上 下
321 / 406
第四章「カルネアデス編」

 第228.5話 048「if-story 崩壊した世界 ⑦」

しおりを挟む
「十人以上の人間が暮らしていた?」

 設備的にはそれだけのキャパがあることはオレにもわかる。しかし、つい最近まで住んでいた形跡があるというのは驚きだった。
 タニアの言葉に驚きを感じつつも納得する部分もあった。
 どうしても拭いきれない違和感――それがオレの中でずっとくすぶり続けていたからだ。

「それに、つい最近には若い女の子たちが住んだ形跡があるんだ」

「何人くらい?」

「うーん。多分だけど五人くらいじゃないかな」

 それは……思ったよりも多い。
 いったいこの屋敷でどんなことが起こったというのだろうか。

「ボクの推理が正しければ……一週間ほど前には十人以上の人間……おそらくは成人した男性がいたはずなんだ」

「そんなことが分かるのか?」

「お酒とタバコ」

 タニアはソファと台所、そして庭を眺めながら呟いた。
 少なくともタバコを吸う人間がいたことはな違いない。
 タニアが屋敷を探索した際に、離れにある小屋に灰皿とタバコの吸い殻を発見したということだった。

「タバコの銘柄だけでも七種類、吸い殻の数からして男が五人以上と女が二人以上」

 おいおい、そんなことまで分かるのか。こいつどこかの名探偵か。
 オレの知る名探偵は運よく事件現場に居合わせて、しかもそれが連続殺人だったりしたなら、容疑者が残り三人くらいまで粘って犯人を割り出さない――そんな運命を背負った人種だと思っていた。
 しかし、こいつは違う。
 名探偵タニア。こいつはただのハレンチ女子ではなかった。

「でも、不思議なことにその生活の痕跡が約一週間ほど前から消えているんだ」

「なんやてぇ!」

 オレは突っ込み役に徹することにした。

「それは……」

 タニアは壁掛け時計を指さす。デジタル式の日付まで表示できるタイプのものだ。

「もしかして、食品の賞味期限……ですか?」

「その通り!」

 嬉しそうにタニアは手を叩いて喜んだ。
 何かと忙しい女である。

「パンの賞味期限が切れていたんだよ」

 そういえば、今朝方タニアがそんなことを言っていたな。
 パンの賞味期限は製造から約一週間、商品の補充などがあればそれなりに賞味期限のあるものがあってもおかしくない。

「つまりは、ある一定の時期から食品の購入がなくなっていると……しかもその時期と同じくしてタバコの吸い殻も新しいものがない」

 オレの言葉にタニアは頷いた。

「そして、ちょうど住人が消えた時期と入れ替わるようにして新しく女の子たちの生活した跡が見られるようになった。もちろんその中にはボクやノゾミン、多分だけどアメリンも含まれているはずだよ」

「そんな……バカな」

 オレにはそんな記憶はない。もしそんなことができるのなら――世界をこんな風に変え、オレたちの記憶すら自由に変えてしまえるような存在がいたとするなら、そんな存在はもはや神ではないか。

「もしくは、ボクたちが全員、何かしらの力で「夢」を見ているかだね」

 オレは押し黙った。これが夢であろうとなかろうとここまではっきりとした夢などあり得ない。

「もしタニアの言うことが本当だとして……」

 オレはある疑問を口にした。

「その夢を見せている奴の目的はいったい何なんだ?」

 次の瞬間。世界にノイズが走る。

 ザ――――――――――――――――
 
 ザ――――――――――――――――

 ザ――――――――――――――――

 ザ――――――――――――――――

 暗転。
 
 世界は再び静寂に包まれた。
 
 ◆ ◆ ◆ ◆
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

入れ替われるイメクラ

廣瀬純一
SF
男女の体が入れ替わるイメクラの話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...