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第一章「いきなり冒険者」

 第48.5話 002「アンナと白竜族 ①」

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 白竜族は竜人族の中でも光魔法を得意とする部族だ。
 その中でも巫女とともなればその力は絶大なものとなる。
 アンナのおかげでオレたちは白竜族の村に入ることができた。
 入ることはできたのだが――

 ◆ ◆ ◆ ◆

 通された部屋は最奥の部屋だった。
 部屋には多くの者たちがいた。
 竜人族というからてっきり竜に出会えるのかと思ったが、皆アンナと同じように人型をしていた。頭の角がなければ見分けがつかないだろう。
 それにしても、この村には男が少ない。
 いたとしても子供か年寄り、あとは女性だけだった。
 祭壇と言ってもいい仰々しいまでに装飾された部屋だ。
 その中にひっそりとたたずむ老婆がいた。

「おお、アンナ・ジーシュルカ! そなた無事であったか!」

「大婆様!」

 アンナはその場に膝をつき首を垂れる。

「黒竜族がそなたを追っていると聞いて戦士たちをお前のもとへ送り出そうと考えていたところじゃ」

 老婆の後ろに立つ男たちがそうなのだろう。
 正直あまり強そうには見えないが。
 老婆が慈しみを込めてアンナの肩に手を置いた。

「大婆様。そのことについてお話が……」

「ほお、冒険者を雇いこの地まで逃れてきたのじゃな」

 老婆のオレを見る目はそっけない。蔑んだ目はオレではなく人間全体に向けられているようだった。

「おい、誰かこの冒険者に褒美を!」

 そばに仕えていた女性が立ち上がる。これから報酬を取りに行こうというのか。

「いや、オレは……」

「なんじゃ、何か不満でもあるのかえ?」

 老婆はオレをねめつける。
 ふんと鼻を鳴らしてすぐに背を向けてしまった。
 なんだそりゃ。
 こいつ、人の話を全く聞いてねえ。

「オレはノゾミ。アンナの仲間だ」

「人間風情が仲間じゃと?」

 老婆がゆっくりと振り向いた。
 同時に小馬鹿にしたような笑みを浮かべる。

「人間のくせに生意気な事を言いよるわ」

 ヒャヒャヒャといやらしく笑う。それに合わせ周囲の者たちもくすくすと笑いだした。

「誰かこの者をつまみ出せ!」

「御意」

 鎧を着た男がオレの前に現れた。

「お待ちください大婆様!」

 アンナが男とオレの間に立ちふさがる。

「アンナ。こんな人間のことなど忘れておしまい」

 優しい声色でアンナを諭す。やんわりとではあるが力を込めてオレを小突いた。
 何するんだよ!
 抗議の意を込めて老婆を睨みつけると呆けたように己の手を見る老婆と目が合った。

 老婆は――何かを感じた。

 白竜族にしか分からない――老婆にしか分からない何かに気づいたのだ。
 老婆はアンナを見、次いでオレを見た。
 その瞳がみるみる怒気に染まっていく。

「アンナ、お主……よもやこの人間と誓約の議を行ったのではなかろうな!」

 周囲の竜人族の者たちがざわめく。

「はい。その通りでございます」

 アンナが頷く。

「愚かな!」

 一人の大男が悲鳴に似た声を上げた。顔は怒気にまみれオレを射殺さんばかりに睨みつけてくる。

「ゆ、許さんぞ……人間!」

 怒りの矛先はオレに集中している。
 あれ、これってかなりやばい展開ではないだろうか。

「我らが白竜族は竜人族に対し、光を司り常に種族の導き手としてその道を照らしてきた」

 老婆が手に持った杖でオレを指す。

「それが人間如きに下るなど……」

 一触即発、周囲が殺気に満ちる。
 見るところ老婆はこの村の長、長老のような者なのだろう。
 そして、おそらくだがアンナの肉親もしくは血縁関係の者なのかもしれない。
 なにしろ怒り方が尋常じゃない。
 この流れ……いや~な感じしかしない。
 
「斬首じゃ……」

 ぽつりと老婆が呟いた。

「この人間を……斬首の刑に処す!」
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