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銀狐の章

第022話「シチューと神狐 ②」

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「良いかほりじゃのう!お腹が鳴って仕方ないのう!」

 落ち着きのない様子でシェンがテーブルに手をついてぴょんぴょんと跳ねる。
 その姿は千年修業した神聖なる神の使いではなく落ち着きのない子供のようだった。

「落ち着け!ステイ!」

 オレの言葉にシェンがおとなしく椅子に座る。
 器に盛られたシチュー。
 ご飯を添えて出来上がりだ。

「凄いのう。ごはんとしちゅーが相まって輝いて見えるのう」

 シェンは喜んでくれているようだ。
 オレも席に着いた。
 二人で同時に手を合わせる。

「「いただきます!」」

 うん。食べ物に感謝。
 食べ物に感謝することは大切だ。

「お主様、しちゅーはどうやって食べるのじゃ?」

「スプーンを使うんだよ」

「ほほう。この鉄製の匙を使うのじゃな」

「匙じゃなくてスプーンだ」

「分かった【すぷーん】じゃな」

 そんなことを言いながらシェンは一口シチューを口に運んだ。
 次の瞬間。シェンの目が文字通りランランと輝いた。

「うんまいのじゃ!」

 お口に白いものを入れながら叫んじゃいけません。ちゃんと飲み込んでから叫びましょう――じゃなくて、叫ぶな。

「行儀が悪いぞ」

 こいつは仙境で一〇〇〇年修業したと言っていたがいったい何を修行していたんだ。そこに礼儀作法は含まれていなかったのだろうか。

「ごはんもうまいのう」

 ごはんとシチューでシェンは大満足のようだった。

「熱っ!」

 慌ててかきこもうとしたのだろう。シチューが跳ねシェンの顔にシチューが飛び散っている。
 なんともまぁ、落ち着きのない神様だ。

「おい、大丈夫か? 熱くないか?」

 熱耐性はどこにいった?
 シェンは顔についたシチューを指ですくうとぺろりと舐める。

「うふふ。美味美味!」

 よかった。火傷とかしていないみたいだ。
 シェンは先ほどの教訓を活かし今度はゆっくりと食べ始めた。 

「ごはんがおいしいとお酒が飲みたくなるのう」

 シェンが上目遣いにオレを見る。
 ライスシチューに合うのは白ワインだったか。

「分かった……一杯だけだぞ」

 ――この呑兵衛め。
 
 オレはグラスに入れた白ワインを準備する。
 この姿をあーちゃん先輩に見られたらどうしよう。未成年飲酒でまたあーちゃん法廷が開幕しそうだ。
 
「これはまた、清酒とは違った味わいじゃな!」

 白ワインをちびちびと飲むシェン。
 喜んでくれているようで何よりだった。

「明日は買い物に行こう」

 オレは話を切り出す。
 昼間は有耶無耶になってしまったが、やはり日用品は買わなければならないだろう。こいつがどれだけ一緒にいるかは分からないが(本人はオレが死ぬまで離れないと言っていたが……)日用品を買うくらいのことはしてあげなければならないだろう。

【ペットの飼い主の責務】の中にも飼う環境は大切だと書いてあった。

「お主様……それはつまり【でーと】というやつじゃな!」

 なんで、そんな知識ばかり豊かなのだろう。

「まあ、似たようなものだ」

「ふむ」

 シェンは一人納得したように頷いた。

「では、明日に備えて早々に寝るとするかの」

「さっさと風呂に入れ」

 オレの言葉にシェンは「了解なのじゃ」といそいそと服を脱ぎ始める。

「ここで脱ぐな。脱衣所があるだろ」

 何故ここで脱ぐ?

「お主様と一緒に禊ぎではないのか?」

 なぜ一緒に風呂に入ること前提なんだ。

「オレは今から片付けがあるんだ」

 食器洗いとか色々あるのだよ。時間は、一時間くらいかかるだろう。

「ならば、お主様が終わるまで待っておるのじゃ」

 お前は忠犬ハチ公か!

「いいから入れ!」

 シェンはちょっと残念そうな顔をしていたが「そうか、明日のお楽しみというやつじゃな」と勝手に解釈して風呂に向かっていった。
 そんなことはない。明日も明後日もそんな日はない。

「我慢できなくなったら覗きに来てもよいぞ、お主様ならいつでも大歓迎じゃ」

「いいからさっさと風呂に入れ!」
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