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第一章「勇者=男 私=女」
第008話「勇者スーファ ①」
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街に入ってすぐ、私たちは宿に向かわずに夕食をとることにした。
街の夜は早い。ろうそくなどは高級品で庶民にはまだ手の届かない物らしく、酒場でも夜遅くまで営業している店は少ないということだった。
「まあ、魔法の明かりを照明にして営業している店もあることにはあるけど、大概高いから……」
スーファはそう言って慣れた足取りで近くの酒屋に入っていく。いつもの宿屋「黒猫亭」の食堂ではない。
「マスミには冒険者がどんなものかを身をもって体験して欲しいからね」
どこか西部劇に出てくるような怪しいならず者とかいるのだろうか。
――できれば、トラブルとか起きませんように!
巻き込まれたくない。というかできるだけ穏便に生活したい。
私の望みはのんびりとした生活を送りたいだけだ。
そして、できることなら元の世界に戻りたい。
そのためには情報が必要だった。
スーファの姿が現れた途端、なんと表現すればいいのだろう――一瞬だが周囲の空気が固まった気がした。
しかし、次の瞬間には元の喧騒に戻っていく。
――気のせいだったのか。
「スーファ様! いらっしゃいませ」
すぐに元気な声で迎えられる。
メイド服を着た猫耳のかわいい女の子――猫人族だ。
「よお、ニャン。相変わらず元気だな」
「私はいつもげんきだにゃん!」
語尾ににゃん! 本物だ!
本物の猫娘が今ここに!
席に案内されたスーファは私の方を向く。
「マスミも座って」
「なんだかメイドカフェみたいですね」
「めいどかふぇ?」
ふふん。スーファは知らないらしい。
まあ、私もよくは知らないけど。
「日本にもこんな店があったのか……」
私はうんと頷いた。
「可愛い子が「おかえりなさいませ。ご主人様♡」って言迎えてくれるんです。後は「おいしくな~れ♡」とか……」
見ればスーファがプルプルと震えているではないか。
「なん……だとお……」
ぬおおおおお! なんということだぁぁぁx!
頭を抱え込むスーファ。勢いあまってテーブルに額を打ちつけてしまっているがそんなことも気にしていない様子だった。
いやいやあなたの方が数倍可愛いからと言おうとしてやめた。なんだか負けた気がして悔しいやら悲しいやら。
「おや、スーファじゃないか」
皮鎧を着た男が私たちの席に近づいてきた。
「アランお久しぶり」
すくっと体を起こしてスーファ。
「一緒に食べるかい?」
スーファは慣れた感じで空いている席を彼に勧めた。
「いや、向こうでオットーと飲んでいるから相席は遠慮しておくよ」
アランは私をちらりと見てからそう言った。私がちょっとだけ「男に対して苦手な感じオーラ」を出しているのを感じ取ったのだろう――私も(見た目は)男だけど。
気の利く男の人ってちょっとカッコイイ。
「あ、そうだ。紹介しておこう。こちらはマスミ。私と同郷でしばらく彼と仕事をすることにしたんだ」
「………………へええええ」
アランはちょっとだけびっくりしたように私を見つめる。
「君……大丈夫かい?」
「分かりますか!」
思わず立ち上がる。
「もう、スーファって滅茶苦茶なんですよ」
「うん……知ってる」
どこか遠くを見つめながらアランが深いため息をついた。
「だから尊敬しているんだよ君のことを」
羨望のまなざし。
何を言っているんだこの勘違い男は。
私がスーファに付き合いきれているかどうかなんて見て分からないのだろうか。
「頑張って魔王を倒してくれ!」
「…………………………はい?」
一瞬思考がフリーズする。
ナンデスト?
魔王って何? それっておいしいの?
「みんな、勇者スーファに新しい仲間が加わった!」
アランが叫ぶと周囲にいた冒険者たちがざわめきだした。
――勇者?
はい? 勇者スーファって聞いてないんですけど。
「勇者ってのは周囲が勝手に騒いでいるだけ、オレは納得していない」
スーファはもう無駄とばかりに気にも留めていない。
「あんなカッコいいだけが取り柄そうななよなよした奴が!?」
「魔王への切り札!!」
「いや、勇者スーファの仲間なのだからきっと信じられないほどの力があるに違いない」
周囲が勝手に騒ぎ出す。
「あの……私……まだ冒険者になりたてで……」
「今まで何人もの冒険者をつぶしてきた【冒険者つぶしのスーファ】が仲間を持つなどと……」
周りは私の話なんて全く聞いてくれなかった。
「さて、お酒でも頼むか」
我関せずでスーファはお酒を注文した。
「マスミも飲むか?」
「私は未成年です!」
見た目は私と同じくらいのスーファが飲むのに抵抗がないわけではないけど、私はお酒を飲むつもりはなかった。
「それじゃあ、勇者に乾杯だ!」
アランの音頭で全員が「乾杯!」とグラスを打ちつけ合う。
――もう、勝手にして!
私はスーファの気持ちが少しだけわかった気がした。
◆ ◆ ◆ ◆
【メイドカフェ】
メイドカフェ、メイド喫茶。スタートは2001年の秋葉原。メイドになりきった店員が、客を「主人」に見立てて給仕などのサービスを行う喫茶空間のこと。
街の夜は早い。ろうそくなどは高級品で庶民にはまだ手の届かない物らしく、酒場でも夜遅くまで営業している店は少ないということだった。
「まあ、魔法の明かりを照明にして営業している店もあることにはあるけど、大概高いから……」
スーファはそう言って慣れた足取りで近くの酒屋に入っていく。いつもの宿屋「黒猫亭」の食堂ではない。
「マスミには冒険者がどんなものかを身をもって体験して欲しいからね」
どこか西部劇に出てくるような怪しいならず者とかいるのだろうか。
――できれば、トラブルとか起きませんように!
巻き込まれたくない。というかできるだけ穏便に生活したい。
私の望みはのんびりとした生活を送りたいだけだ。
そして、できることなら元の世界に戻りたい。
そのためには情報が必要だった。
スーファの姿が現れた途端、なんと表現すればいいのだろう――一瞬だが周囲の空気が固まった気がした。
しかし、次の瞬間には元の喧騒に戻っていく。
――気のせいだったのか。
「スーファ様! いらっしゃいませ」
すぐに元気な声で迎えられる。
メイド服を着た猫耳のかわいい女の子――猫人族だ。
「よお、ニャン。相変わらず元気だな」
「私はいつもげんきだにゃん!」
語尾ににゃん! 本物だ!
本物の猫娘が今ここに!
席に案内されたスーファは私の方を向く。
「マスミも座って」
「なんだかメイドカフェみたいですね」
「めいどかふぇ?」
ふふん。スーファは知らないらしい。
まあ、私もよくは知らないけど。
「日本にもこんな店があったのか……」
私はうんと頷いた。
「可愛い子が「おかえりなさいませ。ご主人様♡」って言迎えてくれるんです。後は「おいしくな~れ♡」とか……」
見ればスーファがプルプルと震えているではないか。
「なん……だとお……」
ぬおおおおお! なんということだぁぁぁx!
頭を抱え込むスーファ。勢いあまってテーブルに額を打ちつけてしまっているがそんなことも気にしていない様子だった。
いやいやあなたの方が数倍可愛いからと言おうとしてやめた。なんだか負けた気がして悔しいやら悲しいやら。
「おや、スーファじゃないか」
皮鎧を着た男が私たちの席に近づいてきた。
「アランお久しぶり」
すくっと体を起こしてスーファ。
「一緒に食べるかい?」
スーファは慣れた感じで空いている席を彼に勧めた。
「いや、向こうでオットーと飲んでいるから相席は遠慮しておくよ」
アランは私をちらりと見てからそう言った。私がちょっとだけ「男に対して苦手な感じオーラ」を出しているのを感じ取ったのだろう――私も(見た目は)男だけど。
気の利く男の人ってちょっとカッコイイ。
「あ、そうだ。紹介しておこう。こちらはマスミ。私と同郷でしばらく彼と仕事をすることにしたんだ」
「………………へええええ」
アランはちょっとだけびっくりしたように私を見つめる。
「君……大丈夫かい?」
「分かりますか!」
思わず立ち上がる。
「もう、スーファって滅茶苦茶なんですよ」
「うん……知ってる」
どこか遠くを見つめながらアランが深いため息をついた。
「だから尊敬しているんだよ君のことを」
羨望のまなざし。
何を言っているんだこの勘違い男は。
私がスーファに付き合いきれているかどうかなんて見て分からないのだろうか。
「頑張って魔王を倒してくれ!」
「…………………………はい?」
一瞬思考がフリーズする。
ナンデスト?
魔王って何? それっておいしいの?
「みんな、勇者スーファに新しい仲間が加わった!」
アランが叫ぶと周囲にいた冒険者たちがざわめきだした。
――勇者?
はい? 勇者スーファって聞いてないんですけど。
「勇者ってのは周囲が勝手に騒いでいるだけ、オレは納得していない」
スーファはもう無駄とばかりに気にも留めていない。
「あんなカッコいいだけが取り柄そうななよなよした奴が!?」
「魔王への切り札!!」
「いや、勇者スーファの仲間なのだからきっと信じられないほどの力があるに違いない」
周囲が勝手に騒ぎ出す。
「あの……私……まだ冒険者になりたてで……」
「今まで何人もの冒険者をつぶしてきた【冒険者つぶしのスーファ】が仲間を持つなどと……」
周りは私の話なんて全く聞いてくれなかった。
「さて、お酒でも頼むか」
我関せずでスーファはお酒を注文した。
「マスミも飲むか?」
「私は未成年です!」
見た目は私と同じくらいのスーファが飲むのに抵抗がないわけではないけど、私はお酒を飲むつもりはなかった。
「それじゃあ、勇者に乾杯だ!」
アランの音頭で全員が「乾杯!」とグラスを打ちつけ合う。
――もう、勝手にして!
私はスーファの気持ちが少しだけわかった気がした。
◆ ◆ ◆ ◆
【メイドカフェ】
メイドカフェ、メイド喫茶。スタートは2001年の秋葉原。メイドになりきった店員が、客を「主人」に見立てて給仕などのサービスを行う喫茶空間のこと。
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