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騎士が花嫁こぼれ話 かけら(1)
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新居に越してきて何人か来客はあったが、こんなに朝早くの訪問は初めてだ。
それも繰り返されるノックの音は切羽詰まっていた。
リノは朝食を食べる手を止め、ドアを開けた。
暗い色の外套のフードを目深にかぶった人物がなだれ込んできて、リノに抱きついた。
「インティア、どうしたの?!」
ほのかに漂う香りですぐに誰だかわかったリノがインティアの細い身体を抱き留めた。
ジュリアスもそばに来てドアを閉めると、リノごとインティアを促し長椅子に座らせた。
リノがフードを取ってやると、ふわふわの髪が現れた。
背中を優しくたたきながら、インティアの腕をほどき、顔を覗いてぎょっとした。
インティアは声を出さずに泣きじゃくっていた。
目の下のひどい隈。
かさかさのほっぺ。
青い顔色。
抱きしめた感触からするとちょっと痩せていた。
そんなインティアを見て、ジュリアスはすぐに湯を沸かし直し紅茶を淹れ始めた。
リノはインティアの背中を優しくなで続けた。
「ジュリさんが紅茶を淹れてくれているよ。
きっとインティアのために砂糖が入った甘いヤツ。
もう少し待ってね」
涙の止まらないインティアは微かにうなずいた。
ほどなくして、ジュリアスがソーサーつきのカップを運んできた。
ラバグルトが探してくれ、リノとジュリアスが新居として構えた家にはインティアのために高級な紅茶と砂糖、そして一脚だけの磁器のカップとソーサーがあった。
「飲めるか?」
インティアはようやくリノから腕を離し、そっとジュリアスからカップを受け取ると一口飲んで、すぐにソーサーに置いてリノにしがみついた。
それでもジュリアスは満足そうにし、自分はテーブルに戻って朝食の続きを食べ、手早く終わらせた。
「リノ、行ってくる」
「あ、ジュリさん、いってらっしゃい」
ジュリアスは長椅子のリノのところに行き、短いキスを唇に落とした。
それからインティアのぼさぼさになっている髪を何度か大きな手で梳き、
「昼には戻ってくる。
昼食を作ってやる。
それまで寝ていろ」
と言うと、優しくこめかみにキスをした。
「では、インティアのこと、よろしくお願いします」
「はい。
ジュリさんもお休みの日なのに気をつけてね」
「買い物は俺が行くから」
「え、でも俺行くし」
「インティアを一人にしないほうがいい。
そばにいてやってくれ」
「そうだね。
じゃあ、お願いします」
「はい」
そうしてジュリアスは出かけていった。
インティアはひとしきり泣いて、すっかり冷めてしまった甘い紅茶を飲むと少し落ち着いたようだった。
ふらふらしていたので、リノはインティアを自分のベッドに寝かしてやった。
しばらくは不安そうにしていたが、手を握ってやるとやがて安心したのか眠り始めた。
一体、なにがあったんだろう?
リノは心配そうにやつれたインティアを見た。
自分たちがクラディウスの離れから出るきっかけはインティアとクラディウスとが想いを通わせたことがわかったからだ。
それから何度か会ったが、インティアは幸せそうだった。
辛辣なことを言ったり、我儘でラバグルトを困らせることもあったが、かわいらしいものだった。
自分の男娼館アルティシモを閉じ、男娼を辞めてから、インティアはますます天使のようになっていった。
リノと一緒に救護室でユエの手伝いをしていたときに歌った子守唄は評判がよく、今でもたまにユエが手伝う街の病院へリノと一緒に行き歌うことがあった。
クラディウスのことを話すときのインティアは、頬を薔薇色に染め、まるで少女のようだった。
「一夜の夢を見せる相手」ではなく、クラディウスにたっぷりと甘く愛されているのがよくわかるような変化に、リノも赤面することが多かった。
そのインティアがこんなになっちゃうだなんて、なにがあったの?
リノはインティアの目の端に残っていた涙を指で拭ってやると、髪を何度かなで、そしてベッドのそばに椅子を持ってきて本を開き読み始めた。
それはリノが今、関心を持っていることについて書かれているもので、リノの思いを知ったユエが人から借りてきてくれた本だった。
まだすらすらとは読めないし、難しい言葉がたくさん出てきたが、リノは夢中になって読んでいた。
コトンというドアをそっと開ける音で、リノは本から顔を上げた。
ジュリアスが顔を覗かせた。
トレイの上にはサンドイッチとスープが二人分載っていた。
「どうだ?」
「おかえり、ジュリさん。
あれからすぐに寝たよ。
全然起きない」
二人は小声で話しながら、ジュリアスのベッドに腰かけ、おかえりのキスを交わした。
「よっぽど寝ていないな。
それに食べてもいない」
二人はジュリアスが作ったチーズとピクルスのサンドイッチを食べ、柔らかな味の野菜スープを飲んだ。
「このスープなら、あまり食べていないインティアにも飲めるね」
「好きならミルクを入れてもいい」
「あ、ミルクも買ってきたんだ。
ジュリさん、インティアにあまーい」
「ミルクティーにもできるしな」
「やっさしーい」
「リノにも優しくしているつもりだが」
拗ねたのかと思い、ジュリアスはリノに甘いキスを落とした。
リノは笑いながらそれを受けた。
インティアに甘いのは二人ともだけどね。
昼過ぎにインティアは目が覚めた。
二人が甲斐甲斐しく世話をし、ジュリアスの野菜スープを半分飲み、パンをひとかけら食べた。
三日ぶりにまともに食事をした、という。
二人はインティアを心配そうに見た。
インティアはまた不安そうにし、リノがベッドに乗り上がりヘッドボードにもたれかかってインティアを背中から抱きしめてやった。
するとインティアはまた泣き出した。
それをジュリアスが柔らかな布で拭きとってやった。
「そんなに泣いて、どうした?
クラディウスが意地の悪いことをしたのか?」
ジュリアスがその名前を口にするとインティアの身体に緊張が走った。
「……そんなこと、しない」
「しかし原因はあいつだろう?」
「あ、ジュリさん、今日クラディウス様に会ったんだよね?
どうだった?」
「大荒れ。
仕事にならないから、放ってきた」
「ええっ!
もしかして、インティア、黙って出てきちゃったの?」
「らしいな。
寝不足で憔悴した顔で居場所を知らないか、と尋ねてきた」
「ジュリアス、言っちゃったの?
僕、どうしよう…」
「それは言うだろう」
ジュリアスはインティアの頭をなでた。
「愛する人が行方不明だなんて、どうにかなりそうになるだろう?」
「…あ」
「心配するな。
ここにいることは言ったが、インティアが自分で帰りたいと思うまで送ってもいかないし、迎えにもこないでほしいと言ってある」
「クラディウス様はそれで納得したの?」
「さあ。
でも『よろしく頼む』と言われた。
居場所がわかって、まずは一安心したのかもな。
だから、インティア、安心してここにいるといい」
リノもインティアを抱きしめ直し、肩をなでながら言った。
「そうだよ、インティア。
今晩は俺とジュリさんとでトマト煮込みを作るからね。
食べてみてよ」
視線を合わせ、微笑み合う二人を見て、インティアはぽそりと言った。
「いいな」
「ん?インティアも一緒に作る?」
「そうじゃなくて」
「?」
「仲がよくていいな」
「インティアもクラディウス様と仲がいいでしょ?」
インティアは大きく首を振った。
そしてうなだれながら言った。
「怖いんだ」
「?」
「僕、人を好きになるのは初めてなんだ…」
「え、だって、そんな…?」
リノが驚いているとジュリアスがリノに代わって頭をなでた。
「そうか、インティアは『一夜の夢』を見せるのが仕事だったから、これまで人を好きになったことがないのか」
男娼として甘い時間と身体を売る仕事。
疑似恋愛のようなものはしてきたが、仕事だと割り切っていた。
もし本気になったら辛すぎると思ったのか。
それとも高級男娼になってから回数を重ねて会う人物も限られていて、その中にはクラディウスのために情報を得るために抱かれることも多かったせいなのか。
ジュリアスが言うように、インティアはこれまで人を好きになったことがなかった。
「怖い。
どんどん好きになっていく。
だんだんクラディウスがいなくちゃダメになっていく気がする。
止めたくても止まらない」
インティアは不安そうに自分を抱きしめた。
「どうしよう、って。
どんどん怖くなって」
「それで逃げ出してきたのか」
インティアは頷き、首を回してリノを見た。
「ねぇ、リノはそんなことない?」
「あるよ。
ジュリさんをどんどん好きになっていくよ」
「どうしてそんなに平気なの?
まさかリノは恋愛経験いっぱいなの?」
「あ…ロクに恋愛したことなくて結婚しちゃったけどさ」
リノは照れたように鼻の頭を指でかき、そしてぎゅっとインティアを抱きしめ直した。
「どんどん好きになっていくのって当然のことだから。
怖くなかったよ。
気がついたらびっくりするほど好きになっていてそれには驚いたけど、怖くはなかった。
きっとジュリさんも俺によくしてくれて、受け留めてくれたからだと思う」
「ジュリアスは?
ジュリアスならいっぱい恋愛したの?」
「悪いが俺もまともに恋愛をしたことがなかったな。
ずっと騎士団の剣や作戦の訓練をしたり、上官の相手をしていたからそんな気にはなれなかったし」
「え、こんなに女を抱くのが似合いそうなのに!」
「まあ、抱いていないと言えば嘘になるが深い仲になるまでには至らなかったよ」
「そんなことがあったんですね、ジュリさん」
リノがちょっとイライラし始めた。
「今は怒らないでください、リノ。
お互いに過去のことはまだあまり知らないのだから。
後でそれは受けますから」
リノは面白くなさそうにぷいっと横を向いた。
ジュリアスはそれを見たが、触れずにインティアのほうを向いた。
「インティア、怖いかどうかと聞かれたら、怖いものだよ、人を好きになるのは。
今でもとても怖いと感じる」
リノは驚いたようにジュリアスを見た。
これまでそんなことを聞いたことはなかった。
「けれど、リノはいつも俺のことが好きだと素直に言ってくれた。
とても安心できたよ」
優しい眼差しでジュリアスはインティアを見た。
「だから、必要以上に恐れることはない。
クラディウスはおまえにきちんと想いを伝えているだろう?
ジャスティが発破をかけていて、なんだかんだと言ってあいつもそうしようと努力をしている」
「……」
「あれもあまり人を好きになることには慣れてなさそうだからな。
多少のことは許してやってくれ」
「クラディウスはいつも人の輪の中心にいて、何人もの女を引き連れて、あるときには男も引き連れているよ」
「だから?
おまえも知っているだろう?
クラディウスは目的がないと動かない男だ。
交渉か情報か、なにかのために人に近づき、抱くこともあっただろう。
けれど、まともに恋愛をしたことはなさそうだ」
「どうしてわかるの?」
「あいつの懐には誰も入れないよ、おまえ以外はね」
ジュリアスは口の端を上げてにやりと笑った。
「簡単に人を信用しないし、恋愛感情も持たない。
持ったと見えたのなら、それはあいつの演技が上手だからだろう。
今、一番楽にクラディウスを殺せるのは、インティアだ。
人が来ても気がつかないほど眠りこけるクラディウスなんて知らないな。
それだけおまえは近くにいるんだよ」
ジュリアスは面白そうに言うと、立ち上がった。
「そろそろトマト煮込みの仕込みをしてくる」
「あ、俺も行く」
リノがベッドから下りようとしたのをジュリアスが止めた。
「インティアのそばにいてあげてください」
リノは肩をすくめて、
「はーい。
ほんとにジュリさんはインティアには甘いんだから」
と言いながらくすくす笑った。
ベッドの上で二人になると、リノとインティアは手を繋いで横になった。
「こうしているとあの時みたいだね」
リノは仰向けになって言った。
クラディウスとジュリアスが王都警護のために出ていき、二人の無事の帰りをリノとインティアはこうやって待っていた。
「そうだね」
「あの頃からクラディウス様のこと、好きだったんでしょ?」
「…う」
インティアはすぐに素直にうなずけなかった。
「僕、まだクラディウスに『好き』って言ってない…」
「え?そうなの?!」
「…うん」
「言ってあげたらいいのに。
喜んでくださるよ、きっと」
「でも…怖いし、恥ずかしい…」
「怖くないよ、全然」
「それに…」
「ん?」
「それで愛想を尽かされたのか、僕、全然求められてないんだ」
「はあっ?!」
リノはがばっと起き上がってインティアを見た。
インティアは真っ赤になって上掛けの中に潜り込んでいる。
しかしリノの手は離さなかった。
「え、それって…ねぇ、インティア?」
リノはインティアの顔を覗き込む。
インティアは顔を上掛けに埋めてしまったが、見えている顎や耳や首筋が真っ赤になっているのが見えた。
「全然してないの?!」
「……」
「ほんとに?」
「……」
「マジで…?」
「そ、そんなに聞かないでよ、リノ!」
「あ、いや、だって…ごめん」
「行く前に抱かれたよ。
すごく乱暴だったけど」
「行く前?!
もう半年以上になるじゃん!
っていうか、もうすぐ8か月くらい経つよね?」
「そ、そうだよ!」
「でもクラディウス様が帰って来られて3か月くらい経ってるし、ラバグルトさんが二人で寝ているって言ってきたのが2か月前だから…」
「ああ、もうそんなふうに言わないでよ!」
「あ、ごめん。
それにしても…」
インティアがますます赤くなっているのが見えた。
リノはこんなになったインティアを初めて見た。
「クラディウス様、すごい…
よく我慢できてるよなぁ!」
「だからきっと愛想を尽かされたんだって」
「そんなはずないよ。
俺、クラディウス様を見たとき、インティアのことが大好きで大切なんだなぁ、と思ったもん。
そんなに好きなのに我慢してるだなんて、きっとなにか理由があるよ」
「他に誰かいるかもしれないじゃない」
「もう、インティア!」
リノはインティアを上掛けから引きずり出した。
この半年でリノは5インチ以上も背が伸び、身体もがっちりしてきた。
ほっそりしたインティアはあっという間に上掛けから顔を出すことになった。
そして頬を両手で包むと額と額をくっつけて、リノはインティアの目を見た。
「クラディウス様はそんなことはしないよ。
今だってインティアのことで冷静を欠いていらっしゃるくらいだし。
それに好きな人がそばにいるんだよ。
それもその人も自分のことが好きな人が!
欲しくなるよ。
でもそれをしていないのは、抱かない理由があるんだよ」
「そ、そうかな」
「そうだよ!」
インティアが噴き出した。
「そうだよね!
三日で潤滑油を二本使っちゃうリノが言うんだもんね!」
「ああっ!」
リノはインティアから離れた。
今度はリノが真っ赤になる番だった。
「いや、だってあれは、俺だって半年くらい待ったし、えっとなんというか、ジュリさんもいいって言ってくれたし、そのなんだ」
インティアがふわりとリノを抱きしめた。
「リノ、ありがとう。
…僕、クラディウスに言ってみる」
「あ…
うん!」
リノもインティアを抱きしめ返した。
そうやっているとインティアがくすくすと笑い始めた。
「どうしたの?」
「ジュリアス、変わったよね。
僕がこんなふうにリノに抱きついたら、最初、すごく嫉妬したじゃない。
今は何も言わなくなってる!」
リノはインティアの髪をなでながら言った。
「ジュリさんがインティアに甘いだけだよ。
きっともうすぐお茶を淹れてくれるよ。
インティアには甘いミルクティー。
うちにはミルクがなかったのに、インティアのために買ってきたんだから」
「なあに、妬いてるの?」
「ばっ、なに言ってるんだよ!」
「そろそろ離れたらどうですか、旦那様」
「うわっ!ジュリさん?!」
熱々のミルクティーの入ったカップを三つ、トレイの上に載せたジュリアスが二人を覗き込んでいた。
リノが飛び起きると、ジュリアスはインティアの背中に腕を入れ、優しく起こしてやった。
「なになに、この違い!
やっぱりジュリさんはインティアに甘い」
「リノもだろう?」
ふふふ、とインティアが笑った。
久しぶりに天使のような笑顔だった。
「二人に好かれていて嬉しいよ。
ありがとう。
僕も好きだよ」
「あーーーーっ、それだ!
それ、クラディウス様に言ったらいいんだよ!」
自然と出てきた自分の言葉にインティアも驚き、そして素直にうなずいた。
三人は砂糖の入った甘いミルクティーを飲み、夕にはジュリアスのトマト煮込みを食べた。
夜は「お、落ちるっ!」と言いながら、ジュリアスのベッドにインティアを真ん中にして三人がぎゅうぎゅうになって寝た。
インティアは声を立てて笑い、いつもの調子で話もし始めた。
寝つきのいいリノが先に寝てしまうと、インティアはぼそりと言った。
「ジュリアス、ありがとう。
それに大事な旦那様も、ね」
「少しくっつきすぎだが、まあいい。
インティアにはリノの力が必要だっただろう?」
「ん。
久しぶりに思い出したよ。
僕たちがどんな思いをして、クラディウスやジュリアスの帰りを待っていたのかを。
僕たちはどうすることもできなかったけど、でも二人でいたから待てたような気がする」
「長かったな、5か月は」
「うん」
「俺たちにも長かったよ。
クラディウスとは直接話はしなかったけれど、二人が館で待っていると思ったからこそ平静を保てた部分もある。
こんなことは初めてだ」
「リノのこと、好きなんだね」
「ああ」
「素敵な人だものね」
「そうだな」
「……クラディウスに会いたいな」
「明日、迎えに来るように言ってやる」
「…うん」
「泣くな」
涙声で返事をしたインティアをジュリアスはそっと抱き寄せた。
「会いたい」
「朝一番で行ってきてきてやる。
それとも今すぐがいいか?」
「…ううん、今日はこのまま、ここがいい」
「ああ」
「…リノがまた焼きもち焼くね」
「俺も相当焼いているからお互い様だ」
「あとで喧嘩をしないでよ」
「しないよ」
「ジュリアスは甘えさせているように見せて、実は相当リノに甘えてるよね」
「かもな」
「いいね」
「素晴らしい旦那様ですから」
「やだ、惚気?」
「もう泣き終わったか?
寝るぞ」
「うん………
ねぇ」
「ん?」
「また来てもいい?」
「ああ、もちろん」
「ありがと。
おやすみ」
インティアはジュリアスの頬にキスをしてもぞりと上掛けに潜り込んだ。
20161126
それも繰り返されるノックの音は切羽詰まっていた。
リノは朝食を食べる手を止め、ドアを開けた。
暗い色の外套のフードを目深にかぶった人物がなだれ込んできて、リノに抱きついた。
「インティア、どうしたの?!」
ほのかに漂う香りですぐに誰だかわかったリノがインティアの細い身体を抱き留めた。
ジュリアスもそばに来てドアを閉めると、リノごとインティアを促し長椅子に座らせた。
リノがフードを取ってやると、ふわふわの髪が現れた。
背中を優しくたたきながら、インティアの腕をほどき、顔を覗いてぎょっとした。
インティアは声を出さずに泣きじゃくっていた。
目の下のひどい隈。
かさかさのほっぺ。
青い顔色。
抱きしめた感触からするとちょっと痩せていた。
そんなインティアを見て、ジュリアスはすぐに湯を沸かし直し紅茶を淹れ始めた。
リノはインティアの背中を優しくなで続けた。
「ジュリさんが紅茶を淹れてくれているよ。
きっとインティアのために砂糖が入った甘いヤツ。
もう少し待ってね」
涙の止まらないインティアは微かにうなずいた。
ほどなくして、ジュリアスがソーサーつきのカップを運んできた。
ラバグルトが探してくれ、リノとジュリアスが新居として構えた家にはインティアのために高級な紅茶と砂糖、そして一脚だけの磁器のカップとソーサーがあった。
「飲めるか?」
インティアはようやくリノから腕を離し、そっとジュリアスからカップを受け取ると一口飲んで、すぐにソーサーに置いてリノにしがみついた。
それでもジュリアスは満足そうにし、自分はテーブルに戻って朝食の続きを食べ、手早く終わらせた。
「リノ、行ってくる」
「あ、ジュリさん、いってらっしゃい」
ジュリアスは長椅子のリノのところに行き、短いキスを唇に落とした。
それからインティアのぼさぼさになっている髪を何度か大きな手で梳き、
「昼には戻ってくる。
昼食を作ってやる。
それまで寝ていろ」
と言うと、優しくこめかみにキスをした。
「では、インティアのこと、よろしくお願いします」
「はい。
ジュリさんもお休みの日なのに気をつけてね」
「買い物は俺が行くから」
「え、でも俺行くし」
「インティアを一人にしないほうがいい。
そばにいてやってくれ」
「そうだね。
じゃあ、お願いします」
「はい」
そうしてジュリアスは出かけていった。
インティアはひとしきり泣いて、すっかり冷めてしまった甘い紅茶を飲むと少し落ち着いたようだった。
ふらふらしていたので、リノはインティアを自分のベッドに寝かしてやった。
しばらくは不安そうにしていたが、手を握ってやるとやがて安心したのか眠り始めた。
一体、なにがあったんだろう?
リノは心配そうにやつれたインティアを見た。
自分たちがクラディウスの離れから出るきっかけはインティアとクラディウスとが想いを通わせたことがわかったからだ。
それから何度か会ったが、インティアは幸せそうだった。
辛辣なことを言ったり、我儘でラバグルトを困らせることもあったが、かわいらしいものだった。
自分の男娼館アルティシモを閉じ、男娼を辞めてから、インティアはますます天使のようになっていった。
リノと一緒に救護室でユエの手伝いをしていたときに歌った子守唄は評判がよく、今でもたまにユエが手伝う街の病院へリノと一緒に行き歌うことがあった。
クラディウスのことを話すときのインティアは、頬を薔薇色に染め、まるで少女のようだった。
「一夜の夢を見せる相手」ではなく、クラディウスにたっぷりと甘く愛されているのがよくわかるような変化に、リノも赤面することが多かった。
そのインティアがこんなになっちゃうだなんて、なにがあったの?
リノはインティアの目の端に残っていた涙を指で拭ってやると、髪を何度かなで、そしてベッドのそばに椅子を持ってきて本を開き読み始めた。
それはリノが今、関心を持っていることについて書かれているもので、リノの思いを知ったユエが人から借りてきてくれた本だった。
まだすらすらとは読めないし、難しい言葉がたくさん出てきたが、リノは夢中になって読んでいた。
コトンというドアをそっと開ける音で、リノは本から顔を上げた。
ジュリアスが顔を覗かせた。
トレイの上にはサンドイッチとスープが二人分載っていた。
「どうだ?」
「おかえり、ジュリさん。
あれからすぐに寝たよ。
全然起きない」
二人は小声で話しながら、ジュリアスのベッドに腰かけ、おかえりのキスを交わした。
「よっぽど寝ていないな。
それに食べてもいない」
二人はジュリアスが作ったチーズとピクルスのサンドイッチを食べ、柔らかな味の野菜スープを飲んだ。
「このスープなら、あまり食べていないインティアにも飲めるね」
「好きならミルクを入れてもいい」
「あ、ミルクも買ってきたんだ。
ジュリさん、インティアにあまーい」
「ミルクティーにもできるしな」
「やっさしーい」
「リノにも優しくしているつもりだが」
拗ねたのかと思い、ジュリアスはリノに甘いキスを落とした。
リノは笑いながらそれを受けた。
インティアに甘いのは二人ともだけどね。
昼過ぎにインティアは目が覚めた。
二人が甲斐甲斐しく世話をし、ジュリアスの野菜スープを半分飲み、パンをひとかけら食べた。
三日ぶりにまともに食事をした、という。
二人はインティアを心配そうに見た。
インティアはまた不安そうにし、リノがベッドに乗り上がりヘッドボードにもたれかかってインティアを背中から抱きしめてやった。
するとインティアはまた泣き出した。
それをジュリアスが柔らかな布で拭きとってやった。
「そんなに泣いて、どうした?
クラディウスが意地の悪いことをしたのか?」
ジュリアスがその名前を口にするとインティアの身体に緊張が走った。
「……そんなこと、しない」
「しかし原因はあいつだろう?」
「あ、ジュリさん、今日クラディウス様に会ったんだよね?
どうだった?」
「大荒れ。
仕事にならないから、放ってきた」
「ええっ!
もしかして、インティア、黙って出てきちゃったの?」
「らしいな。
寝不足で憔悴した顔で居場所を知らないか、と尋ねてきた」
「ジュリアス、言っちゃったの?
僕、どうしよう…」
「それは言うだろう」
ジュリアスはインティアの頭をなでた。
「愛する人が行方不明だなんて、どうにかなりそうになるだろう?」
「…あ」
「心配するな。
ここにいることは言ったが、インティアが自分で帰りたいと思うまで送ってもいかないし、迎えにもこないでほしいと言ってある」
「クラディウス様はそれで納得したの?」
「さあ。
でも『よろしく頼む』と言われた。
居場所がわかって、まずは一安心したのかもな。
だから、インティア、安心してここにいるといい」
リノもインティアを抱きしめ直し、肩をなでながら言った。
「そうだよ、インティア。
今晩は俺とジュリさんとでトマト煮込みを作るからね。
食べてみてよ」
視線を合わせ、微笑み合う二人を見て、インティアはぽそりと言った。
「いいな」
「ん?インティアも一緒に作る?」
「そうじゃなくて」
「?」
「仲がよくていいな」
「インティアもクラディウス様と仲がいいでしょ?」
インティアは大きく首を振った。
そしてうなだれながら言った。
「怖いんだ」
「?」
「僕、人を好きになるのは初めてなんだ…」
「え、だって、そんな…?」
リノが驚いているとジュリアスがリノに代わって頭をなでた。
「そうか、インティアは『一夜の夢』を見せるのが仕事だったから、これまで人を好きになったことがないのか」
男娼として甘い時間と身体を売る仕事。
疑似恋愛のようなものはしてきたが、仕事だと割り切っていた。
もし本気になったら辛すぎると思ったのか。
それとも高級男娼になってから回数を重ねて会う人物も限られていて、その中にはクラディウスのために情報を得るために抱かれることも多かったせいなのか。
ジュリアスが言うように、インティアはこれまで人を好きになったことがなかった。
「怖い。
どんどん好きになっていく。
だんだんクラディウスがいなくちゃダメになっていく気がする。
止めたくても止まらない」
インティアは不安そうに自分を抱きしめた。
「どうしよう、って。
どんどん怖くなって」
「それで逃げ出してきたのか」
インティアは頷き、首を回してリノを見た。
「ねぇ、リノはそんなことない?」
「あるよ。
ジュリさんをどんどん好きになっていくよ」
「どうしてそんなに平気なの?
まさかリノは恋愛経験いっぱいなの?」
「あ…ロクに恋愛したことなくて結婚しちゃったけどさ」
リノは照れたように鼻の頭を指でかき、そしてぎゅっとインティアを抱きしめ直した。
「どんどん好きになっていくのって当然のことだから。
怖くなかったよ。
気がついたらびっくりするほど好きになっていてそれには驚いたけど、怖くはなかった。
きっとジュリさんも俺によくしてくれて、受け留めてくれたからだと思う」
「ジュリアスは?
ジュリアスならいっぱい恋愛したの?」
「悪いが俺もまともに恋愛をしたことがなかったな。
ずっと騎士団の剣や作戦の訓練をしたり、上官の相手をしていたからそんな気にはなれなかったし」
「え、こんなに女を抱くのが似合いそうなのに!」
「まあ、抱いていないと言えば嘘になるが深い仲になるまでには至らなかったよ」
「そんなことがあったんですね、ジュリさん」
リノがちょっとイライラし始めた。
「今は怒らないでください、リノ。
お互いに過去のことはまだあまり知らないのだから。
後でそれは受けますから」
リノは面白くなさそうにぷいっと横を向いた。
ジュリアスはそれを見たが、触れずにインティアのほうを向いた。
「インティア、怖いかどうかと聞かれたら、怖いものだよ、人を好きになるのは。
今でもとても怖いと感じる」
リノは驚いたようにジュリアスを見た。
これまでそんなことを聞いたことはなかった。
「けれど、リノはいつも俺のことが好きだと素直に言ってくれた。
とても安心できたよ」
優しい眼差しでジュリアスはインティアを見た。
「だから、必要以上に恐れることはない。
クラディウスはおまえにきちんと想いを伝えているだろう?
ジャスティが発破をかけていて、なんだかんだと言ってあいつもそうしようと努力をしている」
「……」
「あれもあまり人を好きになることには慣れてなさそうだからな。
多少のことは許してやってくれ」
「クラディウスはいつも人の輪の中心にいて、何人もの女を引き連れて、あるときには男も引き連れているよ」
「だから?
おまえも知っているだろう?
クラディウスは目的がないと動かない男だ。
交渉か情報か、なにかのために人に近づき、抱くこともあっただろう。
けれど、まともに恋愛をしたことはなさそうだ」
「どうしてわかるの?」
「あいつの懐には誰も入れないよ、おまえ以外はね」
ジュリアスは口の端を上げてにやりと笑った。
「簡単に人を信用しないし、恋愛感情も持たない。
持ったと見えたのなら、それはあいつの演技が上手だからだろう。
今、一番楽にクラディウスを殺せるのは、インティアだ。
人が来ても気がつかないほど眠りこけるクラディウスなんて知らないな。
それだけおまえは近くにいるんだよ」
ジュリアスは面白そうに言うと、立ち上がった。
「そろそろトマト煮込みの仕込みをしてくる」
「あ、俺も行く」
リノがベッドから下りようとしたのをジュリアスが止めた。
「インティアのそばにいてあげてください」
リノは肩をすくめて、
「はーい。
ほんとにジュリさんはインティアには甘いんだから」
と言いながらくすくす笑った。
ベッドの上で二人になると、リノとインティアは手を繋いで横になった。
「こうしているとあの時みたいだね」
リノは仰向けになって言った。
クラディウスとジュリアスが王都警護のために出ていき、二人の無事の帰りをリノとインティアはこうやって待っていた。
「そうだね」
「あの頃からクラディウス様のこと、好きだったんでしょ?」
「…う」
インティアはすぐに素直にうなずけなかった。
「僕、まだクラディウスに『好き』って言ってない…」
「え?そうなの?!」
「…うん」
「言ってあげたらいいのに。
喜んでくださるよ、きっと」
「でも…怖いし、恥ずかしい…」
「怖くないよ、全然」
「それに…」
「ん?」
「それで愛想を尽かされたのか、僕、全然求められてないんだ」
「はあっ?!」
リノはがばっと起き上がってインティアを見た。
インティアは真っ赤になって上掛けの中に潜り込んでいる。
しかしリノの手は離さなかった。
「え、それって…ねぇ、インティア?」
リノはインティアの顔を覗き込む。
インティアは顔を上掛けに埋めてしまったが、見えている顎や耳や首筋が真っ赤になっているのが見えた。
「全然してないの?!」
「……」
「ほんとに?」
「……」
「マジで…?」
「そ、そんなに聞かないでよ、リノ!」
「あ、いや、だって…ごめん」
「行く前に抱かれたよ。
すごく乱暴だったけど」
「行く前?!
もう半年以上になるじゃん!
っていうか、もうすぐ8か月くらい経つよね?」
「そ、そうだよ!」
「でもクラディウス様が帰って来られて3か月くらい経ってるし、ラバグルトさんが二人で寝ているって言ってきたのが2か月前だから…」
「ああ、もうそんなふうに言わないでよ!」
「あ、ごめん。
それにしても…」
インティアがますます赤くなっているのが見えた。
リノはこんなになったインティアを初めて見た。
「クラディウス様、すごい…
よく我慢できてるよなぁ!」
「だからきっと愛想を尽かされたんだって」
「そんなはずないよ。
俺、クラディウス様を見たとき、インティアのことが大好きで大切なんだなぁ、と思ったもん。
そんなに好きなのに我慢してるだなんて、きっとなにか理由があるよ」
「他に誰かいるかもしれないじゃない」
「もう、インティア!」
リノはインティアを上掛けから引きずり出した。
この半年でリノは5インチ以上も背が伸び、身体もがっちりしてきた。
ほっそりしたインティアはあっという間に上掛けから顔を出すことになった。
そして頬を両手で包むと額と額をくっつけて、リノはインティアの目を見た。
「クラディウス様はそんなことはしないよ。
今だってインティアのことで冷静を欠いていらっしゃるくらいだし。
それに好きな人がそばにいるんだよ。
それもその人も自分のことが好きな人が!
欲しくなるよ。
でもそれをしていないのは、抱かない理由があるんだよ」
「そ、そうかな」
「そうだよ!」
インティアが噴き出した。
「そうだよね!
三日で潤滑油を二本使っちゃうリノが言うんだもんね!」
「ああっ!」
リノはインティアから離れた。
今度はリノが真っ赤になる番だった。
「いや、だってあれは、俺だって半年くらい待ったし、えっとなんというか、ジュリさんもいいって言ってくれたし、そのなんだ」
インティアがふわりとリノを抱きしめた。
「リノ、ありがとう。
…僕、クラディウスに言ってみる」
「あ…
うん!」
リノもインティアを抱きしめ返した。
そうやっているとインティアがくすくすと笑い始めた。
「どうしたの?」
「ジュリアス、変わったよね。
僕がこんなふうにリノに抱きついたら、最初、すごく嫉妬したじゃない。
今は何も言わなくなってる!」
リノはインティアの髪をなでながら言った。
「ジュリさんがインティアに甘いだけだよ。
きっともうすぐお茶を淹れてくれるよ。
インティアには甘いミルクティー。
うちにはミルクがなかったのに、インティアのために買ってきたんだから」
「なあに、妬いてるの?」
「ばっ、なに言ってるんだよ!」
「そろそろ離れたらどうですか、旦那様」
「うわっ!ジュリさん?!」
熱々のミルクティーの入ったカップを三つ、トレイの上に載せたジュリアスが二人を覗き込んでいた。
リノが飛び起きると、ジュリアスはインティアの背中に腕を入れ、優しく起こしてやった。
「なになに、この違い!
やっぱりジュリさんはインティアに甘い」
「リノもだろう?」
ふふふ、とインティアが笑った。
久しぶりに天使のような笑顔だった。
「二人に好かれていて嬉しいよ。
ありがとう。
僕も好きだよ」
「あーーーーっ、それだ!
それ、クラディウス様に言ったらいいんだよ!」
自然と出てきた自分の言葉にインティアも驚き、そして素直にうなずいた。
三人は砂糖の入った甘いミルクティーを飲み、夕にはジュリアスのトマト煮込みを食べた。
夜は「お、落ちるっ!」と言いながら、ジュリアスのベッドにインティアを真ん中にして三人がぎゅうぎゅうになって寝た。
インティアは声を立てて笑い、いつもの調子で話もし始めた。
寝つきのいいリノが先に寝てしまうと、インティアはぼそりと言った。
「ジュリアス、ありがとう。
それに大事な旦那様も、ね」
「少しくっつきすぎだが、まあいい。
インティアにはリノの力が必要だっただろう?」
「ん。
久しぶりに思い出したよ。
僕たちがどんな思いをして、クラディウスやジュリアスの帰りを待っていたのかを。
僕たちはどうすることもできなかったけど、でも二人でいたから待てたような気がする」
「長かったな、5か月は」
「うん」
「俺たちにも長かったよ。
クラディウスとは直接話はしなかったけれど、二人が館で待っていると思ったからこそ平静を保てた部分もある。
こんなことは初めてだ」
「リノのこと、好きなんだね」
「ああ」
「素敵な人だものね」
「そうだな」
「……クラディウスに会いたいな」
「明日、迎えに来るように言ってやる」
「…うん」
「泣くな」
涙声で返事をしたインティアをジュリアスはそっと抱き寄せた。
「会いたい」
「朝一番で行ってきてきてやる。
それとも今すぐがいいか?」
「…ううん、今日はこのまま、ここがいい」
「ああ」
「…リノがまた焼きもち焼くね」
「俺も相当焼いているからお互い様だ」
「あとで喧嘩をしないでよ」
「しないよ」
「ジュリアスは甘えさせているように見せて、実は相当リノに甘えてるよね」
「かもな」
「いいね」
「素晴らしい旦那様ですから」
「やだ、惚気?」
「もう泣き終わったか?
寝るぞ」
「うん………
ねぇ」
「ん?」
「また来てもいい?」
「ああ、もちろん」
「ありがと。
おやすみ」
インティアはジュリアスの頬にキスをしてもぞりと上掛けに潜り込んだ。
20161126
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