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第四章「カルネアデス編」

第221話「システィーナ」

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「ふふふ。どうした?」

 先ほどのミーシャの言葉の意味を考えながらボーっとしているとシスティーナが声をかけてきた。彼女の名はシスティーナ・アイスクラ。交易都市キリムの三大領主の一人、アイスクラ・マイスター卿の一人娘だ。
 彼女と出会ったのはオレたちがミーシャたちに拾われて最初に訪れた猫人族の村だった。そこで洞窟で行方不明になっていた猫人族の娘を探しているときに出会ったのがきっかけだった。その時のことを思い出すと今でも申し訳なさでいっぱいになる。オレはこともあろうにシスティーナに対して無意識下で【フェロモン】の能力を使ってしまったのだ。清廉潔白眉目秀麗容姿端麗のこのお嬢様がまるでサキュバスが如く変異してしまったのは、ひとえにオレのせいなのだ。

「いや、色々と迷惑をかけて申し訳ないなと思ってな」

「そんなことか」

 女聖騎士のシスティーナは優雅にオレの言葉を一笑にふした。

「民の声を聞き、それに応える――挫ける者があれば支え、泣く者があれば隣に寄り添う。決して助けるのではない。それは強者の務めだ。私は自分が弱いことを知っている。決して強者ではない」

 システィーナがオレの瞳を覗き込んだ。彼女は決して強者ではない。弱い部分もあり強い部分もある一人の人間だ。

「困ったものがいれば助ける。そもそも私にその気がなければ助けない。助けようと思ったのは私のせいだ。そのことで何が起ころうと私のせいだ」

 つまりは気にするなということか。

 ――なに、今日のシスティーナめっちゃ恰好いいんですけど。
 
「やべ、惚れちゃいそう」

「いくらでも惚れてかまわないぞ」

 がっしりと両腕で抱きすくめられてしまった。
 柔らかな胸の感触は最初だけだった。
 ぐ、ぐるじい!

「おおっと、すなまい」

 システィーナはすぐにオレを解放する。

「将来、我が夫になる男のためだ」
 
 システィーナの目は真剣だ。ことあるごとにオレを旦那にしようとしているが果たしてどこまで本気なのだろうか。
 聞けばきっと答えは決まっている。
 信念は一本。
 決して曲がらず、横道にそれたりズレたりしない。
 それがシスティーナという女性だ。

「聖騎士の中にもなかなか見どころのある男もいないではなかったが」

 システィーナは領主の娘。政略的にもお家柄的にも問題ない。逆にオレの方が問題だらけだ。
 出自不明正体不明種族不明の謎だらけ。普通ならば成敗されるレベルだ。

「あなたと共にあり、色々なものを見、経験してきたつもりだ」

 そうだな。洞窟の中、お風呂場、森の中、学園の教室、そして、体育館倉庫……数え上げればきりがない。

「こら、今変なこと考えていただろ?」

 おおっと、考えが顔に出ていたか。

「バージル卿が認めた男だ。さすがというか底が知れないな」

 うーん。褒められてる? 学園でもかなりやらかした感じがしていたが。

「諸々のことを含めて……私はあなたのことを愛しているのだ」

 システィーナ――格好良すぎ!
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