでる。
なりさきさまのべろは俺のべろをなでる。
なでられるって気持ちいいんだ。
たくさんなでられて、俺はとろんとなってきた。
ふわっと唇が離れた。
驚いて目を開くとすぐそばになりあきさまの綺麗なお顔があり、目の下のほくろはつやつやしていた。
まだ片手は繋がれ、髪もなでられている。
「いかが、でした」
ちょっと低く囁かれる。
「び…っくりしました」
「嫌、だった?」
俺は首をちょっと振る。
「そうですか」
なりあきさまはにっこりと微笑む。
あ、俺の好きなお顔。
「くったりしていますね。
今日はお疲れだったと思います。
早めに寝ましょう」
うん。
でも、俺、なんだか身体に力が入らない…よ。
ぼんやりしているとなりあきさまが身を起こし、俺の綿入れを器用に脱がして俺を布団の中に入れてくれた。
「おやすみなさい、キヨノさん」
「おやすみなさい、なりあきさま」
そうご挨拶をするのが精いっぱいだった。
なりあきさまは俺のおでこにキスをしてくださったようだが、俺は目を開けていられず、まぶたを閉じるとすぐに眠りに入ってしまった。
***
ブログ更新 「キヨノさん」第27話更新しました
https://etocoria.blogspot.com/2019/08/kiyonosan-27.html
湯冷めをするから、と藤代さんが今朝、なりあきさまが肩にかけてくれた薄手の綿入れを用意してくれた。
おやすみなさいの挨拶をし、俺はいつものようになりあきさまの寝室へと向かった。
なりあきさまもお風呂を済まされて、寝間着に着替えていらした。
手招きされて近づくと、ベッドの縁に座るように言われ、そうした。
爪先が届かずぷらぷらとしてしまう。
隣になりあきさまが腰掛ける。
「今日はお疲れになったでしょう」
「はい」
労りの言葉に、うなずく。
今日は朝早くから起きて遊園地に行き、そこでたくさんのできごとがあって、最後に回転木馬に乗ったままなりあきさまから求婚された。
求婚
はぁ、求婚。
まだ実感はわかないが、結婚しているのに求婚もおかしい話だけれど、なにもわからないまま2か月前、ここに連れてこられたときよりはましだし、自分も納得できている。
どうして「はい」と答えたのかは、今でも不思議だが、「はい」しか思いつかなかったし、なりあきさまのつらそうなお顔は見たくない、と強く思った。
どんなお顔が好きかと言えば、優しそうに、満足そうに「キヨノさん」と俺の名前を呼ぶときのお顔だ。
「あの、キヨノさん」
「はい、なりあきさま」
こうやってお名前をお呼びするのにも、随分慣れてきている。
「提案なのですが」
?
「もうちょっと進んだキス、というものをしてみませんか」
もうちょっと進んだきす?
「これまでは、恋人の真似事をする、ということでなんというか、初心者のキスをしてきたのですが」
初心者のきす!
「私のプロポーズを受けていただいたので、本物の恋人のキス、というかなんというか」
「キスにも級があるのですか?」
「え?!」
「初級ということは一級か、上級、もしかしてなりあきさまは有段者ですか」
「?!」
さすがなりあきさまだ。
キスにもそんな等級があったとは。
きっとなりあきさまのことだから、一級かあるいは段をお持ちでも不思議はない。
「あの、なりあきさま」
「は…はい」
「中級か三級かわかりませんが、級の高いキスをすれば、私はなりあきさまをもっと好きになりますか」
「………」
なりあきさまは俺をじっと見て、無言だ。
そんなに難しいことなのだろうか。
俺に務まるのだろうか。
「なんて答えたらいいんでしょうね」
「なりあきさま?」
「人それぞれなのでわかりませんが、もしお嫌でなかったら試してみませんか」
「俺、ついていけますか」
「キスもしているうちに上手くなるものです」
「はぁ」
「もし、お嫌になったら私の腕でもどこでも叩いて知らせてください」
そうおっしゃると俺はもうなりあきさまに肩を抱かれていた。
そして、むちゅっと唇が感じた。
あまりの速さに驚く。
「キヨノさん、キスするときには目を閉じて」
「はいっ!」と言いたかったがすぐにまた唇を塞がれたので、返事はできなかった。
さっきのなりあきさまの囁き声が耳の奥でまだ聞こえるような気がする。
これまではそよ風のようにすぐに離れていった唇はいつまでもくっついている。
そして歯を立てずになりあきさまの唇で俺の唇を挟まれたり、強く押し付けられたりする。
「キヨノさん……」
「ふぁい」
なりあきさまが唇をくっつけたままでお話される。
唇がくすぐったくてむずむずする。
「息は鼻でして」
「ふぁい」
「それから、口、少し開けて」
「ふぁ……んっ」
返事をしようとして口を開けるとにゅるりとなにかが入ってきた。
「んーーーーっんーーーーーっんーーーーーーっ!!!!」
なんだこれはっ!!
ちょっとざらりとして蠢いていて、生温かいこれ。
それがつんつんと俺のべろをつっついた。
「ふーーーーーーっ!!!」
べろだ!なりあきさまのべろだっ!
え、なんで。
正体がわかったが、俺はなんでそうされているのかわからなかった。
べろは俺のべろにのしかかってくる。
「んっ」
口が塞がれて、苦しい。
鼻っ!
でも、鼻からは上手く息が吸えない。
それでも少しは息ができた。
でもまだ苦しい。
なんだ、この苦しいのは。
つらくなって身体を支えていられなくなると、こてんと後ろに転がってしまった。
背中がベッドに当たる。
はぁはぁはぁはぁ。
やっ……と、口で、息、できる。
「ふ? うーーーーーー???」
また唇を塞がれ、閉じていなかった口からべろが入ってきた。
え、まだやるの?!
今度はべろは俺のべろをつっついてきた。
どうすればいいんだ、これ。
よくわからないから、真似をしてつっついてみた。
違っていたら、また教えてくれるだろう。
なりあきさまのべろはまたつっついてくる。
俺も真似する。
その間になりあきさまは俺の頭をなで、肩をなでてくれる。
べろもなでるように動かされる。
「………んふ」
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なりあきさまのべろ、気持ちいい。
俺もなりあきさまのべろをなでてみる。
なりあきさまの手が一層優しくなる。
ん……気持ちいい。
俺もなりあきさまにさわりたくなって腕を伸ばしてみる。
木綿の手ざわり。
なりあきさまの寝間着だ。
俺は手をぐっと取られ、「え」と思ったらベッドに押しつけらるようにして手を繋がれていた。
指と指の間になりあきさまの指が入り込む。
もう片方の手は俺の髪をなでる。
なりさきさまのべろは俺のべろをなでる。
なでられるって気持ちいいんだ。
たくさんなでられて、俺はとろんとなってきた。
ふわっと唇が離れた。
驚いて目を開くとすぐそばになりあきさまの綺麗なお顔があり、目の下のほくろはつやつやしていた。
まだ片手は繋がれ、髪もなでられている。
「いかが、でした」
ちょっと低く囁かれる。
「び…っくりしました」
「嫌、だった?」
俺は首をちょっと振る。
「そうですか」
なりあきさまはにっこりと微笑む。
あ、俺の好きなお顔。
「くったりしていますね。
今日はお疲れだったと思います。
早めに寝ましょう」
うん。
でも、俺、なんだか身体に力が入らない…よ。
ぼんやりしているとなりあきさまが身を起こし、俺の綿入れを器用に脱がして俺を布団の中に入れてくれた。
「おやすみなさい、キヨノさん」
「おやすみなさい、なりあきさま」
そうご挨拶をするのが精いっぱいだった。
なりあきさまは俺のおでこにキスをしてくださったようだが、俺は目を開けていられず、まぶたを閉じるとすぐに眠りに入ってしまった。
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