白妙薄紅

Kyrie

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十三、

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御衣黄ぎょいこうの水揚げの後、立て続けに今をときめく呉服問屋の若旦那飯田橋いいだばしと両替商の旦那掛川かけがわに可愛がられたとなると、白妙しろたえの評判は一気に上がった。
毎夜毎夜、白妙は惣吉そうきちが取り付けてくる約束に従い、座敷に上がった。
客はこれが御車返みくるまがえしについていた、気は利くが華の見えなかった糸括いとくくりだと思えなかった。
踊りと歌はしっかり稽古をし、古株の客の鑑賞に堪えうるものなのに、擦れておらずいつまでも初々しく仔猫のように縋り、たどたどしい。
かと思えば、大人が舌を巻くような豪胆な物言いをすることもある。
なにかあるとすぐに頬を赤らめ、細いうなじをも染める。
源蔵も力を入れているようで、いつも珍しい着物を着ていた。
飯田橋もそれに張り合うように着物と帯を贈り、掛川もまた紅や舶来の香などを届けるので、白妙はいつも客を驚かせ満足させた。

たまに約束が入らないときは、他の陰間と同じように格子戸の内側に入り、花街の大通りを歩く客をぼんやりと見ていた。
しかし滅多にないことなので、男たちは少しでも白妙の姿を見てやろうとその格子戸に群がる。
だが多くの男が売れっ子の白妙の花代を思うと覗き込むだけになってしまう。

中にはちんまりと狭い座敷に座り、黒目がちの目でこちらを見る白妙にこらえきれず、「白妙、白妙」と声をかける。
白妙はちらりちらりとあたりを伺いながら、声を出さず口の形だけで「あい」と答える。
格子戸の中では声を発してはならぬ決まりがあるので、多くの陰間はつんと横を向いて放っておくか、いやらしい流し目を送るかするのだが、白妙は可愛らしく、そして禁を破らぬように返事をするのだった。
その愛らしい様子に何人かの男は通りにいる客引きの男に話をつけに行く。
一緒に来ていた他の男が止めようとするが、それにもかかわらず熱にうなされたように気の毒な男は白妙を腕に抱き夢見心地となる。
その一時の気の迷いとするにはあまりにも大きな花代の支払いに身上しんしょうを潰した男は片手に下らなかった。



白妙が十三になるかならないかのうちに、遂には花宮はなみやまで上り詰めてしまった。
また惣吉の屋敷で支度をし、お披露目の行列が大通りを歩いた。
誰も踏んだことのない積もったばかりの雪のような白い着物に細く淡く染められた糸で何百枚もの桜の花びらが刺繍が施されているのがずしりと白妙の細い肩にかけられた。
春の訪れを喜ぶような淡い若草色の帯を紋付き袴の源蔵げんぞう雨宿あまやどりが結んだ。
挿物はすべて真珠の細工であった。
白妙以外の笹部ささべの者たちは白い狐の面をつけ、北の座敷へと向かう。

そこで待っていたのは、飯田橋だった。
今回のお披露目ための衣装も飾りも全部、飯田橋が用意した。
白く淡い春の精のような白妙の姿を見ると、飯田橋は満足そうにうなずいた。
今度こそは誰の邪魔も入らなかった。
源蔵のつづみと歌とで白妙が舞い、三味線を弾きながら歌うのを楽しんだ。
そして自分の横に白妙を侍らせ、酌をさせながら飯田橋は言った。

「まるで花嫁装束の春の精のようだよ。
そう思わないかね、源蔵」

源蔵は眉一つ動かさず「左様でございますね」と答えた。
白妙の心臓の赤い糸がどうなっているのか、たった二年で白妙も笑顔でなにかしらを包み込む技を会得したらしい。

「このまま、白妙をさらってしまいたいなぁ。
祝言を上げよう」

顔を赤くし、上機嫌の飯田橋が白妙の唇をはみながら言った。

「それは素敵ですね」

白妙も飯田橋にしな垂れかかった。
それを機に飯田橋が手で合図したので、源蔵や弟たちは下がっていった。

「私は本気だよ、白妙。
このまま祝言を上げよう」

「お会いするときにはいつでも私の旦那様です」

「そう言って白妙はどの男にも旦那様と呼んでいるのだろう。
妬けてしまって仕事が手につかない」

「どうしましょう」

「だから、私のところへ来なさい」

飯田橋は桜の花びらの散る着物の合わせから手を差し入れ、白妙の内腿をさすった。
それから白妙を立たせ大黒柱に背中をつけた。
裾を大きくまくり上げ片足を肩にかけると、淵に渦桜うずざくらの液を仕込む。

「あ、やぁ……」

ぬぷりぬぷりと指を飲み込んでいく。
そしてそのまま自分の着物を割り、取り出したぼくに液を垂らすと一気に白妙に突き刺した。

「やあああっ」

「しっかりつかまっておいで、白妙」

白妙の体が宙に浮いた。
飯田橋が木を刺したまま、白妙を抱きかかえた。
思わず白妙は飯田橋の首に腕をそして足を体に巻き付けた。

「そうだ、落ちないように私にしがみついておいで」

飯田橋が腰を少しでも揺すると、木が白妙の奥へ奥へと突き刺さっていく。

「あっ、あっ、あっ」

白妙を前に抱えたまま、飯田橋が一歩進む。
その振動でぐいと深くまで抉る。
声が上がる。

「白妙は本当に春の嵐のようだ。
このように花嫁のような格好をしているのに、なんて荒々しい。
そして離したくないよ、白妙。
もっと私につかまって。
でないと、落ちてしまうよ」

白妙は腕と足に力を込めた。
が、それはますます内側に飯田橋を誘い込むことになった。
悲鳴のような声を上げると飯田橋は満足そうにし、そしてそのまま次の間へと歩いていった。






激しく求められ、さすがの白妙も体調を崩してしまい、次の客の掛川の座敷に上がったのはお披露目行列から三日後のことだった。
二人きりになり、肌襦袢はだじゅばんで緋色のしとねに横になった。

「飯田橋はまた、おまえに無体なことをしたんだね」

体のあちこちに残る桜を見ながら、掛川は言った。

「いいえ、たいそうかわいがってくださいました。
今宵は旦那様がもっともっとかわいがってくださるのでしょう?」

「ふふふ、花宮になると誘い文句も上手くなるものだね、白妙」

「もっと、とおねだりしてもよいのでしょう?」

「それが偽りではなければね。
そうだ、白妙、その前にこれをごらん」

掛川は白妙の身を起こすのを手伝い、部屋の隅にあったものを引き寄せた。

「まぁ、綺麗」

それは蒔絵まきえが施された漆の鏡台であった。
円い手鏡を置くようになっている。
柄は桜と紅葉。

「気に入ってくれたかい?
花宮の祝いだよ。
おまえと二人きりになったときに渡したかった」

「はい、とても」

「茄子紺の着物のことを覚えているか」

「ええ、水揚げのあと初めて旦那様にお会いしたときに着ておりました」

「あれが忘れられなくてね、記念に作らせたのだよ」

「ありがとうございます。
大切に致します」

白妙は子どもらしい笑顔で言った。
掛川は嬉しそうに微笑んだ。
そして、白妙を膝の上に乗せた。

これまで掛川は白妙をずっと一人前の陰間として扱ってきた。
小さく仔猫のようだが、決してそんなふうには扱わなかった。
白妙はそれが嬉しくもあり、誇らしくもあった。
だが、掛川は白妙が背伸びするのも嫌った。
その心遣いが嬉しかった。

なので、掛川の膝の上に乗るのは初めてだった。
なんだか気恥ずかしくなり、白妙は掛川の胸に顔を埋めた。

「どうした」

「いえ、なにも…」

掛川は白妙の頬をなで、そして唇を合わせ舌を吸った。
白妙は小さくうめきながら、されるがままになっていたが、舌が絡み合うと自分からも舌を絡ませ掛川の厚い舌に吸い付いた。
唾液が流れ、肌襦袢を濡らしても構わなかった。

随分長い間、口吸いをした。
唇を離すと白妙は軽く肩で息をしていた。
そして掛川の首に腕を回し抱きつくと小さな声で囁いた。

「きて、旦那様ぁ」

掛川は優しい目をしてうなずくと、白妙の肌襦袢を脱がし体中に唇を這わせ、そして木を埋めた。

「もっとぉ、もっとぉ」

白妙は足を広げ、掛川が入りやすいようにしてやった。
掛川もそれに従い、太く立派な木で白妙の中を出入りし、指で小枝をこすった。




そしてまた、白妙が次の客の座敷に上がるには三日を要することとなった。




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