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第三章「魔法学園の劣等生 魔法技術大会編」

第145話「VS タニア ③」

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 森の中を縫うように飛行する。
 その背後に降り注ぐ炎の矢。
 
 ボボボボ!

 突然前方から氷の矢が迫ってきた。
 回避――は間に合わない。

「ロックウォール!」

 岩の壁を作り出し氷の矢を弾いた。

「いいねぇ!」

 頭上からタニアの声。
 振り向くよりも先に剣を振るう。

 ガキン!

 振り下ろされるマジカルステッキ。それを弾く漆黒の剣。高速で繰り出されるステッキをオレは剣で必死になって捌く。
 いやいや、早すぎでしょ!
 正直、避けられているのが不思議なくらいだ。

「凄いね!」

 タニアは息も切らさずに言う。凄いのはアンタだよ。こっちは身体構造上疲れというものが無い。それに比べタニアは生身だ。それでこれだけの戦闘ができるとは……恐るべし魔法少女。

「それじゃ、次行くよ!」

 タニアの姿が一瞬ブレた。
 マズイ!
 右腕に衝撃が走る。痛覚無効を通り越して身体全体が震えた。景色が反転――いや、オレの体が宙を舞っているのか。
 受け身も取れないままオレは大地の上を転げ回る。

「ねえ、このままだと死んじゃうよ?」

 あどけない表情のままで、タニアが問いかけてくる。
 言われなくても分かっている。タニアは――この魔法少女はまだまだ本気ではない。
 オレの心には迷いがあった。
 タニアは悪い奴ではない。
 何かの目的の為にあえてこんな事をしているのだ。
 聞いても答えてはくれないだろう。
 彼女にはしっかりとした目標があり、それに対して躊躇がない。
 だが、オレはタニアと戦いたくなかった。
 そのオレの迷いが、戦いを長引かせ被害を大きくしている。

「ファイアストーム!」

 背後からソドムとゴモラの声が響く。
 突然、タニアを炎が包みこむ。

「助けに来たよ!」

 双人族の二人はフラつきながらも手に持った杖で身体を支えている。その後ろにはドメイス学園長の姿。彼女が二人をここまで連れてきていたのだ。

「来るな!」

 この程度の魔法で倒せるのなら苦労はない。
 鉄をも沸騰させる高温の炎の嵐。
 だが、それだけで彼女に通用するとは思えない。

「ファイアボルト!」

 嵐を炎の雷撃が貫いた。それも一発ではない。何十発という炎雷撃が穿つ。
 ミーシャの合成魔法だ。
 漆黒の衣に身を包み彼女も駆けつけてくれていた。見れば後ろには同じく漆黒の衣に身を包んだアンナもいる。

「ノゾミ……!」

「ここから逃げろ……!」

 駆けつけてきてくれたことは嬉しいが、正直勝てるビジョンがわかない。
 逃げたかった。
 だが、逃げるわけにはいかない。

「ここで彼女を止めておかないと被害が大きくなる。オレは大丈夫だ。なんとか彼女を食い止めてみせる」

 オレたちがうまく逃げたとして、その後のタニアの動きが読めなかった。やけになった彼女が周囲一帯を焦土にするかもしれない。それだけの力が彼女にはある。
 だが今、ここでオレが戦うことで足止めし時間を稼ぐことができる――彼女の目的はオレなのだから。

「だからです! 私はあなたを……ノゾミを失いたくない!」

 ミーシャが叫んだ。

 唐突に――炎の嵐がかき消えた。
 まるで、初めから何もなかったかのような静寂。
 彼女は――魔法書少女タニアは全くの無傷だった。
 あなた本当に生命体ですか!?

「な……なんてことなの……!」

「君……邪魔だよ」

 ミーシャの顔が恐怖に歪んだ。
 タニアが炎の矢を放つ。ミーシャを狙ったそれは途中で現れた岩の壁によって防がれた。

「ノゾミ君! 一旦ここは退きましょう!」

 岩壁はアメリアが作ったものだった。

「ホーリーアロー!」

 アンナの光属性攻撃魔法。光の矢がタニアを襲うが彼女は避けら動作すらしなかった。

「アンチマジックエリア!」

 タニアの詠唱と共に光の矢が消滅する。
 これは……魔法無効化。しかも、かなりの範囲だ。これでこちらの攻撃手段はほぼ無効化されたことになる。魔法使いにとってこれは致命的なものだ。
 魔法を使えないのはタニアも同じ――だが、彼女の力を持ってすればそんな事は関係ないといっていい。

「仕方ないなぁ……本当はこんな事はしたくないんだけど……」

 タニアが一人でうんと頷く。
 彼女はマジカルステッキを構える。
 その先端が向かう先は――ミーシャだ。

「上手く避けてよね――でないと死んじゃうよ」

 マジカルステッキの先端部から光が放たれた。
 光はあっさりと貫くと裏側にいたミーシャと彼女を庇うように現れたアンナを襲う。
 爆音が響き炎が上がった。

「ミーシャ! アンナ!」

 二人の元へと駆けつける。

「な、なんとか……大丈夫です」

 ミーシャを肩に担ぎながらアンナが応えた。
 ミーシャはぐったりしたまま動かない。

「ここは一旦引きます。ノゾミ様も早く」

 アンナがオレに促すが、それができれば苦労はしない。

「アンナ……すまないがミーシャとアメリを連れてここから逃げてくれ!」

 ソドムとゴモラはドメイス学園長にまかせておけば大丈夫だ。それよりもオレは三人の方が心配だった。

「ノゾミ様は?」

「オレは……ここで彼女とデートだ」

 本当は一緒に逃げたいです。ハイ。
 でも、それは無理そうなんです。ハイ。

 だって、彼女はオレにゾッコンなんだから。

「さあ、ノゾミンこれから二人の愛の時間だよ」

 異様な目の輝きのタニア。
 彼女とのデートはまだ始まったばかりのようだ。
 
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