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番外編
第38話 番外編 二人きりの時間
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奪われた時間のことを聞かれたけど、俺は返事のしようがなかった。
「仕方ない」
本当にそれしかない。
きっとあのままあなたを追いかけていても、きっと、俺たちはお互いに傷つけあって、この年まできても修復できないくらいぼろぼろになっていたと思う。
それはそれで納得している。
それに、今、こうしてあなたの我儘を聞き、自分の我儘を言い、甘え甘えられする時間がとても貴重で。
今までのことを埋め尽くすように、あなたが俺を愛してくれているのがわかって。
それが他の誰かをひどく傷つけているのがわかっても、それでも嬉しくて。
もう離れたくなくて、残されている時間がどんどん少なくなっているのを知って、泣きそうになって、俺は、俺は………
「どうした?
眠れないの?
あんなに愛してあげたのに。
やっぱり君は元気だね」
寝ているとばかり思っていた仁が俺に声をかけた。
俺たちはまだ裸のままで、2度3度貫かれた鈍い痛みと大きさがまだ自分の身体の中に感覚として残っている。
「おいで、優也」
言われるまま、俺は仁にすり寄った。
仁は俺をゆるりと抱きしめてくれた。
「まだ欲しいの?」
俺はうなずいてみた。
あなたの全部が欲しい、と言った時、「あげるよ」と事もなげに言い、そして本当に全部くれた。
なに一つ隠さず、もし俺が欲望のまま我儘をいって「明日仕事を休んで」と言えば「いいよ」とそう手配してくれそうなくらいに。
それなのに、まだあなたが欲しい。
「ここにはもう無理だけど」
ぐじゅりと残っていたローションが音を立て、さっきまで仁が入っていたところに中指を入れられる。
「んっ」と唇を噛んで、上がる声を抑える。
「君の好きにしたらいいよ」
「本当に?」
「ああ」
「キスマークつけても?」
「つくかな。
私がそう若くないことは知っているだろ。
もしつくならどうぞ」
指は内側で蠢いている。
とろめいた身体はすぐにぐずぐずになってしまいそうだが、俺は意地になって仁の首筋の、タートルネックでも隠せないところに指をはわせる。
「ここでもいい?」
「いいよ」
即座に答える仁に、自分の馬鹿さ加減を知る。
これまでなら許されなかったのに。
自分が無数のキスマークをつけられる側だったのに。
仁を試してどうするの?
「指でもいいから、犯して」
自虐的になりほろりとこぼれた言葉に自分でも「あっ」となる。
仁は俺をうつ伏せにして、尻を高く上げさせた。
「私は優也を愛したいんだがね」
「ふっ…ううぅぅんっ」
急に乱暴に指2本を動かされ、声を上げてしまう。
「今更こんなこと言っても、遅い?」
久しぶりに聞く仁の鋭い声。
最近はいつも甘く響く声だったのに。
ついに怒らせたか。
「はああんっ、も、仁、やめて」
乱暴だったのは最初のうちだけだった。
仁は俺よりも俺の身体を知っている。
感じるところばかりいじられ、イきそうになる瞬間に指を止め、波が治まるとまたそこを刺激され…というのを繰り返された。
「愛してるよ、優也」
今、そんな甘い声でこんなこと、言う……?
「君は?」
「ばかぁっ」
「違うだろう?」
余裕が全然ない。
頭も身体も溶けておかしくなりそう。
「好き」
「好き?」
「あっ、あっ」
指が「違うだろう?」とまた俺を問いただす。
こんな状況じゃ言いたくないのに、どんどんどんどん追い詰められる。
「あ」
「うん?」
「愛してるっ」
叫びにも似た声で言う。
「仁っ、仁っ、愛してるっ。
愛してるからぁっ」
「私もだよ、優也」
指の動きが速くなり、今度は遮られることなく昇り詰めていく。
「全部あげるって言ったの、忘れないで」
「ふ…んぅぅっっ」
自分もそう若くはないことは自覚している。
それなのに全身で仁を欲し、まだこれだけ残っていたのかというほど吐き出した。
しばらくは動けなかった。
仁もそっとしておいてくれた。
でも、動けるようになったら俺は仁を押し倒し、さっき触った首筋に唇をつけ、思い切りかじりついた。
そして、大きな痕をつけてやった。
「痛いよ、優也」
仁は顔をしかめながら、そばにあったスマホのインカメラで首筋がどうなっているか、確認している。
知らない。
俺はちょっと拗ねたまま、仁に背中を向けてだるい身体をベッドの上に放り出した。
「もしもし、桐谷だ」
背後から聞こえてくる声にぎょっとした。
がばっと起き上がり、仁を振り返る。
仁はスマホを耳に当てて、話している。
「明日から2~3日、仕事を休むから調整してくれないか」
え、もしかして佐伯さん?
ちょ…っ
今、何時だと思ってるのっ!
俺が仁を止めようとするが、それには構わず俺を手で制して仁は通話を続ける。
「いや、体調はすこぶるいいよ。
なに、ちょっと首に大きな痕をつけられて隠しきれないんだ」
なに言ってっ!
「ははははは、そう、元気だろう?
それでついでに、優也も2~3日休ませるから草津にそう言っておいてよ」
なっ
「なに勝手にっ!」
「聞こえたかい?
優也も元気だよ。
外に出られなくなった私につき合ってもらうから。
ああ、うん、よろしく頼むよ。
じゃ、佐伯もおやすみ」
画面をタップして通話を切ると、仁は面白そうに俺を見ていた。
「笑えませんよ、仁!」
「そんなに怒るなよ」
怒るよ、当然だろ!
「おいで」
しかし、両腕を広げられこう言われると、もう俺は逆らうことができない。
情けない顔をしたまま、仁のそばににじり寄る。
ぐっと抱き寄せられ、胸元に抱かれる。
「なにを焦っているの、優也?」
仁は柔らかく俺の髪をなでる。
「せっかくの二人きりの時間、楽しもうじゃないか」
俺はさっきまでの怒りを忘れて、泣きそうになる。
仁は、俺を見抜いて「二人きりの時間」を作ってくれた。
どんなにそばにいても、時間が流れるのは止められず、俺が不安になっているのを知って、俺が甘えられる時間を作ってくれた。
「愛してるよ、優也」
からかいも意地悪もなにもなく、ストレートに仁が囁く。
「俺も」
今度はヤケにならずに言う。
「俺も愛しています」
「よかった。
お互いに愛していて」
冗談めかして、仁がこめかみにキスをしてくれる。
もしかして、仁も不安になることがあるの?
今のは、本心?
「明日のことは、起きてから考えよう。
寝ようか」
「はい、おやすみなさい、仁」
「おやすみ」
ちょっと暴れたら、すっきりしたのか、俺は急激に眠気がさしてきて、あっという間に落ちてしまった。
でも、俺の髪をなでていた手は、長いことそうし続けてくれていたような気がする。
「仕方ない」
本当にそれしかない。
きっとあのままあなたを追いかけていても、きっと、俺たちはお互いに傷つけあって、この年まできても修復できないくらいぼろぼろになっていたと思う。
それはそれで納得している。
それに、今、こうしてあなたの我儘を聞き、自分の我儘を言い、甘え甘えられする時間がとても貴重で。
今までのことを埋め尽くすように、あなたが俺を愛してくれているのがわかって。
それが他の誰かをひどく傷つけているのがわかっても、それでも嬉しくて。
もう離れたくなくて、残されている時間がどんどん少なくなっているのを知って、泣きそうになって、俺は、俺は………
「どうした?
眠れないの?
あんなに愛してあげたのに。
やっぱり君は元気だね」
寝ているとばかり思っていた仁が俺に声をかけた。
俺たちはまだ裸のままで、2度3度貫かれた鈍い痛みと大きさがまだ自分の身体の中に感覚として残っている。
「おいで、優也」
言われるまま、俺は仁にすり寄った。
仁は俺をゆるりと抱きしめてくれた。
「まだ欲しいの?」
俺はうなずいてみた。
あなたの全部が欲しい、と言った時、「あげるよ」と事もなげに言い、そして本当に全部くれた。
なに一つ隠さず、もし俺が欲望のまま我儘をいって「明日仕事を休んで」と言えば「いいよ」とそう手配してくれそうなくらいに。
それなのに、まだあなたが欲しい。
「ここにはもう無理だけど」
ぐじゅりと残っていたローションが音を立て、さっきまで仁が入っていたところに中指を入れられる。
「んっ」と唇を噛んで、上がる声を抑える。
「君の好きにしたらいいよ」
「本当に?」
「ああ」
「キスマークつけても?」
「つくかな。
私がそう若くないことは知っているだろ。
もしつくならどうぞ」
指は内側で蠢いている。
とろめいた身体はすぐにぐずぐずになってしまいそうだが、俺は意地になって仁の首筋の、タートルネックでも隠せないところに指をはわせる。
「ここでもいい?」
「いいよ」
即座に答える仁に、自分の馬鹿さ加減を知る。
これまでなら許されなかったのに。
自分が無数のキスマークをつけられる側だったのに。
仁を試してどうするの?
「指でもいいから、犯して」
自虐的になりほろりとこぼれた言葉に自分でも「あっ」となる。
仁は俺をうつ伏せにして、尻を高く上げさせた。
「私は優也を愛したいんだがね」
「ふっ…ううぅぅんっ」
急に乱暴に指2本を動かされ、声を上げてしまう。
「今更こんなこと言っても、遅い?」
久しぶりに聞く仁の鋭い声。
最近はいつも甘く響く声だったのに。
ついに怒らせたか。
「はああんっ、も、仁、やめて」
乱暴だったのは最初のうちだけだった。
仁は俺よりも俺の身体を知っている。
感じるところばかりいじられ、イきそうになる瞬間に指を止め、波が治まるとまたそこを刺激され…というのを繰り返された。
「愛してるよ、優也」
今、そんな甘い声でこんなこと、言う……?
「君は?」
「ばかぁっ」
「違うだろう?」
余裕が全然ない。
頭も身体も溶けておかしくなりそう。
「好き」
「好き?」
「あっ、あっ」
指が「違うだろう?」とまた俺を問いただす。
こんな状況じゃ言いたくないのに、どんどんどんどん追い詰められる。
「あ」
「うん?」
「愛してるっ」
叫びにも似た声で言う。
「仁っ、仁っ、愛してるっ。
愛してるからぁっ」
「私もだよ、優也」
指の動きが速くなり、今度は遮られることなく昇り詰めていく。
「全部あげるって言ったの、忘れないで」
「ふ…んぅぅっっ」
自分もそう若くはないことは自覚している。
それなのに全身で仁を欲し、まだこれだけ残っていたのかというほど吐き出した。
しばらくは動けなかった。
仁もそっとしておいてくれた。
でも、動けるようになったら俺は仁を押し倒し、さっき触った首筋に唇をつけ、思い切りかじりついた。
そして、大きな痕をつけてやった。
「痛いよ、優也」
仁は顔をしかめながら、そばにあったスマホのインカメラで首筋がどうなっているか、確認している。
知らない。
俺はちょっと拗ねたまま、仁に背中を向けてだるい身体をベッドの上に放り出した。
「もしもし、桐谷だ」
背後から聞こえてくる声にぎょっとした。
がばっと起き上がり、仁を振り返る。
仁はスマホを耳に当てて、話している。
「明日から2~3日、仕事を休むから調整してくれないか」
え、もしかして佐伯さん?
ちょ…っ
今、何時だと思ってるのっ!
俺が仁を止めようとするが、それには構わず俺を手で制して仁は通話を続ける。
「いや、体調はすこぶるいいよ。
なに、ちょっと首に大きな痕をつけられて隠しきれないんだ」
なに言ってっ!
「ははははは、そう、元気だろう?
それでついでに、優也も2~3日休ませるから草津にそう言っておいてよ」
なっ
「なに勝手にっ!」
「聞こえたかい?
優也も元気だよ。
外に出られなくなった私につき合ってもらうから。
ああ、うん、よろしく頼むよ。
じゃ、佐伯もおやすみ」
画面をタップして通話を切ると、仁は面白そうに俺を見ていた。
「笑えませんよ、仁!」
「そんなに怒るなよ」
怒るよ、当然だろ!
「おいで」
しかし、両腕を広げられこう言われると、もう俺は逆らうことができない。
情けない顔をしたまま、仁のそばににじり寄る。
ぐっと抱き寄せられ、胸元に抱かれる。
「なにを焦っているの、優也?」
仁は柔らかく俺の髪をなでる。
「せっかくの二人きりの時間、楽しもうじゃないか」
俺はさっきまでの怒りを忘れて、泣きそうになる。
仁は、俺を見抜いて「二人きりの時間」を作ってくれた。
どんなにそばにいても、時間が流れるのは止められず、俺が不安になっているのを知って、俺が甘えられる時間を作ってくれた。
「愛してるよ、優也」
からかいも意地悪もなにもなく、ストレートに仁が囁く。
「俺も」
今度はヤケにならずに言う。
「俺も愛しています」
「よかった。
お互いに愛していて」
冗談めかして、仁がこめかみにキスをしてくれる。
もしかして、仁も不安になることがあるの?
今のは、本心?
「明日のことは、起きてから考えよう。
寝ようか」
「はい、おやすみなさい、仁」
「おやすみ」
ちょっと暴れたら、すっきりしたのか、俺は急激に眠気がさしてきて、あっという間に落ちてしまった。
でも、俺の髪をなでていた手は、長いことそうし続けてくれていたような気がする。
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