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銀狐の章

閑話休題「少年 ②」

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 少年は暗闇の中でずっと泣いていた。
 何が悲しいのか、何で泣いているのか分からないままに時間だけが流れていく。
 何年、何十年の時が流れたのか分からない。
 少年の周囲には人の影があった。
 ただ、「居る」ということは分かるのだが、その人影は流れるように彼の脇を――時には身体を――通りすぎいなくなる。
 彼だけが――彼のいる場所だけが――切り取られたように無音の世界だった。
 何もない世界。
 何度か名を呼ばれたような気がした。
 頭上から光がさした時――その光にすがろうとしたが、声なき声に引き留められ、結局、光に向かうこともしなかった。

 どれだけの時間が過ぎただろう。

「おい、どうしたんだ?」

 唐突に声をかけられた。
 あまりに突然のことに喜びよりも驚きの方が先に来た。
 見れば、一人の青年とその後ろに輝く二人の少女。

 ――女の子の天使だ!
   
 絵本で見たことがある。あれは絵だったが、こっちは本物だ。
 眩しい。とても目を開けてはいられない。

「どうしたんだ。迷子か?名前は?」

 目を開けると、青年の顔が目の前にあった。
 しゃがみ込んで少年の目を覗き込んでいる。

「……なまえ?」

 少年の問いに青年が応えた。
 応えて答えてくれたのだ。
 それが泣きたくなるほどに嬉しい。

「ああ、そうだ」

 青年は少年に笑いかける。少しだけぎこちない。それでも少年にとっては救いのような笑顔だった。
 
「……のぼる」

 答えると同時――少年の周囲に音と光がよみがえった。

 世界は光にあふれていた。
 世界は音にあふれていた。

 今までの世界が砕け散り、新しい世界が姿を現す。

 そして目の前の青年が――少年を暗闇の世界から救い出してくれたのだった。
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