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第四章「カルネアデス編」
第186話「カルネアデスの世界 ⑥」
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◆ ◆ ◆ ◆
屋敷の中を改めて見て回るとその設備の充実ぶりに驚いた。
まずは広さ。広い庭に池まであるなんてここはどこかの庭園か。まさか近郊にこれほどの屋敷が存在していたとは全く気付いていなかった。まあ、普通の高校生が地域のお家事情に詳しいはずもないのだが。
次に、セキュリティ。さすがは裏事情にお詳しいお家のようでセキュリティに関してはばっちりだった。監視カメラに赤外線の侵入対策。ガラスに関しても防弾ガラスといった具合の充実ぶりだ。これなら敵の組との抗争にも耐えうる。しかも自家発電施設もあり一カ月以上外からの電力供給なしに維持できるといった徹底ぶり。もう学校に行く必要ないんじゃないかってぐらいに充実していた。
オレも別に学校が安全だと思ったわけではないが、あの時は他に思いつく場所がなかったというのが本音だった。
「電力の供給はまちまちだね」
タニアは地図を確認しながら唸る。
そこには印のつけられたこの周辺の地図があった。
タニアとオレとで周囲を調べたものだ。
周辺にあの人形たちの姿はなかった。
今はない――というべきか。いつかは襲ってくるだろう。マザーの事だ、オレたちの居場所が分からないということもないだろう。
「いや、案外分かっていないかもだよ」
タニアはオレの意見に手を上げた。
「マザーの管理はあくまでも世界の維持です。そこにいる人間に対してはそれほどの干渉はできません。それ以上の事となるともっと強引な手段になるでしょう」
マヤは「今はアクセスできないので予測でしかないですが」と付け加えた。
「ファミリーレストランを出た時に周囲が暗くなっただろ」
タニアの言葉にオレは頷く。
その後しばらくすると再び明るくなったのだ。
一時は停電状態だった信号機も復活したのでよく覚えている。
あまり気にしていなかったが、確かにあれは異常だった。
「恐らくは、あれがマザーが世界に干渉した時の合図だと思うんだ」
「干渉って……どんな?」
「この世界の人間の消去」
「――――!!」
「マザーは賭けに出たんだ。そしてその賭けに勝った」
「どういうことだ?」
タニアの言わんとしていることが分からない。
「お兄ちゃん。つまりね……」
マヤは分かりやすくオレたちに説明してくれた。
カルネアデスの世界で個々の人間を管理することはできない。個人の特定や行動の管理など行っていない。この世界の目的は魂を【活かし続ける】ことなのだ。もし仮にこの世界で【死】んだとしても、魂を回収し新たな【個体】に移せばいい。そうすることによって魂を【活かし】続けることができる。
しかし、オレたちはオレを除けばこの世界の住人ではない。いわば【異邦人】だ。今のオレの状態も似たようなものだろう。
つまり、カルネアデス内においてオレたちはふるいにかけられたのだ。本来保護すべき人間の存在を一旦【保管】することによってイレギュラーなオレ達だけ残るようにしたと――マザーの読み通りオレたちは残った。
ならば――
「アメリアやシスティーナはどうなっているんだ?」
「分かりません」
マヤは悲しそうに首を振る。
二人にはまだ出会っていない。この世界に【転移】させられた時に全く別の場所に移された可能性もあった。オレ達と同じように記憶を封印されているのであれば、最悪あの人形軍団に襲われている可能性もある。
「まあ、貴重なサンプルだからいきなり殺されるようなことはないよ思うけどね」
タニアは楽観的だ。しかし、その言葉を鵜呑みにすることはできない。
自分たちも含めてこの世界には安全な場所などどこにもないのだ。
「マザーが大規模なことを行う際には必ず予兆があるはずだよ。だからそれがあるまでは動かない方が賢明だね」
あの黄色いピエロや白髭おじさんなどは複雑な思考はできないらしい。そもそも人間を全て【保管】してしまっているので、この世界で何が起ころうとも最終的にリセットしてしまえばいいわけだ。
「人間のいない世界を破壊もせずにそのままの状態にしている。つまりは殺すつもりならいくらでも方法はあるわけだよね」
それをしないということは少なくともすぐに殺してしまおうということではない。
捕まえ、色々と調査されてしまうのだ。
――調査ってどんなことをするんだろう。
ごくり。
いや、捕まりたいとか思ってないからね。
でも、もしだよ。彼女たちが捕まったりしたらどんな調査をされてしまうのだろうか――脱がされたりとか、いろいろな器具を使って――いやいやいや。
オレは激しく頭を振ってその考えを振り払った。万が一にもそんな甘いことにはならないだろう。
「とにかくみんなをこの世界から救い出さないとな」
オレは決意を新たにした。
屋敷の中を改めて見て回るとその設備の充実ぶりに驚いた。
まずは広さ。広い庭に池まであるなんてここはどこかの庭園か。まさか近郊にこれほどの屋敷が存在していたとは全く気付いていなかった。まあ、普通の高校生が地域のお家事情に詳しいはずもないのだが。
次に、セキュリティ。さすがは裏事情にお詳しいお家のようでセキュリティに関してはばっちりだった。監視カメラに赤外線の侵入対策。ガラスに関しても防弾ガラスといった具合の充実ぶりだ。これなら敵の組との抗争にも耐えうる。しかも自家発電施設もあり一カ月以上外からの電力供給なしに維持できるといった徹底ぶり。もう学校に行く必要ないんじゃないかってぐらいに充実していた。
オレも別に学校が安全だと思ったわけではないが、あの時は他に思いつく場所がなかったというのが本音だった。
「電力の供給はまちまちだね」
タニアは地図を確認しながら唸る。
そこには印のつけられたこの周辺の地図があった。
タニアとオレとで周囲を調べたものだ。
周辺にあの人形たちの姿はなかった。
今はない――というべきか。いつかは襲ってくるだろう。マザーの事だ、オレたちの居場所が分からないということもないだろう。
「いや、案外分かっていないかもだよ」
タニアはオレの意見に手を上げた。
「マザーの管理はあくまでも世界の維持です。そこにいる人間に対してはそれほどの干渉はできません。それ以上の事となるともっと強引な手段になるでしょう」
マヤは「今はアクセスできないので予測でしかないですが」と付け加えた。
「ファミリーレストランを出た時に周囲が暗くなっただろ」
タニアの言葉にオレは頷く。
その後しばらくすると再び明るくなったのだ。
一時は停電状態だった信号機も復活したのでよく覚えている。
あまり気にしていなかったが、確かにあれは異常だった。
「恐らくは、あれがマザーが世界に干渉した時の合図だと思うんだ」
「干渉って……どんな?」
「この世界の人間の消去」
「――――!!」
「マザーは賭けに出たんだ。そしてその賭けに勝った」
「どういうことだ?」
タニアの言わんとしていることが分からない。
「お兄ちゃん。つまりね……」
マヤは分かりやすくオレたちに説明してくれた。
カルネアデスの世界で個々の人間を管理することはできない。個人の特定や行動の管理など行っていない。この世界の目的は魂を【活かし続ける】ことなのだ。もし仮にこの世界で【死】んだとしても、魂を回収し新たな【個体】に移せばいい。そうすることによって魂を【活かし】続けることができる。
しかし、オレたちはオレを除けばこの世界の住人ではない。いわば【異邦人】だ。今のオレの状態も似たようなものだろう。
つまり、カルネアデス内においてオレたちはふるいにかけられたのだ。本来保護すべき人間の存在を一旦【保管】することによってイレギュラーなオレ達だけ残るようにしたと――マザーの読み通りオレたちは残った。
ならば――
「アメリアやシスティーナはどうなっているんだ?」
「分かりません」
マヤは悲しそうに首を振る。
二人にはまだ出会っていない。この世界に【転移】させられた時に全く別の場所に移された可能性もあった。オレ達と同じように記憶を封印されているのであれば、最悪あの人形軍団に襲われている可能性もある。
「まあ、貴重なサンプルだからいきなり殺されるようなことはないよ思うけどね」
タニアは楽観的だ。しかし、その言葉を鵜呑みにすることはできない。
自分たちも含めてこの世界には安全な場所などどこにもないのだ。
「マザーが大規模なことを行う際には必ず予兆があるはずだよ。だからそれがあるまでは動かない方が賢明だね」
あの黄色いピエロや白髭おじさんなどは複雑な思考はできないらしい。そもそも人間を全て【保管】してしまっているので、この世界で何が起ころうとも最終的にリセットしてしまえばいいわけだ。
「人間のいない世界を破壊もせずにそのままの状態にしている。つまりは殺すつもりならいくらでも方法はあるわけだよね」
それをしないということは少なくともすぐに殺してしまおうということではない。
捕まえ、色々と調査されてしまうのだ。
――調査ってどんなことをするんだろう。
ごくり。
いや、捕まりたいとか思ってないからね。
でも、もしだよ。彼女たちが捕まったりしたらどんな調査をされてしまうのだろうか――脱がされたりとか、いろいろな器具を使って――いやいやいや。
オレは激しく頭を振ってその考えを振り払った。万が一にもそんな甘いことにはならないだろう。
「とにかくみんなをこの世界から救い出さないとな」
オレは決意を新たにした。
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