21 / 31
17.遅れて帰ってくる兄がいるので
しおりを挟む
「レイ、兄さまはどこ?」
レイはすこし目を泳がせてとめた。すぐに覚悟を決めた様子でまっすぐ私を見る。
「デイヴィットはオレを先に行かせるための囮になった。途中、衛兵と王城騎士に助けを頼んだが……あちらの情報はまだわからない」
後悔のにじむ瞳のレイ。私は兄ならそうするだろうと妙に納得してしまって小さく息を吐いた。
「兄さまならやりかねないわね。そのおかげで私は助かったのだし。……文句と礼はあとでたっぷりいうわ」
無事を祈り、窓を見る。雨は止んだ。
騎士たちが気を失っている侵入者たちを縛り上げ床に転がしている。そろそろ衛兵が到着するだろう。
********
レイやサラ、パトリシアに手伝ってもらいながら、片付けの指示を出し、壊されたものや仕掛けられたものがないか念入りにチェックしていった。
細かな傷や汚れ、小物の破損はあるが、壊されたものは私の執務室の扉くらいで、他の調度品には大きな破損があるものはなく、屋敷の中も周辺にも目立った異変はない。屋敷の周辺は日が昇った後、もう一度確認するよう指示を出した。
あの男の“目的は達した”という言葉が気になるが、今のところ何も被害がないところをみると、部屋を荒らすことが目的なんて短絡的なものでなければ、兄の方に目的があったのかもしれない。
「シャーロット!」
走り寄ってきたパトリシアの声に意識を向ける。彼女は足りない工具などを借りるために一度家へ戻っていたはずだ。
「デイヴィット様が帰ってきた。今、エントランスに……」
言葉は最後まで聞けなかった。はやる気持ちを抑えてエントランスホールに向かう。
エントランスホールには兄の護衛をしていた騎士たちが手当てを受けている。
その騎士たちの間を忙しなく動きまわり、指示を出す兄を見つけて、私は思わず大きな声で呼びかけた。
兄は私に気が付くと、ほっとした顔で笑う。
「無事でよかった」
そう言った兄の腕には包帯が巻かれ、血がににじんでいる。
「そちらのけが人は?」
「数名、全員軽傷よ。手当てもすんでいて休んでいるわ。兄さまの方は、大変だったみたいね」
「あぁ、死者が出ていないのが救いだ」
横たわる騎士や御者たちを悲痛な面持ちで見つめている。
「兄さまの怪我は」
兄は包帯の巻かれた腕を少し上げて、小さく笑う。
「かすり傷程度だよ。大丈夫。……彼らにはそれなりの償いをしてもらわないとね」
「心当たりがあるの?」
「まぁね。シャルは何も心配しなくていいよ」
兄の目が鋭く光る。
襲撃の首謀者には心当たりがあるようだった。
それを私に言わないあたり、兄らしいと思う。そして、私が兄に対して抱える不満の一つだ。
「デイヴィット様」
サラが心配と安堵の入り混じった瞳で兄を見ている。
「サラ嬢。……君がいてくれてよかったよ」
「いえ、私は何もできていません」
サラが首を横に振って悲痛な顔をする。
「なんで? サラがいなかったら被害はもっと大きかったはずよ」
「それはラクシフォリアの使用人たちが優秀だからよ」
私の言葉にサラは微笑んで答えた。そしてまた申し訳なさそうな顔をして、兄を見上げる。
「例の件、準備が終わっておりません」
兄の顔色が変わった。
レイはすこし目を泳がせてとめた。すぐに覚悟を決めた様子でまっすぐ私を見る。
「デイヴィットはオレを先に行かせるための囮になった。途中、衛兵と王城騎士に助けを頼んだが……あちらの情報はまだわからない」
後悔のにじむ瞳のレイ。私は兄ならそうするだろうと妙に納得してしまって小さく息を吐いた。
「兄さまならやりかねないわね。そのおかげで私は助かったのだし。……文句と礼はあとでたっぷりいうわ」
無事を祈り、窓を見る。雨は止んだ。
騎士たちが気を失っている侵入者たちを縛り上げ床に転がしている。そろそろ衛兵が到着するだろう。
********
レイやサラ、パトリシアに手伝ってもらいながら、片付けの指示を出し、壊されたものや仕掛けられたものがないか念入りにチェックしていった。
細かな傷や汚れ、小物の破損はあるが、壊されたものは私の執務室の扉くらいで、他の調度品には大きな破損があるものはなく、屋敷の中も周辺にも目立った異変はない。屋敷の周辺は日が昇った後、もう一度確認するよう指示を出した。
あの男の“目的は達した”という言葉が気になるが、今のところ何も被害がないところをみると、部屋を荒らすことが目的なんて短絡的なものでなければ、兄の方に目的があったのかもしれない。
「シャーロット!」
走り寄ってきたパトリシアの声に意識を向ける。彼女は足りない工具などを借りるために一度家へ戻っていたはずだ。
「デイヴィット様が帰ってきた。今、エントランスに……」
言葉は最後まで聞けなかった。はやる気持ちを抑えてエントランスホールに向かう。
エントランスホールには兄の護衛をしていた騎士たちが手当てを受けている。
その騎士たちの間を忙しなく動きまわり、指示を出す兄を見つけて、私は思わず大きな声で呼びかけた。
兄は私に気が付くと、ほっとした顔で笑う。
「無事でよかった」
そう言った兄の腕には包帯が巻かれ、血がににじんでいる。
「そちらのけが人は?」
「数名、全員軽傷よ。手当てもすんでいて休んでいるわ。兄さまの方は、大変だったみたいね」
「あぁ、死者が出ていないのが救いだ」
横たわる騎士や御者たちを悲痛な面持ちで見つめている。
「兄さまの怪我は」
兄は包帯の巻かれた腕を少し上げて、小さく笑う。
「かすり傷程度だよ。大丈夫。……彼らにはそれなりの償いをしてもらわないとね」
「心当たりがあるの?」
「まぁね。シャルは何も心配しなくていいよ」
兄の目が鋭く光る。
襲撃の首謀者には心当たりがあるようだった。
それを私に言わないあたり、兄らしいと思う。そして、私が兄に対して抱える不満の一つだ。
「デイヴィット様」
サラが心配と安堵の入り混じった瞳で兄を見ている。
「サラ嬢。……君がいてくれてよかったよ」
「いえ、私は何もできていません」
サラが首を横に振って悲痛な顔をする。
「なんで? サラがいなかったら被害はもっと大きかったはずよ」
「それはラクシフォリアの使用人たちが優秀だからよ」
私の言葉にサラは微笑んで答えた。そしてまた申し訳なさそうな顔をして、兄を見上げる。
「例の件、準備が終わっておりません」
兄の顔色が変わった。
122
お気に入りに追加
739
あなたにおすすめの小説
ケダモノ王子との婚約を強制された令嬢の身代わりにされましたが、彼に溺愛されて私は幸せです。
ぽんぽこ@書籍発売中!!
恋愛
「ミーア=キャッツレイ。そなたを我が息子、シルヴィニアス王子の婚約者とする!」
王城で開かれたパーティに参加していたミーアは、国王によって婚約を一方的に決められてしまう。
その婚約者は神獣の血を引く者、シルヴィニアス。
彼は第二王子にもかかわらず、次期国王となる運命にあった。
一夜にして王妃候補となったミーアは、他の令嬢たちから羨望の眼差しを向けられる。
しかし当のミーアは、王太子との婚約を拒んでしまう。なぜならば、彼女にはすでに別の婚約者がいたのだ。
それでも国王はミーアの恋を許さず、婚約を破棄してしまう。
娘を嫁に出したくない侯爵。
幼馴染に想いを寄せる令嬢。
親に捨てられ、救われた少女。
家族の愛に飢えた、呪われた王子。
そして玉座を狙う者たち……。
それぞれの思いや企みが交錯する中で、神獣の力を持つ王子と身代わりの少女は真実の愛を見つけることができるのか――!?
表紙イラスト/イトノコ(@misokooekaki)様より
【完結】政略結婚をしたらいきなり子持ちになりました。義娘が私たち夫婦をニヤニヤしながら観察してきます。
水都 ミナト
恋愛
私たち夫婦は祖父同士が決めた政略結婚だ。
実際に会えたのは王都でのデビュタントだけで、それ以外は手紙で長らく交流を重ねてきた。
そんなほぼ初対面にも等しき私たちが結婚して0日目。私たちに娘ができた。
事故で両親を亡くした遠い親戚の子を引き取ることになったのだ。
夫婦としてだけでなく、家族としてもお互いのことを知っていかねば……と思っていたら、何やら義娘の様子がおかしくて――?
「推しカプ最高」って、なんのこと?
★情緒おかしめの転生幼女が推しカプ(両親)のバッドエンド回避のため奔走するハイテンション推し活コメディです
★短編版からパワーアップしてお届け。第一話から加筆しているので、短編版をすでにご覧の方も第一話よりお楽しみいただけます!
前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています
矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜
――『偽聖女を処刑しろっ!』
民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。
何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。
人々の歓声に包まれながら私は処刑された。
そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。
――持たなければ、失うこともない。
だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。
『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』
基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。
※この作品の設定は架空のものです。
※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。
※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)
もふもふ獣人転生
*
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。
衝撃で前世の記憶がよみがえったよ!
推しのしあわせを応援するため、推しとBLゲームの主人公をくっつけようと頑張るたび、推しが物凄くふきげんになるのです……!
ゲームには全く登場しなかったもふもふ獣人と、騎士見習いの少年の、両片想いな、いちゃらぶもふもふなお話です。
ドアマットヒロインにはなりません!
こうじ
恋愛
『これって不遇ルートまっしぐらじゃないっ!?』母親の葬儀の直後に父親が再婚宣言をした。その時、今の私の状況がよく読んでいた小説と似ている事に気づいた。『そんなの冗談じゃない!!』と自らの運命を切り開く為にしたヒロインの選択は……?
私を棄てて選んだその妹ですが、継母の私生児なので持参金ないんです。今更ぐだぐだ言われても、私、他人なので。
百谷シカ
恋愛
「やったわ! 私がお姉様に勝てるなんて奇跡よ!!」
妹のパンジーに悪気はない。この子は継母の連れ子。父親が誰かはわからない。
でも、父はそれでいいと思っていた。
母は早くに病死してしまったし、今ここに愛があれば、パンジーの出自は問わないと。
同等の教育、平等の愛。私たちは、血は繋がらずとも、まあ悪くない姉妹だった。
この日までは。
「すまないね、ラモーナ。僕はパンジーを愛してしまったんだ」
婚約者ジェフリーに棄てられた。
父はパンジーの結婚を許した。但し、心を凍らせて。
「どういう事だい!? なぜ持参金が出ないんだよ!!」
「その子はお父様の実子ではないと、あなたも承知の上でしょう?」
「なんて無礼なんだ! 君たち親子は破滅だ!!」
2ヶ月後、私は王立図書館でひとりの男性と出会った。
王様より科学の研究を任された侯爵令息シオドリック・ダッシュウッド博士。
「ラモーナ・スコールズ。私の妻になってほしい」
運命の恋だった。
=================================
(他エブリスタ様に投稿・エブリスタ様にて佳作受賞作品)
聖女失格?錬金術の力で世界を救う!
(笑)
恋愛
リリアン・フォルティスは、錬金術の力を持つ孤高の女性。彼女は自らの力を巡って様々な陰謀に巻き込まれ、王国からの裏切りと戦うことを余儀なくされる。自分の力が利用されようとしていることに気付いたリリアンは、道具として生きることを拒み、自らの意志で戦い、進むべき未来を選び取る決意を固める。彼女が選ぶ新たな道は、誰のために、何のために戦うのかという問いに対する答えを見つける旅でもある。
成人したのであなたから卒業させていただきます。
ぽんぽこ狸
恋愛
フィオナはデビュタント用に仕立てた可愛いドレスを婚約者であるメルヴィンに見せた。
すると彼は、とても怒った顔をしてフィオナのドレスを引き裂いた。
メルヴィンは自由に仕立てていいとは言ったが、それは流行にのっとった範囲でなのだから、こんなドレスは着させられないという事を言う。
しかしフィオナから見れば若い令嬢たちは皆愛らしい色合いのドレスに身を包んでいるし、彼の言葉に正当性を感じない。
それでも子供なのだから言う事を聞けと年上の彼に言われてしまうとこれ以上文句も言えない、そんな鬱屈とした気持ちを抱えていた。
そんな中、ある日、王宮でのお茶会で変わり者の王子に出会い、その素直な言葉に、フィオナの価値観はがらりと変わっていくのだった。
変わり者の王子と大人になりたい主人公のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる