【短編未満集】かけらばこ

Kyrie

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あんたを抱きしめたい(1)

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「白イ手ノ中デイク」の習作

***
タンクトップをまくり上げられ、腹をなでられた気がした。
でもそんなはずはないので、寝返りを打った。
しかし、なでなでは執拗に続いてる……?
オレは面倒なので片目を薄く開けて見た。
暗闇だけが広がっている。

ほら、気のせい。
残暑厳しい夜、自分の部屋のクーラーをがんがんにかけて寝ていたオレはいつもの癖で、腹を出して寝てしまったのかと思った。
手探りでタンクトップの裾を掴み、下に引き下げ……

ひーっ!!!

思わずオレは両手で口を塞いだ。
でないと大声で叫び出しそうだった。

手が…

手首から先の白い手が……

二つ、オレの腹の上をなでまわしていた。

なんで?
なんでなんで?
体温が一気に下がり、がたがたと震えてきた。
なんなの、このホラーな展開?
恐怖体験?
霊の仕業?

オレが起きているのに気づいているのかどうなのか、構わずに二つの手は緩急をつけてオレの腹をなでる。
なになになに?
なんで腹なでてるの?

自慢じゃないけど、オレの腹は柔らかくないぞ。
かっちり腹筋だぞ!
手は冷たいわけではなく、ちゃんと体温を感じた。
おかしな話だけど。
でも、手首から先の手がなでなでと……
うひーっ!!

オレは目を閉じて手を合わせ、「なまんだーなまんだー」と小さな声で唱えた。
もし成仏していない霊なら、なにもせずにそのまま極楽に行ってください。
あなたの極楽行きをオレはココロから願っていますからーーーっ!

必死なオレの願いも虚しく、手は動きを止めることなく動き、オレはずっと身体を固くしたままだった。
じわりと脂汗がにじむ。

どれくらい時間が経ったのか、くたびれてうとうとしてしまいそこから本格的に寝てしまい、スマホのアラームが鳴って起きたら朝だった。
明るい朝だった。
希望の朝だった!!
なんだよ、もう!
当然寝不足だったけど、夏期講習があるから無理矢理起きた。
来年は大学受験だから夏休みもそこそこ忙しいのだ。



夜になって昨日のことを思い出すと、怖くて眠りたくなかった。
しかし、高校生が「一人で寝るのはイヤ」と母親に言えるはずもなく、仕方ないので幼少期からの心の友のテディベアのほこりを払い、暑いのにむぎゅむぎゅ抱っこしてぎりぎりまでベッドの上に座っていた。
しかし睡魔には勝てず、いつしか横になって眠っていた。
その日、腹をなでられることはなかった。

その次の日もなでられることがなかったので、うっかりオレはいつものように寝てしまった。
部活もあったし、くたくたなんだもん。
西日ががんがん入る体育館であの練習ってきっつー!
なので、ベッドに横になるとすぐに寝入ってしまった。
オレの心の友テディベアをむぎゅむぎゅすることなく。





きゅって乳首をつままれた。
その刺激に一気に睡魔の底から意識が上がってきたっ。
ヘンな声が上がりそうになったけど、手で口を押さえられて出さずにすんだ。

え、手…?

勇気を出して目を開けてみると、手首から先の白い手が声が出ないように優しくオレの口を押さえていた。
オレは暗闇を見る。
手しかいない。
頭も胴体も足も腕もない。
二つの手、だけだ。

右手はオレが声を出さないのがわかると、静かに口から離れた。
そして、人差し指を立て、「しーっ」というふうにオレの唇にその指を当てた。
オレがこくこくとうなずくと、左手は柔らかくオレの髪をなでた。
部活して汗すっごくかくから、ツーブロックでサイドはバリカンでめちゃくちゃ短くしてる。
自分でも髪を整えるとき、つんつんして手のひらに刺さりそうなのに、手は優しく優しく髪をなでる。

あ。
なんか。
気持ちいい…

頭なんでなでられること、ないもん。
久しぶりで、コドモになった気分で、怖いのも気持ち悪いのも忘れ、目を閉じてなでられていた。
今度は右手の親指が唇をゆるりとなでる。

それ、楽しい?

オレは部活の疲れから、頭をなでられ半分眠ってしまった。
だって、ほんとに気持ちいいんだもん。
癒される~。

うっとりしていると唇をさわっていた親指が離れ、手のひら全体でほっぺたを包み込むようになでてくれた。
あ、もうそれ…
オレは思わず、自分から手にほっぺたをすりすりしてしまった。

うちは母子家庭だ。
養育費をしっかりとーちゃんが払ってくれるので、俺は高校にも塾にも通えてるし、塾にも行かせてもらっている。
大学進学を希望しても、とーちゃんとかーちゃんが「なんとかしてやる」と言ってくれた。
ほんとは県外の大学に行きたい。
でも、そこまでワガママを言っていいのか。
かーちゃんを一人にしてもいいのか。
そんな心配をずっと抱えている。
とーちゃんに言うだけ言ってみてもいいのかなぁ。
どうかなぁ。
先月、恋人ができた、って言ってたなぁ。
うーん。

かーちゃんはオレをたっぷりの愛情と度胸で育ててくれた。
でもかーちゃんはオレが寝たと思ったあと、一人でビール開けて飲んで泣いているのも実は知っている。
だからノーテンキなオレでもこれでいろいろ知らず知らずのうちに我慢しているわけで。

小さい頃はせわしいかーちゃんに、だっこもなでなでも、そうそうしてほしいと言えなかったわけで。
いや、されなくても平気だと思っていたんだ。
やっぱりしてほしいなぁ、と気がついたのは中学のときで。
でも思春期真っ盛りじゃん!
今もだけどさ。
それに今更、「かーちゃん、頭なでて」なんて言えないわけで。
残念なアンビバレントなオレさまだったわけですよ。

それが今、優しくなでなでされてる。
すり寄せたほっぺたにふれる手は骨太。
手首だけだから、「骨太」というのもおかしいけど、それでなんとなく男の人の手だなぁ、なんて思った。

うかつにもオレはその晩、手に頭をなでなでされて癒されて、すっかり気持ちよく熟睡してしまった。


頭なでなでとほっぺたすりすりは、2、3日続いた。
いつも気持ちよかった。
ずっと熟睡していた。
冷静になると怖いし不気味なんだけど、それでもなんとなく手が来るのを心待ちにしていた。
それくらい気持ちよかった。
だから、昨日、手が来なかったのは寂しくて、がっかりしてしまった。
部活で会った友達に「元気ない?」っと聞かれたくらいに。

なので、ふて寝して眠りこけていたけど、ふわりと髪をなでられて一気に目が覚めた。
今夜は右手が頭をなで、そして左手の親指が唇をなぞった。
面白い、それ?
何回かなぞったあと、口の隙間からひょいと人差し指を突っ込まれたときにはびっくりした。
思わず手を噛みそうになったのを我慢したのはほめてほしい。
人差し指はオレの口の中もなでていった。

頭にあった右手は肩に移動し、「大丈夫」というふうにぽんぽんと優しく一定のリズムでたたいてきた。
オレはとにかく口から指を出そうとしたけれど、そんなふうに「大丈夫」と言われると、このままでもいいのかな、と思い出した。

人差し指は舌の上を滑っている。
唾液が口に溜まってきたので、飲み込んだとき、思わず人差し指を吸ってしまった。
手がびくっとした。
ふふふ、びくびくしてる。
オレは面白くなってたまにちゅっと指を吸ってみた。
指は舌に絡みつきながら反応している。

やがてくちゅくちゅと口の動きに合わせて唾液の音がし始めた。
なんだか…すっごく……やらしいことしてる気分……

と思ったら、肩の右手はつーーーっと首筋をなぞり、最初の夜みたいにタンクトップをまくり上げ、腹をなでた。

「…っう」

びっくりして声を上げた。
そんなオレにおかまいなく、右手はむき出しになった乳首をきゅっとつまんだ。

「っぅくっ」

それから右手はゆっくりと円を描くように乳輪をくるくるとなで始めた。

ちょちょちょっ!
オレ、オンナの子じゃないからそんなことしても感じないし、くすぐったいだけだよ。
身をよじったら、右手は諦めてくれたようで、乳首をいじるのをやめた。

ほっとしていたら、今度は下がってきた。
そして器用に短パンのゴムの隙間から中に入り込むと、そのままボクサーパンツの中に侵入した。

待てっ!
待て待て待てっ!

さすがにそれはちょっとやりすぎではっ!
オレは短パンの中から手をつまみ出そうと思った。
でも、舌をもて遊んでいる左手がふわっとほっぺたをなでた。

はぁぁ。
オレは数日の間に教えこまれたほっぺたすりすりで一瞬脱力した。
その好きに右手はまんまと目的地に侵入し、なんとオレのアレをつかんだ。

「ぎゃっ!」

思わず声を上げてしまった。
やばい、かーちゃん起きたかな?
まさか様子を見にきたら、息子が手のお化けにナニを掴まれていました、っていうのはシャレにならん!
だめだめだめ、あんっ。

オレが動揺している間に左手が器用に短パンをパンツごとずらしていた。
右手は空間に余裕ができたせいか、絶妙な力加減できゅっとナニを締めた。

「ぅくっ」

ヤバっ、声、出る!

仕方なく自分の手で口をふさぐ。
それをいいことに右手は筒にした手を上下に動かし始めた。
左手は身体中をなでまわす。

手は不思議な動きをする。
胴体と腕につながっていたら、ありえない動きだ。
どうなってんの?

じゃなくて、そんな太腿のきわきわなでるのやーめーてーっ!
そこの裏筋ヤバいからっ!
オレ、自慢じゃないけどおまえのせいで最近ヌいてないんだよーっ!

あ、でも上手い。
ちょ、自分でやるより気持ちいいってやめて、なしっ!
だから、どこさわってるのっ!
ってかどうやって入ったの、そこっ!
おけつの割れ目の始めのところ、さわさわするのはやめてよ、左手っ!
あんっ、右手っ、だめっ、だめだからっ。
裏のそこ、あ、ヤバいヤバいっ。

「くっ」

呆気なくイカされてしまった。
手に…

オレ、なにかが燃え尽きた気がした。
左手が髪をなでる。

「ばか」

右手のテクニックに相当気持ちよくされたのも恥ずかしかったし、まるで悪いオトコが食っちゃったオンナの子に「ごめんね」というふうに髪をなでて慰められているのも嫌だった。

もっと文句が言いたかったのに、ひどい睡魔に襲われ、オレはがくっと寝入ってしまった。




次の日はもっとひどかった。
部活でへろへろのオレはすぐに寝てしまい、気がついたらもう下半身丸出しで、オレのナニは完勃ちで、たらたらと先走りを滴らせていた。
こんなになるまで寝るな、オレっ!
それに、この手もっ。
なにか言ってやろうとした矢先にイカされた。
そしてまた、髪をなでられそれも気持ちよくて寝てしまった。



次の日は、手は来なかった。
頭なでなでだけだったら来てもいいのにな。


その次の日も、手は来なかった。



その次の日も、手は来なかった。
ふて寝した。




20170704


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